WARRIOS
数分前。レイダーズ仮設本部、格納庫。
仮設本部では、ウィルソン財団の量産型最新式輸送機『スパロー3』のうち1機が最速到着予測の10分程早めに来ていた。
そして、作戦に向けてスパロー3からは様々な備品が搬入されて行き、そのうちのひとつからは予想外の荷物が搬入されて来ていた。
「お、おいおい!こりゃグリフィンレイダーじゃねぇか!商会に預けたんじゃねぇのかよ!?」
杉田たち整備員が困惑していると、渚も騒ぎを聞きつけて駆けつけて来る。
「ちょっとどう言う事!?グリフィンレイダーはもう使わないから処分してって言ったわよね!?」
「あら、そう言われればそうでしたわね」
すると、スパロー3からゆっくりとミレーナが降りてくる。
「悪くないフライトでしたわ。シートが紅茶染めになりましてよ」
「ちょっとあなた!!どうしてこれがここにあるの!?説明なさいよ!!」
「グリフィンレイダーは俺が運べと頼んだんだ」
騒ぐ渚たちに、格納庫の方向から勇が歩み寄って来る。
「勇!これはいったい何の冗談なのよ!!」
「何も冗談ではない。俺はこれで出撃するつもりだ」
「っ……!!」
それを聞き、場の空気が重くなる。当然だ、彼らは今の勇がグリフィンレイダー改に乗り、仮にV.N.L.S.を発動させた場合には命の保障がない事を知っていたからだ。その上TEの大群と戦うとなればV.N.L.S.の発動は避けられないだろう。
「やめなさい勇!あなたが戦う必要はもう無いのよ!!」
「渚、これは俺がやらなければならない事なんだ。俺は消えない罪を背負っている。だから……これは『贖罪』なんだ。死して尚終わらない『贖罪』……」
「だからって!!そんな事納得しろって、っ……うっ」
突然顔を青くし、口を押さえる渚。それを勇が、静かに両肩を抱えて庇う。
「それに……俺はお前たちを護らなければならない。渚も、そのお腹の中にいる子もな……」
渚は勇の力強い言葉にはっとして、隠していた事を打ち明ける。
「気付いて、いたのね……」
「当たり前だ。あんなに吸っていたタバコを急に断たれれば誰でも気が付く」
「そう……そうね。あなたなら簡単に分かるわよね、こんな事くらい……。でも言ったら、後ろめたくなってあなたが安心して戦えなくなるんじゃないかって……」
「ふっ、機体を取り上げておいて、か?」
「……それでもあなたは戦いに行くのでしょう?」
「ああ」
「だったら、必ず帰って来なさいよね。私シングルマザーなんて嫌なんだからね!」
渚は微笑む。その眼差しに、薄らと光を波打たせながら……。
「……渚、ありがとう。血に濡れた手の、こんな俺の事を愛してくれて」
小刻みに震える彼女の体を一度、強く、そして優しく抱いて勇はグリフィンレイダー改へと乗り込む。
『杉田さん、レイダーアーマーは出せるか?』
「出せるけどよぉ、機体に接続した瞬間にV.N.L.S.が起動しちまうぞ!危ない真似はよしやがれ!!」
『構わない。空中でドッキングを行う。出してくれ』
「ッ……あーもう!しゃあねぇ!!」
『ありがとう』
こうなったら聞かないと悟り、杉田もレイダーアーマーの射出準備へと取り掛かる。
そして、勇を乗せたグリフィンレイダー改が作戦目標に続く道へとゆっくりと歩みを進めて行く。
そうしていると、今度はアンナがグリフィンレイダー改の下へと駆け寄ってくる。
「おいテメェ!!なにひとりで満足した気になってんだよ!!」
『アンナか……』
「アタシはまだテメェに1回も勝ててねぇんだ!!勝ち逃げなんてマネはゼッテェ許さねえかんな!!」
『ふっ、それは腕を磨いてから言う事だな』
「アァ!?フザケた事言ってんじゃあねぇぞ!!」
息を切らしなが走るアンナの瞳に、次第に水の珠が溢れてくる。しかし、それにも構わず勇は歩みを進めて行く。
『アンナ。これからもジュウォンさんの言う事を聞いて、そして……俺たちの生きて来た事を忘れないでいてほしい』
「おい!!バカイサミ!!勝手に行っ……」
アンナは大声で勇を呼び止めようとするが、それを後ろからジュウォンが抱き寄せて止める。
「行かせてやってほしい……」
「あ、っ……アネゴ……ッ、バカばっかりかよ……」
そして勇は、彼を見送る者たちを後にし、グリフィンレイダー改を目標へと続く進路まで移動し終えて発進準備へと入る。
