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タイタンレイダーズ  作者: 南ノ森
REVENGER
27/50

SUSPICION

レイダーズ本部、食堂。

 演習から翌日。

 食堂では、レイダーズの隊員たちがテーブルを囲み食事を交えながらこれまでの出来事を纏めていた。

「それでさぁ?軍の人たちと話して結局何か分かったんすか、ジュウォンさん?」

「そうだぜ?アタシらに客のお茶汲みやらせた分の収穫くらいはあったんだろうなぁ?」

 大豆ミートと牛挽肉のハイブリッドソーセージを齧りながら、ブレアとアンナが問いかける。

 そしてそれにジュウォンは意外な答えを出した。

「いいえ、何も?」

「「……は?」」

 ブレアとアンナを筆頭に、席に着いていた一同はまるで豆鉄砲を撃たれた鳩のような顔をした。当たり前だ、『収穫なし』の言葉を、まるでバーで優男を振るために美女の放った一言とでもいう風に、笑顔で言ってのけたのだ。

「ちょ、おおいアネゴォ!?そりゃネーって!!マジで何も無いってのかよ!?」

「ええ、何もないよ」

「おいおいジュウォンさん……俺ァ期待してたんだぜ……?」

「それはどうも。でもこれでいいのですよ」

 ジュウォンは再び余裕の表情で答える。そして今度はトードが手を挙げて発言する。

「あの、ジュウォンさん……その余裕はつまり、その……何もない事に必要性があると言う事ですか?」

「ある意味ではね。そもそも、私たちがああして目立った行動を取れば、勿論あちらさんも警戒せざるを得なくなりますね」

「それはまあ、そうですね」

「目標が『人類を救う事』である以上、あちらも我々と連携を取る事もあるでしょう。そうして押していけば目障りになって正体を表すタイミングがあるはずです。勿論、あちらに邪な根端があれば……ですがね」

 ジュウォンは話の締めにコンソメスープを啜った。

「えーと、他に何か収穫は?」

「……」

 その問いかけに、答える者は居なかった。

「……」

 ただし、ブレアだけはその問い何か思う所があった。それは、先日ドリトが放った「来ないか?」という誘いの言葉だった。

(ドリト……お前は違うよな?)

「……ブレア?」

「あ、ぁえ?」

 考え事をして呆けているブレアの肩を叩くトード。それに、何処かへと出掛けていたブレアの意識が帰ってくる。

「何かあったか?まるでエサを盗られたモルモットみたいにとぼけちまって」

「は?いや、何も……」

「はあ……まあいい、何もないならいいんだが」

 トードが呆れた風に言いながらスクランブルエッグに匙を刺す。


レイダーズ本部、渚の研究室。

 会議を兼ねた食事を終えた勇は、寝ている渚を起こすために研究室を訪ねていた。それが彼の朝の日課でもあるのだ。

「まったく……鍵もかけていないじゃないか……」

 勇は研究室の扉をノックもせずに開ける。こそには、一晩中『ムーンストライク計画』の算段を付けるために必死になってかき集めた資料をそこら中に散らかして、白衣を布団の代わりにしてソファーで眠っている渚の姿があった。

