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タイタンレイダーズ  作者: 南ノ森
TRAMPLE
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とある朝。レイダーズ本部、トードの自室。

「ん……っ〜くぅ〜っ」

 レイダーズの一同は、ハワイでの作戦を終えた後、何事もなく無事に日本へと帰還していた。

 そして、いつも通りの日常が帰ってきたのだが……何故かトードのベッドで目を覚ましたのはハオだった。しかしよく見ると、頭まで深々と布団を被ったトードが横で眠っている。

「ねえトード、今日は朝練でしょぉ?起きなよ」

「ん」

 返事はある。しかし起きる気配はない。

(まったく、ねぼすけなんだから)

 ハオは布団を捲りトードを起こそうとする。しかし、その無防備な寝顔に一瞬胸が跳ねる。その上彼の手には、ハオが4年前にあげたカエルの御守りが握られていたから余計に気恥ずかしくなる。

(……そういえばトード、こうやってぐっすり眠る事なんて昔は無かったもんね。でももう起こさなきゃ)

 そして、未だ鳴る胸の高鳴りのお返しと言わんばかりに、眠れる美男子に覆い被さって、隙だらけのその唇に口付けをする。

「……ふふっ、起きた」

「っ……バカっ」


同時刻。レイダーズ本部、道場。

 道場では、早朝だと言うのに既に2人の人影があった。

 それは、道着を着て木刀を傍に添えた勇とブレアの姿であった。

 道場の中へ、朝の涼やかな空気が2人の間を吹き抜ける。

「……ったくよ、毎日こんな朝っぱらから剣術の指南なんてよぉ……めちゃ眠いんだけど」

「文句を言うな。俺はな、一刻もお前に俺の全てを叩き込みたいんだ」

「……なんでよ」

 ブレアはあくびを堪えてなんとか真剣に勇の顔を見る。毎朝呼びつけて剣の指導をする事に何かしら深い意味があると察していたからだ。

 勇も、そんなブレアに応えるように真意を話す。

「ブレア……俺はレイダーズの隊長を降りようと思う」

「はっ!?」

「俺の体は、このまま戦い続ければ保たんらしい」

「!?」

 その言葉にブレアは小さく取り乱して木刀を落としてしまうが、気にせず勇は続ける。

「と言っても、V.N.L.S.を使わなければ大事無いのだが……渚に酷く止められてしまってな。おまけにハンスや杉田さんらまで乗り出して大騒ぎだ。挙句にグリフィンレイダーは商会にお預けと来たもんだ」

「っなんだよそれぇ……ま、何もなきゃ無いに越した事ぁねぇけどよぉ。でも、流石に隊長を降りるってなると驚きだぜ」

 勇の言葉を聞いて、ブレアは複雑な心境を顔に出す。それを見て勇は苦笑いを返す。

「まあ俺も流石に騒ぎ過ぎだと思うがな」

「はは……」

「……だが、だからと言ってその思いを無碍には出来んだろう?だから俺は素直に引退するさ。レイダーズはお前と、お前の乗る『ウイングレイダー』……そしてレイダーアーマーに、俺の思いと共に託す」

