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死に戻り姫は冷酷公爵の生贄に捧げられる  作者: ごろごろみかん。
【現在】リズ──十六歳

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過去と今



ヴェートルにもらったネックレスのことを思い出したリズは、思わず胸元に手を伸ばした。当然だが、そこには何も無い。

過去、もらった時はとても嬉しかったのに、今はそのネックレスのことを思い出すだけで苦しくなる。

先日王立図書館で偶然再会したヴェートルは、彼女の記憶にあるままで何も変わっていなかった。彼女が知る、優しい姿のまま。


「………」


なにか手がかりは見つからないかと王立図書館で調べ物を行ったというのに、成果はひとつもないどころかうっかりヴェートルにあってしまう始末。

これからどう動けと言うのだろう。


そんな時、王妃主催の音楽会が開催されるとリズは父から聞いた。

王妃主催となれば、大抵の貴族は参加することだろう。それは筆頭貴族のリーズリー公爵家も例に漏れず、出席することが決まった。

おそらくベルロニア公爵とヴェートルも参加するだろうし、ビビアンも、アスベルトも夜会には訪れるだろう。

だけど、夜会は大規模なものになるはずだ。数多いる招待客の中で、先日のようにうっかり会ってしまう、ということなど起こりえないはず。

リズがしっかりと周りを見て警戒していればいいだけの話だ。


そして当日。

リズは兄ロビンのエスコートで馬車に乗った。リズが社交界に足を踏み入れるのはずいぶん久しぶりで、以前まではエスコートはいつもヴェートルに任せていた。

今回も同じようにヴェートルに任せるとばかり思っていた父公爵を始めとした彼らは、リズがエスコートを兄にお願いするととんでもなく驚いたようだ。ロビンに至っては狙っていた令嬢がいるとかでかなり渋られたが、リズがしつこく食いさがってようやく折れてくれた。


リズが夜会に着ていくドレスは、いつも寒色系が多かった。赤髪赤瞳のリズは同色のドレスが彼女には映えるだろうに、彼女はいつも彼の色を身にまとっていた。

しかし、彼女は今日はヴェートルの色ではなく、自身の色に近い橙にほど近い珊瑚色のドレスを身にまとった。

そうすると、いつものリズとは全く雰囲気が違って見えて、リズ自身違和感をぬぐえない。

暖色系の明るいドレスを身にまとったからか、リズはいつも以上に目立った。もともと派手な顔立ちをしている娘だ。いつもは落ち着いた色合いのドレスがそれを抑えていたが、同色系統を着たことにより、華やかさが増してしまっている。

馬車で彼女の対面に座ったロビンは未だに納得がいかなそうにむっつりとした顔をしていた。


「お前、ベロルニア公爵はどうするんだ。そんなドレス着て。本気か?」


「……そうだと言ったら、お兄様はなんて言うの?」


「いーや?何も言わないが……ただ、納得はできないよな。あんなにあいつにべったりだったくせに……なにかされたのか?」


兄は鋭い。いや、リズが分かりやすすぎるだけだろうか。彼女は表情を読まれないようにまつ毛を伏せた。

目に痛いほど鮮やかな赤橙色のドレスが目に入って、くちびるを引き結んだ。


「……何も無いわ。何も無いから、もういいの」


「何も無いことはないだろ。お前だって知っていただろ?もうすぐお前と彼の婚約が結ばれる予定だったのは」


「……私は、彼のことを何も知らないもの」


リズは取り留めの無い言葉をこぼした。

リズは何も知らない。彼といたとき、いつも話すのは彼女だったし、明らかな好意を寄せるのもまた彼女だった。

いつだってヴェートルは彼の気持ちを、感情を、リズに教えてくれたことは無い。

俯いて過去に思いを馳せていた彼女に、ロビンは眉を寄せて、悪態をついた。


「はぁ?んなもん当たり前だろ。好きな相手だろうが、家族だろうが、黙ってて互いを知れるはずがないだろうが。いくら親しい相手でも結局は他人なんだよ。言葉を尽くして初めてひとは、他人を理解するんだ」


「お兄様は恋をしたことがないから、分からないのよ」


「あぁ?」


ガラの悪い兄を一瞥して、リズはまたまつ毛を伏せた。兄の言葉は正論だ。

でも、だけど。

いつだって正論を正しく行える人物がいるとはまた、限らない。


「……怖いの」


「………」


「わたし……怖いのよ。お兄様。今までこんなに誰かに対して……怖いと思うことはなかった。だって、誰に嫌われようが誰に否定されようが私は私だもの。そんな他人の言葉なんて気にしないわ。でも……」


そう。そうなのだ。


(ヴェートル様にだけは……嫌われたくない)


まだ、リズは彼への気持ちを捨てきれていないのだ。だからこそ、彼に会えない。

リズにとって彼は鋭すぎる剣だった。彼に一言、嫌いだと、自身を否定する言葉を口にされてしまえば、きっとリズは深すぎる傷を負う。

彼女は臆病になっていた。過去、彼に殺された時。初めて彼女はヴェートルに裏切られるという恐怖を知った。それは、死以上の恐ろしさをも彼女にもたらした。


「ずっとこのままではいけないと分かってる。でも……今はまだ、勇気が持てない。今は……まだ、むりなの」


震える手を自分で握りしめて、懇願するようにリズは兄に訴えた。何も事情を知るはずのない兄は、戸惑いを含んだ目でリズを見ていたが、彼がなにか言葉にする前に、馬車は王城へと到着したようだ。


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