CARD
レイダーズ本部、医務室。
「んっ……!くっ!!こ、ここは……」
勇は医務室のベッドの上で目を覚ました。
先の『カウベル』との戦いで、勇はV.N.L.Sを起動させた状態でグリフィンレイダーを限界まで酷使したために、肉体にかなりの負荷がかかっていたのだ。
(そうか……俺は機体をドックに運び出した後、そのままコックピットで気を失っていたのか……)
目を覚ました勇は横を見てみると、ずっと看病していたのか渚がそこに座っていた。
「あら、起きたのね」
「あ、ああ……。ずっと、付いていたのか?」
「ええ、あなたが倒れたって聞いたから。それより、こんなにボロボロになるまで無茶するなんて、どうせ機体もボロボロにしたんでしょう?」
「まあな」
「まったく……少しは自分の身体のこと考えなさいよ」
「ああ、そうだな」
そう適当に答えた勇だったが、ふと渚の顔を見てみると目元が赤くなっているのに気付いた。
「……泣いていたのか?」
そう言って渚の頬に触れる勇。渚はしばらく黙っていたが、少し恥ずかしそうに答えた。
「心配だって、するわよ……。それに結構、罪悪感凄いんだからね?」
「そうか……」
勇はそれだけ言うと優しく微笑みながら渚を見つめていた。
その視線に耐えられなくなったのか、渚は慌てて視線を逸らす。
しかし、その視線を逸らした先に見慣れぬ人物が立っていた。
「うわっ!?な、なによあなた!!?」
「失礼しました。わたくしはシリウス商会から派遣されて来ました、経理のチョ・ジュウォンです」
「そ、そう……」
突然現れた人物に驚きながらもなんとか返事をする渚。
そんな様子を無視してジュウォンは話を続ける。
「では、今後の資金管理についてお話がしたいので、場所を移しましょう。怪我人の前でのお金の話は無粋ですので」
「そうね、そうしましょう……」
「では、参ります」
こうして、二人は部屋を出ていった。
一人残された勇は、なんとも言えない表情を浮かべるしかなかった。
レイダーズ本部、渚の研究室。
研究室に移動した渚とジュウォンは、改めて今後の資金について相談をしていた。
「つまり、『ムーンストライク計画』に必要な費用は計り知れない……という事になります」
「単純に言えばそういう事ね。レイダーの大群を作ってロケットで月に行く……どれだけの費用と時間、人材が必要になるか分かったものじゃないわ」
「それに加え、この前の戦闘でも相当数の損害が出ています。このまま戦いを続ければ、いずれ資金面の問題が出てくるでしょう」
「確かにそうなのよね……だからこそ、あなた方はウィルソン財団を我々のスポンサーに呼び戻そうとしているのよね?」
「ええ、我々シリウス商会だけの工面に頼るだけより幾分かマシになるはずです」
「率直に言ってあり得ない、といったところね。財団は昨日も私たちレイダーズを攻撃してきたのよ?そんな連中が信用に足るかしら?」
「なので、我々は財団のトップを信用に足る人物にすげ替えなければいけないのですよ。……その事については会長から直接お聞きしましたよね?」
「ええ、それはもうしっかりと」
「ならば、何故まだ納得出来ないのでしょう」
「……簡単に言えば、あなた方商会と財団の腹の探り合いに私たちを安易に巻き込まないで欲しい、といった所かしら?」
「…………」
「あなた方の協力に関して言えば、本当に助かっているわ。それこそあの会長には感謝しきれない程にね。でも、私としてはこれ以上余計な争い事は避けたいと思っているの。だから、今回の件からは手を引かせてもらうわ」
そう言い切ると、渚は椅子から立ち上がり出口へと向かっていく。
「……分かりました。では今から我々のやろうとしている事があなた方……いえ、あなたの信用に足る事を証明して見せましょう」
「……何ですって?」
渚が振り向くと、ジュウォンの手にはパッド型の端末が握られていた。
「今から会長とミレーナ様にお繋ぎいたしましょう。これで我々が信頼に足ると判断すれば、今後協力していただいても構いません」
「……なるほどね。いいわ、受けてあげる」
