BULLET
???
「『牛飼いのカルドネン』が機体を残しておいてくれて助かったよ。それに、キミが改修を手伝ってくれたのもありがたかった」
『例はいらない。俺はただ自分の手でアレを完成させたかっただけだからな』
「うん、そうだね……キミは凄くカルドネンに信仰深かったから……」
『それよりも、お友達の様子はどうだ』
「ああ……とても安定しているよ。機械で催眠を補助するなんて、やった事なくてちょっと手間取ってるけどね」
『やれてるならいい。とにかく、お前には期待しているんだからな、任せたぞ。では、通信を終了する』
「うん、分かった。じゃあね」
『……』
「……ごめんね、ブレア。でも僕には、今はこれしか無いんだ」
レイダーズ本部、渚の研究室。
『ドリトが……『カウベル』の残党……?』
渚、勇、ハンスの3人は、先程の出撃の詳細を矢尾博士へと報告していた。
「あなた、そんな事も分からないで部下に引き込んだ訳?」
「渚、奴は正体を隠して潜入していたんだ。分からなくても仕方ないだろう」
「分かるけど!それでも、迂闊過ぎよ……何せ、わざわざ敵をレイダーズ側に招き入れた事になるのよ!その上こちらの主力パイロットまで奪われて……納得しろって言うの……?」
『すまない……詫びの言葉も出ない』
「矢尾博士……」
一時、静寂が訪れる。渋い顔をする一同だったが、ため息の代わりに咳払いをしてハンスが口を開く。
「ま、今は言い争っても仕方ねぇだろ。とにかく今は問題の解決をだな……」
『それに関しては引き続き我々に任せてくれ』
再び矢尾が答えるが、やはりそれに渚が噛みつこうとする。
「あなたまだ……!」
『私自ら日本に赴こう。それまではアルゴアーマー本格実用計画に関しては代理に任せる』
「っ……」
「そこまで責任を感じてる、ってこったな。まあそこんとこは許してやれよ」
ハンスの言葉に、流石に渚も折れるしか無かった。
「……はぁ、仕方ないわね。その代わり他人の家でデカい顔して威張らないでよね」
『努力しよう』
「そこは素直に了解しなさいよ」
翌日。レイダーズ本部裏、菜園。
菜園では、ジュウォンの手伝いでカレンとアンナが野菜の採取作業を、トードとハオがその野菜の回収運搬を行っていた。
「カレン、それ持っていくね」
ハオがカレンに声をかけるが、返事はない。
「……カレン?」
「えっ?あ、はいっ。どうされましたか?」
ようやくハオの声に気が付くカレン。その顔は笑顔と呼ぶにはどこか不恰好で、側から見ても作り笑いだと分かる。
ハオはしばらくその顔を見つめながら何かを考えていると、目線を合わせるように近付く。
「ねぇ、カレン」
「?」
カレンがきょとんとしていると、ハオが突然その両頬を叩いた。
その大きな音がハウスに響くと、それに驚いた3人が振り返る。
「おい、どうした!ってハオ、何やってるんだよ」
「ねぇカレン。目、覚めた?」
カレンの目をじっと見つめるハオ。困惑していたトードは2人の間に入ろうと野菜の籠を置いて駆け寄る。
「ハオさん……」
「カレン……前にこうやって、私を励ましてくれた事あったよねっ。あの時の事、本当に感謝してるんだ」
「お前がか?お前が落ち込んでる所なんて見た事ないぞ」
信じられないというようにトードがわざとらしく疑いの目を向ける。
「おやぁ〜誰のせいでそんな事になったと思ってるのかなぁ〜」
「……えっ、俺?あっ……俺のせいなのか?」
「そうだよこのおたんちん!めちゃめちゃ凹みまくったんだかんね!!」
ハオはふざけ混じりにトードの鼻を強く摘む。
「いでででで!やめろよおい!ハオ!!悪かったって!!」
「や〜め〜な〜い〜!!」
「……ぷっ、ふふっ」
2人のやり取りを見て、カレンがつい吹き出してしまう。
「カレン、やっと笑った!」
「ふふっ、すみません。ついつい……」
一頻り笑い、それから落ち着きを取り戻したカレンは、それからゆっくりと胸の内を語り始める。
