DISAPPEAR
アメリカ某所、???。
「……んっ……ここ、は。暗くて良く分かんねぇ……まだ夜中なのか?」
「おや、お目覚めかな?」
「……誰だ!っておい!動けねぇぞ!!ッテメェ何だ!!」
「おーおー、威勢がいい事だ」
「ッザケんなオイ!!コイツはなんだ!まだ夢か!?」
「残念〜現実ですぅー」
「んだとオイ!テメっ誰っ痛ッてぇぇ!?何しやがんだ!!」
「何って、メスを刺しただけだよ。夢じゃないって証拠にね」
「バカか!?テメェゼッテぇーブッ飛ばしてやる!!」
「ほうほう、流石に威勢がいいな。我々が目を着けていただけの事はある」
「ンだと!?テメーら何モンだ!!」
「それを知った所でキミには何も関係のない事だよ。どうせ、全てが終わった頃には何ひとつ感じる事は無いのだからねぇ」
「んなっ!?」
「よし、オペレーション始めるぞ。音楽かけろ」
「ちょっ!テメェ勝手に始めんじゃ……!!」
「被験体No.17番、名前は……ブレア・ヒューズ25歳、元軍人。オッケー、刃ぁ入れろ」
「聞けバカ!テメェらふざけッガアアアアァァァ!!」
「ふ〜んふ〜んふ〜んふ〜ん〜♪」
「アガァッ!アグゥッ!!ま……麻酔ッ無しッ……!?」
「まあねぇ〜どうせ結構気絶するから問題な〜し♪」
「フグッ!フザゲッ……!!」
「ふ〜んふ〜ん♪」
「ア……ガ……クソッ、タレ……」
「しぶといねぇ〜、流石だねぇ〜♪」
「……」
「ふ〜んふ〜ん♪よーし、アレ持ってきて〜。そうそれそれ!」
「……」
「よーし、っと。じゃあ取り付けるぞ〜♪V.N.アダプタ、移植開始〜っと♪」
「……」
レイダーズ本部、会議室。
ブレアが姿を消してから3日後。基地内はすっかり慌ただしくなり、忙しなく人が走り回っていた。
「いったいどうなってんだこりゃあ」
「分からん。しかし、2度もこんな事が起こるとは……」
ハンスと勇が戸惑っている側、渚とカレンとジュウォンの3人は監視カメラの映像を何度も確認しようと試みる。しかし……
「やはりダメね。その日のデータはごっそり消されている」
「復旧は出来るのか?」
勇の質問に、渚は首を横に振って回答する。
「データが消えているという事は、消す理由が必ずある筈です」
「そしてその理由を考えると、やはり彼の失踪は本人の意図ではないと考えるのが妥当でしょう」
カレンの言葉に、ジュウォンも憶測を添えて続く。そしてその憶測の理由を勇が問う。
「なら、キミの見解を聞こうか」
「まずデータの消失ですが、もし仮にブレアさんが消したとすれば理由がありませんし、彼にそれが出来る技術があるとも思えません。逆に、失踪の理由が誘拐だとすれば、正体を隠すためにカメラのデータを消す理由になります」
「確かにな。だがその目的は何だ?」
「さあ……彼が何か特別な情報を持っていたか、彼がこちらの利と判断しての事か……今の所は何とも」
ジュウォンもお手上げといった様子で、椅子に身を投げ出して息を吐く。
しかし、それでもカレンは諦めずに手を動かしている。
「カレンさん、そろそろ休憩されてはいかがですか?」
「大丈夫です。わたくしは大丈夫ですので、皆さんの方こそ休憩してください」
そう言って笑うカレンを見たジュウォンは、休みなく動かすその手を取って止めた。
「大丈夫なら、せめて身だしなみには気をつけてくださいね。商売の基本は第一印象ですから」
そう指摘されたカレンをよく見て見れば、髪は跳ね、化粧も乗りがイマイチ。何より親指の爪には細か傷が見られる。
「それに、もうすぐ薬を飲む時間です。ここは私たちで何とかしますから、しばらくお休みしてください」
ジュウォンはそう言って、跳ねた髪を直しながらカレンを退出させる。
「……ありがとうございます」
そう一言礼を告げ、カレンは会議室を後にした。
「……あなた、人の事言えないんじゃないかしら?」
「そうですか?いつも通りだと思いますけど」
「……剃り残し」
「!?」
「嘘よ」
「……笑えませんよ流石に」
レイダーズ本部、食堂。
「お前ら、困った時はよーくここにタマってんなぁ」
