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タイタンレイダーズ  作者: 南ノ森
WAKE UP
5/50

FRIENDS

3年前、中国、避難シェルター付近。

 降りしきる雨の中、ずぶ濡れでしゃがんでいる少年と、ボロボロの傘をさす少女がいた。

「ねえ、キミはどこの子?ここらへんじゃ見たことないけど」

「……」

「ねえ、名前は?」

「……ない」

「『ない』くん?」

「違う!名前なんて持ってないって言ってる!!」

「そっか!私はね、好好ハオハオって言うの!ママはハオって呼ぶんだ!!」

「そうかよ」

 しばらく、雨音だけが響く。

「あ、そうだ!私が名前付けてあげるね!!キミは……」


レイダーズ本部、トレーニングルーム。

「……てことがあったんだよー!」

「それでどうなったんだ?」

「うふふっ♪また明日も会おうねって約束して別れたの~♪」

「なるほどなぁ、アンタとトードはその頃からの付き合いって分けだな」

「うん!あの時からずっと一緒にいるんだ!」

 トレーニングルームでは、ハオとルームランナーを走るブレアが話をしていた。

「それにしても、性格が合わなそうに思えたお前らが、あんなに息ぴったりだったのが納得出来たぜ」

「えへへ、でも今はもっと仲良くなれてると思うよ!あっ、もう時間だから私行くね!」

「おう、お疲れさん!また今度続き聞かせてくれよな!」

「うん!」

 ハオはトレーニングルームを出て行った。

「さて、俺も戻るとするかな……ん?」

 ルームランナーを止め、時計を見ると時刻は既に午後3時を回っていた。

「やべぇ!?すっかり忘れちまってた!!」

 慌ててシャワーを浴び着替えると、エレベーターに飛び乗った。そして、廊下を走り抜けようとしたとき、ちょうど部屋から出てきた女とぶつかりそうになった。

「おっと、わりい!」

 謝って再度相手を確認してみると、それはかなり意外な人物だった。

「エ、エレナ・ウィルソン!!……さん!お、お怪我はありませんでしたか!?」

 エレナ・ウィルソン。ウィルソン財団の党首にして、タイタンレイダーズに出資をしているスポンサーであり、『来訪者』の出現以前はフィクサーと言われていた人物。そしてブレアたちレイダーズの身元を引き受けている、正に重要人物だ。

「あら?貴方確か、元アメリカ軍のブレア・ヒューズくんよね?そんな慌てなくても大丈夫よ」

 彼女はクスリと笑いながら言った。

「す、すみません!つい焦っちゃいまして……あれ?今日って何か大事な用事とかあったりしますかね?」

「ええ、でも今帰る所よ。そういえば彼は元気かしら?」

「えっと、彼とは?」

「そうね、確か……最近ではトードって名乗ってたかしらね」

「トードですか?あいつならいつも通りですよ。毎日皮肉とか嫌味ばっかです」

「そう……」

 すると、彼女は何処となく懐かしむようなな顔をした。

「あの……アイツの事なんか知ってるんですか?」

「ええ。彼はね、私の可愛い『兵士』なの」

「兵士……?」

「そう、少年兵よ。昔から大事にしてたんだけどね、3年前逃げちゃったのよね」

「それじゃあ、なんでここに?アイツを探しに来たんですか?」

「いいえ、違うわ。ここには別件で来たの。それに彼、もう既に私の手の中にあるもの」

「そ、そうですか……」

 彼女の笑顔がとても恐ろしく感じたブレアはこれ以上何も聞くことはなかった。

「それじゃあね、坊や」

「は、はい、それでは……」

 彼女は踵を返し、歩き始めた。その瞬間、ブレアは思った。

(あの人には絶対逆らえねぇ!!)


