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タイタンレイダーズ  作者: 南ノ森
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アメリカ、某刑務所。

「俺が思うによぉ、そろそろ地球は滅ぶぜ!」

「はっ、そいつはいいや。こんな腐った世の中は一回リセットされた方がマシだね」

 何人かの男が、檻越しに話をしていた。その話に、1人の若者が口を挟む。

「くっだらねぇ、お前らが何に腐ってんのかは知らねぇけどよ、バカみてぇに騒ぐんなら静かにしてろよ」

 湧いていた空気が急に冷たくなる。騒いでいた男の1人が、口を挟んだ若者を強く睨んで言葉を返す。

「なんだよブレア、お前にはどうにか出来るアテがあんのかよ?50mもあるデケー化け物の大群をよ?」

「んなもん知るか!俺はただ、黙って死ぬのを待つなんてゴメンだって言ってんだよ!!」

 そのやり取りを見ていた別の男が、口を開く。

「お前みたいなガキにゃ分からねぇよ、俺たちはな、このクソみてぇな世界に殺されちまうんだ……」

 その言葉に、今まで黙っていた、日本人の男が口を開く。

「お前ら、こいつの相手をするだけ無駄だ」

「なんだと!?」

「こいつが何故ここにぶち込まれたか聞きたいか?」

 それを聞いたブレアが、男に向かって叫ぶ。

「おい、イサミ!余計なこと言うんじゃねぇぞ!!それにお前、俺の事を勝手に話すんじゃねーよ!!!」

 しかし、イサミと呼ばれた男は構わず続ける。

「こいつは道で酒を飲んでいたんだ。浴びる程にな」

 それを聞いた男たちが、笑うでも無く怒るでもなく、呆れて長い沈黙を作る。

「なんか、その……悪かったな、坊や」

 そして、最初に口を開いた男が、若者に対して謝る。

「謝んなよ、余計惨めになるだろーが!!」

 ブレアはそう言うと、不貞腐れたようにその場に寝転び、そのまま眠りについてしまった。

 それを見ていた他の男たちは、顔を見合わせると、お互いに苦笑いをした。

「ま、世の中に不満があるのは俺たちだけじゃ無かったってこったな。お前さんもあんまり陰気になるなよ?世界が終わる時は俺たちも一緒だからな」

 男達はそう日本人の男に言った。だが、その言葉を聞いたその男は、笑いながらこう返した。

「いいや、終わらないさ。絶対にな」

 その言葉を言ったその時、男は看守に呼ばれた。

「イサミ・タマキ!面会だ!」


 看守に呼ばれた男、玉置勇は面会室へと連れて行かる。

「初めまして、玉置さん。私は桂木渚と申します」

そこにいたのは、大体30代前半に見える女性だった。

「……アンタがウィルソン財団の人身売買の使いか?」

 勇の言葉に、女性は軽く頭を掻いて返す。

「いいえ、私はそのウィルソン財団の契約先です。それにこれは人身売買ではなく雇用契約よ」

「よく言うぜ。保釈する代わりにその分の金を稼いでもらうって話じゃねぇか」

 勇の言葉を聞いて、女は少し困った顔をすると、話題を変えるように話し始めた。

「まぁ、そんな事より、貴方に伝えなきゃいけない事があるのよ」

「なんだよ、さっさと言え」

 女は少し間を置くと、再び話し始める。

「貴方にはこの世界を救って貰うわ。我々とね」

 女の発言に、勇はニヤリと笑う。

「……その言葉を待っていた」


3年後、日本のとある航空基地。

 その一室でとある会議が行われていた。

「以上が、我々が行ったシミュレーションの結果になります」

 その会議の壇上に立っているのは桂木渚だった。彼女は今、世界中の防衛基地から集められた科学者達と共に、ある研究を行っていたのだ。

「しかし、戦車や戦闘機を圧倒する兵力など、少々誇張が過ぎるのではないかね?」

「いいえ、先程お見せした結果はバーチャルによる模擬戦闘の結果ではありましたが、少なくともこの結果は実際の戦闘データから算出されたものです」

 会議室の中にどよめきが起こる。

「し、しかしだな……」

「それに、今から実際の機体を使った操縦テストの模様をお見せします。さあ、入りなさい」

 そう言って渚に手招きされて出てきたのは若いアメリカ人の男だった。

「ブレア・ヒューズ軍曹です!今回のテスト操縦のパイロットを務めました!」

「ブレア・ヒューズ『元軍曹』です。」

 渚が訂正するようにそう言う。

「え!?あ、はい!失礼しました!!」

 それを聞くと、渚は満足そうに頷いた。

「よろしい、では実際に見ていただきましょう」

 そうして、モニターにはアメリカの、廃墟になった大都市が映し出された。

『よし……と、カメラはちゃんと動いてるかな?』

 映像の中で、作業服を着た男がキョロキョロしながら歩いている。すると、その男の後ろから勢いよく『それ』が飛び込んでくる。

『ひゃっほおおう!!!』

『うわっ!!』

 それは、まるで人間のように四肢を持つ、5m程の大きさの機械の塊だった。それが時速160km程の速さで通り過ぎていったのである。

『おいコラァ!!危ねぇだろうがぁ!!!殺す気かぁ!?』

 そして、その男はその塊に向けて大声で叫ぶ。すると、その塊の中から声が返ってくる。

『ああ、悪いな!次からは気をつけるよ!』

 その映像を見ていた一同は唖然としていた。そして何故かそれに乗っていたブレア本人も青い顔をしていた。

(嘘だろ…!これナラシの時の映像じゃねぇか…!!消したはずなのになんで流れてんだよ!!)

