CONFUSION
レイダーズ本部。
「ねえ!!トードは!?トードはどこに行ったの!!?」
ハオは朝早くから、トードを探して基地内を走り回っていた。
前日の『ヒト型TE』討伐作戦後、トードは基地から姿を消した。何も言わずに……。
「ハオ!落ち着けって!アイツが黙ってどっかに行く筈はねぇ!!」
「でも……だって……」
ハオは目に涙を浮かべながら訴える。
「大丈夫だ……きっと戻ってくる」
「うん……」
ハオをどうにか宥めるブレアだったが、自身も内心ではとても動揺していた。
(杉田さんがここを去って間もないってのに、トードまで消えちまうなんて……どうなってるんだ一体……)
ウィルソン財団、エレナの部屋。
「杉田、例の計画はどうですか?」
「……エレナさんよ、アンタ鬼だよ。こんなのはあんまりだ」
「私は計画について聞いてるのです。それ以外はただ無駄口に過ぎない」
「……わかったよ。計画は順調だ。新型レイダーはもうすぐ完成する」
「そうですか。ではそれに私の選出したパイロットを乗せてテストをしなさい」
「彼、か……彼の事はよく知ってるがね、俺はどうかと」
「無駄口はいらないと言いましたよ」
「……ちっ。ああ分かったよ!了解した!!」
レイダーズ本部、墓地。
ブレアはモヤモヤした気持ちが晴れず、気分転換も兼ねてかつての戦友の墓参りに来ていた。
「……あれ?」
ブレアがサムの墓標の前に立ってみると、既に新しい花が添えられていた。
(誰か来たのか?まさかトードじゃあないだろうな?)
ブレアは少し嫌な予感を覚えると、花と一緒に金の模様が描かれた赤いカードが添えてあるのに気がついた。
「このカード……鐘の絵か?いったい……」
レイダーズ本部、会議室。
ブレアはハンスにカードの事を聞くと、ハンスは青い顔をして会議室に皆を集めた。
「それでハンスさん、このカードが何だって言うんですか!」
「このカードの事だがな……おそらくトードが残していったものだ」
「!?」
ブレアとハオが驚愕していると、渚が続けて話す。
「これは『カウベル』と呼ばれるもの……ウィルソン財団がエージェントや兵士に指令を出す時に渡されるものよ」
「『カウベル』……家畜の鈴かよ、趣味が悪いぜ……!!」
「トードはこれを墓に置いてったんだよな?何のために……」
「……トードは……戻って来ないの……?」
ハオが涙を流して呟くと、ハンスも辛そうな表情で答える。
「俺には分からない……。だが……少なくともこのカードは、トードの意志である事は間違い無いだろう……」
「畜生ッ!!あの野郎ふざけんなよ!!!!」
ブレアが壁に拳を打ち付ける。静かな会議室に鈍い音が響く。
「とにかく問題は、財団が何か企んでいるという事だろう。トードは財団に指令を受けてここから去った……」
勇が冷静に分析すると、ハンスが話を続ける。
「最悪な想像だが……おそらく財団はこの『カウベル』で兵士を集めて新たなレイダー部隊を作ろうとしているのか?」
「なに!?どうしてそう言えるんすか!!レイダー関連の事は渚博士に一任されてるはずですよ!!」
ブレアが叫ぶように反論するが、勇が静かに返す。
「ウィルソン財団は渚との企業契約を結ぶ時に、レイダーの設計図を手元に預かる事を条件にしてきた。3年前の『来訪者』襲来の日、怒りから余裕の無かった渚はそれを承諾しタイタンレイダーズを結成、レイダーを開発したのだ」
「勇!その事は……」
渚が止めようとするが、勇は続ける。
「いいや渚、この事はハッキリさせておくべきだと思う。彼らにも知る権利はある筈だ」
「……」
「さっきの仮説が正しいとすると、財団は新たなレイダーを軍に売り込むつもりだろう。そしてそれは『来訪者』との月面戦闘を想定したものになる筈。しかしそれならば何故、レイダーの開発を渚に頼んだと思う?」
「それは……確かに、何でですかね……?」
「渚博士は財団にとって『捨て石』なのだ。いざとなったら切り捨てられる……そういう存在として選ばれた」
「そんな……酷い……」
ハオがショックを受けていると、ブレアが声を荒げる。
「じゃあ何か!?トードはそんな奴の所に行っちまったってのかよ!?」
「……計画の真偽は分からないが、彼の行方はおそらくそうなのだろう」
「クソッタレェ!!」
ブレアがまた壁を強く叩く。今度は先程よりも大きな音だった。
レイダーズ本部、食堂。
それからはレイダーズ本部には重い空気が流れていた。
「……ハオ、落ち込むのは分かるけどよ、食べないといざと言う時に保たないぜ」
「……」
なんとかハオを励まそうとするブレアだが、自身も見るからに元気と言える状態ではなかった。
「うん……でも……お腹空かないんだ……」