食堂では、レイダーズのパイロットたちや、一部の隊員たち、そして仕事のない軍の隊員が集まっていた。しかし、その空気はとても穏やかではない。
「まあね。みんなが顔を合わせられる広い場所ってここくらいしかないからね」
やる事が無くなって暇という様子のアンナの言葉に、ハオがテーブルに肘を付いて答える。
そこに、先程まで仕事をしていたカレンが歩いてくる。
「カレン!どうだ、何か分かったのか?」
それに気付いたトードが立ち上がってカレンに駆け寄る。しかし、カレンは黙ったまま首を横に振るだけだった。
「クソっ!いったい何がどうなってんだ!!」
「そんなの、焦っててもしょうがねぇんじゃねぇか?」
焦るトードだが、対してミラは落ち着いた様子を見せていた。
「しょうがないって何だ!仲間がいなくなってんだぞ!!」
「だからって焦っていても見つかる訳がないって言ってんだよ。もしそれで見つかるならアタシもギャーギャー騒いでるね」
「テメー茶化してんのか!!」
ミラに突っかかるトードを、ハオが急いで取り押さえて止める。そこに花恵も止めに間に入る。
「やめるッス!それこそ喧嘩しても何も解決しないッスよ!!」
「ッ……クソっ!」
その言葉を聞き、トードは大人しく席に戻る。
「それよりカレンさん、お疲れ様ッス」
「いえ、サポートはわたくしのお仕事ですから……」
「そうじゃないッス!仕事どうこうじゃなく、ちょい無理し過ぎッスよ!」
「え?そっ、そうでしょうか……」
「……」
花恵はカレンの身だしなみに一通り目を通すと、何かを思いついたのかカレンの肩を掴んだ。
「よし、ちょっとついて来て欲しいッス!」
「えっ!?ちょっ、ちょっと……!」
そうして花恵に押されながら、カレンたち2人は食堂から消えて行った。
「……あのさ、ちょっと気になったんだけど」
唐突に、ジェドが口を開く。
「おう、どうしたよ」
「ふと考えたんだけどさ、あの日……最後にブレアに会ったのって誰かな、って」
その一言に、その場に居た人たちの視線が集まる。
「……おい、お前。この中に犯人が居るって言いたいのかよ」
「いや、僕はただその日の様子が知りたかっただけだよ。疑ってかかってる訳じゃなくてさ……」
「……確かに、考えてみればそういう些細な事から何か分かるかも知れないな」
ジェドの言葉を聞いたトードは、どこか納得するように頷く。
「それで、お前はあの夜は会ってないのか」
「うん、会わなかった。あの日は丸一日アルゴアーマーの整備をしていたからね。多分他の整備員に話を聞けば居たことは分かるよ」
ジェドの話を聞き、今度はトードが話を始める。
「……そうか。俺とハオ、あとカレンと隊長は同じくレイダーの整備をしていた。あの日はブレアも整備をしていたが……アイツはやけに早めに整備を終わらせて何処かへ走って行ったな」
「うん。確か『ガツンと一言言ってやらないと気が済まない』みたいな事言ってた」
ハオはそう言うと、ミラの方へ目を向ける。それを察したミラも、素直にその時の状況を述べる。
「……あの日、確かにアタシはアイツに会ったよ。スゲーキレてたな」
「それは、いったい何を話したんだ?」
それを聞いたトードが質問を投げかける。
「何って、特に大したことねーよ。ただ普通に向こうが喧嘩を吹っかけて来て、普通に話つけて終わったよ」
「そうか……」
その話を聞いて、自然と注目がミラの方に集まる。ミラはその様子に気を悪くしてしまう。
「……おいおい何だ?こりゃアタシが怪しいって雰囲気だな?」
「誰もそんな事言ってないだろ」
「口で言ってなくても目がそう言ってんだよ」
「言ってねぇよ!」
再び喧嘩になりそうな空気に、ハオとジェドが入って止める。その様子を見ていたアンナは呆れてため息を吐く。
レイダーズ本部、花恵の自室。
花恵の自室では、連れられたカレンが椅子にひとり座っていた。
「それにしても……凄い部屋ですね……」
花恵の部屋には、辺り一面アニメのポスターが張り巡らされていた。そして、その半数以上はロボットアニメと言われるジャンルのものであった。
「ええと……あ、あったあった、コスプ……コスメセット!!」