それと同時に、発進のアナウンスを務めるハンスから通信が入る。
『勇、こっちはいつでもレイダーアーマーを出せるぞ』
「……」
『っておいおい、俺には何も言う事は無しか?』
「なんだい、アンタも俺に何か言って欲しかったのか?」
『そりゃまあ、仲間だから当然だろ』
顔は見えないが、スピーカー越しの声でもハンスの残念そうな表情が容易に想像出来る。それを意外そうに勇が茶化すものだから、深いため気が管制室に響く。
「冗談だ。まあなんだ、俺がいなくなった後は頼む。頼もしいヤツらだが、少しばかり心配だからな」
『……本当に戻らないつもりか』
「無事に戻れる状況じゃないのは分かっているからな」
『……俺は心配してやらないからな』
「助かる」
『バカがよ』
スピーカーの先でポツリと呟くと、格納庫が開いてレイダーアーマーが姿を現す。そして、レイダーアーマーとグリフィンレイダー改のブースターに火が灯ると同時に発進のカウントが始まる。
『カウント、3……2……』
「1……0、GO!」
カウントが0になると同時に、両機が加速を始める。
その時、勇の目にグリフィンレイダー改の横を並走する人影が見えた。その人影は、懸命に彼の横を走りながら大声で呼びかける。
「勇ぃ!!ダメっ、行かないでぇ!!」
「渚……!」
しかし、一度加速を始めた機体はもう止める事が出来ず、非情にも距離を開かせて行く。
「嫌だ!!やっぱり嫌だあぁぁ!!このままお別れだなんて嫌だ!!!待って!待ってよ勇いいぃぃ!!!!」
少し、また少しずつ距離が開く。
(渚……ごめん。俺はもう止まらない)
次第に、機体が浮き上がり始める。
(これは、人類が未来へと進むための取捨選択だ。その未来へ進むのは俺じゃない、お前たちなんだ)
そして、その機影は空高く飛び上がり、最早手の届く距離から離れて行ってしまう。
「嫌だあぁ!!行かないでえぇぇ!!!」
追い付けなくなり、それでも走り続けていた渚だったが、足がもつれて膝から崩れ落ちてしまい、その後ろ姿を見てただ泣き叫ぶ事しか出来なかった。
「うっ……ううっ……」
やがて飛行が安定すると、グリフィンレイダー改とレイダーアーマーがドッキング体制に入る。
「ドッキングスタンバイ……3、2、1……」
そして、レイダーアーマーの中心部のスペースからアームが展開すると、それをガイドにグリフィンレイダー改が搭載され、ドッキングが完了。完全な戦闘体制へと組み上がった。
それと同時に、モニターに『Variable Nerve Link System』の文字が浮かび、巨体をスムーズに動かすために勇の身体とレイダーアーマーの感覚が同期される。
だが、それと同時に全身に鋭い痛みが襲い、その上頭部を締め付けるような激しい頭痛もしてくる。そしてそれが、彼自身の意識にも大きな影響が出始める。
「っ……!があァァッ!!クッ……こんな痛み、馴染めばどうと言う事はッ……無いっ!!」
勇はその痛みを、自身の強靭な精神力で抑え込む。しかし、その影響からか彼の意識の裏側から声が聞こえてくる。
『ザマぁねぇじゃあねぇか、イサミィ……お前もこっちに来いよナァ』
「ヴェルベット……地獄への案内人がキサマとは、やはり俺も相当ツキが無いようだ」
勿論この場にヴェルベットは居ない。先程の接続により勇の脳に狂いが生じ、幻覚と幻聴が起こっているのだ。
『そんな悲しい事言うなよナァ……わざわざこっちまで迎えに来てやったってのにヨォ』
「残念だが死人の戯言を聞いている暇はない。俺は死にに行くのではなく、生かしに行くのだからな」
『へへへァッ……残念だ。ならヨォ、もうちょっとだけ待ってやるから早めに済ませる事ったナァ』
「言われなくともッ」
勇は更にレイダーアーマーを加速させる。重鈍な装いのそれは、風を追い抜く勢いでスピードを上げて行く。
次第に、雑念が吹き荒ぶ風に吹き飛ばされて行くように、脳がハッキリと機能し始めて幻覚も幻聴も消え去って行く。
そして、目前にTE群と、それに囲まれて危機的状況にあるブレアのウイングレイダーと、カレンのストームレイダーをモニターが捉える。
「手を拱いているようだな。仕方がない」
そう言ってパネルのスイッチを押すと、レイダーアーマーの右脚部のパネルが展開し、そこから7000mmミサイルが撃ち出される。
「前菜だ、とくと味わえ」
