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死に戻り姫は冷酷公爵の生贄に捧げられる  作者: ごろごろみかん。
【現在】リズ──十六歳

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45/73

雪解けを待つ ⑷


アスベルトは旅慣れしているとのことで、必要最低限の用意と、最悪それがなくても手持ちの金があればなんとかなると豪語した。

何でも魔術師として彼もまた、遠征することは度々あるのだとか。

馬で駆けた方が早いのだが、令嬢の気休め旅行なのに馬車を用いないのはおかしい。

急ぎリーズリー領に行きたい気持ちはあるが、それで周囲に怪しまれては意味が無い。

もっとも、リズにはその【周囲】が誰を指すのか分からないが。


(具体的に指す言葉を言わない以上、アスベルト殿下もまた分からないのかもしれない)


彼は第三者に妨害されていると話した時、思い悩んだような表情をしていた。達観したような、全てわかったように話す彼にしては珍しい。

おそらく彼もまた、敵の正体を測りかねているのだろう。


リズとアスベルトを乗せた馬車は夕方頃、出発した。あまりの手際の良さに見送りに出てきた父公爵は未だリズを諦めさせようと説得を試みたが、娘の強い意志に断念したようだ。


「アスベルト殿下、恐れ多いことではありますが……我が娘をなにとぞ、よろしくお願いいたします」


公爵という地位にある人間にしてはあまりにも腰が低く、深く頭を下げた彼にアスベルトは安心させるような笑みを浮かべた。


「今は不在の彼にも、彼女のことは頼まれている。私では頼りないかもしれませんが……彼と合流するまでは、リズレイン嬢は私がお守りします」


「ありがとうございます。……しかし、娘の無茶にも困ったものです。リズに危険が迫っていると殿下が判断されましたら、有無を言わさず送り返して問題ありません」


アスベルトは苦笑した。

正直、リズはアスベルトが言ったくらいで目的を断念して帰るような娘に見えないからだ。


「努めます」


アスベルトは短く父公爵に言うと、馬車に乗り込んだ。先に乗っていたリズと、同乗しているメイドのアンの視線がアスベルトに向いた。


「遅くなってすまない。出発しよう」


そして、馬車は出発した──ところで。

邸宅の馬車留めに見慣れない馬車が止まっていることにリズは気がついた。

同様に公爵も見慣れない馬車に気づいたのだろう。

リズが馬車窓からそっと覗き込むと、馬車の扉が開き、ひとりの男が降りてきた。

相手を見て、リズは苦々しい顔になった。


(げ……デストロイ・アトソン)


なぜこのタイミングで会ってしまうのか。


(というか、今日来るなんて聞いてないわよ……!?)


先触れは出さなかったのだろうか。

リズはデストロイから姿を隠すように窓から身を引いたが、一足遅かったらしい。デストロイの視線がリズに向き、にこやかに笑いかけられた。

目が合った以上、リズもまた無視するわけにいかない。軽く会釈をするに留めた。

馬車の外で父公爵とデストロイがなにか話し込んでいる。以前、デストロイが帰宅したあとリズはアスベルトを伴って父と兄に直談判した。

デストロイがいかに無礼な男であるか、あやうくリズは自身の名誉を汚されそうになったのだ。

リズの目論見通り、アスベルトという証人を用意した上で訴えると、父もロビンも苦々しい顔となった。あれ以来、ふたりはリズにデストロイを薦めるような真似はしない。


「デストロイ・アトソンか」


アスベルトもまた彼の存在に気がついたのだろう。ちらりと馬車の窓を見た後、何を思ったのか扉に手をかけた。


「少し話してくる」


「え!?ちょ……待ってください、アスベルト殿下!」


まさかこの旅行にデストロイもついてくるなどなったら大変だ。少なくともリズは絶対的に嫌である。

アスベルトを追ってリズもまた馬車から飛び降りた。紳士の手を借りずにひとりで降りるなど淑女として有り得ないことだが、今はリズを誰も咎めるものはいなかった。それをいいことにリズはドレスをたくしあげてデストロイと話し込んでいる父公爵の元に駆け寄った。


「お父様!」


「リズ」


父公爵は眉を寄せ、なにか悩んでいるようだった。リズの後ろからアスベルトもまたゆうゆうと歩いてくる。アスベルトを見て、デストロイが口端を持ち上げた。


「おっと、リズレイン嬢はお忍びデートでしたか?」


「………」


リズはキッと睨みつける。

以前のことを忘れてないのだ。

敵を見る目で睨まれたデストロイは目を細めてリズからアスアスベルトに視線を移した。

アスベルトはリズの隣に立つと、腰をさらうように彼女を抱き寄せた。


「きゃ……はぁ!?」


思わぬことに、思わぬ声を出したのはリズだ。

何してるのこの人。

何をしているの!!

混乱よりも場を乱す行動を取ったアスベルトへの怒りが芽生え、彼を睨みつけた。

しかしアスベルトは飄々としてデストロイを見ている。


「まあね。邪魔しないで欲しいな」


「な……」


リズが戦慄く声を出していると、そっと抱き寄せられて耳元で囁かれた。


「このまま誤解させよう。ついてこられたらきみも嫌だろ?」


それはそう、なのだが……。

だからといってアスベルトと恋仲であるかのように振る舞うなどリズには出来ない。

父公爵など、リズとアスベルトを見ては目を丸くし、交互に視線を向けている。父の視線が痛い。


(……アスベルト殿下の言葉には一理ある。でも、無理!)


好きでもない異性に抱きしめられるなど、リズには到底許容できなかった。

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