BEAST
レイダーズ本部、会議室。
ブレアの失踪から3日。慌てふためくレイダーズに、突如矢尾博士から一報が入る。その内容は『アメリカ軍所属の、アルゴアーマーのメインテストパイロットであるドリト少尉が失踪した』というものであった。
「でもそれって、かなり妙じゃない?別の場所に居た、顔の知った人物が同時期に失踪なんて……」
『双方の事柄には何かしら裏があるのは想像に難くないだろう。しかし、要因が分からない……』
困惑する渚と矢尾。その空気の重さを表すかのように静まり返る部屋に、再び矢尾の声が響く。
『とにかくだ。ここは我々から調査員を派遣して捜索を行う。ブレアくんの事は任せて、君たちは自分たちの事に専念してくれ』
その言葉を聞いて、渚は立ち上がりマイクに向かって突っかかる。
「勝手に決めないでよ!こっちの事情はこっちで解決させてよね!!」
『だが3日間何も解決していないのが事実だろう。ここは我々に任せた方が得策だと思うが?』
「任せろって……あなたはずっとそうやってこっちの事情なんて気にしないで一方で決めるじゃない!レイダーズだって、現状あなたの下で操られてるようなものよ!!」
『今はその話は関係ないだろう』
「いいえ言わせてもらうわ!あなたは我々の前から勝手に居なくなって、勝手に戻って来て全部滅茶苦茶にして……何がしたいのよ!!」
渚の叫び声が響いた後、暫しの沈黙。そして、再び矢尾の口が重く開く。
『……ともかく、今は我々に任せてくれ。その間キミはゆっくり頭を冷やしたまえ』
その一言を最後に、通信は切られてしまった。
「ッもう!!」
渚は行き場のなくなってしまった怒りをマイクに込めて、デスクに強く叩きつける。
「……」
一同が黙り込む中、ただ1人勇は何かを思案していた。その様子を見たハンスは、彼にその考えを問う。
「なあ、お前さん何を難しい顔をしているんだ?」
「……ヤツらの意図を解くために、一通り整理していたのだが……何故、ブレアだったんだ?」
「……何が言いたい?」
その言葉にハンスは疑問を投げかけると、それに対して勇は自らの考えを述べる。
「ヤツらは直接コンピューターにアクセスして監視カメラのデータを消した。と言う事は我々の内部事情に精通する者の仕業だろう。ヤツはその為に計画を立てて潜入した……いや、今もまだ本部に居るのだろう。居なくなったのはブレアだけなのだからな」
「!!」
勇の考えを聞いて、ハンスだけではなくその場に居た者たちは響めく。
「じゃあ……誰がブレアを連れ去ったってんだ!?」
「そこまでは分からない。だが、少なくともブレアは生きているだろう」
「何故分かる?」
「殺すだけなら死体を残せば手間は掛からない。だが、生かして連れ去ったからこそここまでの手間を掛けたんだろう。希望的観測も含むがな」
それから勇は一旦考える時間を挟んで、更に推察を続ける。
「だがそれなら何故ブレアを連れ去ったんだ?もし誰にも気付かれずに人1人を連れ去る事が出来るのなら、渚とかの重要な人物の方が手っ取り早いだろう?」
「それは……そうだが」
「それに……俺にはこの事件が『カウベル』案件とダブってならない。パイロットを拐うというやり口が既に経験に新しい出来事だ」
「なっ!?勇お前……」
ハンスがギョッとして一度言葉を詰まらせるが、意を決したような声でゆっくりと聞き返す。
「……『カウベル』はもう解散した筈だぞ?それとも何か?ヤツらはまだ残存していて、いつか徒党を組んで攻めてくるってか!?」
「そうとは限らないが、無いとも言い切れない。どちらにせよ、俺の言った事は全て推察に過ぎない。妄想と言われれば尚の事だ。だが事実3日経っても要求がないという事は、ヤツの目的はブレア自身を連れ去る事そのものであるという事だろう」
「だとしたら、もしそうだとしたらだ!連れ去るんならお前でも良かったんじゃないのか?ブレアに実力があるとは言え、側から見りゃただのルーキーだろう!」
「側から見れば、なら……やはり内部事情を知る者だろうな。それに俺が狙われなかった理由だが、結局はどう考えても問題には繋がらなかった」
「……」
一通り推察が述べられた後、再び静寂が会議室を満たす。
翌日、レイダーズ本部、整備ドック。
レイダーズ本部では、相変わらず険悪な空気が漂っていた。
その中でも、レイダーズと軍のパイロット同士の隔たりは目立っているようにも見えた。その要因として、トードとミラの不仲が中心にあるようだった。
「……」
「トード」
無言で、黙々と整備作業をしているトードの後ろからハオが両肩に手を付き寄りかかる。
「……なんだよ」
「ミラさんの事、まだ怪しいと思ってる?」
「いや、怪しいとかそういうのは正直どうでもいい。疑わしいのは、俺含めここに居る誰にでも当てはまる問題だからな……」
「じゃあ、どうしてそんなに気に食わなの?」
「あの女が他人の家でデカい顔してるからだ!アイツだけじゃない、ここには軍のシロアリどもが群がって柱を食い破ってやがるんだ!!」
思わず感情がこもり大きな声が出てしまう。その場に居た整備員たちはそれに驚き一瞬振り向くが、一拍置いて再び作業を始める。
しかし、ハオは動じずに言葉を返した。
「……それって、地球を守る事より重要な事?」