レイダーズ本部、渚の研究室。

「なっっっっんなのよあのタヌキババア!!冗談じゃないわよ!!」

 研究室には渚の他にハンスと勇がいた。そしてコーヒーカップは4つ。先程までエレナが来ていたようだ。

「何が『ムーンストライク計画を早く完成させなさい』よ!!自分でもそれが不可能に近い事はわかってるでしょうが!!!」

 研究室で暴れて机を蹴り飛ばす渚をハンスが止める。

「おいおい渚博士!ちったあ落ち着いてくれよ!!勇も止めてくれよ!!」

「無理だな。コイツの沸点の低さは異常だ」

「ああ、そうかい!!クソッタレがよ!!」

「それに、今一番ムーンストライク計画を完成させたいのは渚だ。分かってるだろ?」

「そりゃそうだがよ……」

「とにかく、今は落ち着け。ほら、コーヒーでも飲め」

「……分かった」

 渚はしぶしぶ椅子に座り、差し出されたコーヒーを飲み始める。

「ふぅ……少し落ち着いたわ。ごめんね」

「いや、気にするな」

「しかし財団も財団だぜ。レイダーは戦争の道具じゃないってのに、計画完遂が見込めなきゃ設計図を各国の軍に売るだなんてな……」

「まあ、結局はどの国の軍も兵器を売りたがってるってことだろう。あれだけの性能だ、喉から手が出る程欲しいに決まっている」

「それはそうだけどさぁ……でも俺たちのレイダーだぜ?」

「レイダーは売らない。レイダーは戦争の道具じゃないわ、地球を救う防衛力なのよ」

「そいつの開発を戦争屋に頼ったからこうなっちまってるんだがな……」

「うるさい、スポンサーは必要でしょ!」

「へいへーい」


レイダーズ本部、シミュレーションルーム。

「ハオ、今日も付き合ってもらうぞ」

「はいはーい!」

 トードとハオはシミュレーションルームで模擬戦をしていた。

「さて、と。設定はこれでいいだろう。少なくともこれを越えられなければグリフィンレイダーとの連携で足手纏いになるだろう」

「そうだね……よしっ!」

「では始めよう」

 シミュレーターを起動させると、それぞれのモニターに仮想空間に生成された街が映し出される。

「もう一度言う。敵は歩兵タイプのTEが15。『ヒト型TE』が1だ。正直無茶言ってる感じだが、勇隊長について行くなら妥当だろ。一応人工知能による援護攻撃も設定してある」

