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タイタンレイダーズ  作者: 南ノ森
WAKE UP
4/50

GRIFFIN

レイダーズ本部基地、格納庫。

 勇たち一同は関西基地陥落地から戻り、先程届いたという新型レイダー『グリフィンレイダー』を拝みに来た。

「これが……」

「グリフィンか……」

「ふむぅ~ん……?」

 3人とも初めて見る機体を前に、意外にも微妙な反応を示している。

 それはクリームがかった白の装甲で覆われた、どことなくないとを彷彿とさせるシルエットをしていた。

 しかし、それ以外は何か目新しい部分を感じるようには思えなかった。

「これが新しい機体ですか?」

「そうだ。これからの作戦の要になる機体だ」

 後ろから勇が3人の元へ歩いてくる。

「どう思う?この機体を見て」

「そうですね……。なんか普通な感じですかね」

「うん。見た目も色以外は特に変哲もない普通の機体だしね」

「でも性能は良いんでしょう?早く乗ってみたいですね」

「落ち着け。あるのはコイツ1機だけだ」

「えぇー!?」

 一同は驚嘆する。

 今までずっと待ち望んでいた機体がたった一機でしかないとは思いもしなかったからだ。

 3人が青い顔をしていると、渚がやってくる。

「これは特別な機体なの。今までのレイダーはこの機体を作るためのデータ収集用、つまりお膳立てと言っても過言ではないわ」

「渚博士!でもこの機体がそれほど特別には思えませんが……」

「いいえ、この機体はこれまでとは明らかに格が違う『スペシャル』よ」

 渚が自信げに言うと、勇の方を見て続ける。

「それにね、彼があなた達のチームと遅れて合流した理由はこの機体にあるわ」

「遅れた理由……ですか?」

「ああ。俺はこの機体を完全に乗りこなすために全てをかけてきたからな」

 勇がグリフィンレイダーを見上げながら言うと、渚が勇を促す。

「じゃあ早速テストを始めましょう。早速準備してちょうだい」

「ああ」

 こうしてグリフィンレイダーのテストが始まるのであった。


東京某所、レイダーズ本部基地から数キロ。

 輸送機にはグリフィンレイダーと実践テスト用ドローンが積まれている。

 グリフィンレイダーには新型の鉈状の武装と、これまでと同じタイプのライフルが装備されていた。

「なんか随分と開けた場所ですね」

「ええ、ここなら十分この機体の性能を発揮できるわ」

 4人は輸送機を出ると、そのまま真っ直ぐ歩き出す。

 そして目的地に着くと、既にグリフィンレイダーが到着しており、臨戦態勢に入っていた。

 そして、張られていたテントに設置してある機材の元へ向かい、渚が通信用マイクに喋りかける。

『それじゃあ始めるわよ』

「了解」

 勇が返答すると、上空からいくつかの機影が現れる。

 現れたのは複数機のドローンと、3機の初期型レイダー、イニシャリティレイダーだ。

 それを見て一同が驚愕する。

「!!この数は……!!」

「これ、部隊戦用の数じゃないですか!!たった1機ではどうしようもないですよ!!」

「いいのよ、これを超えられなければ失敗作だったというだけよ」

 渚は冷たく言い放つ。

「…………」

 その言葉を聞いた途端、勇は黙って空を睨みつける。

 やがて、戦闘が始まった。

 ドローンから容赦のない砲撃が始まる。

 勇はその全てを掻い潜るが、そこにイニシャリティレイダーの大鉈が襲いくる。

「ッ!」

 間一髪で避けると、そのまま反撃に移る。

 勇は装備された新型の鉈状の武装を展開する。するとその刃から虫の羽音のような耳障りな音が響いた。

「ちょ、なんすかこの音!!」

 その音を聞いてピンと来たハオが言い当てる。

「これってもしかして、高周波!!」

「そう。アレは高周波ブレードよ。名付けて『ソーンマチェット』」

 やがてソーンマチェットから放たれる音は人間の聞き取れる高音域を超えて大人しくなる。

 勇はそれを横薙ぎに振るうと、敵機体2機を切り裂く。

 それはまるで豆腐に刃を入れるようにいとも容易くその手脚を落とす。

「す、すげえ!!」

「あのレイダー……あんな簡単に……」

 3人が驚いている間にも勇の攻撃の手は止まらない。

 勇はそのまま飛び上がると、猛攻を続けるドローン群に接近し、そのままマチェットを振り回して撃墜する。

「よし……!」

 勇が安堵の声を上げると、後ろからさらにミサイルが飛びかかってくる。

 勇はそれを避け切れず、直撃はしなかったまでも爆風にさらされる。

「ぐっ……」

「隊長!大丈夫ですか!?」

「油断し過ぎよ。集中しなさい」

「ああ、了解だ」

 勇が素早く態勢を整えると、今度は全てのミサイルから逃れる。そして最後のミサイルから正面に立つと、それを縦に真っ二つに叩き切った。

「いいぞ!」

ハオ!!」

 ドローンも残り少なくなり、イニシャリティレイダーも残り1機。かなり早いタイムで敵が撃破されていく。

