表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死に戻り姫は冷酷公爵の生贄に捧げられる  作者: ごろごろみかん。
【現在】リズ──十六歳

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/73

信じる、ということ ⑵



「わかりました、アスベルト殿下のお言葉であるなら従いましょう。この領地の現状ですが、今我々はいつになく追い詰められています」


「……!」


バルセログは率直に言った。

それに硬直したのはリズだ。


(デストロイの前で話してもいいの?やっぱりデストロイは何か知っている……?)


デストロイは足を組み、つまらなそうに話を聞いていた。


「こちらに地図がございます。この中で、丸印を付けられ、バツで消されていない地区が現在瘴気が発生している地点となります」


バルセログはサーコートの内ポケットから丸めた紙を一枚取り出した。現れたのはリーズリー領の地図で、そこには至る所にマルとバツが記されてた。もはや黒で塗りつぶされそうなほど書き込まれていた。


そして、そのマルには隣になにか細かく書き込まれているのにも気がついた。


クラス:A

クラス:C以下

クラスB


と書き込まれ、クラスに応じてマルの範囲も変化しているようだ。クラスAのマルは広範囲で、クラスCは比較的小さい。

しかし、マルのほとんどがクラスAと書かれていた。


(これは……何?瘴気って?)


リズが戸惑う中、アスベルトは顔を険しくした。


「今の状況がこれで間違いないな」


「はい」


「……分かった。バルセログ、今から北方魔術師団駐屯地の指揮はこのリズレイン・リーズリー嬢が執る。全ての報告書をここに持ち寄ってくれ」


「……は、それは」


バルセログは困惑した様子を見せた。

リズと同じだ。突然名を出された彼女は混乱して隣に座るアスベルトを見上げた。


(な、何言ってるの……!?)


魔術師についての知識なんて全くないリズが指揮をとれるはずがない。何をするべきか分からないどころか、状況把握すらままならないのだから。目を見開くリズに、アスベルトが茶目っ気溢れるウィンクを飛ばす。


「案ずるな、サポートは僕がする。第二王子の名において命ずる。バルセログ、今すぐ報告書を全て持ってこい」


「………かしこまりました」


バルセログはそれでも納得がいっていない様子を見せたが、静かに立ち上がった。

そんな彼に、あ、とアスベルトが思い立ったように言った。


「お前は休んでおけ。初位魔術師ならいくらか残ってんだろ?報告書持ってくるくらいなら初位魔術師でも事足りる」


「………はい」


(初位?魔術師の位よね……?)


名前からするに、低位のクラスだと理解するがそれで間違いではないだろうか。バルセログが退室した部屋で、リズはすぐさまアスベルトを振り返った。


「どういうつもりですか!」


「どうもこうも、今ここで僕が指揮を執れば要らない噂を呼ぶし、確執も生む。だけどリーズリー家の娘であるきみが指揮権を持つなら、不自然ではない。きみもこのために来たのだと僕は思ってるけど?」


「それは……」


確かにその通りだ。

リズにも何か出来ることがあればと思い、領主の名代としてリズはやってきた。

だけど、北方魔術師団駐屯地の指揮権を持つなど想像にもしていなかった。魔術師団は陸海軍とは切り離された組織で、貴族と言えど手出しができない存在だ。

当然、知識にも乏しい。リズが困惑していると、アスベルトが笑った。


「ま、安心しなよ。僕がサポートすると言っただろ?きみの名を借りることにはなるけど、実質ことを動かすのは僕だ。あ、あとはヴェートルかな?きみは何もしなくていい」


「………」


そう言われると途端、役立たずと言われているように聞こえる。リズはぐっと拳を握った。


リズはなにをしにリーズリー領まで来たのか。


(私は、リーズリーで起こっている何かを解決するためにここまで来た)


きっかけは怪我をしたヴェートルを心配してだったが、旅立つ理由は真実解明のためだ。

それを理由に、公爵もリズが領地に行くことを許してくれたのだから。


「……私は知識不足ですし、魔術師について何も知りません。ですが、それでも我が領地のためにできることがあるのなら、私はそれに尽力したい。アスベルト殿下、手伝ってくださいますか?」