 その真っ直ぐな瞳を見て、ブレアは息を吐いて笑む。

「……そっか。ま、アンタが決めた事なら仕方ないか」

 ブレアは頭の後ろで手を組み、その場を後にしようと振り返る。

「じゃあさ、ここは俺らに任せてアンタはゆっくり高みの見物でもしてなよ。そんでよ、アンタは平和になった地球で何にも縛られず幸せに暮らすんだな」

 そう言って手を振り去ろうとするブレアに、勇は冷静に声をかける。

「おい、流れでサボれると思ったら大間違いだぞ」

「あらぁ、バレバレでしたか」

「当たり前だ大馬鹿者。罰としてみっっっちりシゴいてやるからな」

「おっ……お手柔らかに……」

 2人だけの道場にけたたましい悲鳴が響いた事を知るものは、他には居なかった……。


2時間後。レイダーズ本部、食堂。

「あら?ブレアさん、どうしたのでしょうか」

「気にすんなよ。どーせイサミにバチボコにやられたんだろうよ」

「ああ、なるほど……」

 食堂には、ぞろぞろと各職員や軍関係者が集まって食事を楽しんでいた。しかしその中に混じり、勇との特訓により疲弊し切ったブレアが机に伏していた。

 それを見ていたカレンとアンナの横で、レイダーズのオペレーターの男と軍の整備員の男が話をしている。

「しかしよ、レイダーズが軍との全面協力体制になってから大分楽になったぜ」

「まあな。こっちとしてもレイダーズには頑張ってくれないとな。なんせ地球の危機だしな」

「ああ、助かるよ。それに、レイダーアーマーの実装も矢尾博士の協力あってだからな」

 そんな会話を横で聞きつつ、2人は自然と口元が緩くなる。

「……なんだか、確実に一歩ずつ未来に進んでる、って感じですね」

「なーんだそれ。でもま、こうやって雑用すんのもあとちょっとかもしれねぇって考えると確かに悪くねぇかもな」

「へぇ、まだ働き足りないって?」

 そこに、大量の料理を持ち込んで来たジュウォンが割って入ってくる。

「げ、アネゴ……」

「体制が変わって表方の仕事が楽になった分、人も多くなったんだからサボってないで手伝う」

「そりゃないぜ……」

「あはは……」

 そんなやり取りをしていると、食堂内にアナウンスが鳴り響く。

『レイダーズ職員に通達。レイダーズ重要役員、並びにパイロット、軍の重要役員は直ちに会議室へ集合してください。繰り返します……』


レイダーズ本部、会議室。

 会議室では、先程アナウンスを受けた一同が招集され集まっていた。そして、その目の前には何やら大荷物を携えて立つ渚の姿があった。

「みんな集まったようね」

「なんか珍しいっすね、こんなに人集めて会議なんて」

 未だ疲れが表情に出るブレアだったが、目の前のモニターに映し出されるものを見て正気に戻る。

「あ、これって……」

「そう、TEの破片よ。以前ハワイ深海にて、あなたが倒した『クジラ型TE』の破片ね」

 それを聞き、この場に居る一同に響めきが走る。

「は……破片って……の、残ってたんですか?TEの破片が?」

「ええ」

 トードの質問に渚はたった2の文字であっさりと答える。それを聞き、再び場が騒めく。

 それもそうだ。今までTEは、撃破されてしまえば紙屑の燃えカスのようにグズグズと崩れて消え去り、痕跡は全て跡形も無く残る事などあり得なかったのだから。

「有り得ないわよね。まさか今まで採取不可能とされていた物が、こうもアッサリと手に入ったのだからね」

「し、しかし……何故残っていたのでしょうか……?」

 当然の疑問に、今度は唸り声が場を包み込む。しかし、それに渚は憶測を述べる。

「原理は一切不明だけども、おそらく海中で撃破された事が原因ね。今までは地上でしか本格的な戦闘が行われなかったから、ある意味盲点だったって事ね」

「えと……それで、何か分かった事は……」

「あるわ、色々とね」

 そう言って渚はモニターの映像を切り替える。

「まずは……そうね。TEとは何か、なんだけど……簡単に言ってしまえば生物、それも意図的に調整された生物兵器って所ね」

「生物……兵器……!」

「そもそもTEの動き自体、かなり有機的な部分を持っていたし、再生能力を有していた事に関しても説明は着くわね。……まあ、あの再生速度は異常だけども」

 一同は息を呑む。そして再び画面が切り替わる。

「そして、その体構造は所謂ハニカム構造になってて、非活性時には10分の1程度に収縮し休眠しているものと考えられるわ」

「成程な。それならあのデカブツどもが、月という地球よりも狭い土地で屯出来るという理屈が通ると言う訳だな」

 口を挟む勇に渚は頷く。そして、モニターの映像が再び切り替わる。

「これは、破片を更に拡大したものよ。見てもらえれば分かる通り、生物である以上その体構造は細胞で形成されているけれど、それ以上に注目すべきはここね……」

 渚が画面に指を差して注目を集める。その画面には、何やら緑色の丸のようなものが集まっているようにも見える。

「これは所謂、葉緑体と言われる物に近い物体……つまりは、TEは生物学上で言えば植物に近い生き物と言う事よ」

「しょ、植物ですか……?」

「し、しかし……有り得るのですか?その……動物のように動く事の出来る、巨大な植物というものは……」

「根を利用して移動する植物というものは存在すると言われてるわ。そうなると、よその星で生き物のように行動出来るよう進化した植物が存在していてもおかしくは無い……なんなら、手を加えられている分より可能性はあるし、そもそも現に実在して我々と戦っているもの」

