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タイタンレイダーズ  作者: 南ノ森
REVENGER
38/50

MEMORY

レイダーズ本部、会議室。

「いやぁっはっはっは!これにて一件落着ですなぁ!!」

 会議室に、フランクリン会長の高笑いが響く。

 先の戦闘後、『カウベル』の残党たちは捉えられて、輸送機によりFBIに引き渡された後に牢獄へと入れられる手筈になった。

 更に、フランクリンらの証言によると、エレナ・ウィルソンの手により軍や政治関係にも『カウベル』の残党は潜んでいたらしく、それらの逮捕も順調に進んでいると言う。しかし……。

「会長、お言葉ですがまだ終わってはいない様です。彼らの証言と、確認されているメンバーの数が合わない問題が残っています。恐らく何処かに逃亡していると思われるかと……」

 高笑いをするフランクリンに、ジュウォンが釘を刺す。

「おやおや、そうだったかな。まあそれは追々で良いじゃないか!今はみんな疲れているんだ、アッハッハッ!!」

「会長……」


レイダーズ本部、医務室。

 医務室には、勇を除くレイダーズの面々がブレアの見舞いに集まっていた。そして、当のブレア自身はもう既に元気だと言う風にしている。

「しっかし暇だなぁ、こうして寝てるのも」

「そうだね。もうしっかり元気そうで良かったよ」

 心から安心したようにドリトが笑う。しかし、そこには申し訳無さそうな影も含んでいる様にも見える。

「けどよぉ、ジェドもひでぇよな。アメリカ帰る前にせめて1回くらい見舞いに来ても良いんじゃねぇのか?」

「……そうだね」

「……」

 ブレアは知らない。自分が気を失った後、ジェドがいったいどうなったのかを……。しかし、その事は誰も口にはしない。

「でも、心配したんですよ、わたくし。もしブレアさんが戻って来なかったらと思ったらって、不安だったんですからね」

 ドリトの横で、カレンが大量のリンゴを剥きながら言う。そのリンゴは、切り分けられた側からハオが次々に口の中へと放り込んで行く。

「ほんほらよー、まっはく」

「ハオ、せめて一口くらいは残してやれよ。哀れだろ」

「なぁにが哀れだこの野郎!」

 トードの皮肉にブレアがツッコミを入れる。そして、皆が一様に笑顔を浮かべる。

「あのー、みなさん」

 そこに、輪の中へと滑り込むように花恵が入ってくる。

「おや、花恵さん。いったいどうなさりましたか?」

「いやその。自分、ちょっち長期の休暇をもらったんで、その報告をしに来たッス」

「えー、何でまた?」

「その……ミラさんがこれから精密検査が出来る施設に入院するという事で、自分もそれに付き添うんス……」

 どこかモジモジとして話す花恵に、一同は妙に違和感を覚える。

「えと……でも何でだ?別に花恵ちゃんが一緒に行く事でもないんじゃねぇの?」

「それは……」

 今度は頬を赤らめ、目を背ける。それに首を傾げるブレアとトードだったが、それ以外の皆は何やら薄らとニヤついている。

「へぇ〜……花恵ちゃも隅に置けないねぇ」

「い、いやいやいや!看病していたら向こうがしつこくアプローチして来たんスよ!!だからその、ちょっとくらい相手してやっても良いかなぁって……」

「そんな事言って、満更でもないくせにぃ〜」

「ちょっ、ハオさん〜!!」

 花恵はハオにイジられつつも、つい気持ちが顔に出る。一同はそれを見て、喜ばしいやら呆れるやらで、どちらにせよ各々が笑顔で笑う。

「あんな女のどこが良いんだか……」

「まあそう言ってやるなって!とにかくさ、しばらくはこっちは俺らでどうにかすっから、2人でゆっくり休暇を満喫すんだぞ」

「はっ、はいッス!」

「ブレア、お前はまだ休養だろうがよっ」

 調子良く話すブレアのデコに、トードが閃光の如き速さでデコピンを喰らわせる。

「あでっ!たはは……そうだったぜ」

 再び、暖かな笑いが場を包み込んだ。


その日の夜。レイダーズ本部、渚の研究室。

 先程の会議を一通り終え、渚と勇は2人だけの時間を過ごしていた。

「……こう言う、ゆっくり出来る時間も久しぶりね」

「そうだな。例の衛星が実装されてからは、下手に焦らなくても良くなったからな」

 そう言ってコーヒーの準備をする勇。そうしているとふと、気になった事を渚に投げかける。

「衛星と言えばだが、その後矢尾博士とはどうなったんだ?」

「あ、えぇ……彼とはよく話し合ったわ。少なくとも、もうお互いに意地を張る必要も無くなったと、思う」

