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第16話 暗根ヤミ、訓練中です。

「……ぐぐぐぐ、ぐ」


魔力を身体の中で動かす感覚。そして、それを拳や足、頭に、急所へ運び、強化する……。

魔力による強化に関しては、リボルバーに魔石を詰め込む【魔石砲】で分かってはいたが、人体で行うという発想はなかった。


そして、かなり難しい。


「粘性のある液体を動かす様な感覚ですね……ネバネバしてて、ちゃんと動いてくれない」


体内にある魔力はスライムよりも粘性のある液体で、へばり付くような感覚だった。意思に反応はするが、凝り固まったガムを剥がすように遅々として進まず、疲労だけが増していく。


『魔力を動かす感覚は、初期は人それぞれだが、最終的なものは同じだ』


「『水のように動かせる。』ですよね。確かに、少し感覚は分かってきました」


広々とした迷宮の出入り口、魔石の回収を終えたヤミは、周囲にモンスターがいない事を確認しながら、魔力を動かす訓練に明け暮れていた。


弾丸生成が出来るマジックアイテム【キャットフィッシュ】に魔力を注ぎ弾丸を生成し、その感覚を自身の身体で行う訓練。


当然のように魔力はガンガン消費していくが、どうせヤミは魔法を覚えておらず、戦闘中に必要になる事はないので関係がなかった。


『それにしても、次のモンスターが中々現れないわね』


『先程ヤミくんが言っていたが、あの数の集団を二度も撃退したんだろう?暫く来なくてもおかしくはない』


「い、1回目は撃退とは言えないんですけど……まぁ、訓練中なので忙しなく襲いに来るよりはマシですね」


2度目の襲撃以降、ブレードラビットはおろか他の種のモンスターすら、ヤミの警戒網にかかる事は無かった。


というか、本来なら一度地上に帰還して練習すべきなのだけど。弾丸もないのだし。

事実、『迷宮内の方が魔力が回復しやすく、すぐ逃げれる場所であれば実践経験もつめてお得』だと唆されていなければ、ヤミは迷宮から帰還していた。


『チッ、つまらないわね。どうせなら実戦で慌てふためくのが見たかったのに』


『趣味が悪いぞ……』


「あ、あははは……」


そ、そんなこと思って迷宮に止まらせていたんですか!?


トゥのトンデモ発言に呆れながらワンが苦言を呈し、ヤミは苦笑いしているしかなかった。


『これじゃどうしようもないし、一度上で物資補充しましょうよ。さっき倒した奴らの魔石で、だいぶ余裕出来たでしょ?』


チラリと時計を見れば、両親とのタイムリミットまでは微妙な時間。


「分かりました。でも、行けて後一回くらいですかね」


『そんな約束があると言っていたね。なら、一度配信を閉じて外に出るかい?』


「いえ、どうせ買い物するだけですから、カメラだけオフにしてそのまま行きます。迷宮での配信は情報提供や生存報告の為に許容されていますから、直ぐそこの店舗なら大丈夫だと思います」


『そうよ、固いこと言わずに良いじゃない。ね?』


『──まぁ、君らがそう言うなら』


ワンさんはだいぶネットリテラシーがキチンとしている方なんだなぁ。

そんなことを思いながら、ヤミは一度帰還した。


◇◆◇◆◇


『まさか本当に外に出れるとは……』


「で、出れるって……やっぱりやめた方が良かったですかね?」


『映像は映っていないんだし、問題ないわよ。さっさと補充済ませなさい!』


そんなに良くないことだったかと首を傾げるヤミを他所に、トゥは爆笑し、ワンはドン引きしていた。


「あっはっはっ!この人間ホントに凄いわね!思いだけでここまでやってみせるなんて!」


「普通、地球から干渉してきたと言っても迷宮内だからだろう……」


迷宮内という特殊空間だからこそ起きた奇跡だと認識していたが、それすら超越したヤミという人間の思いの力。

それは2人の最上位存在をして想像以上の物であった。


「何が引き金にこんな強度になっているのかしらね?」


「……友達が欲しいという、願望なのだろうな」


疑問を呈すトゥに対し、ワンも推測ながら答える。

今までの自分からの脱却。そして友達という存在への渇望。その思いの強さが、彼の人間の持つ思いの強さの上限幅を広げた結果が、コレなのだろう。


「コイツ──いえ。ヤミがこの力を自認すれば、人間の中で最上位の強さになるわね」


「そうなれば我々は間違いなく、処罰を受けるがな」


ヤミの可能性に目を輝かせるトゥにブレーキをかければ、渋々ながら彼女は頷いた。


「分かってるわよ、これ以上の教育はしないわ。ここから先は助言ていどにしておく。それなら良いでしょ?」


そんな会話を繰り広げていると、突然知らない人物の大声が聞こえてきた。

それはヤミの配信(通信)から発せられており、何やら唯ならぬ事態であることが察せられた。


「面白いことになってるわね。それじゃまたね」


「あっ、おい……はぁ」


トゥはこちらの返答を待たずに通信を切った。それほどまでにヤミという人間の面白さに病みつきになっているらしい。

それは、視聴者を増やしたいというヤミの願いが叶って喜ばしい限りなのだが……。


「私たちが事あるごとに通信しあうような関係になるとは、少し前までは考えられなかったな」


最上位存在として互いを疎ましく思っていた我々が、よもやヤミの言う友達のような間柄になるなんて。


「これもヤミ、君に影響してされた結果なのかもな」


ワンは笑みを浮かべながら、自身も配信に戻る。


「ぁ、え──だ、誰も僕に近づけないで下さい!」


それにしても、君は一体何を変な事を口走っているんだ……。


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