PEOPLE
月。
青い星、地球から瞬きが見える。それは月へと近づいていくと、それがミサイルであると確認出来る。
ミサイルが月へと接近すると、目標に到達するかなり手前で爆発する。
地球。アメリカ某所。
「ミサイル爆散を確認。今回も失敗です」
「うむ……やはり無策では『来訪者』には敵わんか……」
「『ムーンストライク計画』の完成が急がれますね……」
「ああ……なんとしても日本の渚博士と協力して月に巣食う『来訪者』を叩かねば……」
「……!?また月からTEの出現を確認!!日本に落下していきます!!」
数時間後、日本、レイダーズ本部基地。
『お前ら!TEが日本に接近しやがったぞ!!急いでレイダーに乗って出撃だ!!』
「了解!!」
日本某所、シェルター付近。
上空から無数の、50mほどの巨大な物体が降ってくる。
その物体は船体状の胴体から伸びる4本の脚で、まるで昆虫のように這い回り、街を破壊するのだ。
しかし、今回は何か様子が違うようだ。
TEが降着した現場に本部から出動したレイダーズが到着すると、一同は臨戦体制に入り、『その光景』を目前にしてそれを解いた。
「なんだこりゃあ??」
ブレアが呆気に取られて呟く。
彼らが訪れた場所には、何も存在しなかった。ただそこにシェルターがあるだけだ。
「おいおい!TEが落ちてきたんじゃないのかよ!!」
「いや確かに……こちらも天体カメラの映像は確認したが、落下地点はここで間違い無い筈だ」
「じゃあどうして……」
一同が困惑していると、ハオのレイダーのセンサーが何者かの反応を確認出来たようだ。
「熱源アリだよ!」
「熱源って、敵はどこなんだ!?」
「敵は……まさか地下!!」
その時、全員が立っている足元が割れ始めた。
「うおっ!?」
「各員散開!!」
割れた穴から顔を出したのは、おおよそ80mもあろう、まるで巨大なムカデのようなバケモノだった。
「なにっ!?」
「また新型のTEか!!」
『ウガアァァァッ!!!!』
『巨大ムカデTE』が吠えると、頭部にある角からビーム砲を発射した。
「危ねぇ!!」
「きゃあっ!!」
「ぐわぁっ!!」
ビーム砲に直撃したレイダーズ達は吹き飛ばされる。
「大丈夫かみんな!!」
「私は無事だよ!!」
「クソッタレ!!なんつー怪物だ!!」
全員が翻弄される中、勇は各員に一時退避を命じる。
「各員一旦引くんだ!」
「しかし隊長!近くには大勢の市民が住んでるシェルターが……!」
「……俺が奴を引きつける。その間に体制を立て直すんだ」
勇は敵に向かって走り出す。
「隊長!!」
「頼むぞ、グリフィン!!V.N.L.S発動!!」
勇がグリフィンレイダーのV.N.L.Sを発動させる。モニターに『Variable Nerve Link System』の文字が浮かぶと、グリフィンレイダーが加速し、手にしたソーンマチェットで敵に向かって行く。
『ウゴォオオオッ!』
『巨大ムカデTE』が突進してくる。
「喰らえぇえっ!!」
グリフィンレイダーがソーンマチェットで敵を切り刻む。だが敵は硬い外殻に覆われており、刃が通らない。
「なんて硬さだ!!」
敵の反撃を受けてしまう。
『ギャオオオンッ』
「ぐうぅううううううっ!!」
機体を激しく揺さぶられながらもなんとか体勢を保ちつつ、今度はこちらから攻撃する。
「お返しだ!!」
『グオオゥッ』
『巨大ムカデTE』の頭部の外殻が一部裂けると、大きく怯んで後退した。
『ウギィイイッ』
「よし効いてる!!」
勇はチャンスだと言わんばかりにライフルを構えると、相手の破損した外殻に照準を向ける。しかし……。
「っぐッ……!!」
突然体に激痛が走る。長時間V.N.L.Sを発動した反動が来たのだ。
「くそ……こんな時に!!」
「隊長!!」
一度退避したはずのブレアが勇の元に駆け戻る。
「早く逃げろ……こいつは俺が……!!」
「そんな体で無茶です!!」
「いいから行け!!」
「しかし!!」
2人が言い争っている間に、巨大ムカデTEが迫る。
『ウオオオウッ!!』
「クッソ……!!」
しかし、敵はしばらくすると立ち止まり、その場から姿を消してしまった。
「あれ??」
「消えた……?」
「一体なんだったんだ……」
「とにかく、全員体制を立て直すぞ……」
シェルター周辺、仮設キャンプ地。
レイダーズは一旦シェルターの近くにテントを設置し、再び『巨大ムカデTE』の出現に備えて作戦を立てる。