「ハオ……」
ハオが力無く笑う。無理もない。彼女は今、トードが居なくなった事で生きる希望を失っていた。
「……ねぇブレア、私、これからどうしたら良いのかな?」
「……そんなの、俺も分からねぇよ。でも……」
ブレアが言いかけたその時、突然基地内に警報が鳴る。
「!?『来訪者』か!?こんな時に……!!」
慌ただしくなる食堂で、ハンスがアナウンスする。
『レイダーズはドックに急げ!!財団からお客さんが来てるぞ!!』
「財団の連中が……?いったい何を……」
「もしかしてトードも……!」
「とにかく急ぐぞ!ハオ!!」
レイダーズ本部、発着場。
「おいおいなんだありゃあよ?」
「レイダー……見た事ない機体だ……」
格納庫から発着場の方を見ると、そこには全身黒尽くめのレイダーが3機立っていた。
そしてその右肩にはウィルソン財団のエンブレム、左肩には『カウベル』のマークが描かれていた。
「あのマークは……財団のレイダー部隊か……?」
「奴ら……何のつもりでここに来やがったんだ!!」
ハンスとブレアが警戒しながら見ていると、格納庫から1機のバスターレイダーが出撃した。
「あれは……ハオか!?」
ハオは3体のレイダーの前に立つと、バスターレイダーのコックピットを開いて顔を見せた。
「トード!!トードなんだよね!?」
『……』
「トード!!戻ってきてよ!!ねえ!!」
ハオが懸命に呼びかけるが、彼らはそれを気にも留める事なくこちらに呼びかける。
『我々はウィルソン財団からの使者である。名は与えられていない。これより我々の即戦力である『ブラスティ』の有用性を示すための実践訓練を実施する。貴様らに拒否権は無い』
「なに言ってやがる……テメエらは何の権利があってこんな事をしてるんだ!!」
ブレアが怒鳴りつけると、使者は淡々と話す。
『我々ウィルソン財団は『来訪者』との決戦を想定し、新たなレイダー部隊を編成した。これはその為の訓練である。そして『ブラスティ』に商品価値が認められた後にこの機体を軍に売り込む手筈となっている』
「ふざけんじゃねーよ!!そんな事が許されるわけ……!!」
ブレアが怒りをぶつけて叫ぶと、相手のブラスティが手に握られた機関銃で本部基地に穴を開けた。
「うわっ!なにしやがる!!」
『これは警告だ。財団にはそちらの組織を解体する事も容易だ。……こちらに従わない場合、レイダーズは攻撃対象……テロリストと認識し壊滅も辞さない』
「くっ……なんてこった……無茶苦茶すぎる」
ハンスが歯噛みする。
『受けて立てばいいじゃないか』
全員が困惑していると、格納庫から勇のグリフィンレイダーが出てくる。
『どちらにせよ俺たちにはこの道しか残されていない。戦って、生き残るしかないのさ。それが例えどんな相手であろうと……な』
「隊長……」
ブレアが勇をじっと見つめると、勇は優しく微笑んで返した。
「分かったぜ……やってやる!!俺たちレイダーズの力を見せてやろうじゃねーか!!」
「そうだね……戦うしかないんだね……」
「ああ!そうさ!!やれるだけの事はやってみようぜ!!」
ブレアは覚悟を決めて、自身もレイダーに乗り込み出撃する。
『各員、この訓練においてパイロットの命の保証はしない。落とされれば死ぬ。そのつもりで我々に挑んでくるのだな』
「へっ、やはりクソッタレだなお前らは!だが……そうでなくちゃ面白くねー!!」
「絶対に……負けない!!私たちレイダーズは、みんなで生きて帰るんだから!!」
『では始める』
各レイダーが戦闘準備に入り、『戦闘訓練』が開始された。
『各員散開。βは近接仕様の方を、γは重装備使用を相手にしろ。俺はグリフィンを相手にする』
「各員、敵の性能は未知数。なるべく距離を取れ」
勇が指示を出しレイダーズの機体が動き出し、戦闘が開始された。
「速い!!バスターレイダーが詰められる!!」
『この程度か?』
「くそっ!!近づかせるかよ!!」
ブレアが機関銃で敵のブラスティレイダーを攻撃するも、容易に回避され懐に入られてしまう。
『無駄が多い』
「ぐあっ!?」
「ブレア!?」
敵の攻撃でレイダーの右腕が破壊され、体勢を崩す。
『ふん、所詮はこの程度か』
「まだまだぁ!!」
ブレアは残った左腕の機関銃で反撃するが、全く当てる事ができずに間合いを詰められ、今度は足を狙われる。今度はなんとか軽い損傷で済んだが、執拗な攻撃は続く。
「くうっ……コイツ、かなり強いぞ……!」
『まだ動けるか……。ならば見せてみろ』
「このレイダー……確かに速いけど、知ってる動き……!」
ハオは向かってくるレイダーの動きを見てある確信を抱いていた。
(間違い無い……。この動きは、トードだ!!)
