WORRIES
早朝、日本某所、旧市街地、現作戦予定地。
作戦開始時刻まで2時間。レイダーズは、『来訪者』の放った刺客を出迎えるために現地で作戦の準備を展開していた。
「説明は以上。各自、準備を進めるように」
軍の指揮官が説明を絞めると、各員がそれぞれの配置へと散っていく。
レイダーズ本部、管制室。
「全く、俺の仕事はどうなるんだ。これじゃあ給料泥棒じゃねぇか」
ハンスは管制室の椅子に深く座り不満を漏らす。そこに、ジュウォンがお茶を運んで注ぐ。
「燻ってますね」
「こちとら仕事人間なんでね。サボる事には慣れてないんだよ」
「じゃあ商会に戻ります?」
「いや……俺はここで働く事が一番向いてるからな。戦いが終わるまでは戻らないさ」
そう言ってハンスは出されたお茶を啜った。
日本某所、作戦予定地。
予定地の管制簡易テントの近くでは、作戦前のアルゴアーマーの最終調整が行われていた。
「おい、ジェド!俺も手伝うぜ」
懸命に整備をしているジェドの元に、パイロットスーツ姿のブレアが歩み寄る。
「有難いけど、いいの?配置に着いていなくて」
「ま、待ってても暇だからなぁ。それにさ、昨日の例代わりって奴よ」
「……ありがとう」
「まあ、本当は何かやってた方が余計な事何も考えなくていいからだけどな」
「ははっ、なるほどね。それでも助かるよ」
ジェドは微笑み感謝の言葉を述べると、再び作業に戻る。
そこに、同じく暇を持て余してたのであろうトードとハオ、そしてカレンもやってくる。
「ブレア、何やってるんだよ」
「何って、見りゃ分かるだろ」
「分かるけどそう言う事じゃなくてな……」
何か言いたげに不満そうな顔を見せるトードに、強引にハオが手を引いて言う。
「もうー、いつまでも文句ばっか言ってないで手伝うよ!」
「おっ、おいおい!」
ハオは工具箱を拾い上げると、中からレンチを取り出してトードに渡す。
「ほら!」
「ほらって……俺アレの構造分からないんだが?」
困り果てるトードに、ジェドが手を止めて説明をする。
「大丈夫。細かい所は違うけど、中央部分はレイダーに近い作りになってるからそこをやって欲しいかな。それにもう大変な部分は残ってないから、少し手伝うだけで充分だよ」
ジェドの説明を聞いて、同じくカレンも工具箱を手に取って整備を始める。
「わたくしもお手伝いいたしますね!」
「ありがとう。でも、流石にちょっと人手が多いかな」
「それでも、何か出来ることがあれば手伝いたいです。皆さんのサポートがわたくしの仕事ですので」
カレンは微笑みで返す。その言葉を聞いたジェドは少し考えた後、思い出したようにして言う。
「そういえば……まだ4番スラスターのチェックが終わってなかったかも。難しい所じゃないけど、そっちに着いてる整備員に説明してもらって手伝ってくれるかな」
「はい、了解です!」
元気よく返事をし、その場を後にするカレン。4人はそれを見送った後、ジェドに指定された配置に向かって行った。
「キミの友達、良い人ばかりだね」
「そうだな。みんな、頼もしい俺の仲間だよ」
ブレアはそう言って和かに笑った。
2時間後。
「……来るか」
グリフィンレイダー改の中で待機していた勇は天を見上げ、青空を駆ける流星を睨む。
その流星は次第に大きくなって行き、そのまま参考座標の付近へと落下、勢いを付けて降着を始める。
「総員、衝撃に備えよ!!」
待機していた隊員に指揮官から通信が入ると、降着の衝撃に耐えるための体制に入る。
レイダーのブレード状の足部からは自立用の爪が展開、アルゴアーマーは自重により衝撃に備える。
そして、それはついに大地へと降り立った。
「来やがっッ!!」
「っくうぅッ!!」
降着の衝撃により、衝撃波と共に土煙が舞い上がる。そして、次第に土煙が晴れてゆくとそれは姿を現した。
「状況確認!」
「状況報告!敵の数……10体!!その内2体が新型!!」
「了解!作戦状況は司令部から追って通達、現状を前線部隊に委ねる!!」
「了解!!」
司令塔との通信後、レイダーズとアルゴアーマーは飛来した相手を睨む。
視線の先に立つ目標、その内の2体の姿は、まるで4本の長い腕を持つ40mの猿のような姿をしていた。
「お前ら、2体の『サル型TE』の動きは予想出来ない。油断するなよ」