そして、ミサイルはそのまま『ヒト型TE』の顔面へと向かって行き、その頭部を吹き飛ばした。
「!?」
「!!……もしや!!」
そのミサイル攻撃を目撃して、囲まれていた2機がレイダーアーマーの方を視認する。
「ブレア、カレン……待たせたな」
「隊長……イサミ隊長!!」
勇の予想外の登場にブレアとカレンは困惑する。
「なんで!?アンタもうレイダーに乗れない筈じゃなかったのかよ!!」
「俺が部下だけ戦場に送って黙ってられると思うのか?」
「そう言う問題じゃねぇ!!だって……旧式のアダプタじゃ機体とのリンクは負担がかかるって……」
「そんな事を言っている場合か?」
2人が言い合いをしている間にも、先程倒れた『ヒト型TE』が起き上がり、破損した頭部を再生させる。その頭部は、髪の毛状のムチが無くなった代わりに妙な角状の突起を生やした形へと変わっていた。
「とにかく、本隊が到着するまでここは俺が押さえる。お前たちはその間に基地へと戻れ」
「何言ってんだ!俺はまだ戦える!!」
「お前が良くても、カレンはどうなんだ?」
「あ……っ」
その言葉にはっとし、モニターでカレンの様子を確認する。その表情は数分前よりは緩やかになってはいたが、少なくとも万全であるとは言えなかった。その上、カレンのストームレイダーの損傷度合は充分な戦闘を行える状態では無い。
「ブレア、お前の使命は『守る事』だ……今はカレンを連れて基地へ戻れ」
「……分かった。だけどよ、俺だってこのまま引き下がれやしねぇ!……必ず戻るからな」
「ふっ、期待はしないでおく」
「へっ!」
「……なあ、ブレア」
そうしてカレンを連れてその場を後にしようとしたブレアだが、それを急に勇が呼び止める。
「なにさ」
「ウイングレイダーは皆を乗せて未来へ羽ばたくための翼……レイダーズを導くための道標の機体になれるよう俺が名付けた」
「なんだよそれが」
「お前は……レイダーズを導く翼になれ」
そう言うと、勇は単身でTEの群へと飛び込んで行く。
「ったく……この状況でクサい台詞言ってんじゃあねぇよ」
そして、それを見送ったブレアはストームレイダーを抱えて基地の方向へと飛んで行った。
「イサミ隊長……ぜってぇ戻って、ぜってぇ話を付けてやっからな……!」
ブレアたち2人が去った後、勇はただひとりTEを引き止めるために奔走する。しかし、それにはレイダーアーマーの性能は充分過ぎるくらいの力を発揮した。
「所詮はデカいだけのマトだ。俺1人に苦戦していては侵略など遠い夢だ!!」
レイダーアーマーはまるで滑るように地をホバーで駆け回り、右腕のブレードで容易くTEを狩り割いて行く。そして、遠方の敵には左腕のキャノンで次々に風穴を開けて行く。
冷静に、かつ順調に黙々と敵を倒し続けていた勇だが、レイダーアーマーとの接続から17分程経過した頃、操縦桿を握る手が小さく震え始める。また、先程から徐々に頭部の圧迫感も強くなり、耳鳴りと吐き気もしてくる。
「くっ、まだだ……俺は……ッ!」
レイダーアーマーが一瞬動きを止めた隙を突いて、『ヒト型TE』が高速で接近しブレードを突き立てる。
しかし、勇は歪な視界でそれを捉えるとなんとかブレードで防いで応戦する。
「俺は、こんなヤツらのために失われた命に、報いなければならない!!」
巨体に押されるレイダーアーマーだが、それをブーストを全力で吹かして押し返す。
バランスを崩して大きくのけ反る『ヒト型TE』だったが、顔をレイダーアーマーの方へ向き直すと、そのままの姿勢で頭部の突起を伸ばして突き立てる。
「甘い!!」
だが、それをレイダーアーマーはギリギリで、かつ危なげなく回避すると、そのまま『ヒト型TE』の頭部にブレードを突き刺し、真下へと振り下ろして真っ二つに切り裂いた。
「さて……まだ敵は多い、が」
冷や汗を垂らす勇の目の前には、未だ数え切れない程のTEの群れが並び立つ。その足並みは、やはりレイダーズ基地へと一直線に向かい続けていた。
「これは……俺が死ぬのが先か……いずれにせよ、退けはしな……」
その時、目の前のTEへ向かって一斉射撃が放たれる。それを放ったのは勇ではなかった。
その正体を見極める為に振り返った勇は、それを放った者たちを見ると待っていたと言うようにニヤリと笑う。
「間に合ったようだな……本隊!!」