「そうか、良かったよ。俺としても、キミの中の不安要素がひとつでも無くなってくれるのは嬉しい」

 コーヒーメーカーから抽出されるコーヒーの雫を見つめながら、微笑んで言う。

「まあ、3年前は正直私も気が急っていたし、無茶をしたとは思ってたわ。その事について、あの人が心配してくれていたなんて……腹を割って話してみるものね」

「そうだな……。なら尚更、彼がアメリカに帰る前にもう少し昔話に花を咲かせていても良かったんじゃないか?」

「別に良いわよ、話なんかしなくても。だって、どうせ彼とはこれからも話す機会はいくらでもあるし」

「まあそうだが、それはあくまでも仕事の話だろ?」

 カップに2人分のコーヒーを注ぐ。狭い研究室に、淹れたてのコーヒーの香りが広がり心を落ち着かせる。

「充分よ。それに私、もう過去に拘るのは辞める事にしたの。だってそうでしょう?今大事なのは未来をどうするかなんだから」

「……驚いたな、キミの口からそんな言葉が出るなんてな」

「バカにしてる?」

「いや、そうじゃない。ただ、俺もキミが前を向いて進んで行けるなら良かったと思ってな」

「そうね。でも、それはあなたのおかげなのよ?」

「俺か?」

「……ええ、恥を忍ばずに言うのなら、あなたとの未来を平和に過ごすために、ってね」

 そう言って渚は笑みを浮かべる。勇はその、あまりにも素直な言葉に一瞬きょとんとするが、嬉しさと照れ臭さが混じって少し誤魔化し気味に微笑みを返し、コーヒーを一口すする。

 しかし、その一口に違和感を覚える。

「……?」

「どうしたの?」

「いや……なんか、このコーヒー薄くないかと思ってな」

「そんな事ないでしょう?だって、同じ豆と同じ機械で淹れてるのに……」

 勇の言葉を確認するように、彼のコーヒーを渚が一口飲んでみる。しかし、そのコーヒーは何の変哲もないただの、いつもと同じ味のコーヒーだった。

 だからこそ、彼女の中で嫌な考えが浮かび、不安が渦巻く。

「……どうした?」

「……」

 渚はその考えにたまらなくなり、溢れそうになるものを堪えながら研究室を飛び出して行ってしまう。

「おい、渚!」


 勇の体は、V.N.L.S.の度重なる発動により負荷が蓄積され、徐々に影響が出始めていた。

 そして、その影響が先の戦闘によって遂に身体に出始め、味覚を狂わせてしまったのだ。

 渚は逃げた。自らの指示によりN.L.アダプタを移植され、戦う機械にされた恋人への、常に抱えていた罪悪感が、味覚が狂わされた事によって限界となり彼女をそうさせた。


 基地の外は春の装いがまるで嘘の様に冷えていた。その、星の散りばめられた夜空の下で、渚はただひとり静かに涙を流していた。

「っ……」

 それを、追いかけて来た勇が後ろから優しく腕で包み込む。身長に差がある2人だが、彼女の姿が隠れて見えなくなってしまいそうになる位に、今はより一層それが大きく開いて思える。

「急に飛び出して、いったいどうしたんだ?」

「……っ、だって……私のせいで……」

「舌がバカになったくらいが何だ。まだ目も見えるし、耳も聞こえる。だからこうしてキミを見つけられた」

「でもっ!でも……そうなったのは私が悪いのに……私が、あなたの体にアダプタを移植させたから……っ!」

 涙の粒が、少しずつ大きくなっていく。必死でそれを押さえ込もうとすればする程、かえって余計に涙は溢れ出してくる。

「こんなに……こんなに辛いなら、あなたの事を好きになんかならなければ良かった……!」

「……俺は違う」

 勇はそう言って、渚の濡れた頬に唇を付ける。

「俺はキミと出会えて良かった。何も無かった俺にも、守るものが出来た。だから俺は強くなれるんだ……。渚、ありがとう」

「っ……!う、うぅっ……ああぁっ!!ごめん……ごめんなさい……っ!!あああぁぁっ!!」

 勇の広い胸の中で、渚は心のままに泣いて、泣いて、そしてずっと泣き続けた。


数日後。レイダーズ本部、発着場。

「なーんか、複雑な気分だな」

 ブレアとドリトは、飛び立って行くレイダーを見送っていた。

 この日は、衛星から予めTEの降下が予測されていた為、ブレアを除くレイダーズのパイロット一同は降下予測地点へと向かって行った。

 『カウベル』の残党としてレイダーズと敵対していたドリトは、その償いとしてレイダーズの補助として働く事を命じられた。それも、ブレアを助けた事による特別措置として渚が頼み込んだ事によるものである。