「わたくし……本当は皆さんとはある程度距離を保つつもりでした。『その時』が来たら辛いのは、知っていましたから……。でもここは、思ったより居心地が良かったんです……だから、仕事を言い訳に使う時もありました……」
「……でも、本当は違うんじゃない?」
ハオの言葉に、カレンは小さく頷く。
「皆さんも、ブレアさんも……そんな私を仲間だと言ってくれて、嬉しかった……。だからこそ、ブレアさんが居なくなった事が……こんなに、辛いんです」
「そうだね。トードが居なくなった時、私も辛かったからよく分かるもん」
「……」
俯くカレンを2人が見つめる。そんなカレンに、ハオが優しく肩に触れる。
「だからね、絶対にブレアを連れ戻して、笑顔で迎えよう!営業スマイルじゃなくて、本当の笑顔でね!」
「……そうですねっ」
カレンは、不恰好でもなんとか笑顔を作って応える。その笑顔は、先程のような辛さを隠すためでは無い、心から笑いたいと願う笑顔であった。
レイダーズ本部、整備ドック。
「しっかしよぉ、野晒しが嫌だからってこっちのスペースに詰めないで欲しいよなぁ!」
格納庫では、杉田を中心に整備員たちが今日も今日とてレイダー及びその武装の整備を行なっていた。それは、例えどの様な状況であっても変わらない日々である。
「わっ!なんすかこの部品!!」
「ああ、こりゃアルゴなんとかのパーツだそうだ」
「何でまたここに……」
「軍の物資の置き場が狭くなったから避けてんだと。ったく、予備部品でさえこんだけデケェと整備の手間もハンパじゃねぇだろうによ、軍のヤツらもご苦労なこったぜ」
「これ……全部寄せ集めたら1機分組み上がりますよね?」
「へっ、誰が乗るんだよ」
「ですよねぇ〜」
冗談ぽく笑う杉田と整備員だったが、ふとある事に気が付く。
「……あれっ、そういや花恵ちゃんは?」
「あー……そういや珍しいな、あの子が来てないなんて」
レイダーズ本部、物資搬入口前廊下。
搬入口の前では、軍の作業員たちが、先日搬入されて来て運びきれなかった荷物を運んでいた。
「はぁ……何で昨日の荷物が残ってんですかね……」
「仕方ないよ、アルゴアーマーってデカいもん。整備の日数も荷物を運ぶ暇も足りないんだから」
数人の整備員が参っている中、ジェドも僅かに息を切らしながら荷物を運んで行く。
そこに、花恵が歩いてやって来る。
「ジェドさん!」
「花恵ちゃん、どうしたんだい?」
「えと、ここに居ると思って来たんスけど……ちょっと頼みがあるんス」
そう言って、花恵はゆっくりと近付く。
「その……アレを、見せて欲しいッス」
「アレって、何を?」
「アレ……ってのは、その……じゅ、じゅじゅじゅ銃ッス!!」
その言葉を聞いたジェドと作業員たちは、一瞬戸惑うも冷静になって聞き返す。
「いいけど……何でそんなにキョドってんの」
「いやだだだだって本物の銃ッスよ!ナマで見れるチャンスなんてレレレレアじゃないッスかあぁ!!」
「……マニアなんだね」
うっすらと呆れつつも、ジェドは懐から銃を取り出して花恵に見せる。それは、所謂軍用のM9と呼ばれる一般的なものであった。
「危ないから触らないようにね」
「……あっ、ありがとうございます」
「?」
花恵から返ってきた返事は、意外にもあっさりとしたものだった。
ジェドは不審に思いつつも、その銃を懐に戻そうとするが、そこにもう1人の人物が現れる。
「よっ、お疲れさん」
「なんだ、ミラ少尉か」
ミラは花恵の横に着くと、銃を手にしたジェドの方を見て話に混ざる。
「ほう、気前良いねぇ」
「気前も何も、普通だよこのくらい」
「じゃあさ、そっちの方も見せたらどうだ?その作業着の中のヤツをよ」
ミラはジェドの胸の方を指差す。その指の指す方、ジェドの服の内側の不自然な膨らみを……。
「……ああ、これか」
そう言ってジェドは、作業着の内側からもう一丁の銃を取り出して、その銃口花恵に向けた。
そして、それと同時にミラもジェドに銃を向ける。