 そして机の上には、冷め切ったコーヒーと、睡眠薬の包装が置かれている。

「……流石に、起こし辛いな」

 勇は、これまでの疲労が積み重なったであろう彼女の寝顔を見る。

 小娘と言える程決して若いとは言えないが、自分よりも10は年下とは思えない程の苦労を抱えた彼女の顔に、勇は労いの気持ちで触れる。

 そして、渚を起こさないように散らばった資料を静かにかき集めようと手を伸ばしたその時、目を覚ました渚に服を掴まれる。

「……私がやるから……それ、ほっといて」

「……渚、おはよう」

「……おあよぅ」

 ソファーからずるりと滑り落ちた渚は、寝起きに昨日からそのままにしていた冷えたコーヒーを一口飲む。

「おぉい……そんなの飲むなよ」

「んなんで別に死にゃしないわよ」

「はいはい分かったから顔洗って歯磨け」

 寝ぼけ眼を擦る渚の頭を撫でる勇。それに渚は不機嫌な顔で退かして立ち上がり洗面台へと向かった。

「しかし……寝る時くらいは自室に戻れ。わざわざ費用割いて、ここに水道設備を敷いてまで研究室に籠る意味も無かっただろう」

「寝るためだけに部屋に戻るなんて時間の無駄よ。必要なものは手の届く所にあった方がいいじゃない」

「……本当は本の山で足の踏み場もないからだろ」

「ウっ」

 図星を突かれて言葉を詰まらせる渚。それに勇は呆れてため息を吐く。

「お前なぁ……まあ渚がズボラなのは今に始まった事じゃないしな」

「ちょっと」

 勇を睨む渚。しかし、断ったにも関わらず顔を洗っている間に資料は片付けられ、机の上には新しいコーヒーとタッパーに入れられたジュウォンの作った朝食が置かれていた。

「……もう」

「今日は矢尾博士たちと会議するんだろう?片付けとかは下のヤツに任せておけ。それにシャキッとしとかないと、攻め立てられた時また言い返せなくなるぞ」

「……ありがとう」

 渚は照れ隠しに顔を背ける。

「いつも俺たちのために頑張ってくれているからな」

「それはあなたたちもでしょう?むしろ前線に出てる分そっちのが苦労してるでしょう」

「それが出来るのもキミの支えあってだ」

 後ろから渚の肩に触れる勇。それに渚は内心とは裏腹に表情を変えずに小さく息を吐く。

「……お互い様、ね」


レイダーズ本部、整備ドック。

「うぅ〜む……」

 各々が自由に時間を過ごす中、ブレアは気を紛らわす事を兼ねて整備の手伝いへと向かっていた。

 だがその道中、彼の頭の中は昨日の事でいっぱいだった。

(昨日はあんな事言ったけど、ちっとかんがえとくとかくらい言っときゃ良かったか?いや良か無いけどさぁ……ってそういう事じゃねぇ!そもそもドリトが怪しい事なんかに関与してる訳……)

 考え事をしていると、目の前に向かってくる人物に気が付かずにお互い頭をぶつけてしまう。

「ンガッ!?」

「あだっ!!」

 2人はぶつかって尻餅をついてしまう。ブレアは額を摩りながら、目の前で同じように額を押さえている人物を見る。

「ってェ〜……おォい、大丈夫かよ?」

「ッ〜……は、はいっ、すいませんッス」

 ブレアは目の前で謝っている、眼鏡をかけた若い女性の腕を抱えて立たせる。

「おいおいお前らなーにやってんだよ」

 その様子を、遠くから見ていた杉田がツッコミを入れながらやって来た。

「いや、ちょっとボーッとしながら歩いてたんすけど……マジですまなかったな。ええと……名前なんだっけ?」

「はいっ!花恵ッス!」

「そうそう!花恵マーガレットちゃんだ、この間商会ん所から入ってきた!」

「し、下の名前は言わないで欲しいッス……メルヘンっぽくてちょい、ハズいんで……」

「そうか?良い名前じゃねぇの?」

 顔を逸らして赤くなる花恵だったが、そこに杉田が割って入って2人の背中を押す。

「はいはいお2人さん、くっちゃべってないで仕事仕事!」

「わーってるよ杉田さん!だから押すなって!」


 杉田に急かされてレイダーの武装の整備をさせられた2人。ブレアはここに来て間も無い花恵に、基本の部分を教えながら作業をする。

「ほー、なかなか飲み込み良いじゃねぇか」

「えへへ、嬉しいッス!」

「花恵ちゃんはシリウス重工じゃあ長かったのか?」

「いえ、入ったのはここ最近ッスねぇ。ウィルソン財団の規約が変わって、積極的にレイダーズのスタッフが招集されるようになって、それで入ったばかりの重工を抜けて来たッス」

「なるほどなぁ」

 手慣れてきて自分よりも手早く作業を進めて行く花恵を見て感心するブレア。そして、再び花恵は話を続ける。

「それと……桂木博士は憧れだから、ッスかね」

 その言葉に、ブレアは意外だという顔をする。

「渚博士に、か……」

「いえ、その弟の桂木勇気博士ッスね!」

「弟さんの方?」

「そっス!桂木勇気博士と言ったら、桂木式ハイパワーピストンを搭載したロボットアームを開発し、数々の工場に貢献した天才技術者ッス!!その上、超莫大なエネルギーを生み出す事が出来る桂木式ジェネレーターを開発、多大な電力を必要とする施設に配備するなど凄い事を成し遂げた人なんスよ!!」

