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第29話 暗根ヤミ、未だ発展途上です。

【不死者の巣窟】、10階層。


「フッ、ハッ!」


 一層にいたスケルトンとは異なり、金属製の鎧と剣を持った上位種、スケルトンナイト。

 その洗練された技術によって振るわれる剣を、一本のナイフで弾いていく。


 フェイントを見抜き、迎撃し、逸らし、切り裂く。

 左手にナイフを、右手は徒手で。体術と剣術を以て、スケルトンナイトを追い詰める。


 わざと身体を遅らせて隙を晒せば、以前までの迷宮とは異なり、モンスター側もそこを突いてくる。

 突き出される(つるぎ)の速度は凄まじく、眼窩に宿る赤き光は、殺意で強く光る。

 狙いは心臓。身体の正中線を穿つその一撃を、半身になって前に出したナイフで逸らす。


「ハッ!」


「……」


 互いに攻防によって接近した瞬間、逆手に握ったナイフを閃かせ、頭蓋骨へと突き立てた。

 ──しかし、敵は一体ではない。暗がりに身を隠し、背後から気を伺っていた2体目の骨の騎士は、上段に剣を構えて振り下ろしてくる。

 だが、それを見抜いていたヤミは、一体目の握る剣を無手の右手で強奪していた。

 翻って背後を向いたヤミは、その勢いのままに剣をスケルトンに叩きつけた。


「……フゥー」


 タイムラグが終了し、右手から剣が土塊となって変わり始めると、暫く残心したのち、ヤミは大きく息を吐いた。


「銃を縛って体術と剣術で敵を倒す。まぁ、上出来だな。これでナイフでも十分にモンスターとやり合えるだろう」


 ガレンは満足そうに頷くと、ヤミから没収していた【獣王(レグルス)】を返却してきた。


「その銃は、お前の持つポーチ(キャットフィッシュ)とシナジーがある。これから長い間使うことになるだろう。──だけどな、もしも土壇場でリボルバーが壊れたとしても、動じずに戦い続けれるようにはなるべきだぞ」


 通常の武装タイプのマジックアイテムというのは、出力の最大はドロップした迷宮のランクによって左右される。

 難易度2の迷宮でドロップした武器は、本来なら難易度16の迷宮なら必殺の武装にはなり得ない。


「お前のポーチは、魔力に比例した弾を生成する。弾が強化されれば、限度があるはずの武装マジックアイテムの攻撃力は補える。大当たりのアイテムだ、大事にしろよ」


 これは弓や銃使いだけが持つ裏技みたいなものだと、ガレンは言う。

 もしも似たアイテムを持ってなかったら、私は通帳ごとお前に渡して買い取った。とガレンに言われた時に、ヤミはようやく価値に気づいた。


「今日は本当にありがとうございました。お陰で自分の改善点が分かりました」


「あぁ。これからも銃を使っていくなら、定期的に見てやる」


 2人は会話をしながら、迷宮を出口に向かって進む。片や高位探索者、片やナイフと体術だけで10階層の敵と戦える者。

 特にトラブルも無く、接敵即射撃によってモンスターは土塊へと変わっていく。


「えぇ……」


「──む、どうやら今回は他の探索者とバッティングしたみたいだな」


「え!?」


 ごく稀に迷宮ではパーティとして集団で入った者たち以外に、同じ空間に送られることがある。

 どうやら今回は他の探索者が送られてきたようで、ヤミとガレンの銃使いコンビがモンスターをボコボコにしていく様子を見たようだ。

 ドン引きしていた。声まで出して、口を開けて。


「なんで私の後ろに下がる」


「いや、スキルが──」


 ヤミのコミュ障の改善に進んでいるが、やはり初対面は怖いために、そっとガレンの後方に身体を移動させる。

 ゴニョゴニョと言い訳を並べるヤミを見て、呆れているだろうガレンと、初対面の探索者の顔を見れず、伏せたままで通り過ぎようとする。


「配信をして、人見知りは改善したんじゃないのか?」


 わざと他の探索者にも聞こえるように言っているとしか思えない声量で聞いてくるガレンに、ヤミは|お願いだから黙っていてくれ《口に人差し指を当てる》のポーズをとった。

 どうやら完全な改善に至るには、まだまだ時間がかかりそうである。


 初対面でも看護師さんとかの、一度しか関わらないだろう人とは、話せるんです……。

 なんて言い訳をヤミは胸中に浮かべるが、迷宮でバッティングした探索者の方がよっぽど一度きりだと気づき、言葉には出さなかった。

 なんか、ちょっと違うんですよ〜。仕事してる人と、すれ違った人は。

 そんな微妙なニュアンスを伝える語彙の無いヤミが口の中で言葉をモゴモゴしていると、どうやら迷宮の出口に辿り着いたようだった。


「この後は会議があるから送迎は出来ん。また暇な時に見てやるから、今後も精進するように」


 ガレンは時計に目をやると、余り余裕はないのかヤミの言葉を待たずに歩き出した。

 そんなガレンを呼び止めるのは憚られたヤミは、その背中に頭を下げて、お礼を言った。


「ありがとうございました!銃のマジックアイテム新しく手に入れたら、直ぐに連絡します!」


「何があっても駆けつけるから、それについては迅速に報告するようにッ!今後の課題は後日送る!」


 ガレンは時間が無いはずなのに素早くヤミの所に戻ってくると、それだけを告げて再び走り去った。


「いつでもブレない人だなぁ……」


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