FANG
日本某所、市街地跡地。
逃走したTEの撃墜を支持された関東地域管轄である本部のレイダーズたち。しかし、彼らが目にしたものは逃亡したTEなどではなく、それを倒したたった1機の白銀のアークレイダーであった。
「お前は……お前は何者なんだ!」
困惑から身動きが出来なくなってしまうレイダーズ。しかし、所属不明の相手のレイダーはゆっくりとこちらへと向かってくる。
「隊長、来ます!」
「見れば分かる!」
迫り来る謎めいた存在に身構える一同。それを見て戦意があると認識したのか、その白銀のレイダーも同様にクローを構える。
「コイツ、やる気か!」
「慌てるな!こちらの動きに反応しただけだろう。下手に刺激しなければ、恐らくは……」
そう言いつつも内心では不安を感じていたが、勇は慎重に相手にコンタクトを試みる。
「こちらはレイダーズ所属の実働部隊だ。そちらの所属及び目的を聞きたい」
スピーカーで相手に呼びかける勇。すると、一瞬相手の機体が反応する。
「声は聞こえるようだな。繰り返す、そちらの所属及び目的の開示を求める」
尚も呼びかけを試みる。それに対し、相手は再び反応を見せる。
『モク……テキ……』
その声は激しくノイズがかっていたが、言葉である事はハッキリと聞き取れた。しかし、その様子は至って正常と言えるようには感じられなかった。
『モク……テキ……ハ……』
「おい、どうした……!」
突然、不明なノイズと共に相手の機体がガタガタと震え出す。
『モク……テキ……ハ……テキ……ハ……ハ……ババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババ』
そして……それは突然、猛スピードで勇のグリフィンレイダー改に襲い掛かる。
「ッ!?」
「隊長!!」
「隊長っ!!」
「勇隊長!!」
「おい!駄目だったじゃねぇかよ!!」
ミラは慌ててアルゴアーマーを動かす。しかし、相手のレイダーは勇のレイダーを蹴り飛ばすと、瞬時に身を翻してアルゴアーマーを軽々と飛び越えた。
「なっ!?速ぇ!!」
「この動き……まるで獣だ!!」
「やはりあの機体、V.N.L.S.を搭載しているのか……!しかしこの動き……カルドネンとはまた違う!!」
その機体は着地すると同時に、再び狙いをグリフィンレイダー改へと向けて飛び掛かる。それに即座に対応し、勇もムラマサを引き抜いてクローを防ぐ。
「くっ!!」
「コイツ!完全に隊長を狙ってやがる!!ハオ!!」
「分かってる!!」
トードは勇を援護するためにハオにアトラスレイダーを向かわせるように指示をする。しかし、アトラスレイダーのナックルパンチは素早くかわされ、再び距離を取られてしまう。
「軽率に踏み込むな!」
「しかし……!!」
トードが答えるや否や、敵は後退した距離のままでクローを射出させ、アトラスレイダーへと飛ばす。その勢いは凄まじく、重鈍なアトラスレイダーの機体でさえ弾き飛ばされてしまった。
「グッ!!」
「きゃァ!!」
「ハオ!!トード!!」
思わずアトラスレイダーが吹き飛ばされた方向を向いてしまう勇。その隙を狙い尚も敵機はもう片方のクローを飛ばしてくる。
「油断してんじゃねぇ!!」
それを、咄嗟の判断でミラのアルゴアーマーの射出したクローが弾き飛ばす。何とか攻撃を防ぐ事は出来たものの、弾き出されたアルゴアーマーのクローの飛距離が敵機のパワーを物語る。
「チッ、アルゴアーマーじゃデカ過ぎて間合いに詰め寄り辛い!!」
「無理して近距離に持ち込む事は無い!その調子で後方から支援してくれ!!」
「うるせぇ指示すんな!と言いたい所だが、文句も言ってられねぇよなぁ!」
敵はクローと腕を繋ぐワイヤーを巻き取ると、再び両腕のクローを射出させて、それを振り回しながら飛び上がる。
「くっ、マズい!!」
身構える勇。その間もクローを振り回しながら飛び込んでくる敵機に、今度はカレンのストームレイダーが立ち向かう。
「させません!!」
カレンはパワーライフルの狙いを付け、飛び込んで来る敵機へと次々に打ち込む。打ち込まれた弾丸は全て命中するが、吹き飛ばされた敵機は何事も無かったかのように地面へと着地する。
『キ……クキキ……』
敵機はその場で両腕のクローのワイヤーを巻き取ると、まるで息を整えるかのような動作をしながらこちらを睨む。
「これは……なかなか厄介な相手ですね……」
「ああ……こんな相手は初めてだ。まるで予測出来ん」
今までにない敵の動きに翻弄されるレイダーズ。彼らは次の一手に備えるために再び構えの体制に入る。
すると、敵の動きがまた先程のようにガタガタと苦しそうに震え出す。
『ア……ガ……ガガガガガガガガガガガガ』