「へ、へぇ……」

 早口で迫る花恵に、ブレアはつい引き気味に反応してしまう。

「惜しむらくは……3年前の襲撃で、亡くなっちゃった事ッス……。だからせめて、その一旦に触れる事で、天国の彼に貢献する事が自分の務め……と、決めたッス!」

「……なるほど、立派な事じゃねぇか」

 花恵の話を聞いて、ブレアは素直に関心して頷いた。

 それからしばらく作業を続けていると、再び花恵が思いついたように話を始める。

「にしても、なんかみなさん難しい事考えてるみたいッスねぇ」

「んぇ?そうか?」

「そッスよ!軍からのお客さんに対してちょい冷た過ぎる気がするッス!」

「あー……まあそうかもなぁ……」

 ブレアは頭を軽く掻く。確かに、以前外部からの干渉を受けて警戒するのは分かるが、今回の相手は軍だ。例え個人的に不満を持った事があろうと、元軍人であるブレアからすればむしろ信用できる相手だ。

 そう思った時、ふと渚と矢尾の会話を思い出す。

「……もしかすると、渚博士は個人的な部分で反発してんのかも」

「個人的な部分ッスか?」

「や、俺もあんま詳しくはねぇけどよ。2人とも多分お互いのやり方が気に食わないんだろうなぁって」

「なるほど、すれ違いってヤツっスね」

 ブレアの言葉に頷く花恵。するとそこで、花恵が唐突に提案をし出す。

「じゃあいっそ、2人の仲を取り持てばいいんスよ!」

「俺が?どうやって?」

「それは、まあ……どうやってッスかね?」

「おいおい……」

 ブレアは呆れた顔をするが、ある意味では一理あるかもと思い良い案を考えるため頭を巡らせる。

「……うーん、やっぱ俺ひとりじゃどうにも出来ねぇな」

「そッスかぁ……」

「だからよ、渚博士に1番近い人に協力して貰えば良いと思う訳よ」

「協力?」

「そう。例えば……勇隊長とか」

「隊長さんスかぁ。……でも、何でッスかね?どっちかと言うとハンスさんの方がレイダーズの面倒よく見てるし、そっちのが近いような……?」

 顎に手を当てて2人の接点を探る花恵。それにブレアは指を立ててズバリと言う。

「花恵ちゃんは入って短いから知らないんだっけ。あの2人はな、イイ仲なんだぜ」

「ほ……?ほひょぉ?!」


レイダーズ本部、渚の研究室。

 研究室では、渚、勇、ハンスが集まり、画面を通して矢尾、フランクリン会長、そしてミレーナが会談をしていた。

『この度は我々の為に時間を割いていただき、財団及び商会の方々に感謝の程を申し上げたい』

『いやいや、いーんですよぉ!!これから心強い仲間が増えるのは我々としても大変喜ばしい事だからねぇ!!』

『ええ!それは同感ですわ!!』

 画面の向こうでは、フランクリンとミレーナが眩い程の笑顔を見せている。しかし、それに対して矢尾の方は硬く渋い表情をしていた。

『……感謝します。しかし、無礼は承知ですが……先ずは皆様に一言申したいのだが』

「……」

 一同が息を呑む。相手の手札を探るような、賭けをするような眼差しが画面越しに伝わってくる。

『あなた方が我々に不信感を抱いていておられるのはご理解しています。故に、レイダーズの方々から整備スタッフへの接触があった事もご報告を伺いました』

「アレか。アレは俺が指示したんだ。もしその事に不満があるなら俺が責任を取ろう」

 矢尾の言葉にハンスが言葉を挟む。矢尾はそれに静止するように手を向けて話を続ける。

『分かっています。疑いの目を向けられるのもご最も……なので率直に言いましょう。我々に根端があるのは事実です』

『ほお!』

 興味深々な様子でフランクリンが声を上げる。

『して矢尾博士、その御心は?』

『レイダーズには軍に下って頂きたい』

「!?」

「……」

 驚愕する者、険しい顔をする者、将又顔色を変えない者……皆その言葉に様々な反応をするが、その胸の内は同じ答えであった。

『面白い冗談ですねぇ!』

「ふざけないでちょうだい!そもそも貴方に何の権限があってそんな事を!!」

『軍の権限があれば叶うさ。それ以上に、政府へ斡旋すれば君たちの処遇などどうとでも出来る。そうだろう、ミレーナ嬢?』

『ええ、それは勿論』

「何ですって?」

 ミレーナがあっさりと答えた事に渚は戸惑う。その事についてミレーナは説明を加える。

『レイダーズが今まで存続していられたのはお母様の権限、そして政府への後楯があっての事でしたわ。ですが、お母様は現在獄中……そこへ送ったのは他の誰でもない、我々の所業ですわ』