「おいおい、勇隊長さんよォ。今の指揮権は軍にあるんだぜ?一丁前に指揮ってんじゃねーよ!」
「おいミラ!んな言い方すんじゃねーよ!!」
「いい、ブレア。今はミラ少尉の指示に従おう」
ミラに突っかかるブレアを勇が抑える。それに気を良くした様子でミラが笑う。
「そゆこと〜。んじゃ、やりますか!」
ミラはアルゴアーマーのレバーを握ると、レイダーズに合図を送る。
「アーミーズ、GO!!」
「おい!レイダーズの合図パクんじゃねー!!てかなんだよアーミーズってよ!?」
「うるせぇ!!GOったらGOだよ!!GO!!」
「あーもう了解!!」
「「「「了解!!」」」」
ミラの合図を受け、レイダーズはアルゴアーマーを囲むように出撃させる。
「いいか!勇隊長はアタシに着いてこい!『サル型TE』は2人で相手をする!!他はザコを一掃する事に集中だ!!」
「了解!!」
各員は各自散開、ミラと勇は『サル型TE』、残りの3機は『歩兵TE』に向かって速度を上げる。
「っしゃァ!さっさと倒して、隊長に追いつくぞ!!」
「おいブレア!あまり焦ってくれるなよ!!」
「分かってるよ!!うォおおおお!!」
ブレアはスラスターを吹かし、バスターチェーンソーを起動させて『歩兵TE』に突っ込んで行く。
その頃ミラと勇は、相対する2体の『サル型TE』へと対峙。先行するミラのアルゴアーマーは、目眩しにミサイルを連発する。
「ナメんなよクソ猿がよォ!!」
発射されたミサイルは2体の『サル型TE』へと向かって行くが、その全ては軽々とかわされてしまう。
「チイっ、大したダメージは無いとはいえ、当たらねぇとムカつくな!」
「問題ない、目眩しは充分だ」
立ち上がる爆煙の中、それを飛び越えるように勇のグリフィンレイダー改が飛び出す。
「でヤッ!!」
勇は瞬時にムラマサを抜刀し、『サル型TE』へと飛びかかって行く。『サル型TE』はそれを回避するために後退するが、逃がさんとばかりにブースターを吹かして斬りかかる。
そして、『サル型TE』を捉えた勇は刀を一閃する。しかし、その一閃は敵に致命的なダメージを与える事は出来なかった。
「ムうっ!」
勇の振るった刀は、『サル型TE』の手に鋭い一撃を与えるが、その刃は腕を切り落とす事は無く掴まれてしまう。
「おい、避けろッ!!」
ミラの叫びがコックピットに響いた瞬間、アルゴアーマーの拳がグリフィンレイダー改の方へと飛んで来る。
勇はそれを素早く察知すると、身を翻して拳を避ける。そして、飛んできた拳はそのまま『サル型TE』の腕を粉砕し、掴まれていたムラマサが解放される。
「ボサっとしてんな!」
「助かった!」
ミラに助けられた勇のグリフィンレイダー改が無事着地する。
すると、『サル型TE』の粉砕された片腕はあっという間に再生されて行き、まるで砲身のようなポッカリと大きな穴の空いた形状へと変わる。
「バケモンがよ……いったい質量保存どうなってんだ!」
「焦るな。ヤツらの再生強化はそう珍しい事じゃない。冷静に対処すれば問題ない」
「捕まってたヤツが口出しすんな!!」
「そこまで言うなら的確な指示が出せるんだろうな?」
「クソが、黙ってろミニマムがよ!!」
ミラはキレ気味に叫ぶと、再び相手を睨んで操縦レバーを握り直す。
「手早く済ませる!隊長さんは片方の気を引いてくれ!アタシはその隙にもう片方を速攻で叩き潰す!!」
「了解」
ミラの指示を聞いて冷静に返事をする勇。それと同時に、勇は『サル型TE』を翻弄させる為に、ミラは敵を倒す為に全速力で進んで行く。
その頃、『歩兵TE』の相手をしていたブレアたち一同は、着々と敵機の撃墜を進めていた。
「ったくよぉ……あの女、勇隊長を軽々しく顎で使いやがって……!!」
「同感だが、ここで私情を挟んでも手元を狂わすだけだ。だから落ち着け」
苛立ちを抑え切れないブレア。トードはそれを宥めつつ、機関砲で的確に敵の気を引いていく。
「分かってるけどよぉ……」
「分かってるなら戦闘に集中集中!!」
文句を垂れるブレアに、今度はハオが注意を促す。
「ふっ、ハオにまで言われちまったらおしまいだな」
「あーもう!こうなりゃ何も考えねぇ!!だりぁアアァ!!」
ブレアはヤケクソになりバスター・チェーンソーを振り回す。無造作にも見えるその斬撃は、的確に『歩兵TE』の4つの脚を斬り落として行き、そのまま胴体までも叩き斬って撃墜する。