ハオは敵のレイダーに乗っている相手がトードであると察し、ただひたすら相手の攻撃を回避し続ける。
『避け続けるだけか?ならば……』
敵が急加速して接近してくる。
「!?」
敵は動きを完璧に読み取ると、ハオのレイダーに掴みかかって投げ倒し、無常にもマシンガンの銃口を突きつける。
『もう終わりか』
「……ッ」
ハオが恐怖に怯える。その表情を見たブレアが叫ぶ。
「ハオ!!逃げろ!!」
『仲間の心配をしている場合か?』
ブレアが呼びかけるが、その機体も敵の攻撃をなんとか避けるだけで精一杯だった。
「ぐぅ……このままじゃあ……!」
『レイダーズの隊長、玉置勇……貴様の活躍は我々も耳にしている。私も貴様と戦えるのを楽しみにしていた』
「なんだ、命の保証をしないと言う割には思ったよりお喋りじゃないか」
『そうだ。俺は貴様と話してみたかった……俺と同じ力を持つ貴様とな』
「何?」
相手のブラスティレイダーが動きを止めると、搭載されていたシステムを起動する。
『V.N.L.S起動……フルリンケージ』
「何!?貴様もV.N.L.Sを起動させられるのか!!」
ブラスティレイダーの装甲が展開し、スラスターが燃えたぎる炎を吐き出す。
『この機体は他のと違い特別製でな。貴様にも分かるだろう、俺の機体の力が……』
「……ああ、確かに凄まじい力を感じる。だが、だからと言って臆するほど俺も弱くはないぞ」
『ふ……ならば試させてもらおうか!!』
「来い!!V.N.L.S起動!!フルリンケージ!!」
相手に応えるように勇もV.N.L.Sを起動させる。
「行くぞ!!」
『かかってこい、玉置勇!!』
2機のレイダーが激しくぶつかり合う。
お互いの拳と拳がぶつかり合う度に、激しい火花が辺りに飛び交う。
『どうした!!その程度の力か!!』
「ぐっ!?」
力の差は歴然だった。勇は相手に押され続け、ついに膝をつく。
「くっ……パワーは向こうの方が上か……なら!!」
『む……!』
勇はグリフィンレイダーのブースターを使って上空に飛ぶ。
そのまま急降下しながら、相手の機体に蹴りを入れる。
『小賢しい真似を!!』
しかしそれも防がれ、逆に押し返されてしまう。
そして今度は相手の方から突っ込んできて、強烈な体当たりを食らう。
「くっ!?」
勇は吹き飛ばされるも、すぐに体制を立て直す。
『今ので死なないとは、なかなかしぶといな』
「はは、お褒めいただき光栄だよ。だがな、こちとら潜ってきた死線が違くてな……!!」
勇は素早く敵に接近すると、相手に回し蹴りを放つ。
『ぬおっ!!』
「よし!直撃だ!!」
『この程度で勝ったつもりになるなよ……』
「何……?」
回し蹴りは相手にヒットしていたが、同時にそれを片手で受け止められていた。
『ふんっ!!』
「がああっ!?」
そして次の瞬間、勇のレイダーは地面に叩きつけられていた。
『これで終わりか?まさかそんな事は無いよな……?』
「ぐっ……」
勇は立ち上がるものの、その体は満身創痍であり、さらにV.N.L.Sの負荷も限界に近づいていた。
「まずい……これ以上は体がもたん……」
『ほう、それがお前の限界か』
「くっ……貴様も同じシステムを搭載している筈だ……何故まだ耐えられる!」
『俺は負荷を遮断しているのでな、機体の限界が先に来ない限りはいくらでも戦い続けられる』
「なんだと……!?」
『まあもっとも、流石にこの機体にもガタが来てるようだ。早めに決着を付けるとしよう……』
「くっ……!」
その頃、ブレアの機体は敵の猛攻を受けてボロボロになっており、ブレア自身も敵の動きに対応出来ずにかなり疲労していた。
「なんで……なんで人間同士こんな醜い争いをしなきゃなんないんだよ!!これは人類を『来訪者』から守るための力だろ!!」
敵に押されてながらも嘆くブレアに、相手が冷徹に言葉を突きつける。
『ブレア・ヒューズ、元アメリカ軍の貴様なら分かっている筈だ。軍事力こそ最大の防衛力。その真価は命の奪い合いでこそ発揮されるのだ。それに、『来訪者』を倒した後に残る物は何だと思う?平和か?違うな』
