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タイタンレイダーズ  作者: 南ノ森
TRAMPLE
43/50

FATE

4年前。中国某所、避難シェルター付近。

「そうだね……キミの名前は今日からトード!!」

 少女はしゃがんで、雨に降られてずぶ濡れの少年に傘を差して言う。

「ヒキガエル(トード)……ヒドい名前だな」

「そんなことないよ!だって私、カエル大好きだもん!」

 そう言って、少女は少年にカエルを模した御守りを見せて、それを彼の冷たい手に握らせる。

「……なんだよ、これ」

「ママがくれた御守りっ!今日からトードは私の友達だもん!だから、幸せを分け合うの!」

 そんな少女の笑顔に、少年の冷たい心に微かに温もりが触れる……トードは、なんとなくそんな気がした。


現在。レイダーズ本部跡地。

 日本、都内某所……かつてそこには、日本の関東地方を中心に世界各地へと活動をするための防衛部隊、レイダーズの本部基地があった。

 しかし……今ここにあるのは、まるで500mはあろう巨大な花とも樹とも取れる、奇妙な塔がただ立っていた。そして、その塔に群がる巨大な群れ……だがそれも、その塔の前では仔犬の集まりにしか見えない。

 だが、その中にそれよりも遥かに小さな存在がひとつ、速度を増しながら駆け抜けていた。

 ……ハオとトードの乗る、手数の殆どを使い果たしたアトラスレイダーだった。

 その、特徴的な盾は片方溶けて失われ、銃火器も全ての弾を失い、その上ブースターの燃料も尽きかけていた。そして更に、足部のブレードもかなりすり減って見える。

 それでも、それは全力でこの戦場を抜け出すために必死に駆け抜けているのだ。

「ねえこれ燃料足りる!?」

「知らん!だがこれしか今は手が無いだろ?」

「んもう!!こうなったら無茶でも粗茶でもやるっきゃない!!」

 ハオはブースターを限界まで吹かす。例えその魂の火を燃やし尽くさんと燃え上がる推進剤は、硬く重い鎧を纏ったその身体を前へ前へと無理やりにでも押し進めて行く。

 だが、そんな2人の前に『歩兵TE』の群れが立ち塞がる。

「踏まれるなよ、ハオ!!」

「えぇ!?そんな事言っても、このスピードじゃ曲がれな……」

 そう言っている間にも、巨大なその脚は2人を踏み潰そうと高く上がり、そのまま落ちてくる。

 だが、ハオはアトラスレイダーの機体を大きく翻らせてそれを上手く避け切る。

「っ!!」

「よし、ハオだったぞ!」

「それ私の!!……って、言ってる場合じゃないよね!!」

 そう言って再びブースターを全力で吹かす。しかし、その背後からは相変わらずTEの群れが2人へと、砲撃を続けながら歩みを進めて行く。

「ねぇアレどうすんの!!」

「構うな!!歩みを止める訳には行かない!!」

「って言ってもねぇ……!!」

 アトラスレイダーのモニターには、相変わらず多数のTEの反応が示されている。それは、アトラスレイダーを取り囲むように向かって来ている。

「目の前にもいるんだけど!?」

「上手い事股ぐらから抜け出せ!!出来るな?」

「どうだかね!!」

 アトラスレイダーが目の前の瓦礫を飛び越えると、その目の前に『獣型TE』が行手を塞ぐ。その股下の高さは、レイダー1、2機分がギリギリ通り抜けられる程度しかなく、しゃがまれでもすれば一巻の終わりだ。

