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1日前。レイダーズ本部、渚の研究室。
「で、話って何よ。こっちは忙しいんだけど」
『ええ、それは勿論ご存知ですわ。『カウベル』の残党の企によりてんやわんやしているとか』
「あなた……そんな事どこで聞いたのよ」
『勿論、ハンスさんからお聞きしましたわ』
「勿論って……はあ。しかし、それを知ってあなたが何か出来るとは思えないけれど」
『そうお思いでしたら証明して差し上げますわ。わたくしが、あなた方の満足足る結果を成せると』
「どうやって?」
『ウフフ……それはその時のお楽しみですわ』
現在、レイダーズ本部付近、市街地跡地。
「……カルドネン……カルドネン・エラン!!」
レイダーズが『カウベル』の残党と激戦を繰り広げる中、突如上空からウィルソン財団の巨大輸送機『ブルーバード』が現れる。そして、その中から姿を現したのは、元『カウベル』のリーダーであったカルドネン・エランの乗る漆黒のアークレイダーだった。
『久しぶりだな、勇隊長』
「カルドネン……何故お前が財団の輸送機に乗っている。お前と財団との契約は自分で切った筈だ」
『再契約さ。あのお嬢さん、ミレーナ・ウィルソンは面白い人だよ。あの鬱陶しいエレナ・ウィルソンよりは従い心地が良い』
「ふっ、呉越同舟と言うヤツだな」
勇とカルドネンが予想だにしていなかった再会を語る中、事態を飲み込めないジェドが怒りに叫ぶ。
「ふざけるな!!なんでカルドネンがこんな所に出て来るんだ!!」
『ミレーナ嬢に頼まれてな。曰く、自分の汚した尻は自分で拭えと言う事だ』
「そうじゃぁない!!俺たちを捨てたアンタが!!どうしてノコノコ目の前に出られるんだと言ってる!!」
『金を積まれれば何処へでも付く。傭兵とはそう言うモノだろう?』
「違う……違う!!違う違う違う違うッ!!何もかもが違う!!そんな事は……そんな事は認めない!!オマエはカルドネンじゃない!!!!」
ジェドは全てを認められなくなり、怒り任せに拒絶を叫び続ける。
レイダーズ本部、発着場。
「やあっ!!」
カレンのストームレイダーが構えるパワーライフルから銃弾が放たれ、アルゴアーマーのワイヤーアームを弾き飛ばす。
レイダーズ本部では、『カウベル』の残党とレイダーズが未だ熾烈な戦闘を繰り広げていた。
「どうした?この程度じゃないだろう?キミの実力なら僕を打ち破ってみせろよ!!」
「うるさい!!」
尚もパワーライフルを放ち続けるカレンだが、その弾はアルゴアーマーの防御フィールドによって弾かれる。更に、ブレアのアークレイダーFの連携攻撃によりカレンの攻撃の手がなかなか続かない。
「ブレアさん!いい加減目を覚ましてください!!あなたは今こんな事をしている場合じゃないでしょう!!」
『……』
「無駄だよ!キミたちの声はもうブレアには届かない!!」
「そんな事はない!!ブレアさんは、真っ直ぐで優しくて、正直で……そんな人が私たちの声を聞いてない筈がないんです!!」
「希望論だよ!ただの悪あがきだ!」
「だからどうと言うんです!!ブレアさん!私はまだ、あなたの話したい事まだ聞いて無いんです!!だから……だから!!」
必死に呼びかけるカレン。しかし、ブレアはそれに応える様子はない。
「だから、無駄だと言ってるのに……」
相手の諦めの悪さに苦しい顔をするドリト。
だが、そんな激戦が続く戦場に、一刃の風が吹く。
『え、ええと……ほ、本当によろしいのですか、ミレーナ様?』
「ええ!着陸なさっちゃってくださいまし!」
『あーもう知りませんよどうなっても!!』
ヤケクソになった機長が、その青い巨体を戦地へと真っ直ぐに突っ込ませて行く。
それを見た一同は、突然の事に慌てふためいて引き金にかけた指を止める。
『なあぁっ!?かっ、かか各員退避いぃィ!!』
「なっ!?なんだありゃあぁ!?」
「ヤバいヤバいヤバいって!!こっちに突っ込んでくるよ!!!!」
その突飛な状況に混乱を極め、各々は戦闘も忘れ逃げ惑う。
『チィッ!た、ただの輸送機がなんだってんだよォ!!』
だがその中にひとり、向かっくる輸送機へと立ち向かう者がいた。
それは、レイダーの手に持った銃を輸送機へと向け、果敢にもそれを連発する。
『わわっ!?う、撃ってきましたよ!?』
