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タイタンレイダーズ  作者: 南ノ森
WAKE UP
8/50

ELENA

レイダーズ本部、渚の研究室。

 渚はデスクに座り一心不乱に計算式を入力している。

「早くこの計画を完成させないと……人類の未来のために……」

 渚は眼鏡の奥の目の下に隈を作りながらキーボードを叩き続ける。

 そこに、ノックもなしにドアが開いた。

「まったく、根詰めすぎだな。少しくらい休んだらどうだ」

「勇……待って、今コーヒーを入れるわ」

 そう言って立ち上がる渚だが、ふらりとよろめいた。

 慌てて勇が支える。

「大丈夫か?」

「えぇ……ちょっと立ちくらみしただけよ。心配しないで」

「無理するなよ?最近まともに寝てないじゃないか」

「そんなこと無いわよ。それよりほら、座ってちょうだい」

 渚は微笑んで見せるが、明らかに顔色が悪い。

「コーヒーはいい!それよりも俺はお前の方が心配なんだ!」

 勇は思わず声を大きくしてしまう。

「ほんの少しでも、今だけでもいい、頼む……」

 懇願するように言う勇に、渚は観念して肩の力を抜き、ソファに腰掛けた。

 そしてぽつりと言う。

「ありがとう……じゃあ……少しだけ甘えてもいいかしら?」

「あぁ、何でも言ってくれ」

 渚はしばらく沈黙した後、口を開いた。

「私が眠る間だけ、そばにいて頂戴」

「わかった。ずっとここにいるから安心してくれ」

 勇の言葉を聞いて、渚は目を閉じて静かになった。


渚は夢を見ていた。

 炎に包まれる研究所。横たわる研究員。崩れる天井。

 そして、天井の穴から覗く、50mもの巨体の群れ……。

『姉さん!』

 渚の視線の向こう、炎の向こうから男の声が聞こえる。

『姉さん逃げて!!1人で逃げて!!』

『勇気!勇気!!』

 弟を助けようと駆け出すが、瓦礫が崩れてきて前に進めない。

 その時、巨大な影が弟の上に覆い被さった。

『やめてーっ!!!』


「勇気!!」

 渚は叫びながら飛び起きた。額には汗が滲んでいる。

 隣を見ると、そこには穏やかな表情で眠っている勇の姿があった。

 その姿を見て渚は安堵し、ソファに深く身を沈める。

(私はまだ……3年前の悪夢に囚われ続けるのね……)