相手がブレアの機体のコックピットにライフル銃を突きつける。
『力だ。敵を滅ぼし、そこに力だけが残るのだ。我々はそれを金に換えるために戦っているのだ。理解したか?これが現実なのだ。レイダーとは世界を変える最新鋭の兵器、そして我々ウィルソン財団はその戦力を提供する会社だ。その事を忘れないことだな』
「くそったれ!!結局はカネかよ!!」
『さて、無駄話はここまでだ。そろそろ終わらせよう』
「ぐっ……!!」
『では、さらばだレイダーズの諸君』
「……ふざけんじゃねぇ……ここで終わってたまるか!!!!」
ブレアは残った左腕で相手のライフルを払うとそのまま蹴りを入れて、腰に下げたバスター・チェーンソーを握る。そしてそれを起動させずにそのまま相手のブラスティレイダーに突っ込む。
『くっ!油断を……!!』
「うあああああああ!!!!」
完全に勝ちを確信していた相手は、ブレアの反撃に咄嗟に対応出来ずに直撃を喰らう。
「はあああああああ!!!!」
冷静さを失ったブレアはそのまま相手のコックピットにバスター・チェーンソーを押し付け、そのまま押し潰す。
『くっ!!退避を……!!』
「うおおおおお!!!」
ブースターを吹かして逃げようとする相手を、ブレード状の足で捉えて逃さない。
『この俺が……!この俺がああああああ!!!!』
「うわああああああ!!!」
断末魔の叫びと共に、敵のブラスティレイダーは爆散する。
『βがやられたか。やつめ、油断をしたな』
自陣の機体が破壊されたのを確認すると、敵のリーダー機がV.N.L.Sを解除する。
『命拾いしたな。だがな、これで終わりでは無いぞ。我々はまた必ず現れる。その時までに、せいぜい腕を上げておくことだ』
そう言い残して、敵の機体は立ち去っていった。
『……』
リーダーのαが撤退したのを確認したγが、先程までハオに突きつけていたマシンガンを収めてその場から立ち去ろうとする。
「待って!!トード行かないで!!」
その呼びかけにγは答えず、そのまま撤退して行った。
「はぁ……はぁ……」
敵の撤退を確認したブレアの機体がその場に倒れ込み、息を整える。
「おい、大丈夫か!?」
「うっ……クソッタレ……!!なんで……!!なんでこんな!!こうする事しか出来なかったのかよ!!」
「……仕方なかったんだ」
「仕方なくなんか無い!!俺は……戦争じゃ、戦争なんかじゃねぇのに……この手で、顔も知らない誰かの命を……!!」
「……それでも、俺たちは生きなきゃならないんだ。世界を守るため、時には邪魔をする者は排除しなければならない時もあるのだ」
「そんなの……そんな重いもん、俺……背負いきれねぇよ……」
数日前、レイダーズ本部、トードの部屋。
それは『ヒト型TE』を討伐した祝杯が挙げられた直後であった。
(……なんだ?部屋の鍵が開いていた……?)
トードが自室に戻ると、鍵が開いていた違和感と共に、何者かの気配を暗闇に感じた。
「よお。久しぶりだな……名も無き逃亡兵よ」
「お前……どうやって入ってきた!」
「ふっ、財団の兵士ならピッキングくらいは余裕だろ」
「貴様、『カウベル』の……!」
「まあそう慌てるなよ。俺はこれを渡しに来た」
男は暗闇から赤いカードと首輪を投げ込む。
「これが俺たちの飼い主からのプレゼントだ。受け取らなければ……どうなるかな?」
「……」
「さあ、来い。指令だ」
レイダーズ本部、会議室。
レイダーズは今、最大の混乱を迎えていた。
財団からの使者による攻撃、解体宣告とも排除宣告とも言える通達、さらには絶望に飲まれた隊員たちの士気の低下。
もはやレイダーズは機能しているとは言えなかった。
そんな状況の中で、誰も居ない会議室に1人、ハンスが何者かと連絡を取っていた。
「はい……はい……はい、もはや潮時だと思います。ええ、そろそろ行動を始めましょう」




