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タイタンレイダーズ  作者: 南ノ森
TRAMPLE
45/50

WORRIES

日本某所、レイダーズ仮設本部から数千メートル地点。

 日が昇ってまだ間もない、青い、青い空。それは、人々の悲しみや苦しみなど知らん顔で、無情にも晴れやかに大地を照らしている。

 そして、その空に一筋の飛行機雲が奔る。

「カレン、待ってろよ……必ず追いついて、連れて帰る……!!」


 一方、ブレアがウイングレイダーを飛ばす遥か先では、カレンのストームレイダーが未だ速度を落とす事なくTEの群れの元へと差し掛からんとしていた。

「私が、やらないと……私が、みんなの力にならないと……!」

 TEの群れが目前へと迫り、カレンはパワーライフルを構える。

「もう私は、あの頃みたいに無力じゃないんだ。今はもう、抵抗する力も、守りたい仲間もいる……だから!!」

 カレンは最前を走る歩兵TEの懐に潜り込むと、4本の脚の間を縫って下部からパワーライフルを数発打ち込む。

 それを受けて体制を崩した歩兵TEは、そのまま隣接するTEに倒れ掛かりドミノ倒しになる。

 そして、その隙を突いて展開したレーザーマチェットで次々とTEを切り裂いて行く。

「はあッ!!」

 TEを八つ裂きにし、そのまま片足で着地した直後にターンし再び狙いを付けて飛び掛かる。だが、相手も黙ってやられているだけではない。

 向かってくるストームレイダーへと、次々にレーザー光線が飛んでくる。その光の速さで向かってくるそれを、予備動作から読み取ってOSが着弾地点を予測して、カレンはそれに従って回避する。

「そのビカビカ光らせるのをやめなさい!!」

 カレンは突き進みながら、レーザーマチェットを握る手とは逆の手でパワーライフルを構えて、最小限の動きで反動を逃しながらレーザー砲の砲身を撃ち抜いて行く。

「1匹だって逃さない……私がここで時間を稼がないと、誰も安心出来ないから……!!」

(本当は自分が安心したいだけじゃないの?)

 そう問いかけるのは自らの心の声。しかし、そんなものに気にも掛けずレーザーマチェットを振り回して敵を切り裂く。

「まだっ……!!」

 カレンは再び目標を定めてレーザーマチェットを振り上げる。そして1体、また1体と敵を斬り倒して行く。

「わたくしは逃げも隠れもしません!!恐れを知らないのならどこからでも来なさい!!」

(本当は自分の方が恐くて逃げ出したいくせに)

 またも心の声が彼女を責める。それをかき消すように、仮設基地へと向かって行くTEへとパワーライフルを連発する。

「逃げたくても……ここで逃げたらみなさんが困るから……!」

(みんなのため?全部自分のためなのに)

「それの何が悪いの!!」

(復讐のために自分のエゴでみんなを利用して、悪気は感じないのかな?)

「っ……それでも!!」

 ライフルによりTEを引き付けると、ワイヤーを射出して接近しようと試みる。しかし、TEを捉えて伸びたワイヤーが何者かの脚に引っかかって機体が大きく投げ出される。

「っくうッ!!」

(それでも……何?)

「な……に……?」

(何?)

 機体が地面にぶつかるスレスレで、スラスターに火が灯りなんとか体制を整える。そして、揉みくちゃにされたコードのようにこんがらがる思考をなんとか抑え込んで敵を睨み返す。

 ワイヤーを蹴り上げたのは、両腕が大きなブレードへと変化した『ヒト型TE』だった。『ヒト型TE』は静かに佇みながらこちらを見つめている。

「何……って、なんだろう……こんな事をして私は、どうしたかったんだっけ……」

(こんな事をしても、パパもママも帰って来ないのに……ただ無駄に足掻いてるだけなのに……ね)