「問題ありませんわ。このブルーバードはミサイルが当たっても穴ひとつ開きませんのよ?」
『だからって呑気に茶ァ飲んでる場合ですか!?てかこぼしますよ!?……ってそうじゃくて!!』
そうしている間にも、ブルーバードへの銃撃は続く。しかし、ミレーナの言うように機体には穴どころか塗膜の剥離すら起こる様子は無かった。
そして、傷ひとつ付かなかったブルーバードはそのまま滑走路へと車輪を下ろして突き進む。
『うわああぁぁ!!あの輸送機マジで突っ込んで来やがった!?』
先程まで射撃を行なっていたレイダーも、このままじゃ流石にぶつかると悟りギリギリで回避をする。
そして、戦場に立つ機影を掻き分けながらブルーバードは基地ギリギリまで幅を寄せて着陸停止をした。
『ひ……ひぬかと思っは……』
「あなた、自分の腕に自信を持ちなさいな。とても操縦がお上手でしたわよ?ほら、紅茶も一滴も溢れていませんでしたわ」
『は、はひ……』
あまりにも予想外の出来事に、先程までモニターから戦闘を眺めていた渚が基地の外へと飛び出して行く。
「ちょっとちょっと!これは何の騒ぎなのよ!?」
「あらあら、渚博士!実際にお会いなさるのは初めてですわね!」
ブルーバードからミレーナと、その後ろからフランクリン会長までもが一緒に降りて来る。
「いやぁー、こりゃとんだアバンチュールになりましたなぁ!!」
「オホホホ、いやですわ会長さん!わたくしたち、両陣の全国のコネクションを巡って飛び回っていただけですのよ?」
「いやぁー、そうでしたそうでした!!」
「コ、コネクション?いったい何の話をして……」
渚の疑問に、ミレーナは順を追って説明を入れる。
「まず初めに、ハンスさんのお話をフランクリン会長からお聞きした時に、わたくしピンと来ましたわ!これはもう、毒を以て毒を制すしかないと!だってそうでしょう?この事態は彼……カルドネン・エランが蒔いた種なのですから!」
「……ちょっと待って、あなたまさか……」
「ええ、そのまさかです!カルドネンを応援として雇いましたの!その為に獄中のお母様から心当たりを問い詰め、それを頼りに様々なコネクションを会長さんと協力して探し回っていましたのよ!!」
それを聞いた渚は青い顔をして頭を抱える。対してミレーナとフランクリンは相変わらずニコニコしている。
「いやー驚きましたよ!まさか全国のコネを探し回った結果、カルドネンの隠れ家から予備の機体まで見つけてくるとは!しかも本人を見つけるまでにかかった時間はたったの6時間!流石あのエレナ・ウィルソンの娘なだけはある!」
「褒めても何も出ませんのよ会長さん!オホホホ!」
「なに和気藹々としてるのよ!!とんでもない事してくれちゃって!!」
「あら?何か問題でも?」
市ってか知らずか……否、分かっていながらとぼけたように微笑み首を傾げるミレーナ。
「カルドネンは敵なのよ!?それをよりにもよって味方としてよこすなんてどうかしてるわよ!!」
「でも彼は傭兵としては優秀ですわ。少なくとも今回に関しては信頼して差し支えありませんのよ?」
「どうして言い切るの!」
「理由がありませんわ。そう、契約に反する理由が。逆に言えば、従っていればお金が手に入るという理由がありますもの。現にあの時も契約に従ってあなた方に牙を剥いたまでの事ですわね」
「そ、それは……」
ミレーナの言う事には一理ある。それが分かっている故に渚は言葉が出なくなる。
「ですので、今度はその牙をこちらの武器として利用させていただくという事なのですわ!オォーッホッホッホッ!!」
「……はあぁ。会長、あの子あなたに似て来たんじゃない?」
「いやいやぁ!それほどでも!!アッハッハッ!!」
「……はあぁ〜……」
もはや怒りを通り越して呆れ果てた渚は、海よりも深いため息を吐く。
そんなやり取りをしていると、ブルーバードからもう1人、車椅子に乗った人物が降り口から降りてくる。
その人物を見て、渚は今度は驚いたような顔をする。
「ああ、そう言えば彼もここに来ると言う事で、道中拾って来たんですのよ?その方が手っ取り早いでしょう?」
「……矢尾博士……」
一方先程まで騒然としていた戦場は、未だ混乱の中で右往左往としている様子だった。
『な、なんだったんだ今のは……』
『ええい知るか!とにかく体制を整え……』
