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死に戻り姫は冷酷公爵の生贄に捧げられる  作者: ごろごろみかん。
【現在】リズ──十六歳

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46/73

雪解けを待つ ⑸

「冗談もほどほどになさってください!」


どん、と突き飛ばす勢いでリズがアスベルトの胸を押す。柔らかい雰囲気があるためか、微笑みをいつも浮かべているためか、アスベルトは優男のイメージがあったが、触れた胸板は固くしっかりしていた。

そういえば、アスベルトは体格もそんなに悪くない。

もしかしたら剣術なども不得手ではないのかもしれない、そんなことをリズが考えているとアスベルトがため息をついた。

演技を合わせられないリズに呆れたのだろうか。そうは思うも、だからといってリズは意見を変える気にはなれなかった。


「ま、僕の片思いだけどね」


「………」


「それで?きみはどうしたの?ロビンに用事かな」


なるほど、リズではなくロビンに会いに来たのならリズが彼の訪れを知らなくても不思議ではない。ロビンに会いに来たデストロイと偶然鉢合わせをしてしまったのか。

デストロイは苦々しげにアスベルトを見ていた。


(そういえば……デストロイはレドリアス殿下の筆頭補佐。レドリアス殿下とアスベルト殿下は仲が悪いことで有名、デストロイもまたアスベルト殿下を良く思っていないのかもしれない)


「どこかお出かけですか?」


「まあね」


アスベルトが鷹揚に頷く。

父公爵は沈黙を守り、様子を伺っていた。


「おふたりで、ですか」


「それをきみに答える必要、あるかなぁ。早くロビンに会いに行けば?きみの目的はロビンに会うことでしょ。……ああ、それとも。兄上の命でほかにすべきことがあるのかな?」


アスベルトが仕掛けた。

にこやかな笑みはそのまま、しかし瞳は全く笑っていない。

冷たい表情にリズは息を詰めた。

へらへらしている印象しか無かったが、やはり腐っても王族ということか。堂々たる様子はさすがと言わざるを得ない。


「はは、レドリアス殿下から命など受けていませんよ。ただ──ほかに私の目的があるのだとしたら、それは」


その時デストロイがこちらを見た。

視線の先はリズだ。

深い紫根の瞳を向けられたリズはびくりと肩を揺らした。


(な、なに?)


「……リズレイン嬢。あなたはベルロニア公爵と婚約寸前まで言った令嬢として社交界では有名です。そんなあなたが、次は第二王子のアスベルト殿下とふたりで馬車旅など……社交界に知れたら、なんと言われることか」


(脅す気?)


リズが眉を寄せる。

ずいぶん偉そうな男である。やはり、いけすかない。

社交界で噂になってしまえばリズはもう、アスベルトとくっつく以外、醜聞を打ち消す方法を持たない。

アスベルトもそう考えたのだろう。ため息を吐いた。


「ですから、私も同行しましょう」


(え、嫌!)


リズはますます眉間に皺を寄せた。

険しい表情の彼女が見えているはずなのに、デストロイは余裕の顔を崩さない。


「三人旅であれば、二人よりは口さがない噂を流されることも無いでしょう」


「貴殿が沈黙を守るだけで済む話なんじゃないかな?」


「そうとも言えませんよ。人の目は防げない」


「……」


(三人旅って……デストロイにアスベルト殿下と私、ということよね?冗談じゃないわ。ふたりを天秤にかける悪女なんて噂が流れたらやっていけない)


ただでさえリズは一人でも構わないというのに。

護衛は必要だが、それがアスベルトとデストロイである必要は無い。

リズは強い瞳でアスベルトを見た。

デストロイの言葉を断れ、断れ、と念を込める。

アスベルトはリズの視線に気がついているはずなのに、僅かな沈黙の後、デストロイの言葉を受けいれた。


「いいよ。きみの同行を許可しよう」


「アスベルト殿下!?」


悲鳴のような声が出た。

リズの声に、アスベルトは苦笑した。


「まあまあ、リズレイン嬢。せっかくデストロイが護衛に回ってくれると言うんだ。彼もまた、第一王子の筆頭補佐という立場だし……この旅行では、権力が僕たちを救うかもしれないしね」


「……?」


妙に謎かけめいた言葉だった。

リズが首を傾げると同時、アスベルトはデストロイを馬車に手招きした。

ぎく、としたリズは父公爵に飛びついた。


「お父様!私、ひとりで行きます。男性がたと旅行だなんて、未婚の淑女に有るまじきことですわ。お父様もそう思いますよね?」


デストロイの同行が決まった瞬間、リズはアスベルトをも切り捨てた。デストロイがついてくるくらいならリズはひとりで向かう。

アスベルトもデストロイも不要である。

腕に飛びついてきた娘に父公爵は苦々しい顔をした。気まずそうな顔だ。


「リズ……」


「アスベルト殿下がたは、おふたりでいらっしゃればよろしいのよ。私は私で向かいます。社交界のいい噂になるのはごめんですもの」


本心は、デストロイと共にいたくないからだが、そう口にすれば父公爵はまたしても歯切れの悪い声を出した。


「うーん」


「お父様!!」


怒ったリズに責められるように呼ばれ、父公爵はますます弱った様子だった。そんな彼らに声をかけたのはアスベルトだ。


「まあまあ、リズレイン嬢。きみがリーズリー領に向かう許可が降りたのは、僕が同行するからだよ。僕がこの名にかけてきみを守ると公爵に誓ったからだ」


「………」


今度はリズが苦々しい顔をした。

この名にかけて、ってなんだ。

別にかけなくてもいい。

リズがひとりで行動した結果、彼女自身が怪我をするのは、彼女の責任だ。自業自得だ。

アスベルトは関係ない。というか、なぜアスベルトが出てくるのだ。

リズは胡乱な視線を向けたが、アスベルトは何処吹く風だった。


「ほら、早く行こう。デストロイについては僕が責任もって監督するから」


「……」


「ヴェートルが心配なんだろ?」


「!」


その言葉は、リズをはっとさせた。

確かにそうだ。こんなところで押し問答しているより、早くリーズリー領に向かった方がいい。全くその通りだ。

だけどアスベルトにいいように言いくるめられているような気がして、素直には頷かない。

結果リズは、むっすりとしたまま馬車に乗り込むこととなった。


馬車には、アスベルト、リズ、デストロイ、アンの四人。さすが公爵家の馬車。広々としているため手狭ではないが、ひとりメイドのアンは居心地が悪そうだった。

しかし、アンに降りられでもしたらリズはこのふたりと同じ空間にずっといなければならなくなる。それは嫌だったので、彼女はずっとアンにひっつき、アンが馬車から降りないようにしていた。


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