WEDDING
レイダーズ本部、発着場。
『黙祷』
レイダーズはこの日、『来訪者』が地球に攻めて来た日の5年目を追悼した。
『来訪者』が齎した被害は世界中を混沌に陥れ、殆どの民間人はシェルターの中での生活を余儀無くされた。しかも、それも万全とは言い難い……。
その日から、この国では今日という日を忘れてはならないのだ。
レイダーズ本部、食堂。
レイダーズ一同はこの日、いつもと比べて心なしか不味い昼食を取っていた。
「……」
いつもなら賑やかな食事も、今日ばかりは静かだ。
「……もう、4年経つんだな。あれから」
ブレアはぽつりと呟いた。
「そうだな……」
トードも小さく返事をする。
「……」
「……」
再びの沈黙。ただひたすらに……。
匙の音だけが響く食堂に突如、ひとり沈黙を破る者がいた。
「……よし、やろう。結婚式」
「……は?」
「おい、ハオ……?突然何言い出すんだ??」
静寂を打ち破った予想外の言葉に一同は困惑する。
「だからさ、私たち結婚しようよ!」
ハオは立ち上がり側にいきなりとんでもないことを言い出した。
「ちょっ!いきなりどうした!」
「だってさ、この先何があるか分からないもん!やりたい事やっておきたいじゃない?」
「そ、それはそうかもしれないけど……」
「じゃあ決まり!早速準備をしなきゃ!!」
トードの手を引っ張ってどこか知らぬ所に連れて行こうとするハオ。
「ちょ、ちょっと!いくらなんでも急すぎるだろ!!もうちょっとタイミング考えろよ!!」
「いいじゃーん!私たちってもう身体中のホクロの数も分かる関係なんだから〜」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
その一言で場の空気が一変する。
「……おい、ちょっと待て」
2人のやり取りを目の前でずっと聞いていたブレアが呼び止める。
「……お前らってもうそこまで行ってたの??」
「えへへ〜まあねぇ〜」
「むしろどこまで行ってると思ってたんだ」
困惑するブレアに、まるで当たり前だと言うように2人は言うが、ブレアはむしろ更に納得出来ないと言う顔をする。
「いや、なんかお前らってどっちかって言うと兄妹みたいだから結構ウブな付き合いなのかなぁって……」
「あのね、私たちこれでも17歳だよ!?いい大人なんだからAだのBだのとっくに経験済みなの!!」
「いや俺からしたらお前ら充分ガキだよ!?」
「ちょっとお前らいい加減にしてくれ!!」
2人の喧嘩に挟まれ揉みくちゃにされるトードが声を荒げて静止させる。
「……そもそも今じゃなきゃ駄目なのか?今は被害者を悼む日であってな……」
「……だからだよ。だから、辛い事も全部抱えて幸せになりたいから、今やりたいんだよ」
そう真っ直ぐな目で言うハオに大人しくなる2人。しばらく沈黙してトードが頭を軽く掻きながら口を開く。
「……でもな、準備とかどうするんだよ。指輪とか、服とかさ」
「ありますよ」
突然どこからかひょっこりとカレンが現れる。
「カレン!?てかあるの!?」
「ええ、今からでも用意可能です。シリウス商会からブライダルプランナーを手配する事も出来ますよ」
「えぇ……前々から思ってけどシリウス商会って何でもアリだな……」
「はい!!」
自信満々に返事をする。流石商会のサポートセンター受け付け嬢だ、とブレアは関心していた。
「おい!だからってお前らだけで話を進めるなって!」
「なんでぇ〜!?トード!どうしてまだ駄目なの!?」
ここに来て未だにごねるトード。しかしその理由は当たり前と言えば当たり前なものだった。
「……だいたい、突然過ぎるんだよ。まだこっちは心の準備とか出来てないんだ」