渚はそう答えると再び席に着いた。
それからしばらくすると、端末の画面にシリウス商会のフランクリン会長ともう1人、若い女性のライブ映像が映し出される。
『やあ桂木博士!また会いましたねぇ!!』
「どうも、フランクリン会長」
『ごきげんよう。あなたが桂木渚博士でしょうか?』
「ええ、そうよ。あなたが件の……」
『はい。わたくし、ウィルソン財団のエレナ・ウィルソンの娘、ミレーナ・ウィルソンと申します』
「……彼女、本物?」
『ええ、それはもちろん!!この私フランクリンが商会の面子にかけて保証しますとも!!』
「……そう」
画面越しに映っている少女の姿を見て、どこか冷めた様子を見せる渚。
だが、それも仕方のない事だった。
なぜなら、彼女が身につけた衣装はまるでドレスを纏った貴族のように煌びやかで、その姿はさながら本物のお姫様そのものであった。
しかし、画面の中の彼女はとても礼儀正しく、言葉遣いも丁寧で、まさに深窓の令嬢と呼ぶに相応しい立ち振る舞いであったのだ。
「これは驚いた……。まさかこんなにも可愛らしいお嬢さんだとは思わなかったわ」
渚はそう呟いた後、改めて自分の前にいる二人を見た。
「それで、フランクリン会長は彼女が信用出来る人物であると仰いましたが、どうしてそう思われたのか教えていただいても?」
渚がそう聞くと、フランクリンは得意気に語り始めた。
『簡単な事です!彼女ほど財団、もとい母親であるエレナ氏の事を憎む者はいないのですから!』
「……どういう事ですか?」
『実は元々ウィルソン財団は彼女の父親のものだったのですがね、まだ裏社会で動いていた頃のエレナ氏は財団の資金力に目をつけ彼と結婚、そしてエレナ氏が重役を任されるようになった頃にその党首は謎の失踪をしてしまったのですよ!』
「あら、それは初耳ですね」
『えぇ、まああまり大っぴらに言える事ではありませんからねぇ!……話を戻しますと、それに対しエレナ氏は異常なまで関心を待たず、そんな母親にミレーナ嬢は嫌悪感を抱いているのですよ!』
「なるほど……」
渚はそう言うと、今度はミレーナが話し始めた。
『私は決して母の行っている事を許しておく事は出来ません。母は父の立場を奪っただけに留まらず、今度はあなた方を騙し、貶めて、挙句の果てに抹殺なさろうとしている……私はそれが我慢ならないのです』
「……随分と正義感が強いのね」
渚はそう言うと、少し考え込むような素振りを見せた。
(もし、私が彼女の立場なら……)
「ねえ、一つ聞いてもいいかしら?」
渚はそう切り出すと、真っ直ぐな瞳でミレーナを見つめる。
「あなたは、財団を手に入れて何をするつもりなの?」
渚の質問に対し、ミレーナは一瞬黙り込んだ。
『……母への復讐をしたい……それだけです」
「それだけ?」
『ええ、それだけです』
「そう、分かったわ」
渚はそう言うと、少々呆れたように溜息をつく。
「正直に言えば、あなたみたいな純粋な子にはあまり関わって欲しくはないんだけどね……」
『では、信用していただけますか?』
「ええ、分かったわ。あなたの協力を受け入れましょう」
こうして、レイダーズ、シリウス商会、財団の令嬢ミレーナの協力関係が成立したのだった。
レイダーズ本部、医務室。
レイダーズのパイロットチームは、勇が目を覚ましたという報告を聞いて皆で見舞いに来ていた。
「隊長!よかったぁ生きてた!!」
「おいおい、死んだかと思ってたのか?」
「そりゃそうっすよぉ!」
「心配したんだからね……」
「……悪かったな、お前ら」
口々に話しかけてくる部下たちに優しく笑いながら返事をする勇。
彼らの和気藹々とした話が聞こえる中、遅れて入ってきたトードが敬礼をして言った。
「……勇隊長。トード、ただいま戻りました」
「……おかえり、トード。それと敬礼は要らない。ここは軍隊ではないのだからな」
「は、はい……」
緊張と安心、そして懐かしさを含んだ表情になるトード。それを見て一同も微笑みを浮かべる。
「……隊長、ご迷惑をおかけしました」
「いいさ、ここにはお前を責める奴はいない」
「はい……あの、隊長」