「次だ!次はどこに……」
ブレアが次の目標を探しているその時、背後に建っていた建物が崩れる。その奥で歩みを進めていた『歩兵TE』の脚が偶然建物を蹴り飛ばしたのだ。
「どわっ!?」
突然の事につい立ち止まってしまうブレアだったが、その横からカレンのストームレイダーがワイヤーの軌道に身を乗せて飛び込みバスターレイダーを退避させた。
「わっ、悪りぃカレン!」
「ブレアさん、気を急ぎ過ぎですよ」
カレンが宥めるように優しく語りかける。それと同時に、後方でアトラスレイダーの攻撃を受けた『歩兵TE』が地に叩きつけられる。
「最近色々な事があって、頭がパンクしそうなのはよく分かります。ですが、それはみんな同じです」
「それは……分かってるけどさ」
「なので、悩む時は一緒に悩みましょう。考えましょう。でも今はその時ではない、それだけです」
「カレン……」
カレンの語りかけに、ブレアは次第に落ち着きを取り戻す。
「まあ、わたくしは皆さんのサポートが仕事なので何も悩んでいませんけどね」
「っておォい!?なんじゃそりゃ!?」
「ふふっ、お話くらいはお幾らでも聞きますからね。さ、早く済ませましょう」
そう言ってカレンは微笑みながらその場を後にする。
「……ああ、そうだな!」
その頃、勇はライフル弾を撃ちつつ『サル型TE』を誘導していた。しかし、勇の撃つ弾は全て当たる事は無く回避されてしまう。
「このままではジリ貧だな……流石にこのまま誘導に徹するだけでは無駄遣いもいい所だ」
そう言うと勇はライフルを再び刀に持ち替える。
「ここは手早く終わらせる……V.N.L.S.起ど……」
勇がシステムを起動しようとしたその時、目の前に立ちはだかっていた『サル型TE』が吹き飛ぶ。
勇は驚いて目標の吹き飛んだ地点を見てみると、そこには2体の『サル型TE』が折り重なって倒れていた。ミラのアルゴアーマーの鉄拳が命中し、そのまま吹き飛ばされたものが激突したようだ。
「おい!ボサっと立ち止まってんじゃねぇよ!!効率考えろよ!!」
「効率だと?俺は俺で効率を考えたつもりだが?」
その言葉を聞いたミラは、呆れたような様子でため息を吐くと、説教をするように言葉を続ける。
「あのな、身を削って戦うヤマトダマシイってのはアタシには分からねぇ。だがこれだけはハッキリ言える……テメーの命一つ失う事以上に非効率な事はねぇんだよ!」
「……」
ミラの一言に一瞬言葉が詰まる。そして短い思考の時を経て勇はやっと口を開く。
「俺が死ぬと思うのか?」
「このままその自殺装置でヤスリをかけ続けてりゃな。アタシは先の効率を言ってんだよ」
「……ふっ、そうか」
勇はその言葉に笑いを溢すと、レバーを握り直して『サル型TE』へ振り返る。
「ならば、信頼に足ると行動で示してみせろ。背中を預けるのはそれからだ」
「へっ、デケー口叩くじゃねぇか。良いぜ、本番はこっからだぜ!」
倒れていた『サル型TE』が立ち上がる。それを睨む勇とミラが構える。
するとそこに、先程まで『歩兵TE』と戦っていたレイダーの隊員たちが合流して来る。
「隊長!俺たちも戦うぜ!!」
「おー、早かったな?そんじゃ、一丁あのサルどもを片そうや!」
「だからテメェが仕切っ……あーもう!じゃあさっさと命令しやがれ!!」
「分かりゃいいんだよ分かりゃ!」
ヤケクソなブレアに文句を言うミラ。そんなやり取りをしている間にも、反撃の態勢を整えた2体の『サル型TE』を前に、ミラは切り替えて命令を出す。
「ブレアとカレンちゃんは勇隊長をフォローだ。ハオちゃんはアタシに付いて腕が変異した方を攻めるぞ」
「了解!」
ミラの命令を聞いて各員が散開し、目標の方へと向かって行く。
「ブレア、俺たちで奴の4つの腕を落とす。カレンは奴の気を引いてくれ」
「了解!」
勇が2人に指示を出す。カレンはそれを受けて単独で前に飛び出す。
「お猿さんこちら!です!!」
カレンはストームレイダーのスピードを活かしつつ、パワーライフルを乱発して誘導する。
「ブレア、遅れるなよ」
「無茶言うなって!……っつっても聞かねーんだろうな!!」
建物の間を縫うように高速で移動するカレンと『サル型TE』を追って、勇とブレアも敵に悟られないように隠れながら移動する。