「……じゃあさ、ここで決めてよ、心の準備」
「んな無茶な!?」
驚愕するトードだったが、そんな事も構わずトードの肩を掴んで威圧するハオ。
「……私の事、好き?」
「……好き、です」
「じゃあ言う事あるでしょ?」
「……好きです……好きです!結婚してください!!」
根負けしたのか観念したのか、あるいは意を結したのか、プロポーズを成し遂げたトードの大声が食堂に響く。ハオはそれを聞いて抱きつく。
それを聞いた一同は立ち上がり、2人に盛大な拍手を送る。
「あーもう恥ずかしいな!!」
「よっ!ご両人!!根性見せたじゃねぇか!」
「っせえ!」
レイダーズ本部、整備ドック。
格納庫では、既に作業員達が今回の結婚の準備をしていた。因みにここを使用した理由は杉田による発案である。
「杉田さん!レイダーに缶を括り付けても良いッスか?」
「バカ!そこにジープがあるだろうが!」
「いやいや、結局ここに戻って来るんだから要らないでしょ……」
整備員たちが騒ぐ中、パイロット一同はドレスの着付けをするために商会から届いたドレスを選別していた。
「へぇ〜、ドレスにも色々あるんだなぁ」
「はい!全てハオさんとトードさんの体型に合わせたものをお取り寄せいただきました!」
「……よくサイズ分かったな」
「ふふん、女の勘は鋭いのです」
そう言って胸を張るカレン。その横でハオとトードは並べられたドレスを選んでいた。
「成程なぁ。和洋折衷というやつか」
「沢山あるねぇ……でもね、私もう何着るか決めてあるんだよ!」
ハオは既に決めたようで、そのドレスを引っ張り出す。
「へぇ……どれどれ?」
「ほら、これ」
「……赤いドレス、か?」
「うん!これはね、龍鳳服って言うんだよ!」
「へぇ〜、良いんじゃないか?」
「……ねぇ、似合うかな?」
「ああ、凄く綺麗だと思うぞ」
「やったぁ!」
嬉しさのあまりハオはその場で飛び跳ねる。
「……ねぇ、トード?」
「ん?どうした?」
「……うぅん、やっぱりなんでもない!」
「なんだそりゃ……」
「さぁさぁ!早く着替えよう!」
「はいよ」
2人が更衣室に入って行った後、残りのドレスを見ていたブレアがある事に気付いた。
「……あれっ?このドレス、ちょっとハオには大きくないか?」
「ええ!この際ですから、あの2人にも結婚式に参加してもらおうと思いまして……」
「あの2人……?」
レイダーズ本部、渚の研究室。
「……で、つまり私にその式で花嫁姿になれと」
「はいっ!!」
「……はあ〜……。別に私は今回の騒動については特に口は出さないけれど、流石にこれはどうかと思うわよ?」
「そうですか?でも、結婚式は女性にとって一生に一度のイベントですよ?」
「だからって追悼の日に結婚式の真似事なんて私乗り気になれないわよ!それに大体私が誰と……」
「勇隊長ですよね?」
「うっ……」
「本当は行きたいんですよね?」
「…….」
図星を突かれ、渚は無言になり反論出来なくなる。
「じゃあ決まりですね!」
「ちょっ!待っ……」
こうして、渚と勇も半ば強引に結婚式に参加させられる事になった。
レイダーズ本部、整備ドック。
「よっし!準備完了!」
「おっ、来たか」
先に準備を終えていたトードの元にハオがやって来た。
「どう?変じゃない?」
「ああ、綺麗だ。馬子にも衣装だな」
「それ、褒めてる?」
「さあな」
「もう……」
「それより、お前にさ、言いたい事あるんだけど……」
「なに?」
「……これからも、よろしくな」
「……うん!こちらこそ!!」
「よし、じゃあ行くか」
「そうだね!みんなが待ってるもんね!!」