 しかし、その筈だったのだが、残りのレイダーが見当たらない。

「あれ?あいつどこ行ったんだ?」

「まさか逃げたんでしょうか?」

「いいえ、違うわ」

 渚が否定すると同時に、勇の後ろから突如として何かが猛スピードで飛び出してくる。

 それは先程までとは明らかに違う装備に換装されたイニシャリティレイダーであった。

 それは背面に大口径のグレネードランチャーを2機装備し、背中には大型のスラスターが備え付けられている。

 そして手にはなんとバスター・チェーンソーが握られていた。

「!?いつの間に!?」

「こっちの方が速いぞ!なんだあいつ!!」

「彼は財団から派遣されたエース……本来なら今頃最前線で戦ってる筈のパイロットよ」

 それを聞いた勇は、真剣に対峙しながらも笑みを見せる。

「なるほどな、それは光栄だ!」

 勇はそう言うと、すぐにグリフィンレイダーのブースターを起動させる。

 そして、グリフィンレイダーが加速するのとほぼ同時に、相手も同じくスラスターを使って急接近してくる。

 現在のグリフィンレイダーの速度は160キロ。それに対し、相手は180キロで向かってきている。

 つまり、グリフィンレイダーの速度より相手の方がやや勝っているということだ。

「この速さなら追いつかれる!」

「ええ、だからこうするのよ」

 渚はそう言って通信回線を開くと、指示を出す。

「そろそろ秘密兵器を使う時じゃないかしら?」

『わかった』

 勇が答えると、グリフィンレイダーを上昇させる。

「V.N.L.S発動!!」

 勇が叫ぶと、モニターから『Variable Nerve Link System』の文字が浮かぶ。

 グリフィンレイダーの背に装備された大型スラスターが、これまで以上の轟音を鳴らしながら火を吹き、一気に高度を上げていく。

「な、なんてパワーだ……」

「これが新型の本気……」

「うわぁ~……」

 勇の機体が速度を上げると、2機は開けた場所から建物の多い市街廃墟へと入り、テント周辺で確認出来ない場所まで移動する。そしてカメラ付きドローンが発進しモニターに映像が写し出された。

 相手は入り組んだ場所での戦闘に備え減速をする。しかし勇のグリフィンレイダーは減速する事なくそのまま街中を走り回る。

「なんて旋回性能だ!建物に全くぶつかる気配が無いぞ!!」

「それに動きも全然鈍ってない!むしろどんどん速くなってる!!」

 グリフィンレイダーは瓦礫の上も難無く駆け抜け、建物の壁を蹴って飛び回る。

「な、何て機動性だ!!」

「今の彼はグリフィンレイダーと一心同体。つまり、グリフィンレイダーは彼の手足と同じなのよ」

 渚の言葉通り、勇のグリフィンレイダーはまるで自分の身体のように自在に動く。

 その機動はまるで空を舞う鷹の如く、障害物もモノともせずに相手を翻弄する。

「さあ、これで終わりだ!!」

 勇は手にしたソーンマチェットを素早く振る。相手もそれを受けるため、フル回転状態で紅く輝くバスター・チェーンソーを防御するように構える。

 しかし、ソーンマチェットは相手の装甲を紙切れの様に切り裂いてみせる。

『な、そんな馬鹿な!!?』

 グリフィンレイダーのブレードは敵の両腕を切断し、そのまま頭部を首から叩き切った。

「やったー!」

「すげぇ!!」

「当然よ。これくらいやってくれなきゃ困るもの」

 渚が自信満々で言うと、何者かの通信が入る。

『渚博士、こちらでもグリフィンレイダーの性能を確認しました。問題無いでしょう』

 その声は少々貫禄のある、何処となく威圧感を感じる女性の声だった。

「ありがとうございます。では早速このデータを元に、例の計画で使っていきましょう」

 渚が通信を切ると、勇がグリフィンレイダーから降りてくる。

「お疲れ様。良い戦いぶりだったわ」

「ああ、ありがとう。例のシステムも問題なく作動した」

「ええ、あなたの戦い方はグリフィンレイダーとの相性が抜群ね。財団の党首様も喜んでいたわ」

「エレナ・ウィルソンか……彼女も見ていたのか」

「ええ、あなたの活躍を見て出資の増額を考えてくれると嬉しいのだけれどね」

「そう言うと思ったよ」

 勇は呆れたように肩をすくめる。

「隊長!凄かったですよ!!」

「あれだけの数、この間の訓練の時よりも多かったのに1人でやっつけちゃうなんて!!」

「いや、今回はたまたま上手くいっただけだ。次も同じ様にいくとは限らない。特に相手が『ヒト型TE』だった場合はな」

「確かにそうですね……。奴の性能は異常です」

 一同がその名に緊張を見せると、勇が口を開いた。

「コイツが何故、グリフィンレイダーの名を持つか分かるか?」

「いえ……」

「グリフォンというのは鳥の翼とライオンの胴体を持った怪物の事だ。隊というものは個で完結しない。我々には頭と翼、そして胴体になる戦友が必要だ。つまり、グリフィンレイダーはそういう意味を込めて名付けられた」