 だが、相手はそう都合よく動いてはくれない。2人の前に立ち塞がるため、『獣型TE』は身を低くして迎え撃つ。

「くっ、厄介だな」

「無問題!こんな時は……」

 ハオはアトラスレイダーの残った盾を展開、ナックルへと変形させる。そして、そのまま『獣型TE』の顔面真正面まで接近する。

「アッ……ッパァ!!!!」

 そして、『獣型TE』のアゴへと強烈な一撃をかます。その一撃は、打撃と同時に射出された拳によって見事に殴り抜かれ、その身を大きく真上へと飛び上がらせる。

 その、精一杯に作った渾身の隙を見逃す事なく、浮き上がった巨体の下に素早く潜り込みなんとかこの場を離脱した。

「ハオ、上手いぞ!!」

「でもまだ油断は……」

 ひとつ難を逃れたのも束の間、後方から2つの影が飛び掛かってくる。長い腕が特徴の『サル型TE』が、2体同時に襲って来たのだ。

「ッっぶな!!」

 アトラスレイダーに向かって『サル型TE』の腕が文字通り伸びてくる。ハオはそれをなんとか避けながらも、どうにか切り抜ける機会を伺っていた。

 そこに、トードが提案を持ちかけてくる。

「ハオ!お前は出来るだけそのまま真っ直ぐ進むんだ!なるべく蛇行は控えてくれ!!」

「そんな事言ったって……!!」

「いいから!!」

「了解!!」

 ハオは指示通りアトラスレイダーを真っ直ぐ進める。そうしてる間に『サル型TE』の猛攻は続くも、それをなんとか速度調整のみで回避し続ける。

 その間、トードは注意深くモニターを睨み付けつつ、気を伺っている。

「……今!!ハオ、ブレーキ!!」

「っ!!」

 トードが出した合図でハオがアトラスレイダーを急停止させると、モニターに表示された照準が、重なった『サル型TE』の急所に狙いを定めた。

「トリガーは預ける!!」

「なるほどッ!!」

 ハオがトリガーを引くと、背面で未だ熱を帯びる『速射型超高威力電磁砲』から弾丸が発射され、上空で襲い来る2つの目標の胴体を見事に貫いた。

 しかし、排熱が追いついていなかった事と、射撃形態への変形を行わなかった事が災いし、射撃の衝撃で機体は大きく吹き飛び、砲身は中程でへし折れてしまった。

「グぅっ!!」

「きゃァっ!!」

 吹き飛ばされた機体の外装は浅い傷以外はあまり目立つダメージは無いものの、ほぼ限界まで稼働させていたためにフレームが嫌な音を立てながら、それでも生き延びるためにどうにか立ち上がる。

「ハ……ハオ……機体、チェックだ……」

「う……うん……まだ、なんとかギリ動く、はず」

 しかし、動きを鈍らせてしまった機体を前に、敵影は一斉に群がり始める。

「は……はは……」

 ハオが、額に汗を滲ませながら笑みを漏らす。

「どうした、頭でも打って可笑しくなったか?」

「そうかもね……でも、なんかこういうの懐かしくない?」

「懐かしい、か……確かに、俺たち昔はずっとあっちこっち逃げ回ってたな」


4年前。中国某所。

「待ちやがれ!この泥棒兎が!!」

 5人の大人たちが、地面を濡らした雨水が跳ねるのも気にせず1人の少女を追いかける。

 その、盗みを働いた当の本人は、両腕いっぱいに野菜や果物、パンなどを抱えながら追いかけてくる大人たちから逃げる。その表情は、必死さよりもどこかからかうような、楽しそうな雰囲気だった。

「ウスノロ〜!自分らがえばって皆んなの分をがめてっからだよ!!」

「なんだと!?生意気なガキめ!!」

「俺らがシェルターレスに場所貸してんの分かってんのか!?」

「そのやり方が汚いって言ってんの!!」

 振り返って舌を出して挑発する少女。やがて、少女は行き止まりへと追い込まれ、大人たちに囲まれてしまう。

「観念しやがれ泥棒兎め!!」

「ふん、ママが言ってたもん!誰かの明日を奪ったらバチが当たるんだって!あなたたちだって、やなやり方でこんなに取り上げて、きっとバチが当たるんだ!!」

「何を!!」

 余裕そうに大人を煽る少女と、対して大人気なく怒りを露わにする者たち。そんな大人たちの頭上から、カラカラと木材のぶつかるような音が聞こえてくる。

「あ?」

 大人たちが一斉に音のする方を見上げる。すると、なんと彼らの頭上から多数の木桶が降って来て、それは見事大人たちの頭に直撃する。

「いでっ!?」

「あだぁ!!」

「へーん!早速バチ当たってやんの!!」

 少女がそう言うと、行き止まりのはずだった壁の上から縄のようなものが垂れ下がり、それに彼女は捕まって壁の向こうへと姿を消して行った。

「流石トード!サポートバッチリって感じ!!」

「ハオだって、よく俺の言った通りに出来たな!!」

「うん!!だってトードの言葉は間違いないもん!!」

「ふっ、ありがとうな。さ、食べ物を待ってる人たちの所に行こうか!」

 そう言って、2人の少年少女は笑顔で廃墟を走る。


現在。レイダーズ本部跡地。

 再び立ち上がった2人は、瓦礫が広がる滑走路をあの頃のように駆け回る。

 ただ、あの頃とは違うのは、2人は人類の願いを繋ぐ5mの鉄の体を駆っている事。そして、2人を追うのはそれより遥かに大きな異物という事……。

「頑張れハオ!!何としても皆んなの待つ場所まで進むんだ!!」

「そうだよ!!だって……基地が無くたって、私たちの帰る場所は……!!」

 だがその時……機体は大きくバランスを崩して転倒してしまう。

「キャッ!!」

「くっ……!!どうした!!」

 その原因は、逃走劇の末に酷使された足部ブレードが欠けた事であった。

「クソッ!こんな時に……」

「まだ……まだ諦めない……諦めたくない!!」

 再び立ち上がりブースターを点火しようと試みるが、先程の砲撃の衝撃に更に転倒が重なり、ブースターに火が灯らない。

「そんな……!」

「くっ……!動け!!動けよ!!」

 しかし、やはり何度点火を試みようともブースターの火は点かない。

「こんな……こんな所で立ち止まってる場合じゃないのに……!!」

「……」

 ハオは惜しむ気持ちでブースターが動かない事を受け入れ、ゆっくりとアトラスレイダーの脚部を動かし歩行を始める。しかし、全身を覆う強固な装甲に加えて柔軟な歩行に適さない形状の脚部では車ほどの速度も出す事がままならない。

