ISAMI(後編)
何も、見えない。
どうやら……最後の最後で、とうとう光まで失ってしまったようだ。
だが、言われていたよりは良く保ったのではないか?全てが終わるまで、なんとか戦い抜けたじゃないか……。
それだけで、俺は……。
そういえば……この手に触れる温もりは、誰のものなのだろう……。
「っ……く、っ……」
「勇!!」
「隊長が……た、隊長が目を……」
『大樹』の破壊作戦完了後、『ビッグ・ブレイン』との接触、死闘を果たした勇は、全力を出し切った事によって既に今際の際へと立っていた。
そんな勇を心配したレイダーズの隊員たちは、彼を中心とし、輪になって集まっていた。
「ここは……誰か、いるのか……何も見えん……」
「何言ってるの!ここに……私はここにいるよぉ!!」
渚は勇の手を両の手に握り、胸の辺りに引き寄せる。彼のその虚ろな様子から、既に耳も聞こえていない事は分かっているが、それでも渚は必死に声をかける。
「その手……細い指は、渚……か。すまない……お前と、その子を置いて先に逝ってしまうな……すまな、い……」
「いい!いいの!!だって……こうやってちゃんと帰って来た……約束、守ってくれたじゃない……!!」
渚の小さな背中が、より小さく縮まったかのように感じる。その様子を見て、ブレアが皆に声をかけ始める。
「……手……手だ!みんな、隊長の手を握ってやってくれ……!!」
ブレアの呼びかけを聞き、各々は次々と勇の手を握る。
「この硬いゴツゴツとした手は、ハンスか……俺が渚の側に居れない間……彼女を支えてくれて、ありがとう」
「いいって事よ……俺たち、親友だろ?」
「この、骨ばった手は……杉田さん、だな……杉田さんがレイダーの整備をしてくれたから……俺たちはここまで戦えた……」
「そう思ってもらえてよぉ、俺ぁ嬉しいよ……」
「小さい指と、長い指……アンナと、ジュウォンさんだな……いつもいつも、身の回りの事を任せっきりだったな……ありがとう……」
「いいえ……私は、私は自分が出来ることをしただけですから……」
「っ……」
それから皆が一通り勇の手を握り、最後にブレアとカレンが同時に彼の手を握りしめる。
「……カレン……ブレア……」
「はい、なんでしょう」
カレンの手に、ぐっと力が入る。
「カレン……キミの事は、いつも頼りにしてしまったな……それだけに、苦労をかけて、すまなかった……」
「いえ……わたくしの役目は、皆様のサポートなのですから……!」
カレンは、握るその手の上にもう片方の手を重ねて答える。それから、勇のもう片方の手が、震えながら2人の手に重なる。
「ブレア……」
「……なん、だよ……」
「……俺は、こんな時でさえ……お前に気の利いた事を言ってやれない……あぁ、不甲斐ないな……」
「そんなの……いつもの事じゃねぇかよ……!でもよぉ……だからこそ俺、まだアンタと……」
ブレアが言いかけた時、勇の手に力が込もる。最後に、全てを託す様に……。
「ブレア……最後に、俺のワガママを……聞いて、くれないか……」
「んだよ……まだ俺の話が終わって……」
「俺を……月に、連れて行ってくれないか……」
「っ……!!」
その言葉を聞き、ブレアは一瞬驚いた顔で身を震わせる。勇は死の間際でさえも、共に月へ出向いて戦う事を諦めてはいなかったのだ。そしてその願いを、今この状況であってもブレアたちに託そうとしていた。
ブレアはその決意受け取るように、両の手で目一杯力を込めて握り返す。
「ああ……ああ!!絶対……絶対隊長を、月に連れてってやっから!!俺……お前との約束、守っから……!!」
「……」
「おい……何か、言えよ……イサミ……っ!!勝手に手ぇ……離してんじゃねぇよ……イサミぃ!!」
アメリカ、MMN社より出版の書籍から抜粋。
『大樹』破壊作戦、『大樹戦』は、各隊員の尽力によって完遂、無事基地に飛来した『大樹』の駆除に成功した。
しかし……ここまでに払った犠牲も少なくはなかった。
レイダーズ日本支部では、現在でも大規模な復旧作業が行われている。その作業により、やがて日本支部も再び本格的な活動へと復帰することが出来るだろう。
だが、それでも取り戻せないものもあった。奮闘の末、レイダーズ日本支部に所属しているパイロットのうち、3人が犠牲者となった。
そして、レイダーズ所属の職員32名、協力していた群関係者14名、『大樹戦』に参加した職員78名。合わせて127名の命がこの世を去る事になってしまった。
我々は、彼らに守られて来た身として、この事実に決して目を背ける事は許されない。
そして、これからも『来訪者』は容赦なくこの地球へと刺客を差し向けるだろう。
その時、我々は思い出さなければならない……この星を守る守護者たち……『タイタンレイダーズ』という名を。
彼らが命懸けで戦う限り、人類はまだ希望を捨ててはならないのだ。
ーーー著者:マリーネ・ジーン
10年後。アメリカ某所、荒野。
砂の景色が一面に続く、どこまでも果てしなく伸びている1本の道路。
その脇に、1台のバイクと、それに跨る女がひとり。
その女は、金色に反射する髪を揺らしながら誰かと電話で話をしていた。
「あーはいはい、わーってるって!アタシももうガキじゃあないんだからさ!わかってるよ、ちゃんと毎食欠かさず食ってるから……」
どうやらその女は、電話の向こうの誰か……おそらく母親のような存在の人物と言い合いをしているように見える。
「はぁ?まぁ〜だ怒ってんの!?あのなぁ……これは!!アタシが自分で決めた事なんだ、今更後に引ける訳ゃねぇだろ!!心配なのはよく分かっけどさぁ……うん……うん……だかっ、あーもう!!こっちだって急いでんだから……とりあえず、そっちも体には気をつけろよな!!仕事もほどほどに……うん、そんじゃあな」
女は電話を切ると、雲ひとつない青々とした空を見上げる。カラッとした空には、白い星がポツンとひとつ浮かんでいる。
「……ついに始まるんだな……『ムーンストライク計画』の最終段階が」
そう呟き、女はヘルメットを被ってバイクを走らせる。
その背中に、目には見えない重い荷物を背負いながら……。