『ああ、そうだったそうだった!!』

「そんな……」

 渚は愕然とする。しかし、その事実を理解して尚フランクリンは顔色を変えずニコニコしている。

『……フランクリン会長、何か可笑しい事でも?』

『いやなに!素晴らしいご提案だと思いましてねぇ!!レイダーが軍の管理下に置かれれば、市民からの不安の声も少なからず減るでしょうねぇ!!』

 大声で賞賛の声を述べるフランクリン。しかし、その声色には何処か威圧感が隠っていた。

『……ですが、ねぇ。そのやり方はあまりにも強引……商売が下手!あまりにもド下手!』

『ふむ……』

『先ず我々がお客様に提供する物は安心と安全!そんな脅すようなやり方じゃあ……安心安全とは程遠い!それに……』

 フランクリンが、口元が隠れるように両肘をついて睨む。

『政府に顔が効くのはあなた方だけではないのですよ……』

『それは、脅しではないのですか?』

『いやぁなに、これは対等な立場での話し合いですよ!アッハッハッ!!』

 高らかに笑うフランクリンに矢尾は大きく息を吐く。そして矢尾は渋い顔のまま、再び話を続けた。

『確かに私の言い方も少々強引だったかも知れない。しかし、協力関係を築きたいという言葉は本当です。あなた方を軍下に置く事自体は、特段急を要する事じゃあない』

『つまり……何かまた別のお話が?』

『ええ。これからはあなた方とは上手く連携を取りたいと思っています。軍への勧誘も言わばその為の要素のひとつに過ぎない』

『なるほど』

『その上でご提案です。我々に『月面観測衛星』の提供をさせて頂きたい』

「月面観測衛星?何故そんなものを?」

 疑問を口にする渚。その疑問に矢尾は詳細に説明をする。

『これまでに打ち上げられた衛星は、悉く『来訪者』により落とされている。その理由として、奴らは強い電波や電磁波に反応すると言う性質がある事が挙げられる。故に我々は、極力奴らに察知され難い衛星を開発した。それにより最早、人類が後手に回る様な事態は起こり得ない』

『ほお……つまり、その衛星を我々に買ってもらいたいと』

『ある意味ではそうと言える』

 その言葉に一同が口を閉じて考え込む。

 暫くして、勇が最初に口を開いた。

「その提案は我々としてもやぶさかでは無い。TE飛来前に手を打てれば、それこそ嬉しい限りだ」

『ありがとう』

「それで、要求は何だ?」

 勇の言葉に、矢尾が一拍置いて答える。

『……敢えて言うとすれば、良い関係と言った所だろうか。何、金をせびろうと言う訳じゃあない。ただ私は、この星の為にやれる事をやっておきたいだけだよ』

「……」

 勇は少し考えを巡らせた後、頷いて口を開いた。

「……分かった、買ってやろうじゃないか」

「ちょっと勇……!」

「ただし、その衛星の構造やプログラムその他の情報も提供してもらおう」

『ああ、問題ない。感謝する』

 その後も暫く会談が続く。今後の方針や開示出来る情報等を共有した後に無事会談は終了した。

「……ふぅーっ」

 画面がデスクトップを映す。その瞬間に渚は気が抜けて深く息を吐いた。

「まったく、あのジイさんとんでもねぇ事言いやがるぜ」

「そうだな。しかし、矢尾博士も読めないな。レイダーズを軍下に置きたいと言ったり、そうでなくても良いと言ったり……」

 先程の矢尾とのやり取りを、ハンスと勇は振り返りつつ苦言を呈していた。

「いずれにせよ、これから長い付き合いになりそうね。はぁ〜……」

「やはり嫌か?」

「当たり前よ!誰が好き好んで、んな頭ガチガチジジイと……」

 渚は怒りのあまり激しく空を掻く。それを眺めていた勇は、ふと疑問に思った事を投げかける。

「……そんなに仲が悪かったのか?矢尾博士とは」

「……昔は、そんなでもなかったんだけどね……」

 渚は物憂げに、冷え切ったコーヒーを見つめる。

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