あくまでアスベルトはサポートという立場だ。

場を動かすのはリズがする。

そう話すと、アスベルトは琥珀色の瞳を見開いたものの、すぐに口端に笑みを浮かべた。


「OK。きみならそう言うかな?と思ったよ。じゃ、まずは軽くお勉強の時間といこうか。ああ、デストロイ。きみは聞かなくてもいいんじゃない?……知ってると思うから」


アスベルトの声が突然、低くなる。

どこか探りを入れるような声であり、圧力を帯びた声音だった。

デストロイはそんなアスベルトに軽薄な笑みを浮かべる。


「知りませんよ。レドリアス殿下は僕に必要なことしかお話しない」


「そう。ま、いいや。魔術師について今から話すね」


そしてアスベルトは、魔術師の全貌を語った。


悪魔病は、実は病気ではなく呪いそのものであったこととか、悪魔病の原因となる瘴気を祓うために魔術師がいること。

瘴気を祓う行為を浄化と呼び、魔術師は三つのクラスに分けられていること。


「だから、高位魔術師のヴェートルは今回、不参加というわけにはいかなかったの。国内でも高位魔術師は三人。そのうちのひとりは南方でのトラブルにかかりきり、もうひとりは高齢で王都から出られない。そして、残る一人が」


「……ヴェートル様」


「そういうわけ。リズレイン嬢、きみは以前、ヴェートルでないといけない理由がいるのか、と聞いたね。それは正解。今動ける高位魔術師は彼一人しかいなかったから、彼が動くしか無かった」


「………」


リズは今聞いたばかりの情報を整理しようと必死で頭をうごかした。


(悪魔病の原因がまさか呪いだとは思わなかった……)


であれば、悪魔崇拝者とはどういう存在なのだろうか?


(悪魔復活のために、悪魔を崇拝する思想のことを悪魔崇拝と呼ぶらしいけど)


「…………」


リズが考え込んでいるところで、アスベルトの話は続いていく。


「少し前から、悪魔病の発生率が上がった。グラフにしてみると分かりやすいんだけど、突然数値は跳ね上がり、右肩上がりだ。魔術師は激務にてんてこ舞い。ま、それでもどうにかして浄化を行っていたんだけど、ここにきてリーズリー領に異変が起きた」


「……悪魔病の発生率が著しく上がったのですか?」


リズが尋ねると、アスベルトは頷いて答えた。


「そう。それだけじゃない。なぜか、リーズリー領の報告だけ上に上がってこなかった」


「………」


「リーズリー公爵は報告を上げたらしいけど、魔術師団までその報告は入ってこなかった。なぜだと思う?答えは簡単。誰かが握りつぶしているからだ」


ふと、アスベルトの言葉を思い出した。

支援物資の支給部隊が何者かに襲われ、届いていないと彼は言っていた。

第三者の手によって妨げられている、と。

それはつまり──。


「……リーズリー領の浄化をされてはまずいひとがいるということですね?」


「そう。そして、その人物は高貴な身分だ。おそらく、僕に匹敵する程度にはね」


「…………」


「で、質問だ。デストロイ、きみはこの件について何か聞いてる?兄上のお考えを知れたら僕も、少しは楽になれるんだけどな」


「……!!」


リズは息を飲んだ。

全て繋がったからだ。


(まさか)


アスベルト殿下に匹敵する権力を持つ人間など限られている。第二王子の彼以上の権力を有する人間は、国王そのひとか、その王妃。あるいは第一王子のレドリアス──。

リズが目を見開いてデストロイを見ると、彼は口元に薄い笑みを浮かべていた。


「なんですか、僕を疑っているんですか?ああ、違うな。僕ではなく──レドリアス殿下か」


「そうは言ってないよ。ただ、僕以上に権力を持つ人間であることは間違いないと言っただけだ。兄上が何か知っているなら聞きたいんだ」


「残念ながら、僕は何も知りませんよ。言ったでしょう、僕はレドリアス殿下から必要なことしか伝えられていない、と」


「………」


リズが固唾を飲んでふたりのやり取りを見守っている中で、遠くから足音が聞こえてきた。

アスベルトが頼んだとおり、報告書を持ってきてくれたのだろうか。

ハッとしてリズがそちらを見た時──ばん、と手荒に扉が開かれた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