しかし、ブレアにはそれよりも気になる事があるようだ。
ブレアは誰も居ない所に勇を呼び出した。
「隊長、体の調子はどうですか」
「ああ、もう大丈夫だ」
「そうですか……でも、俺にはなんか只事のようには思えませんでした」
「……」
「V.N.L.Sの影響ですよね。やっぱり」
「ああ……」
ブレアはやはり、といった顔をしたが、勇が今まで黙っていた事を加味して詳しく聞こうとはしなかった。
「……俺にはよくわかりませんけど、とにかく無理だけはしないでくださいよ」
「ああ、わかってる。ありがとう」
その頃他の隊員たちは、先程去っていった巨大ムカデTEの捜索と対策をしていた。
「ハオ、何か分かるか?」
レイダーに乗り込んで探知を試みるハオに向かって、トードがコックピットに顔を覗かせ話しかける。
「うん、予想通りアイツは地中を動き回ってるみたい。多分だけど、回復を待ちながら地上の様子を探ってる感じだね」
「あくまでもシェルター狙いのつもりだな。下手すれば被害は免れないな……」
「そうだね。それに、あの外殻の硬さは尋常じゃない。狙い目は関節がセオリーだけど、多分容易に隙を見せてはくれないよね」
「まあな。だからこそ、うまく連携を……」
トードが言いかけると、キャンプ地にボールが転がってくるのが見え、レイダーから降りて拾う。
「なんだこれ」
ボールが転がってきた先を見ると、まだ小さい子供がテントの影に隠れていた。
「……これ、君のかい?ここには近づいちゃダメだぞ」
トードは優しくそれを渡そうとすると、いきなり大声で男が叫んだ。
「子供に近づくな!!」
男はこちらに走って来て慌てて子供を抱き上げると、即座にこちらから距離を取った。
「頼むから……子供には近づかないでくれ……」
男は震えながら後退る。そこに、声を聞きつけたレイダーズ一同と、協力要請を受けてシェルターから出てきた3人の男が集まってくる。
「トード、どうした?何か問題か」
「いや……ちょっとね」
「子供をどうする気だ!財団に売って少年兵にでもするつもりなのか!!」
とても怯えている様子の男に、後から来た男たちがなんとか宥める。
そのうちの1人が、レイダーズに謝罪をすると、説明を始めた。
「すみません、物資搬入口が空いていたようで……。それより、先程の発言、申し訳ありません。我々も事情は重々承知しているのですが……シェルターの人の中には、軍でもないのに武装して兵器を使ってるレイダーズは危険な奴らだと感じている者も少なからずいるのです」
男が釈明をするが、勇はそれに対して慣れた様子で対応する。
「ああ、大丈夫だ。誰だって我々のような例外的な存在に疑問を抱くのは自然な事だ。それより、こちらこそ不安を抱かせるような事をしてすまない」
勇が男たちに頭を下げる。それに続いて隊員たちも頭を下げた。
それを見た男たちは呆気に取られるが、しばらくして、全員で頭を軽く下げると素早くこの場を去っていった。
「よし。お前たち、準備が出来たのならそろそろ作戦に取り掛かるぞ。シェルターに住む民間人の命を賭けた戦いだからな、必ず成功させよう」
勇がそう言い持ち場まで走り去る。
すると、考え事をして立ち尽くすトードにブレアが話しかける。
「どうしたんだよ、らしく無い顔してさ」
「いや、さっきの子供にボールを返し忘れてしまってさ……」
「なんだそんなことか」
ブレアが笑い飛ばすと、トードは真剣な表情で返した。
「いや、こんな状況でも子供は無邪気に遊ぶんだな、ってさ」
「そうだな。でもさ、こんな狭苦しいシェルターよりも、奴らが攻めてこない、平和になった青空の下で遊ばせてやりたいよな」
「ああ、そうだな……!」
シェルター周辺、作戦開始時間。
レイダーに乗ったハオは、地下に潜っている『巨大ムカデTE』の位置を確認すると、その方角に向かってミサイルを発射した。
「着弾まであと10秒……9……8……7……6……5……4……3……2……今!!」
『ウギィイイッ!!』
『巨大ムカデTE』がミサイルに直撃すると、激しい爆発と共に地面から姿を現した。
「よし!炙り出しに成功!今から奴を誘導する!連携体制に入れ!!」
レイダーズが勇に続くと、巨大ムカデTEをシェルターから引き剥がすように誘導を試みる。
「おいみんな!!しっかりついて来てくれ!!」
「任せろ隊長!!」
『ウガアァァッ!!』
『巨大ムカデTE』が勇に向かって突進してくる。
