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死に戻り姫は冷酷公爵の生贄に捧げられる  作者: ごろごろみかん。
【現在】リズ──十六歳

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雪解けを待つ ⑵

それからまた数週間が経過して、アスベルトがリーズリー公爵家を訪れた。

ヴェートルから定期報告が届いたのだろうか。

リズは足早に貴賓室に向かった。


貴賓室に入室してすぐ、リズは違和感を覚えた。

違和感、ではなく不安かもしれない。

なにせ、ソファに腰掛けたアスベルトの表情が険しかったからだ。今までこんなことは無かった。アスベルトは王族らしく、いついかなる時でも笑みを絶やさなかった。


いつも微笑んでいる彼は何を考えているのか分からず、正直リズは苦手だったが、その彼が気難しい顔をして黙り込んでいることは彼女に衝撃を与えた。

嫌な想像が瞬時に頭に駆け巡った。


「アスベルト殿下?」


リズが恐る恐る声をかけると、はっとしてアスベルトは顔を上げた。リズが入室したことにも気がついていなかったようだ。


「リズレイン嬢、今日も美しいね」


挨拶の言葉にも覇気がない。

リズはますます眉を寄せた。

リズの怪訝な顔に、アスベルトも気がついたのだろう。彼は苦笑して、単刀直入に尋ねた。


「ヴェートルからきみになにか手紙は届いている?」


「え……ヴェートル様、ですか?」


思わず瞬きを繰り返す。

答えは否だ。彼から手紙など届いていない。

リズがそう答えると、ますますアスベルトの顔は険しくなる。


「ヴェートル様になにかあったのですか……!?」


リズがつい尋ねてしまうと、アスベルトはリズに話すか悩んだのだろう。少しの間ののち、ため息を吐いた。


「いや、何かあった、という連絡は来ていない」


「では……」


「そもそも、ヴェートルからは何の連絡も来ていないんだ」


「──」


驚きに息を飲む。

定期報告が途絶えている、その意味は。

アスベルトは膝の間で手を組みながら言った。


「それに少し……気になることもあってね」


「………」


「向こうに支援物資が届いた形跡がない」


「そ、れは……」


リズは何がなんだか分からなくて、上手く言葉を紡げない。目の前が白黒で覆われ、ちかちかする。リーズリー領ではなにが起きているのだろう?


「詳しく話すと、支援物資隊は王都を出発している。だけど、何者かの手によってアデロンの街を出た先で始末されているようだ」


アデロンは、王都の隣街だ。

王都とアデロンはさほど距離があるわけではないが、間に山を挟んでいるために山道が存在する。


「始末されている……って」


「誰かがリーズリー領に行かせまいとしているんだろう。王都からリーズリー領まで警備を徹底すれば無事到着するかもしれないが、今回ヴェートルは魔術師としてリーズリー領に出向いている。魔術師の全貌を公にできない以上、大掛かりな警護は難しい」


アスベルトはの声は苦渋に満ちていた。

リズは頭が真っ白になっていたが、なんとか思考を動かして状況を理解する。


(ヴェートル様は魔術師としてリーズリー領に向かっている。彼でなければ、魔術師でなければできないことがあるのだろう。その脅威を祓うために彼は出向いていて──)


それで、それで……。


「……魔術師が職務をこなすことで不利益を被るひとがいる、ということですか」


呟くようにリズは言う。

足りない情報の中から、彼女はおおまかな事情を把握しようと試みていた。


「お父様には?」


「伝えた。公爵にはリーズリーの私兵を使って構わないと言われたが、大掛かりに動けば公爵に国家反逆罪の疑惑を向けられるかもしれない。情報把握のためにリーズリー領に向かうとしても、少数精鋭でなくてはね」


後半は独り言だったようで、呟くように話すと彼はハッとして顔を上げた。

そして、安心させるように微笑む。


「まあ、なにか手違いが起きてる可能性もあるし……僕の手駒をいくつか向かわせるから、そう心配することは無いよ」


「……殿下は私を疑ってらっしゃいますか?」


リズは真っ直ぐにアスベルトを見つめた。

深紅の瞳に射るように見つめられ、アスベルトもまた彼女を見つめ返す。

しばらく二人は見つめあっていたが、先に視線を逸らしたのはアスベルトだった。


「少しはね。でも、今は疑っていない。きみは何も知らないでしょう?」


おかしいと思ったのだ。

いくらリズがヴェートルを気にかけていると言えど、魔術師については国家機密と話し、一切情報を口にしなかったアスベルトが詳しく報告したことを。

恐らくアスベルトは、純粋に、ヴェートルを心配するリズのために教えてくれたのではなく彼女の反応を探るために情報を口にしたのだろう。

頭がこんがらがる。


(ヴェートル様は私を悪魔の儀式に捧げようとしていて……悪魔崇拝者かもしれない。彼がそうであれば、彼の友人のアスベルト殿下もそれを知っている可能性は高く、アスベルト殿下もまた悪魔崇拝者かもしれない。その情報を踏まえた上で、今、リーズリー領では魔術師の力を必要としている事態が起きている。ヴェートル様はそのために無理を押してまでリーズリー領に行き、それを防ぎたい第三者がいる……)


わ、分からない。

圧倒的に情報が不足している。

そもそも魔術師とは何かが分からないのだ。全て推測に過ぎない。

少なくとも今、はっきりしていることはヴェートルからの定期報告はなく、支援物資が行き届いていないこと。


(情報が制限されて、手元にないのなら……直接見てしまえばいい)


何もかもが分からない。それなら、直接目で見て判断するしかない。

リズは決断し顔を上げた。

アスベルトはまたなにか考え込んでいたようだったがリズの視線を受けて顔を上げた。


「アスベルト殿下」


リズは一呼吸置いた。

そして、静かに口にする。


「私がリーズリー領に向かいます。父の、名代として」



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