「こうして俺がみんなを見送るなんてさ、正直考えた事も無かったよ」

「まあまだ療養期間中だもんね。全回までギリギリ間に合わなかったね」

「もうバリバリ動けるんだけどなぁ〜」

 もう既に機影も見えなくなった青空を眺める2人。春風が吹き抜け、肺の中が心地良い冷たさで満たされる感覚さえ覚える。

「……ねぇ、ブレア」

「ん、どした?」

「……ごめんね」

 溢すように、ドリトが言う。その言葉をブレアは横目に受け取る。

「ああ」

「……僕らは……僕は、キミらに許されない事をした」

「ああ」

「沢山、酷いことをした」

「ああ」

「僕は酷い奴だ……」

「……」

「今更、謝っても許される事じゃない。でも、それでも……」

「……なあ、ドリト」

 ブレアは笑顔でドリトの顔を真っ直ぐに見る。ドリトも、それに応えるように向き直る。

「俺さ、お前と友達で良かった。例え元『カウベル』でも関係ない」

「でも……」

「お前はお前、ただひとりのドリトだ。他に言葉は要らない……俺にとっては、それで充分なんだよ」

「……なんだよそれ」

 ドリトはブレアが何を言っているのかはよく分からなかったが、それでも自然と口元が緩む。

「ま、それにここに居るヤツらの大半が檻の中に入れられた事のあるヤツばっかだ、気にすんなって!」

「……ありがとう、その……気を遣ってくれて……」

「なぁに、別に気なんか遣っちゃいねぇって!」

 ブレアはドリトの肩を抱きながら、大きく目一杯に笑った。それに釣られて、ドリトも一緒になって笑う。

「じゃ、さっさと戻ろうぜ!出迎えの準備もしとかないとな!」

「そうだね、早く行こう!……?」

 基地に戻ろうと振り返る2人。しかし、直前にドリトが何かに気が付いた。

「死にさらせ!!!!」

「っ!!危ない!!」

 瞬間、発砲音が響き渡る。

「うっ……!」

 倒れ込むブレア。しかし、怪我などを負った様子は無い。

 だが、彼の目の前には血溜まりがこんこんと広がって行っていた。そして……ドリトがその上に立っていた。

 ブレアが撃たれる瞬間、それをドリトが押し倒して庇ったのだ。

「ド……ドリト!!」

「う、あ……うあああ!!」

 男は再び発砲し、ドリトの腹部にもうひとつ穴を開ける。

「く……ッ」

 広がっていく血溜まりに膝を突くドリト。それを見て男が3発目を撃とうとするが、1発目の銃声を聞いて集まって来た整備員たちに押さえ込まれる。

「ドリト!おい、しっかりしろ!!」

 倒れそうになるドリトに、ブレアが駆け寄って抱き抱える。

「よ……かった……キミが、無事で……」

「何言ってんだ!お前が撃たれちゃ世話ないだろ!!」

「いい……んだ……。僕は、僕は……キミが生きててくれるだけで……」

「そんな……そんな事、言うなよな……」

 涙がブレアの頬を伝い、落ちる。そして、その落ちた涙の温もりを、ドリトはもう感じる事は無かった。

「ドリ……ト?……う……っ……あぁ……ぁ」


4年前。アメリカ、空軍基地。

「ん……」

 空軍基地では、新人パイロットの飛行試験が行われていた。

 既に試験を終えて待機していたドリトは、ついうとうとして居眠りをしていた。そして居眠りから目覚め、先程試験を終えて戦闘機から降りてくる青年の姿が目に入ってくる。

「いやー兄ちゃん、いい乗りっぷりだったよ!本当に新人かぁ?」

「うっす、あざっす!なんか乗ってるうちにテンションアガっちゃいました!!」

 その様子を眺めていたドリトだが、その後ろから影を落とす者が歩いてくる。

「おい」

 その声に振り返ると、そこには上官らしき、40代程の日本人の男が立っていた。

「新人の身分で居眠りとは、いい度胸だな」

「はっ、す、すみません!」

「……なんてな」

 その男は、冗談だと言うみたいに口元に小さく笑みを浮かべる。

「待つのは退屈だろう。正直俺もそろそろ飽きて来ている」

「し、しかし、上官殿も一軍人としてその様な発言は……」