「んだあのクレイジーマシーン、様子がおかしいぜ!!」
「様子はさっきからずっとおかしいんだよ!」
「いえ、今度はまた何か違う様子ですよ!」
カレンが言った通り、敵機の動きが再び変わり、パイロットらしき人物の言葉がノイズ混じりに紡がれ始める。
『オ……レハ……オレ……ハ……』
「何だ……!お前は……!!」
『……イ……サミ……イサ……ミ……!』
「!!俺の名を……!?」
勇はその予想外の言葉に戸惑うも、敵パイロットは尚も言葉を紡ぎ続ける。
『イ……サミ……イサミ……!ア……ッ……ガガッ……!!サム……ッ……アァッ!!ナンデ……ナンデ、イサミ・タマキ……!!オマエガ……隊長ニ……!!』
その言葉を聞いて、勇は顔をみるみる青くして行く。
「お前……まさか、ブレア……なのか?」
「そう、彼はブレアだよ」
「!?」
突如、聞き覚えのある声で通信が入る。
「ここだよ、キミたちの真上だ」
それを聞いて一同が上を見上げると、間近の建物の上に1機の試験型アルゴアーマーが立っていた。
「ドリト……お前!!」
「やあ、イサミ隊長。御気分はいかがですか」
「悪いと答えれば気が済むのか……!!」
怒りに手を震わせながら叫ぶ勇。その横で、カレンのストームレイダーがパワーライフルをドリトのアルゴアーマーへ向ける。
「今すぐブレアさんを元に戻してください。そうすれば身の安全は保障して差し上げます」
「それは出来ない。彼は我々にとって重要な切り札になるからだ」
「我々……とは、他に誰か仲間がいる、と?」
「……『カウベル』さ」
「!!」
その名を聞いた瞬間、一同は顔付きを険しく変える。当たり前だ、『カウベル』は自分たちが解体まで追い込んだ筈なのだから……。
「まあ、今は残党しか残っていないけどね。僕はね、『カウベル』の諜報員としてずっと軍に潜入していたんだよ」
「ドリト……お前が、どうして……本当にお前は『カウベル』なのか……!!」
「……悲しいね」
ドリトは勇の言葉にぽつりと声を溢す。
「おいクソ野郎。今ブレアはどういう状況なんだ!何故勇隊長にここまでの憎悪をぶつけている!」
今度はトードが疑問を投げかける。
「彼は今、一種の催眠状態に近い状況にある。V.N.L.S.……Variable Nerve Link System、その効果によって、身体の感覚を一部機体にトレースする技術を逆利用して、彼の脳神経にアクセスして操っている」
「何だと!?」
「無論、完全に意のままに操れる程の技術は持ってないよ。だから、一部認知の強弱を変えただけさ。僕への信頼と、イサミ隊長……あなたが彼に、ブレアにかつて植え付けた不信感をね」
「何という事を……!!」
「許せない……」
驚愕に打ち震えるトードとハオ。
そこにいきなり、ミラが耐えかねてドリトに向けてアルゴアーマーの左腕の砲弾を放つ。しかし、それはアルゴアーマーの纏う防御フィールドに弾かれる。
「んな事ぁどうだっていい。テメーが敵ってんなら今ここで堕とす!!」
「それはいい、悪くない選択だ。その瞬間、このアルゴアーマーと連動してブレアのアークレイダーFは自爆するけどね」
「……チッ、徹底したクズが」
ミラは大人しくアルゴアーマーの腕を下ろす。
「これで分かっただろう?今のキミたちには僕らに手出しは出来ない。分かれば大人しく基地へと戻るんだ」
「いいえまだです!自爆装置ならハッキングでどうだって出来ます!」
「それをした所でブレアが戻ってくる事は無いよ。彼はもう……我々の手の中にあるのだからね」
そう言ってドリトはレイダーズから背を向ける。
「戻ろうか、ブレア。催眠装置の再調整が必要だ」
『……』
「ブレアさん!行かないでください!!」
ドリトの呼びかけを聞いたブレアは、カレンの言葉も聞かずにアークレイダーFを高く飛び上がらせ、レイダーズの前から姿を消す。
「待って……ブレアさんっ!!」
レイダーズ本部、整備ドック。
「……」
「……」
先程の出撃から数時間後、レイダーズに漂う空気は益々重く沈んでいた。
行方をくらました仲間との、望まない形での再会。そして、届かない思い……それは彼らの心に大きな爪痕を残すには充分だった。
「ブレアさん……」
「……チッ」
重くのしかかる空気に耐えかねたミラは、ヘルメットを強く床に叩きつけてこの場を後にする。
レイダーズ本部、廊下。
やるせ無い気分が晴れないまま、ミラは何処へ向かうでもなくただ基地の中を歩く。
するとそこに、せかせかと花恵がミラの方へと走ってくる。
「あっ、ハナちゃん……」
「あっ、あの、ミラさん!戻って来たと聞いて探してたッス!!」
「うん……でも今ちょっとそんな気分じゃ」
「あのっ、ミラさん!その……アレを、見せて欲しいッス!!」
「……えっ?」




