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死に戻り姫は冷酷公爵の生贄に捧げられる  作者: ごろごろみかん。
【過去】リズ──十五歳

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16/73

氷を溶かす恋心 ⑸


「ふふ、ふ……。リズにはかないませんね。わかりました。あなたのエスコートは私が行います。リーズリー公爵の許しがあれば、の話になりますが」


「お、お父様は許してくれるはずよ。そもそも、この話はリーズリーからベロルニアに持ちかけているのだから」


彼の微笑みはとても珍しかった。

彼と知り合ってから、ほんのすこし笑ったような気配がすることはあっても、こんなに柔らかな笑みを見るのは初めてだ。

凍てついた、他者を近寄らせない氷のような容姿をしているからか、彼が微笑むとそれはあまりにも穏やかで、優しくて──そう。


(月並みな言葉かもしれないけど……まるで、春解け、のような)


冷たい雪が溶けるような、やわらかな雰囲気がある。彼は口元に手を当てて少し微笑んでいたが、目の前のリズがりんごもかくやという勢いで首まで赤く染めていたからだろうか。

彼はふ、と笑みを消し、首を傾げて彼女を見た。


「顔が赤いですね。……日差しの下に長時間いたからでしょう」


そう言って彼女の頬を指先で撫でる。

その仕草ひとつとってもなんだか大人びた色気を感じて、リズは歯噛みした。

十四歳と十六歳。年の差はわずか二歳といえど、この年頃の二歳は大きく感じる。まだまだ自分は子供なのだと思い知らされて、リズは不満そうに彼を見た。


「……私、もう十五になるの」


「ええ」


「大人なのよ?」


「そうですね。おめでとうございます」


しかし、ヴェートルには響かない。

それ以上は彼女も何を言えばいいかわからなくて、言葉を重ねることを諦めた。

リズはどうしようもなくヴェートルに憧れていたし、彼に釣り合うようになりたいと願っていた。


父にヴェートルがデビュタントのエスコートを引き受けたことを話すと、彼は驚いていたものの娘があまりにも喜んでいたからだろう。

少し複雑な顔をしながらも、父公爵もまた素直にそのことを喜んだ。

後はもう、ダンスとマナーのレッスンに励み当日を待つだけだ。




あっという間にその日となり、いつものようにヴェートルはリーズリー公爵家へ訪れた。

夜会でも魔術師はその正装を身につけることが義務付けられる。白のチュニックの合わせを青のブローチで留め、上に紺のサーコートを羽織った彼はいつもの姿だが、共に夜会に行くと言うだけでいつもより何割増か魅力的に見えてしまうのは間違いなくリズが彼に恋をしているからだろう。

いつ、この感情が恋に育ったのか彼女は知らない。最初は興味だったと思うし、憧れもあった。彼は、彼女が今まで目にした事の無い類の人間だったから、より強い興味を抱いたのだと思う。

ドキドキする胸を抑えながら、父公爵にエスコートされて階段をおりて玄関ホールに向かうと、目が合ったヴェートルがほんの少し、その瞳が微笑んだように見えた。

それだけでリズは胸が大きく跳ねたし、うっかり階段を踏み外してしまいそうになる。

バランスをわずかに崩したのを父は見逃さなかったのだろう。苦笑混じりに娘を見る。


「私もあとの馬車で向かう。くれぐれも無作法はしないように」


何度目の言葉か、口酸っぱく注意する父に、リズは自分はどれほど信用がないのかと聞きたくなる。いくらわがまま放題に育ったリズレインと言えど、さすがに公の場では大人しく振る舞うに決まっている。リズは高飛車で鼻持ちならない人間だが、だからといって空気が絶望的に読めない訳では無い。

父公爵がリズをヴェートルの前まで連れていくと、彼は公爵からリズの手を受け取った。


「よく似合っています」


「ほんとう?あのね、ドレスの色はすこし寒色系にしたのよ。分かる?」


リズの本日のドレスはデビュタントらしく白で統一されている。大人びた顔立ちをしている彼女はシンプルなドレスを身につけるとどうしても年相応に見えなくなってしまうので、オフショルダーデザインのドレスの肩周りにはフリルを多用し、腰から足にかけてはドレープを作り、裾を遊ばせている。

腰にはチュールレースを縫い付けて、リズが動く度にふんわりと揺れた。胸元はすっきりと開き、今風のデザインにしているが、リズは顔が派手なので、デビュタントにしてはどうしても艶めいた雰囲気になってしまう。それを防ぐために、白のシースルーレースで首元まで覆い、さらには首にはフリルのリボンタイを巻いている。

大人っぽくありながらも甘い雰囲気のある可愛らしい印象に仕上がっているのだ。

そして、ドレスは白色とはいえ完全な白というわけではなく、どことなく暗みのある、スノーホワイトだった。言わずともわかる、ヴェートルの髪をイメージした色合いだ。


「あなたがその色を身につけるのは新鮮ですね」


「ねえ、似合う?」


まるで褒められるのを心待ちにしている子犬のようだ。ヴェートルは苦笑した。


「私の色が似合うと口にしていいものか迷いますが……素直な感想を伝えるとするなら、とてもよく似合っています。あなたの髪に、その色はとても映えますね」


「ふふ、そうよね!私もそう思う!」


リズは満面の笑顔でヴェートルに抱きついた。

それを見て、淑女とは思えない行動に公爵が閉口する。

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