「ち……違う……」

 心の声に押し潰されそうになりつつも、静観から攻撃体制へと切り替えて刃を振り下ろしてくる『ヒト型TE』の攻撃をなんとか回避する。

「っ……!くぅ……!」

 しかし、尚もブレードの連続攻撃は続く。

 一撃、また一撃と……繰り返されるブレードでの追い込みは、次第にカレンの集中力を削ぎ落として行く。

「はぁ……っ、はぁ……っ……」

 やがて、操縦桿を握る手が震え出す。薬の効果が効かなくなったことによって、カレンの精神は次第にガタが来つつあった。

 その間にも『ヒト型TE』は、大きく距離を取って両腕のブレードを構えながら屈み、ストームレイダー目掛けて80mもの巨体が高速で飛び掛かってくる。

「よ……っ、避けなきゃ……」

 向かってくる巨体を避けるために、カレンはペダルを踏もうとする。しかし、義足が動く気配はない。

「なっ、なんで……脚が……」

 義足が動かないのは壊れたからではない。カレンの心が、踏み込む事への勇気を失って動けなくなってしまったのだ。

 更に、義足ではない、無い脚の痛みまでもが彼女を襲う。

「く……っ……いっ、た……いッ……痛い……っ!」

 痛みに悶えつつも、目の前に迫る『ヒト型TE』から逃れるためにパワーライフルを有らぬ方向へ向けて放つ。その反動により敵の一撃をなんとか回避出来たものの、機体は転がって行き、軽い装甲は歪んでしまう。

「嫌だ……!このままじゃ……」

(死ぬのは怖い?)

「だって……」

(あんなに死にたがってたのに)

「それは……っ」

 突然、カレンの脳内に過去の辛い記憶が蘇る。

 『来訪者』従来により両親を失ったカレンの、絶望に沈み呑まれて行く日々。

 時には自傷し、時には拒食に見舞われ、時にはフラッシュバックにより悶え狂う……ただそれしか出来ない、無力感に満ちた毎日に、いつしか彼女は死を切望するようになっていた。

 その記憶の重みが、彼女の息を詰まらせて次第に呼吸が荒くなる。

(苦しいね。こんなに苦しいならもう、楽になりたいよね)

「嫌だ……」

(だってこれはあなたの声だから)

「嫌だ……っ」

(終わりにしよう)

「い……っ……」

 無力で何も出来ない少女と化した彼女の元に、無情にも『ヒト型TE』はその切先を突き立て、切り裂かんとする。

 まるで人間が、小さな虫を叩き潰そうとするかの様に……。

 そして、その切先がストームレイダーに振り下ろされようとした、その時……。


「カレエェェェエエエン!!!」


 突然、爆音が鳴り響く。

 カレンがそれを聞き顔を上げると、『ヒト型TE』の顔面には爆煙が巻き上がっており、その巨体もよろめいて地に尻を付いている。

 そして、聞き覚えのある声が聞こえてくる……。

「カレン!!大丈夫か!動けるか!?」

「ブレア……さん……っ」

 カレンは震える声で、詰まる喉でその名を呼ぶ。

 カレンのストームレイダーの目の前には、対TE専用レイダー規格ロケットランチャーを抱えたブレアのウイングレイダーが舞い降りて来たのである。

「わ……っ、私……」

「さあ、帰ろう!もう戦わなくたっていいんだ!!」

「戦……わなくて、も……?」

 しかし、ブレアの言葉にカレンは安心ではなく悲痛な叫びを投げかけてしまう。

「ほ、放っておいてください!わたくしに構わないで敵を引き止めてください!!」

「なっ、なんだよ!」

「わたくしは……私は……ひとりで、立たなきゃ……立てなくちゃいけないのに……」

 カレンは機体を起こそうと操縦桿とペダルを動かそうと試みる。しかし、心が折れて動かなくなった脚ではどうにも機体を思い通りに動かす事が出来ない。

「何で……何で立てないの……!なんで……」

「ッ!危ねぇ!!」

 操縦桿を激しく動かして踠くカレンのストームレイダーを、ウイングレイダーが抱き抱えて飛び上がる。その後ろで、『ヒト型TE』のムチの束が地面に突き刺さり穴を開ける。

「落ち着けって!!」

「嫌だ!離して!!ほっといてよ!!」

「カレン……っ」

(完全に冷静さを失ってやがる……どうにかして正気を取り戻させないと……!)