花恵は鮮やかな彩りの箱を取り出し、その中からいつくかの化粧品をテーブルの上に並べていく。
「えーとそうッスねぇ……まずは爪を綺麗にしましょうか!」
そう言ってカレンの手を取ると、傷が付いてガタガタになってしまっている親指の爪に爪切りをかけていく。
「あーこれ、もしかして噛んじゃったッスね?」
「はっ、はい……」
カレンは言い当てられたのが恥ずかしかったのか、頬を仄かに紅く染める。
花恵が爪を切り終わると、今度はヤスリを手に取って丁寧に表面を削っていく。
「癖ッスか?にしてはあんまり深くついてる感じじゃないッスね」
「はい……昔はよく、不安だったりすると噛む癖があったんです。でもあの日……3年前に会長に拾われてからは、爪が傷付いてるとみっともないよって先輩に言われて、頑張って直すようにしました……」
「そうッスかぁ」
返答をしつつ、爪を綺麗に整える花恵。大体磨き終わったのを確認すると、今度はマニキュアを手に取って塗り始める。
「まだ目立つ傷が残ってますけど、これを塗れば見えなくなるッスよ」
「ありがとうございます……」
「……それで、また最近噛む癖が出たと」
「はい……」
「……頑張って直そうとしてた癖がまた出たって事は、多分かなりキてるんスねぇ」
「そうなんでしょうか……」
「そういうのって、あんまり自分じゃ分かんない事もあるッスからねぇ。たまには誰かをサポートするだけじゃなく、一回休んで頼る事も大事ッスよ」
「……ありがとうございます」
カレンが礼を言うと、丁度爪を塗り終わったようで今度はメイク落としのコットンを手に取る。
「さて、今度はメイクを直すッス。……って、アレ?」
花恵はメイク落としを箱から出し忘れていたようで、再び箱の中を探し出す。
「……あの、マーガレットさん」
「なんスか?てか下の名前は言わないで欲しいッス!」
「わたくし、本当によく分からないんです。こんなに冷静じゃないなんて……」
どこか思い詰めたような表情をするカレンをしばらく見つめる花恵。そして、しばらく考えたあとにこう返した。
「それはやっぱり、ブレアさんじゃないッスかね?」
「えっ?」
「それしかないッスよ!じゃなきゃカレンさんのこんな顔絶対有り得ないッス!」
つい声に熱が入ってしまう花恵に一瞬驚くカレンだが、すぐに落ち着いて返事をする。
「私には……やっぱり分からないです」
「そッスか……ま、でもどっちにせよ、ブレアさんが無事に戻って来た時に可愛くして出迎えるに越した事はないッス!」
にこやかな笑顔を見せる花恵に、カレンもつい釣られ、いつものような笑顔が戻る。
「……そうですね。いつまでも落ち込んでいては、何事も進みませんものね」
「そうッス!!こうなったら、とびっきり可愛くしてブレアさんをビックリさせてやるッス!!」
「ふふっ、気がはやりすぎですよ!……あれっ?」
カレンが笑った時、手を口に当てた拍子に肘がテーブルの本に当たって本が落ちる。
「すみません、本を落としてしまいました」
「いやいや、大丈夫ッスよ!まだマニキュア乾いてないッスから、自分が取るッス!」
花恵が落ちた本を拾ってテーブルに置き直そうとしたその時、カレンが何かに気がついた様子で本を覗いた。
「……これって……?」
レイダーズ本部、会議室。
会議室では、相変わらず監視カメラやセンサー等の復旧作業が行われていたが、その状況は未だ芳しくないといった様子だった。
「あーもう!まったくダメ!!痕跡がまるっきり無いわ!」
「こちらもです……」
渚とジュウォンが頭を抱えながら、ひたすらに呻き声を響かせていた。
その時、通信機からけたたましいコールが鳴り響く。
「おい渚博士!矢尾博士からコールだ!」
ハンスが通信機のスイッチを入れ、矢尾博士からの通信を繋いだ。
「いったい何よ、こんな時間に。そっちは常識的な時間じゃないでしょう?」
渚が文句を言いながら、通信機の向こうの矢尾に対応する。
すると、矢尾の口から意外な言葉が飛び込んだ。
『聞いてくれ渚くん。ドリトが失踪した』
「……何ですって?」