 天井を見上げる渚の目から、一筋の涙が伝い落ちた。


夜、レイダーズ本部、整備ドック。

「いやぁーやっぱ夜は冷え込むなー!」

「そうだなぁ」

 レイダーの整備をしていた杉田とハンスが、古い鍋にお湯を入れて熱燗を飲んでいた。

 そこへ、たまたま通りかかったブレアが2人に話しかける。

「あ、杉田さんとハンスさん!遅くまでお疲れ様です!」

「おう、ブレア!どうしたこんな夜中に!」

「いやー、なんか目が冴えちゃって」

「そうか!あ、そうだ、お前も飲んでけ!」

「いいんすか?じゃ、お言葉に甘えて……と」

 ブレアは鍋の中を見て、いい具合に温まった日本酒を取り出す。

「へぇ〜、熱燗ですかぁ。俺の故郷じゃ温かい酒は見たことないですよ」

「お?ブレアはあまりカクテルとかは嗜まない口か?あるぞ、温かい酒ってのも」

「え?カクテルって温かいのもあるんですか?ハンスさんて物知りですねぇ」

 3人が夜の空の下、談笑をしながら熱燗を楽しんでいると、杉田が月を見ながら話を始めた。

「いやー、やっぱりいつ見ても月は綺麗だな」

「そうっすねぇ……」

 杉田が月の話を始めた時、ハンスは静かに席を外す。

「……お前はどう思う。あんな綺麗な月に、俺たちの事を滅ぼすために『来訪者』が居座ってる事」

「……俺、許せないです。奴らが攻めてきて、沢山人が死んで……もうこれ以上、誰かが死ぬのは、嫌だ……」

「……そうだなぁ。俺も、娘とその家族が死んだ。あの時は悲しかったよ」

「……そうだったんすね」

「だからな、俺はお前らに賭けている。もちろん俺はお前らにも死んでは欲しくないぜ。家族みたいなもんだからなぁ」

「……はい、ありがとうございます」

 ブレアは照れ笑いを浮かべる。

「……だからよ、お前らは死なずに、生きて帰ってこい。いいな?」

「はい!任せてくださいよ!俺は絶対に死にませんから」

 2人はまた酒を酌み交わす。

「おーい、新しい酒持ってきたぞ」

 先程まで席を外していたハンスが、酒の瓶を持って戻ってきた。

「おっ!ありがてぇ!んじゃ乾杯するか!」

「よっしゃ!今日は飲むぞ!」

 寒空の下、しばらく3人の宴は続いた。


翌日、朝。

「うー、頭痛ぇ……」

「おい、どうしたんだよ相棒」

 顔色を悪くして廊下を歩いていたブレアに、シミュレーションルームへと向かっていたトードが出会す。

「いやぁ〜ちょっと、杉田さんたちに釣られちゃって飲み過ぎちまってさぁ」

「まったく、これだから大人は……」

「なに〜ガキんちょめ!よし分かった、俺今日のシミュレーション手加減しねーからな!」

「手加減はいつもするなよな」

 2人は喧嘩しながらも、どこか楽しそうに笑いながらシミュレーションルームへと向かう。

 その時、ある人物とすれ違い、トードの表情が強張った。

「あら。久しぶりじゃない、私の可愛い兵士さん」

 その人物は振り返り声をかけてきた。

「……エレナ・ウィルソン」

「う、ウィルソンさん!?」

「あらあら、そんな目をするのねぇ。名もない飼い犬が名前を持って、今までの躾まで忘れちゃったみたいねぇ」

 トードに冷たい視線を向けるエレナ。

 この状況を流石に見過ごせなかったブレアが、意を決して前に出る。

「こ、こいつはもうあなたの言いなりじゃない、俺たちの仲間なんです!あなたにとやかく言う権利は無いはずだ!」

「あら、何を言うかと思えば……忘れたのかしら?あなたも、今は私の手の中にあるのよ?」

「あ……」

 ブレアは思い出す。自分たちの身元は全てウィルソン財団に握られていた事を。

「あなたたち『人材』は私がこの場所に提供した『消耗品』。もし『不具合』があれば『廃棄』される事を忘れないように」

「……くそっ」

「ま、そういう事よ。それじゃあね、また」

 エレナは去っていき、2人の間に沈黙が流れる。

「……気にするな。あの女はああいう性格なんだ」

「あぁ、わかってる。でも、俺は……」

「大丈夫だ、俺たちは上手くやっている。あの女も文句は無いだろう」

「そうだな……行こう」

 再び歩き出した2人だったが、ふとブレアが足を止めた。

「どうした」

「いや、なんかちょっと……嫌な予感がしただけだ。勘違いかもしれないけど」

(そういえばあの人、なんでまたここに来たんだ……?)