「了解!」

「では行くぞ!!」

 トードが飛び出していく。ハオはトードの背中を追いかけるように走る。

「まずは俺が奴らを撹乱させる。ハオ、お前はその隙に後ろのを狙え!」

「わかった!」

「ハオ!お前の射撃の腕を見込んで頼む!」

「任せて!」

 2人は建物の間を縫うように走り抜け、敵の視界から消える。

「ハオ、俺が合図したらグレネードを投げ込め!」

「うん!」

 建物の陰に隠れると、トードがハンドサインを出す。

 ハオはそれを見て、素早くトードの後ろに回り込み、グレネードのピンを抜き、遠くへ投げる。

 トードが手榴弾の爆発と同時に飛び出す。ハオはそのタイミングに合わせ、背後に回る。

「今だ!」

「うん!」

 ハオはライフルを構え、引き金を引く。弾は吸い込まれるようにして目標へ命中。

「ハオ、ナイスアシスト!このまま押し切る!」

「うん!」

 先程のライフルで敵が怯み、その隙を突いてトードが大鉈を構え、次々にTEの脚を両断していく。

 敵の巨体はそのまま崩れ落ちる。

「残り7機!」

「ハオ!俺は正面のヤツを狙う!お前は右を!」

「うん!」

 ハオはライフルを捨て、マシンガンに持ち替え、連射しながら前進する。

 トードは振り下ろされる巨大な脚を横に飛び退いて避け、そのままジャンプし、空中で回転を加えながら、勢いよく大鉈を振り下ろす。

「ハオ!後退しろ!」

「う、うん!」

 トードはハオを押し退け、前に出る。直後、無数のムチが飛来。2人の間をすり抜ける。

「出たな……『ヒト型TE』!!」

「どうしよう!?」

「とりあえず散開だ!援護砲台の方へ逃げて動きを止めるんだ!!」

「うん!」

 ハオとトードはそれぞれ別の方角へ散り、罠が仕掛けている手前で待機する。

「ハオ、大丈夫か!?」

「大丈夫だよ!それより……」

「ああ、分かっている。あのバケモノ野郎をどうにかしないとな」

 建物が並ぶ街の中を、80mもの巨体がいとも容易く縫って駆け抜ける。

「来たぞ……!合流してドッキングだ!!」

「分かった!」

 ハオとトードは合流地点へ向かい、そこに隠れる。

「行くぞ!」

「うん!」

 やがて目標地点に『ヒト型TE』が接近すると、センサーが感知し複数の方向からワイヤーが飛び交う。

「よし!かかった!!」

ハオ!!」

『ヒト型TE』は罠に捕まると、それを解く為に必死にもがく。しかしそこに援護の砲台が砲撃、鉛の雨を叩きつける。

「チャージ完了!いつでも撃てるぞ!!」

「オッケー!!パルフェ・ガン、ファイヤーーー!!」

 ハオのレイダーの肩に展開されている『超大型二連結収束荷電粒子砲』の砲身から極太のビームが放たれ、『ヒト型TE』の胴体を貫く。

 そして、両機は即座にその場から離れ、『ヒト型TE』は地面に倒れ伏す。

「やった!作戦成功だね!!」

「油断するな!次が来るぞ!」

「えっ!?」

 倒れたはずの『ヒト型TE』が起き上がり、その大きな腕で2人を薙ぎ払う。

「ぐあっ!!」

「トード!!」

 吹き飛ばされたトードはビルに激突するが、なんとか立ち上がる。

「大丈夫!?」

「ああ、まだやれる……!」

「ならよかった……」

 しかし、トードのレイダーは思ったより損傷が激しく、パルフェ・ガンを放つ為のジェネレーターが完全にイカれてしまっていた。

「もう必殺技は使えない……だが、俺たちはこのまま引き下がる訳にはいかないんだよ!!!」

「トード……そうだね、私たちならやれる!!」

「ああ!いくぞ!!」

 トードとハオは『ヒト型TE』に向かって突撃する。

「これで決めるぞ!!」

「うん!!」

 トードが背部のジェネレーターをパージすると、それを『ヒト型TE』に向かって放り投げる。

 そして、ジェネレーターが命中すると、それをハオが全ての射撃武器とミサイルを使って破壊した。

「よし!!コイツでトドメだ!!」

 ジェネレーターの爆発で損壊した『ヒト型TE』にトードが突っ込むと、ハオのレイダーの背面に装備されていた砲身を叩き込む。

 そしてそれをライフルと機関銃を使って撃ち落とすと、『ヒト型TE』は完全に爆散した。

「任務達成だな!!」

「うん、お疲れ様!」

 喜ぶ2人だったが、破壊した時の破片がトード機に向かって飛んで来て、それがトード機に直撃し、真っ逆さまの状態で吹き飛んだ。

 そして『mission failure』の文字が浮かぶと、仮想空間が閉じてシミュレーターが停止する。

「……ま、まあ、ヤツは倒せたんだし、及第点かな……」

「うーん、最後すっごくボロボロだったし、全然好ハオじゃなかったよ」

「い、いや、まあ、そうだな……」

「とにかく、今日はここまでにしておこうか」

「そうだな……」

 シミュレーションルームを後にして、トードとハオは部屋を出て行った。

「ハオ、次はもっと上手くやるからさ……」

「うん、頑張ろうね!」


3年前、中国。

「はあっ……はあっ……」

 トードの手には、脱走し密入国する時に持ってきた拳銃が握られていた。その銃口からは煙が上がっていた。

 そして、目の前にはパンを抱えるハオと、血を流し横たわる男がいた。

「ハ、ハオ……!!だ、大丈夫か!?」

「う、うん……」

「ごっ、ごめっ……ごめんな……俺がパンを盗んで来いって言ったばっかりに……!!」

 謝るトードの目からは次々に涙が溢れてくる。

「気にしないで……私は平気だから」

「で、でもよぉ……ううぅ……」

「ほら、泣かないで?私まで悲しくなっちゃうよ……」

「ごめん……ほんとうに……ううう……」

「ねぇ、トード。ここから逃げようよ」

 ハオがトードの、拳銃を握った震える手を握る。

「に、逃げるってどこに……?」

「どこか遠くに。ここに居たらきっと捕まっちゃうよ」

「で、でも……どうやって」

「大丈夫、私に任せて」

 ハオはトードの手を離すと、男の持っていた金の入った袋を漁る。

「……よし、これがあればしばらくは暮らせるね」

「ハオ……お前……」

「トード、早く行こう。私たち2人なら、どこだって行けるんだから!」

 ハオがトードに笑顔を向ける。トードはそれを見て決心を固める。

「そうだな……よし、行くか!」

「うん!」

 2人は手を取り合い、歩き出す。この先に何があるのかも知らず。

「私、パルフェが食べてみたいな!」

「なんだそれ」

「メガ盛りなお菓子なんだって!!」

 雨の晴れた空に、2人の声が響く。

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