「俺はな、元々軍人になる気は無かったんだ。義父親が無理矢理、な」

「はあ……」

 それを聞いて、ドリトは何処か共感を覚える。彼も、ウィルソン財団の指示により軍への潜入を命令されていたからだ。

「ま、今回は見逃してやるから、次からはちゃんと気を引き締めておけよ」

「はい、ありがとうございます!」

 ドリトは敬礼を返す。そこに、先程戦闘機から降りて来た青年がこちらに歩いて来る。

「お前ら、俺の飛行見てたかよ!マーベリックも目じゃねぇだろ?」

「……はぁ。ブレア・ヒューズ、調子に乗るな」

「げっ、イサミ……!居たのかよぉ」

「上官に居たのかよとはなんだ」

 イサミと呼ばれた彼はやれやれと言った風に頭を抱える。それに対しブレアと呼ばれた青年は、悪びれた様子も無く誤魔化し笑いをする。

「たはは……ま、それは置いといて、どうだったよ?俺の飛行はよ」

 ドリトはいきなり話を振られて戸惑い、つい正直に答えてしまう。

「あ、え、ええと……ごめん、うとうとしてた……」

「は!?おいマジかよ……ったく、俺の飛行を見逃すなんて勿体ないヤツだぜ」

 ブレアはわざとらしく後頭部を掻く。しかし、すぐに切り替えて笑ってみせる。

「しょうがねぇ、次は見逃してくれるなよ?約束だぜ、ええと……」

「ドリト。僕の名前はドリトだよ」

「そっか、俺はブレアだ!よろしくな、ドリト!」

「……うん!」


夕方。レイダーズ本部、グラウンド。

 夕日の照らすグラウンドの隅、ただひとりうずくまってブレアは泣いていた。

 先程の銃撃事件を起こしたのは、逃亡していた『カウベル』の残党の1人だった。あの戦闘の後、拘束を逃れる為にひとり基地から離れて持ち込んだ非常食で生活をしていたという。

「……」

 静かに涙を流す彼の横に、1人の人影が近付いてくる。

「ブレアさん……」

「……カレン……」

「聞きましたよ。その……なんと言ったらいいか……」

 声をかけたはいいものの、悲しみに暮れる彼の背中を見るとかける言葉も失ってしまう。しかし、それでも見ているだけではいられないと思い、ただただ彼の隣に座って寄り添う事にした。

「……」

「……」

 涙を啜る音が、しばらく広い地面に響き続ける。その時、カレンはブレアの手に持っているものに気がつく。

「……それ、ドリトさんの階級章……」

「……ああ……あいつ、こっちに初めて来た時に、俺より偉くなっちまっててさ……」

「……」

「それでよ、色々と話したい事いっぱいあったのに、すぐ帰っちまって……だから俺、また会ったらもっともっと話したかったのに……」

 彼の目からは、次々と光るものが落ちてくる。

「なんで……なんでこんな、こんなにもあっさりとよ……」

「……ブレアさん」

 カレンがブレアの手の上に手を重ねる。

「あの、もし良ければ、もっとお2人とのお話を聞かせてもらえませんか?」

「……え?」

 ブレアは目を擦り、驚いたような顔をする。

「わたくし、ドリトさんの事をあんまり知りません。なので、ブレアさんにお話を聞きたいんです」

「カレン……」

「大切なお友達との思い出は、覚えててくれる人が多い方がいいですから。なので、話してください。わたくし、ブレアさんの口からお聞きしたいんです」

 重ねた手に、包み込むように更に手を重ねる。

「……そっか……ああ、そうだな。じゃあどっから話そうかな……」

 そうして、2人は空が星で満たされるまで語り合った。


翌日。レイダーズ本部、会議室。

「我々は今まで、『来訪者』に対して消耗戦を強いられて来ました。それは何故か……勿論、宇宙そらへの戦力が我々には無いからです。そこで、我々レイダーズは軍と協力し、無重力下に置いて充分に戦力足る『兵器』を開発するプロジェクトを開始致します。それは『レイダーアーマー計画』……レイダー専用の増強兵装、レイダーアーマーの開発をここに提示します」

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