 ブレアはストームレイダーを抱き抱えながら、敵のムチによる猛攻を避けつつ必死にカレンへと呼びかける。

「カレン!俺はお前を無事に送り届けなきゃならない!!」

「やっ……!離して……!」

「だって俺……まだカレンの口から告白の返事聞いてないから!!」

「こっ……えっ……?」

 カレンは突然の予想外の言葉に戸惑い、それにより一瞬だけ冷静さを取り戻した。

 そして、更にブレアは言葉を畳み掛ける。

「告白だけじゃない!!デートだってしたいし、またあの花畑に行きたい!!それに、もっともっとお互いに話し合いもしたい!!くだらない話だって……!!」

「ちょっ、こんな時に何の話!?」

「うるせぇ!!」

「ええ!?」

 しかし今度は、懸命になるあまりブレアの方が冷静さを欠き、反面カレンは徐々に正気を取り戻しつつあった。

「それとも何か!?1回の告白じゃ足りないってか!?だったら何度でも言ってやるよ!!カレン、好きだ!!大好きだ!!いつだって好きだ!!」

「そうじゃなくってぇ!!今は告白とかいいですから!!それにっ……!」

 周囲のTEの攻撃が降りかかろうとするのを、カレンがジタバタと機体を揺らして、バランスを崩させて回避する。だが、それによって2機の機体は地面を滑るように墜落してしまう。

「っ……それに、私は……ブレアさんに好かれて良いような人間なんかじゃないんです……」

「んなこたぁねぇよ!!俺がお前を好きでいる!そして告白を待ってるんだよ!!俺がっ!!」

「私はっ……!こんなにも非力で……迷惑かけて……それなのに、『来訪者』が憎くて憎くてたまらなくて……だから……」

「だからどうだってんだ!!」

「っ……」

 ブレアの完全に冷静さを失った必死な叫びに、カレンは震える声を懸命に震わせて語り始める。

「私はもう、自分がどうして生きてるのか分からなくなっちゃったんです……。家族を失ったのに、私だけ生き残って……今その命も、捨てようとしてたんです。そんな病んじゃってるような私なんか、誰に愛される資格が……」

「うるせぇ!!んな事ぁ知るか!!」

「!!?」

 TEの大群に囲まれてしまう2人。しかし、その中心でブレアはウイングレイダーを起き上がらせ、ストームレイダーの前に堂々と立つ。

「カレンは苦しい過去を、会長さんに助けてもらったんだろ!!だから立ち直って、商会のために働いて!!そして自分で選んだんだろ、地球を救う事を!!」

「そ、っ……それは、私が復讐したいだけで……」

「それの何が悪いんだよ!!誰だってヤツらが憎くないわけないだろ!!それでも、例え口だけだったとしても、カレンが自分で正しい方を選んだんだろ!!」

「だ……っ、けど……」

 カレンはどうにか反論をしようと頭を悩ますが、勢いに呑まれてしまい卑下の言葉も開き直った言葉も、その全てを喉の奥へとつっかえさせる。

「だったらもう、後は前だけ見るしかないだろ!!」

「でも、っ……私、前なんて……」

「俺が!!俺が引っ張って行ってやるからよ!!」

「っ……!!」

 ブレアは、ウイングレイダーの手をカレンのストームレイダーへと差し出す。そして、ただひたすらに、彼女がそれを取るのを待っている。

「……きっと、足手纏いになっちゃいます、よ?」

「上等よ!ま、カレンにゃ立派な脚があるからな!むしろ頼もしいくらいだ!!」

「ふふっ、何ですかそれ」

 カレンはその手を取ると、さっきまで動かなかった脚で懸命にペダルを踏んでゆっくりと立ち上がる。

 しかし、なんとか気を取り戻した2人であったが、未だ危機的状況を脱する事が出来たとは言えなかった。

「それで?この状況はどうするんです?」

「さあ?ちょっと良い策が思いつかない」

「はぁ……やっぱりまだまだですね。地獄でトードさんに笑われちゃいますよ?」

「あー……そりゃ勘弁だわ」

 油汗と苦笑いを浮かべるブレア。そんな2人に、TEたちは容赦なく迫ってくる。

 しかしその時、目の前の『ヒト型TE』の顔面がミサイルによって吹き飛んだ。

「!?」

「!!もしや……!!」

 2人が砲撃の放たれた方向を見る。そこには、こちらへと向かってくる1体のレイダーアーマーの姿があった。

「杉田さんたち、間に合ったんだ……!」

 しかしブレアが目を凝らすと、レイダーアーマーの機体格納部には既に機体が搭載されているようであった。

「なんだ?オートじゃあないのか?」

「いえ、あれは……」

 そこに搭載されていたのは、シリウス商会へと預けられていた筈のグリフィンレイダー改であった。

 つまりは……。

「まさか……!!」

『ブレア、カレン……待たせたな』

「隊長……イサミ隊長!!」

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