 渚も自分で言っていて、半分信じられないというような様子を見せながら説明をする。

 そして、説明が終わるとしばらく場は整然と静まり返った。

 その時の一同の表情は各々で、複雑な顔をする者、参ったという顔をする者、あるいは頭を捻る者も居る。しかし、皆同じなのは困惑しているという所だった。

「これで面食らってるようじゃまだまだよ。まだとっておきのが控えているんだから」

 渚はそう言うと、荷物の中から何やら筒のようなものを取り出す。その大きさはだいたい2000mlのペットボトルほどであり、その中には奇妙な物体が浮かんでいた。

「渚博士……それ、は……?」

「これはTEの破片の中から回収されたもの……おそらく、これが『来訪者』の正体よ」

「え……えぇっ!?」

「こ……これが『来訪者』……だと!?」

 驚きと共に、興味から皆が中に浮かぶ『来訪者』らしきものに注視する。

 それは、植物を思わせる緑色がかった体表と、しっかりと生えた四肢のようなものを持った何かが、まるで眠った赤子のようにそこに存在していた。

「作り物……じゃ、ない……よな?」

「う……そ……だろ……?」

「ち、小さい……!?」

 その予想外の容姿に、再び困惑が場を包む。

「こんなの見せられても、混乱するのも無理はないわよね。私だって信じられなかったもの。でもね、確かにこれからは心音も脳波も検知する事が出来たわ」

「い、生きてるのか!?これが……!?」

「ええ。ただ、問題なのは……これをCTに通してみた所、脳のような組織系が見当たらなかったのよね……消化器に関しても存在しない事が分かったけど、それについては根に該当する部位からTEの体液を養分としていると推測すれば辻褄が会うと仮定してるわ」