それ故に移動が遠回りになる事を察したカレンも、移動ルートを大きくくねらせる形に設定し、合流地点へと向かって行く。
そして、予定地の大通りへと辿り着く。
「さて、鬼ごっこも終わりにしましょう!3……」
「2ッ……!」
「……1!」
3人がタイミングを合わせると、建物の影から勇のグリフィンレイダー改とブレアのバスターレイダーが飛び出す。
そして、『サル型TE』の背後から武器を振り下ろして4つの腕を素早く切り落とした。
『プギィィイイイ!!』
「終わりだ!」
グリフィンレイダー改が着地と同時に向き直ると、再びブースターを吹かして突撃、ダメージを負って身じろぎしている『サル型TE』へとムラマサを振り下ろし、その体を真っ二つに叩き割った。
「逃がさねぇぞモンキー!!」
時を同じく、もう片方の『サル型TE』を相手にするミラ、ハオとトードの3人。
ミラはアルゴアーマーのアームを射出しながら敵を捕獲しようと試みる。しかし、敵の素早さに翻弄されて捕まらない。
「クソっ、さっきはマグレで殴れたがよォ、流石に素早すぎて参るぜ!!」
「だったら!!」
戸惑っているミラのアルゴアーマーの横を、アトラスレイダーが機関砲を乱射しながら突撃して行く。
「ちょっ!いったいどうする気だ!!」
「問題ない。この付近に広い土地を持ったビルがある。その周囲を回りながら誘導するんだ。その間に先回りして捕獲すればいい」
「そういう事っ!あとは任せて!!」
トードとハオがそう言うと、目的の建物の方へと向かって行きその外周を周りながら機関砲で『サル型TE』を誘導する。
「まったく、あの女の下に着くなんてのは気が進まないな!」
「トードまでブレアみたいな事言わない!」
「いいんだよ俺は。アイツみたいにそればっか考えて目先の事が見えなくなっている訳じゃない」
「はいはい分かった分かった!だから的は的確に当てなきゃね!」
ハオは、先程からトードの射撃が敵に当たっていない事を指摘した。
「さっきからやってるよ!ヤツがすばしっこいだけだ!」
「不要找借口(言い訳しないの)!!」
「Yes sir(了解)!!」
トードは元気の良い返事をして射撃に集中する。
そして、アトラスレイダーが角を曲がろうとしたその時、『サル型TE』の砲身がこちらに向き、次々に光球を連発して来た。
「わわっ!!」
「くっ!止まるなハオ!!合流地点に進むんだ!!」
「無理無理無理!!避けるので精一杯だって!!」
2人が慌てふためく間にも、敵の砲撃は止む事はない。
しかしその時、上空から建物を飛び越えてひとつの影が飛び込んで来た。ミラのアルゴアーマーだ。
「隙だらけなんだよォ!!」
アルゴアーマーが『サル型TE』の真上から飛来してくると、そのままアームで両の腕を掴み歯がいじめにする。
「今だ!ヤツの○○○にデカい一発かましてやれ!!」
ミラの叫びを合図に、ハオがアトラスレイダーを『サル型TE』の真下に移動させると、背部の『速射型超高威力電磁砲』を展開させ射撃形態へと変形する。
「ターゲット……ロック!!」
「サンダー・パルフェ・ガン、シュート!!」
ハオの叫びと共に、『速射型超高威力電磁砲』の砲身から鋭い一撃が発射される。
その一撃をまともに喰らった『サル型TE』は、股座から脳天まで一直線に大きな風穴を開けて、そのまま崩れ落ち倒れる。
「good luck!!」
「Yes!」
「好!!」
レイダーズ本部、整備ドック。
状況終了後、レイダーズ各員は本部へと戻り格納庫で機体の整備をしていた。
「まったくよぉ、レイダーの腕のモーターがスレちまってやがる!こんな無茶やりやがった奴の顔が見たいね!」
「杉田さん……分かってて言ってるよな?」
わざとらしく文句を垂れる杉田の横で、ブレアは肝を冷やしながら機体を見上げていた。
「ま、どうせ無茶やって武器をぶん回してたんだろうよ!」
「そうだけどよぉ……なんか、腹立ててたらつい、力が入っちまってさ……」
「ハッハッハッ!若ぇなぁお前もよ!!」
杉田は大声で笑ってブレアの背中を叩く。しかし、その目は心なしか笑ってないようにも見えた。
「は、ははは……」
それに、ブレアも乾いた笑いをするしか無かった。
(くそ〜!あの女が最近調子乗ってるせいだ!!次顔合わせたら一言ガツンと言ってやる!!)
そう、心に誓うブレアだった。
次の日、基地にブレアの姿は無かった。