 やがて、結局は後方に迫っていたTEの群れが2人の元へと追い付いてしまう。

「トード……!」

「……」

 名を呼ばれるも、反応は無い。ただ、黙って歯噛みをしているのみだった。

 今、彼の中には良策ではなく絶望しか残されていなかった。

 そして、何の抵抗の策も無いまま迫り来る『ヒト型TE』の脚に踏みつけにされ、身動きが出来なくなってしまう。

「ッくっ……!このままじゃ……!!」

「……」

 ハオは必死に抵抗を試みるが、ガッシリと掴むように踏みつける足は動く様子は無い。その上、踏まれても耐えられる機体の強固さが余計に迫り来る絶望感を煽ってくる。

「……!」

 金属が軋む中、ふとトードがある事に気が付いた。

「……ハオ、俺たちはもしかすると、ここで終わってしまうかもしれない」

「トード……」

「だが、だったらせめてコイツくらいはくたばらせたい……そう思わないか?」

 危機的な状況の中で、トードの真っ直ぐなその瞳をハオは真っ直ぐに信じた。ただ信じる事にした。

「……どうするの?どうしたらいい……?」

「どうやらまだ『サンダーパルフェガン』の砲身は自由に動くらしい。そして……残弾は1発だ。ならやる事はひとつだよな?」

「……分かった。それって、とってもハオだね!」

 ハオが強がりの返事をすると、踏みつけられる機体をなんとか起こそうと踏ん張る。そして、背面の砲身が『ヒト型TE』の股から頭部までの一直線へと狙いを付け、射撃姿勢が完成する。

「……例え砲身が折れていようと、この距離なら関係ない……!ハオ!!」

「了解!!……『サンダーパルフェガン』、ファイヤ!!」

 ハオが引き金を引くと、残された最後の1発が発射され、そのまま弾丸が『ヒト型TE』を貫く。

 そして撃ち抜かれた『ヒト型TE』は、倒れながらグズグズと崩れて塵と化していった。

「や、やった……!!」

 目の前を阻むものを取り払い、コックピットは一時の喜びに包まれる。

「ああ!やったな、ハ……」

 だがその時、機体に大きな衝撃が走る。

 その衝撃の正体は、もう1体の『ヒト型TE』のムチによる鋭い突き刺し攻撃だった。

 『ヒト型TE』は、アトラスレイダーの背面から装甲の隙間を狙い、硬く太い針のように尖らせたムチを貫かせたのだ。

「あ……っ……」

 ムチにより機体が持ち上がり宙吊りにされたかと思うと、そのまま勢いをつけて地面に叩きつけられてしまう。そして……動力を損傷してしまったアトラスレイダーはそのまま動かなくなってしまった……。


「っ……痛っ……」

 暗闇の中で、ハオが目を開く。先程の衝撃により全身を打ち付け、ほんの一瞬だけ意識が飛んでいたらしい。

 なんとか体を動かし、スイッチを押したりレバーを動かしてみるが、何一つ反応せず次第に不安になってくる。

「まさか、動力が動いてない……?こ、壊れちゃった……の?……トード!!」

 後部座席の方へ振り返るハオ。しかし……彼女の視界に飛び込んだ光景は、彼女の絶望感を更に煽るものだった。

「あ……っ……う、そ……」

 そこにあったのは、もはや人とも言えぬ何か……左手や下半身は辛うじて形を保っていたものの、その誰とも知れぬ肉へと変わり果てたそれを見て、彼女の心に大きなヒビが入る。

「嫌、っ……だ……どう、して……」

 その、残された左手に震える右手を伸ばす。その時、左手の指に彼女があげたカエルのお守りが引っかかっている事に気が付き、胸の奥から波が込み上げてくる。

「ああ……そっ、か……」

 彼女は、そのお守りをくれた母の言葉を思い出した。それと同時に、硝煙の匂いと……2人が犯した『罪』の記憶も思い出す。

「私たち……本当は幸せになっちゃいけなかったんだね……」

 重なる2つの手は、鉄の塊に押し潰されるその瞬間にも分たれる事は無かった。


 広いグラウンドを、茜色の陽気が照らす。その暖かな明かりを身に受け、ひとりの少年が寝息を立てる。

「ねえトード、そろそろ行かないと隊長に怒られちゃうよ!……って、寝てるし!……ま、いっか。今日天気良いしねぇ。それに私もなんだか……ふぁあ〜……眠くなってきたし……お隣失礼っと」

 寝ている少年の横に、少女がやって来てもたれ掛かり、共に陽の光を浴びながら眠りにつく。

「……こう言うのを、多分幸せって言うんだねっ。ふふっ……おやすみっ」

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