「……」

 流石にそんな見た事も聞いた事もない生き物を目の前に、そんな説明を聞いて納得出来る者も居なく、黙り込む。

「……本当、べらぼうよね……生き物として、そして敵として……こんなちっぽけなものに人類が蹂躙されて来てたなんて……」

「ッ……ふざけるなよ……」

 衝撃の事実を受け、ブレアは壁に拳を叩きつける。

「こんなん、認められるかよ……こんな小さい奴らに、何人も何人も殺されて、居場所を奪われて……」

「ブレアさん……」

「……ブレア」

 拳を震わせて怒りを口にするブレアに、勇が顔を合わせて口を開く。

「奴らは確かに俺たちを蹂躙して来た。ならやる事はただひとつ……この地球ほしを守るために全力を尽くす事だ。その怒りはこんな壁ではなく、ヤツらへぶつけろ」

「……ああ、そうだな……」

 勇の言葉を聞き、ブレアはなんとか落ち着きを取り戻す。それを見ていた何人かも、思うところがあったのか頷いたり、顔を見合わせて話し合ったりしている。

「そう。我々はなんとしてもこの地球ほしのために勝たなきゃならない。ブレア、あなたはそのための第一歩を掴んでくれたのよ」

「渚博士……」


レイダーズ本部裏、菜園。

 会議終了後、各々は再びそれぞれの仕事へと戻った。

 アンナは、水々しく育ったキュウリを収穫しながら、又聞きした先程の会議の内容を思い返す。

「植物……か。なーんか、突拍子もねぇって言うか、妙な気分だな」

 まだ棘が目立つその弓状の実を眺めながら耽っていると、後ろから人の気配を感じて振り返る。

「よう、性が出るじゃないか」

「んだよイサミじゃねぇか」

 勇はアンナの隣に座ると、カゴの中から1本キュウリを拝借してそれを齧った。

「……うむ、やはり美味く育ってるな」

「……」

 満足そうにキュウリを頬張る勇を、アンナは目を丸くして呆然と見つめる。

「……なんだ、意外そうな顔をして」

「あ、いや……まさか隊長たるイサミともあろう男がサボってつまみ食いとは……って」

「そうか?……まあ、実際もうレイダーには乗らないから、訓練の機会も減ったからな。実質飼い殺しだな」

「へ〜ぇ、そっか……」

 その事を聞いたアンナは、何故かニヤけた顔で膝の上に頬杖をつく。

「じゃ、今は滅茶苦茶油断しまくってるって事だな!」

「ほう、何か企んでいるな」

「たりめぇだろ!アタシはまだオメェに勝てちゃいないんだ!だからこっそりシミュレーションルームで鍛えてんだぜ!」

「ふっ、感心な事だな」

 自慢げに語るアンナの頭を、まるで慣れたような手つきで撫でる。アンナは勇のガッシリとした手が心地悪いのか、はたまた照れ臭さからその手を払おうと抵抗を試みようとする。しかし、屈強な勇の手は尚も少女の頭を撫でる。

「や、やめれ!アタシはお前を倒すために……うぅぅ……」

「ふふっ……」


レイダーズ本部、渚の研究室。

『話は聞いているよ。大きな成果を上げたそうじゃないか』

 同時刻、研究室では渚が矢尾と先程公表した『来訪者』らしき物体について通信を行っていた。

「ええ……確かに我々にとっては大きな事実を得た……。けど、気になるのよね……」

 渚は、棚の上で脳波計に繋がれた『来訪者』の入った筒をじっと見る。

『気になる、とは』

「……この『来訪者』?なんだけど、生物として明らかに不自然と言うか……消化器類はともかく、脳が存在しないにも関わらず、脳波のようなものを検知出来るなんて……」

『脳がないのは植物に近い生き物なら当然では?』

「心臓はあるのに?それこそ辻褄が合わないわ。体内の栄養を循環させる器官が備わってるなら、それを糧として行動するための司令塔となる臓器も必要な筈よ」

『うぅむ……確かにそう聞けばデタラメだな』

「そうよ。理性があるにせよ、本能で行動してるにせよ、地球を攻めに来る以上はその行動原理として思い付きを行う『脳』に該当する部位が必要になる筈……」

 そう言って脳波計を見るも、尚もそれは順調に脳波を計測し続けている。

「……ま、どっちにせよサンプルは手に入ったもの。研究を続けて行けばそのうち結果に繋がるわ。もし何か分かればそっちにもデータを送るわね」

『ああ、頼むよ渚くん』

 そうして矢尾は通信を切り、報告を終了する。

「……ふう」

 そして渚も、ノートパソコンを畳んで立ち上がり、研究室を後にした。


 その時、一瞬だけ脳波計が妙な反応を見せた事には、誰1人として気がつく事は無かった……。


翌日。レイダーズ本部、管制室。

 管制室では、暇を持て余した職員たちがババ抜きをして盛り上がっていた。

「っしゃあ!アガリぃ!!」

「っがァ!またババだぜ……」

「お前は顔に出やすいんだよっ」

「あークソっ!しゃあねぇもっかいだ!!」

「いいぜぇ?次はジュウォンさんの作ったプリンを掛けて勝負な!」

 などと盛り上がっていると、ハンスが管制室の扉を開けて入ってくる。

「おい!サボんじゃねぇぞ!」

「っつってもよぉ、今日は出動無いんですぜ?」

「そうですよぉ。それに、実機での試験も戦闘訓練も今日は休みですからぁ」

「お前らなぁ……気ぃ抜け過ぎなんだよ」

 ハンスは調子が狂うと言う風に頭を掻いていると、ひとりだけ真面目にモニターを見ていた職員の表情が変わる。

「……あれっ」

「ん、どした?」

「いや……その、おかしいな……ヨーロッパに降着予定のTE群の軌道がその、なんか……変わってんすけど……」

 その言葉を聞いて、一同はカードから手を離してモニターを注視する。

「は?何かの間違いとかじゃねぇの?」

「間違いようが無いって!ほら!」

 職員が画面を指すと、確かにTE群を示す表示は予定軌道の線を逸れて動いていた。

「……なあ、これってヤバくねぇか?」

「ヤバいって、どうヤバい……?」

「いやほら、だってこの軌道……このままじゃ……」

 そう言って横から見ていた職員がキーを打ち込み、軌道の再計算を行って画面を切り替える。

「……マジ、かよ……」

 この場の全員が、息を呑んでその結果を直視する。

「降着地点……ここ、なのか……?」

「俺、たちの……真上……!!」

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