「隊長!!」
「みんな!!俺に構わず攻撃しろ!!」
勇は突撃を避け、そのまま敵の頭部に回り込むと、ソーンマチェットを振りかぶる。
しかしその時、敵の頭部が変形し、4本の牙が出現した。
勇はそれを咄嗟に回避するが、脚部にかすってしまう。
「隊長!!」
「まさか再生した箇所が変化してる!?」
「大丈夫か隊長!!」
「問題ない、みんなはそのまま攻撃を続けろ!!」
勇は再び敵に向かって行くと、今度は敵が関節部からスラスターを点火し、高速で移動し始めた。
「速い……!!」
「クソッ!!どこ行った!?」
『ウゴォオオオッ!!』
『巨大ムカデTE』は、勇が見失った一瞬で背後を取ると、背中からビーム砲を発射させた。
勇はそれをギリギリで避けるが、爆風に巻き込まれてしまう。
「ぐわぁあっ!!」
「隊長!!」
「クッソ……!!」
「このままでは埒があかない。あれを起動するしか……」
勇がV.N.L.Sを起動しようとした時、後ろからブレアが呼びかける。
「隊長、待ってください!」
「ブレア!」
「切り札はまだ取っておいてください……この作戦はここから、ですよね!!」
「ああ、もちろんだ……!!」
勇は立ち上がると、再び『巨大ムカデTE』に向き直った。
「俺たちは4人で1つの『グリフォン』なんでしょう?」
「そうですよ。チームなんですから、頼ってくださいよ」
「そうそう!」
「ああ、わかった……よし、反撃だ!!」
勇がグリフィンレイダーを立ち上がらせると、再び『巨大ムカデTE』の方へと向かっていく。
『巨大ムカデTE』は勇に向かって再び突進を仕掛けるが、勇はそれを避けると、『巨大ムカデTE』が地面に激突する。
「そこだっ!!」
『ウグゥウウッ!!』
『巨大ムカデTE』が再び起き上がる前に、頭部の破損した箇所に照準を合わせる。
「食らえぇえ!!」
勇がライフルを構えると、正確な狙いで弾が放たれ、『巨大ムカデTE』の頭部を破壊した。
『ギャオオオオオオオオオオオオンン!!!?』
『巨大ムカデTE』は激しく怯むと、激しくのたうち回った後、素早い動きで地を駆けて逃げる。
「逃すか!お前たち!!」
勇が叫ぶと、各隊員のレイダーが散開し敵を追う。
「おっしゃ!まずは俺からだ!!」
ブレアがブーストを全速力で吹かして地面をハイスピードで滑走しながら機関銃を放つ。全弾着弾するも効果は無かったが相手の気を引きつけるのには成功する。
「甘い!!」
敵がブレアに意識が向いている隙に上空からトードが接近。両腕からワイヤーを射出すると、敵の胴体に巻き付く。
「っぐううぅぅ!!パワー差はあるが!!」
トードが巨大ムカデTEに絡まったワイヤーに振り回されている所に、後ろからハオのレイダーが掴みかかり、さらに横からブレアの機体がしがみつく。
「ミサイルはいかがかな!おかわりも沢山あるんだからね!!」
ハオがミサイルを巨大ムカデTEの頭部に向かって放つ。敵は大ダメージを受けると、激しくもがいてワイヤーを千切る。
そしてそこに、勇のグリフィンレイダーが向かい打つ。
「V.N.L.S、起動ッ!!」
グリフィンレイダーの画面に『Variable Nerve Link System』の文字が表示される。
「リンケージ、フルポテンシャル!!」
すると、機体の装甲が展開し、スラスターが露出する。
「行くぞおおぉおっ!!!」
勇の機体は勢いよくジャンプをすると、空中で前転するように体を捻り、ソーンマチェットを敵に突き刺した。
『ピギイイイイイ!!!!』
敵は体を激しくうねらせてグリフィンレイダーを振り落とそうとする。そして地面に激しく体を打ち付けると、グリフィンレイダーは敵に刺さったままのソーンマチェットから手を離してしまう。
「っくぅっ!!まだだ!!」
「隊長!これを!!」
ブレアが後ろから呼びかけると、グリフィンレイダーに向かってバスター・チェンソーを投げ渡す。
「ナイスだブレア!!」
勇の機体がそれをキャッチすると、スラスターから炎が噴射される。
「これで終わりだあああ!!」
勇が刃を回転させると、紅に輝くチェーンソーの刃ーが『巨大ムカデTE』の頭部を縦に割く。
『ギイィイヤアアアッ!!』
『巨大ムカデTE』が悲鳴を上げると、全身の関節部から黒い煙が噴き出し、そのまま動かなくなった。
「やった……のか……?」
「みたい、だね……」