しかし、その混乱がレイダーズにとって勝機となる。
残った敵兵力が戸惑いを見せていると、その横から突然弾が飛んで来て機体の頭部を破壊する。ハオのアトラスレイダーの放った渾身の一撃だ。
「油断大敵火器厳禁ってね!」
『ふざけんな!!それ火器だろうが!!』
それが目覚ましとなり再び戦場は波乱を巻き起こし始める。
「くっ!みんな落ち着くんだ!!」
静止を促そうと焦りを見せるドリト。しかしそれがブレアのコントロールを失わせ、アークレイダーFは無策で突っ込んで行く。
「ま、待てブレア!!僕の指示を聞いてくれ……!!」
「隙だらけなんだよォ!!」
ブレアを止める為に機体を動かそうとレバーを握り直すも、動きを止めた事が隙となり横から来た影……アルゴアーマーに乗ったアンナに動きを封じられてしまう。
「へっ!同じクソデカ同士なら、変な壁で弾かれないみてぇだなァ!!」
「なっ!?なんだお前は!!」
「アタシもアンタらの『お仲間』だよ!!だがここはアタシの居場所なんだ、残念だが邪魔させてもらう!!」
アンナのアルゴアーマーはドリトのアルゴアーマーを固く掴み離さない。その間にもコントロールを失ったアークレイダーFは相手構わず突っ込んで行こうとする。
「行かせない!!」
そしてそれを、カレンがワイヤーで捕まえて止めようと試みる。
「くっ!!」
しかし、アークレイダーFのパワーにストームレイダーは負けそうになる。それを、ワイヤーを巻き取りながら距離を縮めて掴んで動きを静する。
「ブレアさん!あなたはこんな事をするためにここに居るんじゃないでしょう!!」
『……』
「戻って来てください!!みんなが基地で待っているんです!!ハオさんもトードさんも、杉田さんやハンスさんも、渚博士に勇隊長だって……みんなみんな、あなたの帰りを待っていたんです!!」
「だから無駄だって言っているんだ……!!そんな事をしても彼は……!!」
「ブレアさん!私も……まだあの時のお礼だって出来てないんです!あの時……ブレアさんが助けてくれた事も、お花を摘んでくれた事も……!!」
一生懸命に声をかけるカレン。しかし、それを引き剥がす為にアークレイダーFはもがき、それによりストームレイダーは次第に傷つきボロボロになっていく。
「やめろ!彼には聞こえてないんだ……!!」
「あのマリーゴールド、押し花にしたんです……思い出を全部、大切にしたくて……」
『……』
「もうやめてくれ!!」
「だから……戻ったら、沢山お話しましょう……そして、もっともっと思い出を作りましょう……!」
「いい加減にしてくれよ!!!!」
それでも尚、ブレアへ優しく話しかけるカレン。それに剛を煮やしたドリトは、掴みかかるアンナのアルゴアーマーを力尽くで振り払う。アンナのアルゴアーマーは急遽組み上げさせられた為に、万全のドリトのアルゴアーマーに力負けしてしまう。
「なっ、しまっ!!」
「あああァ!!」
ドリトは冷静さを欠き、怒り任せにアルゴアーマーのアームを射出、そのままブレア機にしがみ付くカレンへと狙いを定める。
「カレン!!」
「カレンっ!!」
『……!』
その瞬間、カレンのストームレイダーは勢いよく吹き飛ばされ、アルゴアーマーのアームはアークレイダーFへと直撃する。しかし、アークレイダーFはそれを完全に体で受け止めてその場に止まっていた。
「ブレ……ア、さん……?まさか、意識が戻って……」
「そんな……あり得ない……!!」
(ああ、有り得ない……おそらくブレアは偶然カレンを振り払っただけだろう……)
そう思うトードであったが、彼自身もそれを信じたいが為に口には出さなかった。
それはドリトも同じであり、彼にはブレアの意識が突然吹き返したようにしか感じられなかった。そして、それが彼の動揺を誘ってしまう。
「ブレア……」
『……』
立ち尽くすアークレイダーFを、ただただ見つめる……。すると、ドリトは何かを思った様子で微笑む。
「そうだね……もう、こんな事はおしまいにしよう」
そう言うと、ドリトはアルゴアーマーのジェネレーターの回転を上げ出力を高める。
そして、両腕から放電シャフトを展開し、周囲に高圧の電気を放射……『エレクトリック・スパーク』を発動し、周辺の全機体の動きを停止させた。
「なっ!!」
「!!」