「……危ないって、言ったじゃないか」
「それ……オーストラリア産の銃、それもアメリカ軍じゃ採用してないタイプッスね」
「やっぱりマニアなんだ……でもどうしてかな?キミは銃に注目していたけど」
「……カレンさんが見ていたッス。軍の人たちの銃を……」
数日前。
「……これって……?」
花恵の部屋で化粧直しをしていたカレンは、つい肘に当たって落としてしまった本のページが目に入った。
「あっ!これはその、趣味と言うッスか……その、自分、ロボットとかアニメとか、ミリタリーにも興味があったりなんかして……」
照れながらも正直に話す花恵だったが、カレンはまだ乾いていないマニキュアを気にしながらも、気になったページを指差す。
「ここ!ここです!!」
「えっ、な、なんスか?」
「この銃……わたくし、見ました!確かあの日……軍の人たちが初めて、アルゴアーマーを見せにこちらに来た時に!!」
「えっ!?でも……こんな銃、アメリカ軍が使ってる訳が無いッスよ……!」
「……これは、気になりますね……」
「……ふーん、成程。つまり、そんなバカみたいなヘマをしたゴミがうちに居たんだ」
ジェドのその冷たい声を聞いて、1人の作業員が突然うろたえ始める。
「いや、その……ち、違うんですよジェドさん……」
それを聞いたジェドは、一瞬も迷わずその作業員の腹部を打ち抜く。
「ッあァッ!!」
「……えっ」
花恵は暫し困惑し、頭が真っ白になる。目の前で人が撃たれた事によるショックと、それを理解するまでのタイムラグ。しかし、目の前に広がる赤い水溜りは嫌でも彼女に事実を突き付けてくる。
「テメェよぉ!マヌケカマしてんじゃねぇよ!!」
「あ……う……」
その、撃たれた作業員の顔から血の気が引いていくのを見て、流石に状況を全て理解する。
「あっ……あぁっ!!いやぁッ!!」
花恵は気が動転し、震える足でこの場から逃げようと試みるも、ジェドの威嚇射撃により道を封じられる。
「テメェもよぉ……銃向けられるとかちった考えねぇのかよ……?」
「あ……」
「おーおー随分と引き金が軽いじゃねぇかヌケサクがよ。そんなバンバン撃ちまくってよぉ、人が来るとか考えねぇのかよ」
尚も銃口をジェドに向け続けるミラが煽る。その言葉の通り、銃声を聞きつけた数人の人員が何事かと嗅ぎつけて騒いでいる。
「……それがどうした」
「あんまり悠長にしてると足元掬われるッてんだよ!」
「……なるほど、一理あるかも知れないな」
ジェドはそう言うと、銃の引き金にゆっくりと指をかける。
「おいテメー!下手に動くんじゃねぇ!!」
「無駄だよ。キミは撃てない」
「あ?」
次の瞬間、引き金は引かれて三度銃声が鳴り響く。
レイダーズ本部、仮設整備ドック。
「おいおい!いったい何事だってんだよ!!」
先程の銃声を聞いたレイダーズと軍の両者整備員たちは、状況を知る為に各々が各々慌てふためいていた。
そして、その群れを掻き分けてジェドがアルゴアーマーの仮設ハンガーへと飛び出して行く。
「おいジェド!いったい何を」
「消えろ!!」
「な……!!」
目の前に偶然立っていた軍の整備員の頭を撃ち抜く。そしてそれは叫びを上げるより早く地へと伏す。
そして、即座にアルゴアーマーに乗り込むと、コンソールの下側のカバーを蹴破って、そこにUSBメモリを差し込む。
「生体認証の書き換えなど造作もない」
アルゴアーマーの生体認証の書き換えが完了すると、ジェドは首の後ろに付いているN.L.アダプタをコックピットシートに接続し、アルゴアーマーを起動させる。
「全て……壊してやる。ははっ!」
レイダーズ本部、物資搬入口前廊下。
『緊急事態発生!何者かがアルゴアーマーを無許可で起動!パイロットは至急状況を確認せよ!繰り返す……』
基地内にアラートが響く。それを聞きつけ、レイダーズのパイロットたちが格納庫へと駆けつけていた。
その道中……先程の発砲事件の惨状が目の前に広げられていた。