「そんなの、言われなくても分かっているつもりだ。それに……心配しなくても戦闘になったら割り切るさ」
トードはため息を吐きながら文句を言う。
「そっか」
「……なんだよ」
「何もー。ただ、このままギスギスし続けるのかなぁって」
「あっちがそのままの態度なら、そうなるかもな」
「……ミラさんってさ、そんな悪い人じゃないと思うんだけどなぁ」
それを聞いて、トードは予想外だと言う風に驚く。
「はあ?なんだそりゃ!あのクソ最悪な性格のどこが!」
「性格についてはお互い様だと思うけどなー」
「そ……っ、それは否定出来ないけど……」
「分かってるなら仲良くしなきゃ、ね」
ハオは顔を覗かせて笑って言う。
「……はあ、ハオはそうやってずっとバカに前向きだから、俺は勝てた試しがないんだな」
トードは諦めたように苦笑いをする。ハオもそれに釣られて笑う。
同時刻。レイダーズ本部、シャワー室前。
「いやぁ〜、やっぱ朝シャワーよ!」
シャワー室から、シャワーを浴び終わったミラが出てくる。
そこに、タイミングを見計らったように花恵がせかせかと駆け寄ってくる。
「あっ……あのっ、ミラさんっ!!」
「えっ!?ハハハハナちゃん!?」
ミラは突然の予想外の訪問に戸惑う。それはもう目玉だの心臓だのが飛び出るかと思うくらいに、とてつもなく動揺していた。
「ちょちょちょちょっと待ってねぇ今シャワー浴びたばっかりでまだメイクとか全然してなくって……!!」
「じっ自分!ミラさんに聞きたい事がっ!!」
花恵が何かを聞き出そうとしたその時、基地内に警報が鳴り響く。
「!!」
『警戒レベル2発令。管轄外で行われた作戦区域から目標が逃走。至急、管轄内に逃げ込んだ敵残存兵力を撃墜せよ。繰り返す……』
その警報を聞いて、ミラは心底残念そうな表情をする。
「あー、ごめん!めちゃくちゃお話したいんだけど行かなくちゃ!話だったら、後で絶対聞くからね!!」
そう言いながら、ミラは簡易整備ドックへと真っ直ぐに駆け抜けて行った。
「あっ……き、気を付けてぇ……って、足速っ」
日本、関東上空。
レイダーズと軍の一同は、距離を考慮して輸送機に揺られながら現場へと向かっていた。
その間も、尚も空気はピリピリしている。
「……」
そんな静寂も気にせず、ふとミラが口を開く。
「しかしよぉ、TE退治のプロフェッショナルが取り逃がすかねぇ。現場は何してたんだよ」
その言葉が気に障ったのか、トードがミラを鋭く睨んで口を出す。
「言葉に気をつけろよ筋肉クソ女。俺たちは命懸けで戦っているんだ、だからこそこうやって押さえきれなかった分をフォローするんだよ」
「でもそれって、燃料の無駄じゃねーの?そのまま追って倒せばよくねぇか?」
それを聞いて、不意にトードが怒りから立ち上がる。
「お前はッ!他人の居場所に土足で踏み込んでズケズケと物言ってんじゃねぇよ!!」
「ちょっとトード!こんな時まで!」
突っかかろうとするトードをハオが止める。ミラはそれを横目に口を開き続ける。
「ただ小言言っただけだろ。お前はアタシらに噛みつきてぇだけじゃねぇかよ」
「何を!お前こそ俺たちの何が気に食わないんだ!!」
トードの怒りだけが輸送機に響く。それからしばらくして、ミラがひとつため息を吐いて頭を軽く掻く。
「……アタシはよ、思った事は全部隠さずに口に出すようにしてんだ。どうも遠慮とか忖度なんてのは苦手なんでな」
「……だからどうした」
「それこそ、信頼を寄せる仲間には特に、だ」
「……はぁ?」
予想外の言葉に一瞬固まるトード。しかしミラは尚も話を続ける。
「アタシはただ、信頼したい奴に遠慮して何も言わないくらいなら、グチだろうが嫌味だろうが言いたい事を包み隠さず吐き出す主義なだけだ。まあ、全く理解されないけどな」
「ええと……つまり、お前はただ性格が最悪なだけで悪気はないと???」
自分でも何を言っているのか分からず戸惑うも、トードはなんとか頭を整理する。
「ま、だいたいそう言うこったな。てかこの話前にもしたな」
「したって、誰に……」
『もうすぐ作戦予定地に到着する。各員、準備をするように』
輸送機の機長のアナウンスが機内に響き、会話が途切れる。しかし、機内の誰もがその内容について、口にしなくても予想が付いていた。それ故に、皆速やかに作戦準備へと移行して行ったのだった。
数分後。日本某所、市街地跡地。
必要な作業を終えたレイダーズの一同は、至急現地へと向かっていた。
しかし……そこで彼らが目にした光景は、想像していたものとは違っていた。
「ありゃあ……何だ?」
彼らが見たものとは、既に倒されて燃えた紙屑のようにグズグズと崩れ去るTEと、その中心に立つ『たった1機の機影』だった。それは……
「白銀の……レイダー?」
それは、両腕に爪のような装備を備え付けられた、白銀のアークレイダーだった。
「あのレイダー、カルドネンのものと同じ機種……というか、同個体か?」
「そんなまさか!アレに、カルドネンが乗っているって言うんですか!?」
その場に居た全員が困惑する。無理もない、作戦予定地に辿り着いた頃には既に状況が終了していて、それを終わらせたそれは誰1人としてその存在について何ひとつ認知していなかったのだ。
そして、目の前のそれはただ無言で立ち尽くし、こちらを睨みつけていた。
「お前は……お前は何者なんだ!」