全員が安堵していると、グリフィンレイダーはガクリと体を落とし、倒れかかる。そしてそれを隊員たちのレイダーが支えた。
「すまない、助かったよ……」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
「隊長、流石に無茶しすぎです」
「まあな。でも、あのデカブツを倒せたんだ。安いもんだろう」
そう言って勇が笑うと、隊員たちも釣られて笑った。
「さて、早く戻ろう。シェルターにいる民間人を安心させてやらないとな」
シェルター、仮設キャンプ地
勇たちは急いでシェルターまで戻ると、そこでは大勢の避難民たちが出迎えてくれた。しかし、やはり歓迎のムードとは言えなかった。
「おい……あいつらレイダーズじゃねえか」
「やっぱりあんな兵器に乗ってるってのは本当なんだな……」
「テロリストめ……!」
「ちょっとあんたら、そんな言い方は無いんじゃない?レイダーズだって必死に戦ってくれてるんだよ」
「でもなぁ……」
シェルターの民間人が言い争っていると、レイダーズがレイダーから降りてくる。
「皆さん、状況は落ち着きました。どうかご心配なく」
「そ、そうか……」
「はい。我々はこれから本部へ戻ります。何かあればSOSを飛ばしてください。すぐに駆けつけます」
「ああ、分かったよ……」
「それでは」
勇が一礼して去ろうとすると、人々は再び不平不満を口々にしだした。
「まったく、いつまでこんな事が続くんだ」
「今どうにかなっても『来訪者』はまた明日にでも攻めてくるんだぞ、安心出来るかよ」
「『来訪者』との戦いが終わってもどうせレイダーズは戦争でも始めるつもりだぜ」
そんな言葉を浴びせられながらも、気にする事なくレイダーズは去っていく。しかしその背中に子供の声が投げかけられる。
「おじちゃんたち!ありがとう!!」
それは、先程レイダーズのキャンプに誤ってボールを転がしていった少年だった。
その声にレイダーズが振り返ると、ブレアがトードに目配せをする。
「君、これを返しておくよ。大切なものなんだろう?」
トードがボールを渡すと、少年は嬉しそうな顔を浮かべる。
「うん!!ありがとう!!バイバーイ!!」
「ああ、元気でな」
トードが手を振ると、勇は改めてシェルターの人々に頭を下げてからレイダーズ本部へと戻っていった。
レイダーズ本部、休憩室。
「あっ……」
今回の過酷な任務に疲弊したブレアがスポーツドリンクを片手に歩いていると、先に休憩室にいたトードに出会す。
ブレアはトードの事を見つめたまま、黙ってしまう。
「……なんだよ、その目は」
「いや、その……」
事を押し込めていたブレアだったが、このまま押し込めていてもしょうがないと思い正直に話す。
「……この間さ、ウィルソンさんが基地に来ててさ、かち会って、お前の事聞いたんだよ」
「……そうか」
「……少年兵、だったんだってな」
「……ああ、そうだ。昔から、この手で誰かを手にかけてきた」
しばらく無音の時間が続くが、ブレアが再び言葉を放つ。
「……でもよ、今までお前と一緒に戦ったり、訓練したり……ここで生活したりして……前にも、俺の仲間の墓でよ、顔も知らないのに花を添えてくれたのを見てさ、お前の事がよく分かんなくなってさ」
「…………」
「……今日、お前が子供にかける言葉を聞いて、冷たい奴だとは思えなかった。お前は優しい人間だ。俺は、そう思う」
「……そうか。お前はそう思うんだな」
「ああ、だから……これからはもっと仲良くやっていきたい。お前の過去とかそういうのは関係ない。お前はお前だ」
「……そうか」
「ああ、そうだ」
ブレアが力強く言うと、トードはふっと笑いながら言った。
「ずっと俺は人間嫌いだった。それと同じくらい俺が嫌いだった。だが、ハオと出会って、俺は変われたのかも知れない。自覚はあまり無いけどな」
「なるほどな、それがきっかけか。確かにあんな前向きなのと一緒だと影響受けるかもな」
「そうかもしれない。まぁ、あんまり騒がしいのも考えものだがな」
2人が笑い合うと、休憩室の扉が開きハオが入ってくる。
「2人ともここにいたんだ!ねぇ、今日の晩御飯何にする!?私カレー食べたいんだけど!!」
「まったく、お前はいつも食い気ばかりだな。少しは落ち着いてくれ」
「いいじゃん!ご飯は皆で食べる方が美味しく感じるでしょ!?」
「仕方ねえな、じゃあ食堂行こうぜ!」
しばらく3人の笑い声が、基地内の廊下に響いた。