「イヤぁっ……!ミラさんっ……!!」
レイダーズが道を急ぐ中、鳴り響くアラートに混じり花恵の泣き叫ぶ声が聞こえる。
カレンたちはそれに気付くと、声のする方へと駆け寄る。
「花恵さん!いったい何が……」
「イヤぁ……」
レイダーズの目の前には少数の人だかりと、赤い海の中で倒れる2人……1人は軍の作業員、そしてもう1人はミラだった。花恵はそこで、意識の薄れていくミラにしがみついて泣いていた。
「あれ……ハナちゃんが3人に見えるな……ハーレムじゃん……」
「ミラさん、喋らないでください!」
「カレンちゃんまで……はは、天国かよ……」
「いいから黙って!!」
カレンの叫びに周囲が驚く。しかし、事態が事態であるためトードが割って入り急かす。
「おいカレン!この状況は俺でも放って置けないのは分かるが、今お前の役目は別にあるだろ!!ここでモタモタしてるつもりか!」
「でも!!」
そうしている間にも、ミラともう1人の出血は酷くなっていく。
「……花恵さん、何してるんですか!こんな所で何泣いてるんですか!!」
「うぅ……」
「花恵さん!!」
「カレン」
焦るカレンに、勇が静かに語りかける。
「……お前は残れ。ここで彼らの介抱を行ってくれ」
「隊長!?いったいどう言う……」
「彼らは急所を撃たれていない。今からでも応急処置を行えば助かるだろう」
「そうじゃなくて!この状況で今戦力を1人失うのはマズいのではないですか!?」
「……お前は、そんなに自信が無いか?」
「……は?」
挑発するようなその一言に、トードの目が急に鋭くなる。
「まあ仕方ないか。入隊したての頃よりもかなり丸くなったからな、あの頃の剥き身のナイフのような鋭さは……」
「……やってやるよ。やりゃいいんだろ」
「……ああ」
勇はニヤリと笑う。
「ハオ、お前は1人で出撃しろ。俺はオーバーホール中のバスターレイダーで出る。……俺の補助無しでも出来るな」
「好っ!無問題、勿論だよ!」
「2人ともその意気だ。行くぞ!」
そうして3人はハンガーへと駆けて行った。
それから3人を見送ったカレンは、再び花恵に向き直って呼びかける。
「……花恵さん、こんな状況で気が動転しているのは分かります。でも泣いてばかりでは何も変わりませんよ」
「……」
しかし、花恵の涙は未だ止まらない。カレンはそれを見兼ね、その頬に平手でキツい一発を見舞わせた。
「目は……覚めましたか?」
「……っ、はいっ」
「事情は後で聞きます。とにかく今は2人の応急処置をしましょう」
「わっ……わかり、ました……」
そして2人は素早くミラと作業員の応急処置を行なっていく。それを呆然と見守っていた周りの人だかりにも、カレンは呼びかけをする。
「あなたたちも、見ている暇があったら手伝ってください!!」
「お、おうっ!!」
レイダーズ本部、整備ドック。
格納庫では、既に各レイダーの発進準備が殆ど完了していた。しかし、ハンガーに着いたレイダーズはそこから更に注文を付ける。
「杉田さん!オーバーホール中のバスターレイダーを出してくれ!!」
「は!?おいおいアレを出すとなると微調整が……」
「いいから!!早く出せよ!!」
「杉田さん!アトラスレイダーにありったけの銃火器を付けて!!もうめちゃ盛りでね!!」
「おいハオまで……!こういっぺんに聞ける訳ねぇだろがよ!!」
「杉田さん、俺はもう出る」
「勇まで……ん?いや、いいのか別に」
「俺が先に出て時間を稼ぐ。その間に杉田さんたちは準備を頼むぞ」
「たぁくよ、無茶言いやがるぜ……」
悪態を吐く杉田だったが、そう言っても聞かんと知り即座に準備に取り掛かる。
「お前ら!さっさと準備済ますぞ!!ガキンチョ2人も手伝え!!」
「ああ!!」「うん!!」
そうして彼らは2機のレイダーの出撃準備を進める。その様子を見送った勇は、愛機グリフィンレイダー改へと乗り込み発進させる。
「玉置勇。グリフィンレイダー改、出撃るッ!!」




