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プロローグ おっさん、自己分析は冷静に

めちゃくちゃ美人なご令嬢に転生してしまったおっさんの奮闘劇です。

おっさんはとても真面目に令嬢を頑張ります。

異世界、それは魔法でファンタジーでドキドキワクワクな夢がいっぱい詰まった、人間なら1度は想像したことがあるであろう空想の世界。


ライトノベルや友人らの話でよく出てくる世界だが、俺自身あまり興味はなかった。


興味がなかったと言うより、自分の「世話」で精一杯だった。


新卒から務めた制作会社を退職し、そのノウハウを生かすため、そして、学生の頃の夢を捨てきれず、一念発起し出版社へ転職。

元々管理職だっため、転職先でもそこそこの地位で採用された。

俺はそれはそれは喜んだ。やっと自分のやりたかったこと、好きなことに打ち込めると。


青臭いって思うか? その通りだ、否定はしない。


ただ、俺はいずれぽっくり逝くのであれば、後悔が少しでもないように生きたいのだ。そのために俺は知らない世界に42歳という年齢で飛び込んだ。

俺はこの選択に満足している。


幸いなことに、口煩いが俺を慕ってくれる部下もいて、やりたい仕事を現場でできて、何も言うことはなかったはずだった。

はずだったんだ……


大塚大輔42歳、独身彼女なし。座右の銘は「為せば成る」。自分に正直な生涯を送って参りました。ゆえに、どうやら敵を作りやすい性格だったらしい。

白々しいだって? 誤魔化すな? そんなに強く言わないでくれ、泣いちまうだろ。


そうだよ。右から左、上から下まで敵だらけだったよ!


そんな会社には敵だらけだった俺の退職祝いの飲み会帰り、駅に向かう途中にある歩道橋を下ろうとした瞬間、誰かに背中を押され……そこから記憶が無い。


「紅茶が今日も美味ですわ」


そんな俺の脳内を無視するかのように、口から子鳥のさえずりのような、綺麗な感嘆が漏れた。


お淑やかに紅茶を口に含み、ガゼボを囲うように咲き乱れている色とりどりの季節の花を愛でる。

ティーカップの取っ手をつまむ指は日焼けを知らず、ツルリと陶器のように白くなめらかで、爪は綺麗な桜色。

穏やかな風に靡く髪は強めのウェーブがかかる、プラチナブロンド。

知的な瞳は深い青で、形のいい唇にのせられた深い薔薇色のルージュによく映える。

まるで夢のように美しく儚いご令嬢だ。

こんな美女、生まれてこの方42年、はじめて見た。


「奥様、お客様がお見えです」


いつの間にかそばに執事が控え、感情が読めないトーンで声を掛けられる。

ご令嬢にお客様があったらしい。奥様だから、夫人か。まあどっちでもいいけど。


御歳17歳の女の子なのだから、ご令嬢と勝手に脳内変換してしまう。

この世界の結婚適齢期、江戸レベルで早いのだ。


俺はやれやれと思いつつも、嫌な顔は外に出さず「すぐ参ります」と呼びに来た若い執事ににっこり声を掛けた。

手元で揺らめくティーカップを恨めしげに見つめる。


ケッ、まだ1杯も飲めてねえよ。


テーブルの脇にあるカートには、まだたっぷりと紅茶の入ったポットとこれから食べようとしていたスイーツがある。


タイミングの悪い来客に頭の中で悪態をつきながら、グイッと残りの紅茶を煽った。

もちろんお上品にだ。


流れるようにお辞儀をした執事がこちらですとご令嬢を案内してくれた。


ピンと背筋を伸ばし、詰め物で膨らんだ重いスカートを気にしないように、威厳が見えるように堂々と歩みを進める。


案内された先には、玄関ホールで何やら大荷物を運び込んだ、小太りで汗をかいている行商人がいた。


行商人はご令嬢を目にすると、ニチャァと気持ち悪い笑みを浮かべた。


うわ、ゾッとした気持ち悪!


鳥肌にさぶいぼがブワァッと広がるも、それを顔に出さないのが貴族のご令嬢だ。アッパレ、偉いぞ。ビジネスの基本は舐められない笑顔だ。


行商人は被っていた趣味の悪いデザインの飾りがゴテゴテとついた帽子を脱いで胸に当て、深くお辞儀をした。


「お初にお目に掛かります。私ハザール商会2代会長、ベトギトラー・ハザールと申します。カーネリアンコート公爵夫人におかれましては数ある商会の中から我が商会をお呼び立てくださり、心より感謝申し上げます」


思ってもないようなことをペラペラペラペラ口を回す。

ねちっこくくどい挨拶を止めるべく、手のひらで制した。


「よく来てくださいました。カーネリアンコート公爵が夫人、エリス・カーネリアンコートです」


俺は堂々と淑女の笑みでベトギトラーを牽制した。

隙のない立ち振る舞いにベトギトラーも若干引きつった笑みを浮かべている。


そうだ、お前が商売をしようとしている可憐なご令嬢は、中身が42歳のおっさんで、会社でありとあらゆる死闘を繰り広げてきた猛者なのだよ。


俺は身を翻し、使用人が案内している行商人を置いて応接間へ向かった。


さっきの自己紹介は情報が古いな、情報はいつでもリアルタイムでアップデートしなければ。


大塚大輔御歳42歳、彼女無し。座右の銘は「為せば成る」。自分に正直な生涯を送って参りました。ゆえに、どうやら敵を作りやすい性格だったらしい。

転職先で散々パワハラに合い、出勤最終日に開かれたお別れ会の帰りに、駅に向かう途中にある歩道橋を下ろうとした時に誰かに突き落とされ以降不明。おそらく死んだ。


そして現在、メルロテア王国5大公爵家の1つ、カーネリアンコート公爵家夫人、エリス•カーネリアンコート17歳。好きな物はクリームがふんだんに使われたフルーツケーキ。嫌いなものは無作法。


なになに、キモいおっさんがキモい妄想すんなキモい?

俺もそう思うよ。完全に同意見だ。

でもさ、何回顔を引っ叩いても、何回朝を迎えても、目が覚めないんだよ。

流石にこんな美少女の顔何度も引っ叩けなくて、寝る抵抗だけはしたけど。

おじさん、本当に困っちゃった。

嘘みたいだろ、現実なんだぜ、コレ。


元42歳の普通のおっさんが、なぜか知らない国のご令嬢として元気に暮らしています。

突発的に思いついたネタを書き始めたらかなり楽しくなってしまいました。

投稿初日は3話投稿、以降は1日1話のペースで投稿していけたらと思ってます。

面白いと思っていただけたらポチッとしてくれると励みになります。

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