「なるほど……」

「だからお前達ももっと強くなれ。俺はこのチームを誇りに思っている。俺達はこのチームでなら、どんな困難にも立ち向かえるとな」

「隊長……」

「はい!」

「分かりました!」

「ふぅ……、じゃあそろそろ戻りましょう。」

 渚が提案すると、3人は輸送機へ向かう。それを見送った勇と渚は、少し離れた場所にあるヘリポートへと向かった。

 ヘリポートに着くと、突然勇がふらつく。「おっと……」

 バランスを立て直し、輸送機に乗り込むと渚が話しかける。

「目眩程度で済んで良かったわね。初めてそれを使った時、あなた失神していたもの」

「ああ、まだ慣れていないからな。あの時の事は何度コックピットをゲロまみれにしたか……思い出したくないよ」

「フッ……そうよね。でも、今日はもうゆっくり休みなさい」

「そうさせてもらうよ」

 そう言うと、勇は深い眠りにつく。

「本当によく頑張ったわよ。これからも頼りにしてるわ」

 渚は優しく微笑むと、輸送機が離陸し、基地への帰路を進み始めた。


レイダーズ本部基地、整備ドック。

「さあ、今日はグリフィンレイダーの完成を祝って祝杯だ!!」

 整備班の杉田が、隊の皆と乾杯の音頭をとる。

「イェーイ!!」

「かんぱ~い!!」

「いやぁ、やっぱり俺たちの作ったグリフィンレイダーはカッコいいねぇ!!」

「そういや杉田さん、財団直々に配属された整備員でしたっけ」

「そうだぜ!本来ならこいつを完璧に整備出来るように、誰にも提供されてない設計図を頭に叩き込まれた俺が予めここに配属されて来た訳だ!」

「へぇ~、そりゃすごいっす!」

「まあな!これからは大船に乗ったつもりで任せてくれ!!」

「はははは!!」

 整備班が談笑する横では、勇たちのチームが話をしている。

「そういえばコイツがこの隊にいる理由を知ってるか?」

「興味ないね」

「知りたい知りたい!!」

「お、おい!何だよいきなり!!」

 勇がブレアを親指で挿しながら過去の話をする。

「こいつは路地で飲んだくれていたんだ。アメリカでは道端で酒を飲むのは法律違反だからな。それで逮捕された」

「あははは!なにそれ〜!!」

「ばっかじゃねぇの」

「うるさいな!!黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって!!」

 好き勝手に言う勇に怒りを向けるブレアだったが、勇が続ける。

「コイツはかつて、俺と共にアメリカ軍の戦闘機乗りだったんだ。若手だが、将来のエースを期待される程にな。しかしある時……『来訪者』が日本に攻めてきた時だ。」

 勇の話に全員が静かになって聞き入る。

「コイツは戦闘機に乗ってその場で戦っていた。そして、このままでは全滅すると判断した上は彼らを退避させたんだ。そして上の連中は……核を使った」

「!?」

「コイツはその事が納得出来なくてな、その結果派手に荒れて道端で酔い潰れて逮捕。そのまま財団が身元を引き受けてここに配属されたという訳さ」

「そんなことが……」

「まぁ、今はこうして元気になったみたいだし、あまり気にするな」

「う、うん……」

 一同はブレアを同情の眼差しで見つめると、ブレアは恥ずかしそうに顔を背けながら返す。

「も、もうその事はいいだろ!それに、アンタはあの時、俺より激しく怒ってたじゃねーかよ!!」

「そうだったな。まあ当然と言えば当然だが、お前ほど無様な醜態は晒さなかったぞ」

「て、てめ……」

 勇に突っかかろうとしたブレアだったが、一息ついて落ち着くと再び口を開く。

「……そういや俺、アンタに言いたい事があったんだよ」

「何だ」

「……アンタはいきなり俺の前に再び出てきて、いきなり隊長になってさ…そして、サムを撃った」

「……」

「あの時はさ、マジでキレたんだけど……あの時は、アレが正しい判断だったんだよな」

「……」

「俺、飲み込むのに時間かかったけどよ……アンタとはまた上手くやっていきたいんだ。だから」

 ブレアが勇に手を差し出す。

「俺も、アンタの『グリフォン』の一部にしてくんねぇか」

「……当たり前だ」

 勇はそう言って、ブレアの手を強く握った。

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