その頃、渚も同じくして簡易個室でドレスの着付けをしていた。
「……ウェディングドレスなんて、一生縁が無いと思っていたわ……」
鏡に映る、白いドレスを纏った自分の姿に少し違和感を覚えながらも、その頬には微かに笑みが浮かんでいた。
すると、個室をノックする音が飛び込んでくる。
「渚、入るぞ」
「ちょっと、もう少し待つくらい……」
扉を開けた瞬間、言葉を失った。
「……どうだ?この格好」
そこには、既に白いタキシードを着た勇の姿があった。
「……ふふっ、何それ」
「おいおい、何だよ」
「ごめんなさい、あまりにも不恰好だったから。その服サイズ合ってる?筋肉でパツパツじゃない」
「仕方ないだろ、こういうの慣れないんだから」
「ふふっ、それはお互い様よ」
「……そんな事ないさ。君は綺麗だよ」
「そう?私、おばさんなんだけど」
「それを言ったら俺だって君より10も上だ」
「……それもそうね」
「なっ、なんだ、自分で言っといて」
「いえ、ただ……貴方も素敵よ」
「……ありがとう」
「じゃあ、そろそろ行こうか」
「ええ」
2人は手を取り合い、歩き出した。
レイダーズ本部、整備ドック改め結婚式場。
「おいおい、俺が神父役やるのかよ」
と言いつつ既に修道服に着替えているハンスが呆れ顔で2人を待っていた。
「いやぁ、まさかこんな事になるとは思わなかったぜ」
「まあ良いじゃねえか。たまにはこういう日があっても」
杉田はいつものように笑いながら言う。
「……じゃあ、始めるか」
「おう、行ってこい」
作業員達が設営した式会場には、主役である4人が準備を済ませて立っている。
「汝、健やかなる時も病める時も、富める時も貧しい時も、共に歩み愛し敬い慰め助け、そして死が二人を分かつまで永遠の愛を誓いますか?」
「「はい」」
「では、指輪の交換を」
横に控えていたジュウォンが、指輪をハオに手渡す。
「うぅ……緊張するなぁ」
「ほら、頑張れ」
指輪を受け取ると、震えながらハオはトードの左手の薬指に指輪を嵌めた。
続いてトードもハオの左の薬指に指輪を嵌めようとする。
しかし、なかなか上手くいかない。
「あっ、あれっ……おかしいな……」
「大丈夫だよ。落ち着いて」
「ああ……」
何とか指輪をハオの指に通す。
「これで……夫婦だね」
「ああ、そうだな」
「えへへ……なんか照れるなぁ」
続いて、今度は渚が勇の薬指に通す番だ。
「はい、次はあなたの番ですよ」
「……ええ」
ジュウォンから指輪を受け取り、同じように勇の指に嵌める。
「ふふっ、なんだかドキドキするわ」
「そうか?」
「ええ、でも……悪くない気分」
「……そうか」
勇の太い指に指輪が嵌まる。そして今度は勇が渚の細い指に指輪をはめる。
「ふふっ、似合わないわね」
「いや、そんな事は……」
「嘘よ。私、あまりファッションとか興味無いからそんなの分からないの」
「……でも、綺麗だと思う」
「……ふふっ、ありがと」
そして2組の新郎新婦が、次にする事を心で理解し互いに向き合う。
「では、誓いのキスを」
ヴェールを捲り上げ、2人の新婦の顔が現れる。
「ハオ……綺麗になったな」
「うん……トードもカッコいいよ」
互いの顔を近付ける。
「……」
「ふふっ、緊張してるね」
「うるさっ……!?」
「んっ……」
ハオから唇を重ねる。数秒の間、2人だけの時間が過ぎていった。
「……次は私たちね」
「ああ」
勇は渚の肩を抱き寄せる。
「渚、綺麗だな」
「勇……あなたもカッコいいわ」
「……んっ」
「ふふっ……」
2人もまた、互いを求め合うようにキスをした。
「さあ、皆さまお待ちかね!いよいよブーケトスの時間です!」
