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第7話 暗根ヤミ、ピンチです!

 迷宮はおおよそ三つのエリアで構成されている。

 一つ目は通常フロア。もっとも割合が高いエリアで、基本はここを進行して迷宮を探索していく。

 二つ目はセーフエリア。モンスターが発生しない場所を指す。

 迷宮入口付近や迷宮の端、三つ目のエリアの手前など、迷宮の魔力が届きにくい箇所にある。

 そして三つ目が、ボスフロアだ。


「──ここは、一体?」


 山を下り、コボルドやスライム。ワームと呼ばれる幼虫型のモンスターと戦闘しつつ進んでいたヤミは、突如として広がる広大な湖に目を奪われていた。


 夜空に広がる満天の星空を、水の形に埋め込んだかのような美しい湖は、視界いっぱいに広がっている。

 今までが整備の影響はあったとはいえ緑一色に近かった所に突然現れた新たな景色は、現実世界の山には存在しなかったものだ。


《ワン|限りなく平面だからこそ、この様に綺麗に反射しているのだな。深さはそれほどでも無いようだ》


「すごいキレイですね……入れるのかな?」


 ヤミはそのまま魅入られたようにフラフラと湖に近づき、そして……、


「──ッ、うわぁあああ゛!?」


 湖に足を入れた瞬間、轟音を上げながら跳ね上がる水に巻き込まれて、吹き飛ばされた。


《ワン|ふむ、泥の中に潜っていたか》


 何やらコメントしているようだが、流石に読む暇はヤミには無かった。

 ──ていうか、このままじゃ死ぬ!?


 空中で姿勢を制御し整え、地面への衝突の瞬間に5点着地で衝撃を殺す。

 訓練ではそこまで高い距離でやったことはなかったが、レベルが上がって強化された肉体は、15メートルほど吹き飛ばされた衝撃も逃して見せた。


「ごほっ、ごほっ。【綺麗なものには死が付き物】、迷宮の心得の通りだ……」


 びちょびちょになった髪の毛を掻き上げ視界を確保しながら、ヤミは反省する。

 ワンさんと仲良くなれて、初めての探索なのもあって気が抜けていた。

 弾薬が半分になったらではなく、レベルが2になった時点で引き返すべきだったのだ。


 しかし既に遅い。敵は、おそらくボスモンスターと呼ばれる強敵は、ヤミを逃すつもりなど毛頭無いようだ。


「これは……ナマズ?」


 それは全長5メートルほどを誇る、茶色く、粘性のありそうな皮膚を持つ巨大なナマズだった。そのヒレは手脚のような形に変化し、泥の中を進むことに特化した見た目をしている。


《ワン|水性生物モデルなのは確かだが、迷宮ではあまり参考にはならないな。確かナマズは泥に潜ることはあまり無いとか──》


「ごめんワンさん!今読んでる余裕は無いかも!」


《ワン|……まぁ仕方がないか》


 思わぬ塩対応に、初めてそんな扱い方をされた超越存在(ワン)は若干衝撃を受けた。


 ドロナマズとでも呼ぶべきそれは、再び湖底に潜航すると、ヤミを下から丸呑みにしようと飛び出てくる。

 湖の外に出れば流石に掘り進んでは来れないだろうが、打ち上げられた際に湖の中心付近に叩き落とされた為に逃走は困難だった。


「このぉ……!!」


 地面の振動や盛り上がってくる感覚から、ドロナマズの飛び出しタイミングを読む。

 横にダイブするように回避したヤミは、飛び上がった為に、こちらに大きく見せた腹をぶち抜こうとリボルバーを構え……


「──クソッ、水で濡れて!」


 トリガーを引き、撃鉄が雷管に当たるが、火薬が濡れ切ってしまった為に不発で終わる。

 替えの弾丸を取り出そうと腰のポーチに手を伸ばすが、衝撃でフタの留め具が外れたのか、軒並み浸水していた。


「──マッズイ、このままじゃあ、素手でやり合う事になっちゃうかも……ナンテ」


 人生を賭けた渾身のギャグも、ドロナマズには効かないようだ。それどころか、ファイティングポーズを挑発と捉えたのか、足を猪のように蹴り付け、突進してこようとする。


『流石に素手では無理だろう』


 良かった、1人反応してくれた。ワンさんがツッコミ入れてくれただけで、僕の人生は幸せでした。──って、何でコメント見てないのに聞こえたんだ!?


『最近の道具には、文字を音声化させて特定の人だけに聞こえさせる機能があるのさ。──それより、魔石は幾つ持っている?』


 音声化は本当だが、この状況でも聞けるようにしているのは超越存在(ワン)の魔術によって一時的に改造した結果だ。

 しかし緊急事態である為、説明は省いて話を進める。


「ま、魔石ですか?5個くらいは内ポケットに」


 弾薬と分ける為、内ポケットに入れていたのが幸いし、魔石はそのまま残っていた。


『上等だ。それをリボルバーに装填し、全て同じ箇所に無理矢理捩じ込むんだ。そして弾薬を入れて撃て!時間はあまり無いぞ』


「わ、わかりました!」


 言われるがままに魔石をねじ込む。ベキベキと音を立てて砕かれる魔石に心を痛めながら、ヤミは全てを装填し終えた。


「うぅ、これで一万円くらいにはなったのに」


 ドロナマズはヤミに照準を合わせ、地面をそのまま突撃してくる。泥の中よりは遅いが、こちらを見ている為に回避は難しい。

 ドスドスとヒレから発生した足を用いてやってくると、大きく口を開けてそのままヤミへ食いつこうと飛び込んで──、


「死んだら恨みますからねー!!!」


 引き絞り、爆炎が迸る。


 トリガーを引いた瞬間、爆炎が銃口から射出される。魔石に含まれていた魔力が火薬の効果を高め、銃身を焼き切りながらその凶弾を送り込む。


『グォオオーー!?』


 口内へと侵入した弾丸は、推進力で使いきれなかった熱を撒き散らしながら、その身体を貫き進む。

 本来であれば集団で戦うはずのボスモンスター。それもレベル5が最低限必須と言われる存在を、苦もなく貫き破壊していく。


「……すっげぇ」


『うん、一万円程度の価値はあったかな?』


 炎が消えて残ったのは、ボロボロに炭化したナマズの死体と、水蒸気を上げる湖だけだった。

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