「なんだ?」
「おそらく、財団の真の目的はレイダーズを解体する事ではないと思われます」
「……それは、どういう事だ」
この場の全員が、トードの言葉に口を閉ざして耳を傾ける。
「おそらく、レイダーを軍に売り出し対『来訪者』兵器の大規模な商業展開をするつもりでしょう」
「ああ、それは分かっている。それが我々を潰そうとする目的だったな」
「ええ。ですが、それにはひとつ邪魔なものがあります」
「それは何だ」
「『ムーンストライク計画』……レイダーを『来訪者』の挟む月へと送り出して決戦を行う計画です。財団の目的はその計画を潰す事にあります」
「だがそれは財団にとっても脅威を生む行為だろう。そんな事をするメリットがあるとは到底思えないのだが……」
「だからこそです。『来訪者』を放っておけば月から敵が地球に攻めてくる。そうすれば必ずレイダーが必要になってくるでしょう。そうなればレイダーを売るだけで莫大な利益が見込めます。つまり彼らにしてみれば武器を売る手段を妨げる者は邪魔になる」
「……なるほどな。確かにそれならば辻妻が合うな」
勇とトードが話している横で聞いていたブレアが、ふと疑問に思ったことを口に出した。
「……だがよ、そんな事しても財団も自分たちを危険に晒すだけじゃねぇのか?財団だけじゃねえ、この星全体が侵略されかねねぇだろ!」
「エレナ・ウィルソンにそんな情はない。あんな血も涙もない女、金のためなら人類がどれだけ犠牲になろうが知った事じゃないはずだ」
「そうかよ……。でもよ、俺が思うにこの計画、財団の思惑通りに行くはずがねぇと思うんだよ」
「それは何故?」
「だってよ、もしその計画が成功したとしても『来訪者』に人類が対抗し続けられる保証なんて……」
ブレアが言いかけた時、何かに気がついたようにハッとする。
「……そういう事かよ、くそったれがッ!!!」
「そうだ、俺たちで『人類は『来訪者』に対抗出来る』事を実証してしまったんだ。だからこそ財団は『来訪者』を商材に利用し続けられると判断した」
「クソが……だからってこんな事して良い訳が……!!」
ブレアが怒りを露わにしながら拳を握りしめていると、それを見ていたカレンが間に入り込んで言う。
「はい、こんな事は許される事ではありません!なので、シリウス商会は財団に対する策を練っています」
「……その策というのは?」
「シリウス商会で財団を傘下に吸収、それによる財団の持つ権限の全てを掌握する。それが我々の考えた作戦です」
「……なるほど、それが出来れば確かに問題は解決されるな。だがそんな事が出来るのか?」
「はい、すでに準備は整っています。後は会長が上手く動いてくださる筈です」
「会長が?」
「はい!ですので、我々が危惧するべきは……」
「財団の兵士……『カウベル』か」
「はい、彼らだけは我々戦える者たちでしかどうにも出来ない可能性があります」
「そうか……。なら、今のうちにこちらも準備を進めておく必要があるな」
「はい!ですので……」
「分かっている。我々もいつでも出撃出来るようにしておく」
「ありがとうございます、隊長。ですので、今はゆっくりお休みください」
「ああ、そうさせてもらう」
そう言って、見舞いに来た一同は勇の病室から出て行ったのだった。
ウィルソン財団、???。
「α、お前の3度に渡る失敗は目に余るものがある」
「うるせぇ!こっちは手加減してやってたんだよ!!」
「つまり手を抜いた結果がこれか。手加減をして脚を片方持っていかれたのなら笑い話にもならんぞ」
「クソっ!!そうでもしなきゃあの男は殺し甲斐がないんだよ!!とことん絶望に落ちて死んでくれなきゃ俺の愛が伝わらねえんだよ!!」
「くだらない。お前の異常性愛に我々を巻き込んで手間をかけさせるな。所詮お前ら『カウベル』の家畜どもは使い捨てのコマだという事を理解しろ」
「黙れ!例え『牛飼いのカルドネン』だろうが俺のやる事に口を……」
「右脚も失いたいのか?」
「チィ……!」
「まあいい。『α』、次は期待しているぞ」
「……ふん。そりゃ口だけの期待だろ」