司会進行を務めるのはカレン。その横で4人は婚礼衣装のまま待機している。
「ハオさん、頑張ってください!」
「ハオ!ファイト!」
周りの声援を受け、集中してブーケを構える。
「……ハオ、頼むぞ!」
ハオは深呼吸をしてから、大きく息を吸って……
「せーの……!」
勢いよくブーケを投げた。放物線を描いて飛んだブーケは宙を舞い、その先にいたのは……。
「あらっ?あららっ?!」
ハオの投げたブーケを手にしたのは、なんとカレンだった。
「あらら……勢い余って変な方向に飛んじゃいましたね……」
「あはは……まあいっか!」
そして今度は渚がブーケを投げる。その先にいるのは……。
「うおっ?!」
ブーケをキャッチしたのはブレアだった。
「よっしゃあ取ったぜ!!」
「凄いなブレア!ナイスガッツだ!!」
「へっ、当たり前だろ?」
ブレアは自信満々に言った。しかし、再び壇上の4人を見ると、どことなく浮かない表情になる。
「ん、どうしたブレア」
「えっ、あ、いやなんでもないッス!」
「そうか?」
「はいっ!それより早く写真撮りましょうよ!!」
「ああ、そうだな」
「じゃあ皆さん並んでください!はいチーズ!!」
こうして、無事に式は終わりを迎えた。
夜、レイダーズ本部、食堂ベランダ。
一同は無事に結婚式を終え、それぞれの時間へと戻っていった。
そんな中、式の後からずっと何かを思い詰めていたブレアはカレンを呼び出していた。
「ブレアさん、どうなさったのですか?わたくしを呼び出して……」
「……今日さ、あの4人が結婚式したじゃん」
「ええ、そうですね」
「……なんか、さ。幸せそうだったよな」
「はい、とても素敵な結婚式でしたね」
「ああ、素敵だった……」
しかし、ブレアの表情はまだどこか暗いままだ。
「……何か、不満な事でも?」
「あ、いや違うんだ。……俺、あいつらがちょっと羨ましくてよ……」
「羨ましい?」
「ああ。『来訪者』が来て、争いが起きて、地球が大変な事になってさ。俺たち……いや、俺は、ずっとそれだけでいっぱいだったんだ」
「……」
「でもさ、そんな中で幸せそうに結婚式なんてしちゃって、みんな前に進もうとしてるって思ったら、なんか……俺だけ取り残されたような気がして……」
「ブレアさん……」
「だから俺もさ、前を向いて進みたい。だからカレン……」
ブレアはカレンの方に向き直り、ゆっくりと肩を掴む。
「えっと……な、何でしょうか」
「俺、お前の事好きだ」
「えっ……」
「俺はお前の笑顔が好きだ。お前の優しさが好きだ。お前のハッキリ言う所が好きだ。お前の全部が好きだ!だから……俺と付き合ってくれ!!」
「……ふふっ」
ブレアのあまりにも真剣な表情に、ついカレンは笑ってしまう。
「えっ……」
「あははっ、もう……急にどうしたんですか?そんな鬼気迫るような顔していきなり告白だなんて」
「そ、それは……だからその、ハオに習って俺も前にだな……!」
「はいはい、分かりましたから。そういう事にしときます」
「なっ……!」
すると、カレンは優しく微笑みながら言った。
「ありがとうございます。そう言って頂けて嬉しいです」
「じゃ、じゃあ……」
「ですが、お返事はまた今度で」
「……そうか」
「はい、すみません。わたくしも色々と整理したい事がありますので」
「分かったよ。悪かったな、呼び止めて」
「いえいえ、では」
そうして2人はそこで別れた。そして1人残されたブレアは夜空を見上げて思う。
(……ま、どうなっても悔いはない。言いたい事言えたんだからな!)
夜の空気を吸い込んだからか、それとも違う理由か……今の彼の胸の内はすっと軽くなったようであった。