そして、ドリトはアルゴアーマーのコックピットを開いて、停止したアークレイダーFへと走る。それを見たカレンやレイダーズの仲間もアークレイダーF……ブレアの方へと駆ける。
「ブレア!」
「ブレアさん!!」
「ブレア!!」
「ブレア!!」
「おいブレア!!」
アークレイダーFのコックピットが開かれる。そこには、眠ったように意識を失っているブレアの姿があった。
「装置を稼働させる為には、常にレイダーの電源を入れる必要がある……だから、これで催眠装置は切れている筈なんだ……!」
「ドリトさん、どうして……」
「さあね……でも、何だか見ていらんなくなっちゃってさ……何でだろう、こんな事をしたのは僕なのに……」
そう呟くドリトの横顔を見て、カレンは思う。
「……それは、あなたがブレアさんのお友達だからですよ」
「僕……が?そんな……僕はただ、軍の内情を盗み見るために……」
「それでも、あなたはブレアさんを助けたんです。ブレアさんをこんな風にした、罪悪感があったから……」
「……そうかも……しれない。いや、そうじゃないかもしれないけど……」
すると、先程まで眠っていたブレアの目がゆっくりと開いていく。
「……っん……っ」
「終わった……ようだな」
「……」
再会後、特に世間話をするでもなくただただ黙っている矢尾と渚。彼らの目の前では、先程目を覚ましたブレアが救護班に運ばれて来る。
「ブレア……!」
「よぉ……博士……」
「ブレアくん……すまなかった」
矢尾がすれ違い様にブレアに謝罪をする。ブレアは微笑み返し、そのまま救護室へと運ばれて行った。
「……」
そして、それに付いていたドリトが矢尾の側まで歩いて立ち止まる。
「……矢尾博士、すみません。僕は……」
「何も言うな。キミは許されない事をした。しかし、私もキミに物を言えた義理ではないからね」
「……」
黙り込むドリトと、沈黙する矢尾。しかし、それでは渚は納得出来ない。
「ふざけないでよ!軍に『カウベル』のスパイを招き入れて、自分の作ったアルゴアーマーも奪われて、その上この基地も襲撃されて……!こっちは迷惑したってのに、あなたに責任の一旦が無いと思ってるの!?」
「……」
「何を黙ってるのよ!!私たちの前に今更現れて……あなたはいったい何なのよ!!」
「やめてください!!」
渚と矢尾の間に、花恵が割って入る。
「退きなさい。新人のあなたには関係ないでしょう!」
「ブレアさんは……ブレアさんは、2人の事ずっと気にしてたッス!2人に何があったか、確かに自分は全然知らないッスけど……こんな時まで言い争いだなんて、見てらんないッス!!」
「……」
花恵の言葉に冷静さを取り戻し、渚は口を噤む。そして、先に矢尾が再び口を開く。
「私は……僕はね、渚くん。キミにはずっと謝りたかったんだ。何も言わずにキミの前から消えた事を……」
「……」
「勇気くんが亡くなって、キミは取り憑かれたように研究にのめり込むようになった……更に、そんなキミにウィルソン財団は目を付けて、協力をするようになった。正直、僕はもうついていけなくなった……自ら滅びの道を進んでいるようで、見ていられなくなって……逃げたんだよ、僕は」
「矢尾博士……」
「だが、キミはレイダーを完成させ、十分に成果を上げた。驚いたよ、正直……。だからこそ、尚更キミに後ろめたさを感じたよ。キミを止められず、勇気くんの技術を兵器に使わせてしまった事をね」
「……レイダーは兵器じゃないわ」
「側から見れば立派な兵器だよ。キミは否定するだろうがね。だからこそ、僕はアルゴアーマーという『兵器』を作った。キミたちがもう、無理に戦場へと駆り出さなくて良いようにね」
「何よ、それ……つまり何、あなたは私たちの為にあんな、試すような事をしたって訳!?」
「キミを見限った手前、素直に協力を申し出る事が出来なかった。今思うと、こんな事になるのなら素直に話すべきだったよ……」
矢尾の告白を聞き、渚は首を横に振る。
「そんな……そんな事関係ないわよ!だって、だって……あなたは『カウベル』と何も関係無いのに……それに、私だって本心からあなたに責任を押し付けるつもりなんて……」
「つまり、お互いに意地を張ってたって事ッスね」
呆れたように花恵が占める。だが同時に、2人の雰囲気に和解を察し、どこか嬉しそうにも見えた。
「でもこれで問題はひとつ解決ッスね!あとは……」
「……勇、無事でいてよね……」