 その疑問は、ブレアの中で消えなかった。


レイダーズ本部、渚の研究室。

 研究室には渚と勇、そしてハンスと杉田が集まり、エレナを迎えて会議をしていた。

「じゃあ、まだ『ムーンストライク計画』の完成は目に見えてはいないという事ですね」

「はい……」

 エレナのつららのように冷たい視線が、エレナの肌を撫でるように突き刺さる。

 渚は申し訳なさそうに俯きながら返事をした。

「全く、何をしているのです?この計画がどれだけ人類にとって重要か分かっているのですか?」

「はい、それは重々承知しています」

「では何故完成の目処が立たないのです?この間にも『来訪者』は月から兵士を地球に送り込んでくるのですよ?」

「そんな事は理解しています!しかし、敵のデータはまだ十分に得ておらず、宇宙用レイダーの開発も急務であり……」

「そんな悠長なことをしている場合ではないでしょう!一体いつになったら計画が始動できるのですか!」

「……ッ!」

 渚が唇を噛む。

 その時、ハンスが立ち上がった。

「待てよ!お前は渚さんに無理難題を押し付けて、いくら出資者と言えどいい加減な事はよしてくれ!!」

「そうだ!俺も納得できない!」

 杉田も立ち上がり抗議するが、エレナは全く動じず口を開く。

「おや杉田、あなたも口を出すのですか?財団の『犬』のあなたが」

「俺は確かに財団の人間だ!だがな、お前のやろうとしていることはただの『押しつけ』じゃないか!渚の気持ちを考えたことがあるのか!!」

「渚の気持ち?あぁ、この子も可哀想よね。家族を失って、さらに弟まで失った。そして今度は自分の命すら危ない状況なのに、誰も助けてくれなくて」

「やめないか」

 言い争いをする全員に、今まで沈黙をしていた勇が口を開く。

「あら、渚博士のお気に入りが何か?」

「アンタは誰かに喧嘩を売っていれば計画が進むとでも思っているのか?そうで無いなら、無駄に彼女を責めるような事はするな」

「……ふん、随分と偉くなったものね。『消耗品』の分際で」

「なっ……」

「……やめろと言っているのが聞こえないのか」

 勇が静かに怒りを露わにする。

「はぁ、やれやれ……仕方ありませんね。ただし、再三と釘を刺しにここに来て、土産も無しに財団に戻る事は致しません」

 エレナは杉田の方を見ると、ニヤリと笑みを浮かべる。

「杉田、あなたを財団へと連れ帰ることにします」

「!!」

「え……?」

 その言葉を聞いた瞬間、その場にいた全員が驚愕した。

「いやいや!ちょっと待ってくれよ!俺はレイダーの整備があるし……」

 杉田の言葉を無視して話を続ける。

「これは命令です。成果の見えない者に対する罰は与えなければならない……飴が欲しければ、これくらいの鞭に堪えるくらいでなくては」

「おい!俺はあんたらの奴隷じゃないんだぞ!!俺は俺の意思でレイダーズに居るんだ!勝手に連れて行くなんて……!」

「いいえ、貴方は私の所有物です。無駄口を叩いたところで意味がありません」

「ぐぅ……」

 杉田は押し黙って立ち尽くす。

「さて、これで話は終わりです。私たちはもう帰ります。それでは」

 エレナはそう言って、杉田を連れて部屋を出て行った。

「……」

 一同はしばらく言葉を失う。

「勇、俺……いや、すまない。渚博士の事は、頼む」

 ハンスはそう言うと、静かに席を立つ。

「……失礼しました」

 そう言い残して、彼もまた出て行ってしまった。

「……」

 残った2人はしばらく無言のまま、何も喋らなかった。

 しばらくして、渚が重い口を開いた。

「……ごめんなさい。私の力不足のせいで……」

「いや、お前はよくやっているよ。俺はその事をよく知っている」

「……ありがとう」

 渚はそう言うと、静かに涙を流した。

「……少し、散歩してくる」

 そう告げて、勇も研究室から出ようとする。しかし、渚に呼び止めらる。

「待って……!まだ、ここに居て……」

「……わかった」

 勇は椅子に座り直すと、静かに彼女の背中をさすった。

「ありがとう……本当に……ありがとう」

「……」

 そのまま、2人はしばらくの間そこに座っていた。


レイダーズ本部、休憩室。

 シミュレーションを終えたブレアとトードが、自動販売機で飲み物を買っている。

「はい、これ」

「おう、サンキュー」

 2人が買ったのは温かい缶コーヒー。

 プルタブを開けて一口飲むと、ブレアがトードに話しかけた。

「なあトード」

「ん?」

「俺たちってさ、このまま戦い続けて、地球を守れるのかな」

「……」

「正直なところ、このまま戦い続けても、先が見えて来ないんだ。『来訪者』を全滅させるどころか、やって来るTEを倒すので精一杯だ」

「……」

「俺さ、実は怖いんだよ。この戦って、一生終わらないんじゃないのかって」

「俺だって同じさ。俺だって、怖くてたまらない」

「だよなぁ……」

 2人は暗い表情になり、沈黙する。

 その時、ハオが鼻歌を歌いながら休憩室に入ってくる。

「どうしたの2人とも?そんなに辛気臭い顔をして」

「あ、ハオ……」

「あぁ、ちょっとな」

「もー、そんな顔してちゃ、幸せが逃げちゃうよ〜?ほら笑って〜」

「いてて、やめろよ!」

 ハオはトードの頬を両手で引っ張る。

「まったく、ハオは呑気だよなぁ。ちょっとは未来の事とか考えねえの?」

「考えるよぉ〜。でもね、未来がどうなるかなんて誰にも分からないんだよ?だったらさ、どうせなら楽しい未来を想像したいじゃない?今が辛いからこそ、そういうのを考えると楽しくなってくると思うな」

 2人はハオの言葉に感心する。

「まぁ、ハオの言う通りかもな」

「ったく、こんな時でも前向き、か」

「えへへ〜」

「ははっ」

 3人の笑い声が響く。

「そうだな。楽しい未来にしたいよな!だったら、そういう未来にするために頑張らないとな!!」

「あぁ、俺たちももっと強くならないとな」

「よっしゃ!そうと決まれば訓練だ!行くぜ2人共!今日もビシバシ鍛えるかんな!!」

 そう叫ぶと、3人はシミュレータルームに向かって走り出した。


レイダーズ本部、発着場。

 エレナは杉田と共にヘリに乗る準備をしていた。

「なあ、エレナさんよ。アンタが俺を財団に連れ戻す理由がいまいち分からないね。俺は機械の整備しか出来ない老いぼれだよ」

「あら、あなた、自分がどれ程の腕を持っているのか分かっていないのね」

「……どういうことだ?」

 エレナはニヤリと笑う。

「あなたはこれからの私の『新型レイダー開発計画』に必要な存在なのです。あなたの腕なら、最強のレイダーが作れるでしょうね」

「新型レイダー!?な、何を言ってる!レイダーの開発権限は渚博士にのみ託されている筈だぜ!!」

「ええ、そうです。『そうでした』。……しかし、忘れてはいませんよね、ワタクシと彼女との契約を」

「契約……まさか、アンタ!!」

「うふふふ……」

 エレナは笑みを浮かべると、レイダーズ本部を後にした。

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