 そんな事を考えつつも、ブレアは画面に目を向ける。そこにはもう1人の作業員がいた。

『いいか?この的を……』

『よっしゃ任せろ!!』

 ブレアが乗る機体が機関銃を構える。そしてその弾丸は見事に的に命中した。

 それを見た2人は拍手をする。

『おお〜凄いじゃないか君ぃ〜』

『イェーイ!!俺は荒野のガンマンだぜ!!』

(ああもう、最高な気分だぜ、クソッ)

 そう思いながらも、ブレアは心の中でガッツポーズをしていた。

「このように、彼らはたった数ヶ月でこれだけの戦果を上げています」

 渚の言葉に会場の人間は言葉を失う。そんな中で、渚は再び口を開く。

「更に彼らの技術力は我々の予想を遥かに上回っています。このままいけば近い将来、我々は『来訪者』の侵略に対抗出来るようになるでしょう」

 それを聞いた会場の人間達は、驚きながらもどこか納得したような表情を浮かべていた。だが、その中で一人、手を上げる者がいた。

「質問よろしいですか?」

「どうぞ」

 渚にそう言われると、その者は立ち上がり質問をした。

「あなた方はそれ程までの武力を我々に開示してどうするつもりですか?以前の話ではこの……何と言いましたかな?」

「レイダー……タイタンレイダーです」

「そう!その、レイダーの設計技術は一切他国に提供しないと仰りましたが?」

「ええ、その通りです」

 渚の言葉を聞いたその者の目が光る。

「……なるほど、つまり貴方はこう言いたい訳ですな?『我が国の技術力なら地球を救う事も可能だ』と」

 その言葉を聞いて、何人かの男が笑い出す。しかし、渚はそれを気にすること無く答えた。

「そうです、可能です」

 その答えを聞いて、笑っていた男達はその口を閉ざしてしまう。

「……話にならない。武力の独占だ」

 周りの者達は呆れかえるが、渚は顔色ひとつ変えずにこう言った。

「これは我々地球人類の生死に関わる問題です。戦争の種になるものは排除しなければならないのです」

「いや、だからと言って……!」

 まだ食い下がろうとする男に対し、渚は少し口調を強めてこう続けた。

「これは戦争ではありません。人類滅亡を回避する為の戦いです」

そして最後に一言、こう付け加えた。

「それと、レイダーは兵力でも武力でもありません。防衛力です。以後間違えないように」


「ちょっと渚博士!あれは何すか!何で消したはずの映像使っちゃうんすか!!」

 格納庫に戻ったブレアは開口一番にそう言った。それを聞いた渚は平然と答える。

「いいじゃない、私は成績の良い方を使っただけよ?」

 それを聞いてブレアは頭を掻きむしる。

「そういう問題じゃねぇっすよ!あれのせいで俺まで変な目で見られてるんすよ!?」

「別にいいじゃない。私は貴方が何者だろうと、使えれば何も気にしないわ。それが嫌なら普段から真面目に取り組む事ね」

「……うっす」

 ブレアが言葉を失っていると、後ろから大きな笑い声が聞こえてくる。

「よおブレア!いやぁ、あのデモ映像は傑作だったねぇ!!」

「ったく、何だよサムまでぇ〜」

 笑い声の主はサムと呼ばれる、体格の良い女性だ。彼女もまた、『人身売買』によって雇われた人材である。

「いやー、悪かったって、そんな怒んなよ!」

 そう言いながらサムはブレアの背中を叩く。

「痛ってえよぉ……」

 2人がじゃれあっていると、向かい側から両手に缶コーヒーを持った、筋肉質の男がやってくる。

「2人とも、お疲れさん」

「マック!ありがとうな!」

 そう言ってブレアは缶コーヒーを一本受け取る。

「ところでさ、今から実践形式のデモンストレーションやるんだろ?頑張れよ!」

 マックに肩を叩かれ励まされるブレアだが、それを聞いて予想外だと言う顔をする。

「あれ?今回のデモンストレーションってマックが相手じゃないのか?」

「ん?俺じゃないが…サムがやるんじゃないのか?」

 その言葉に今度はサムが驚く。

「え、アタシ!?聞いてないわよそんな事!!」

 慌てるサムを見て、渚はニヤリと笑う。

「あら、言ってなかったかしら?ごめんなさいね」

 そう言うと渚はスタスタと歩き去っていってしまう。残された3人はしばらくポカンとしていたが、状況が読めないまま突っ立っているわけにもいかないので、とりあえず整備ドックへと向かう事にしたのだった。


 整備ドックには、3機の人型ロボット…現在の最先端防衛力であるレイダーの最新機『バスターレイダー』が並んでいた。

 その中でも、左肩に大きく『狼』の文字がペイントされている機体がブレアのバスターレイダーである。

「うーし、じゃあ始めるぞお前ら」

 3人に聞こえるようにマイクを使って話すのは、この隊の指揮官を務める男、ハンスだった。彼は今、管制室から通信している。

「今回は実戦を想定した模擬戦だ。大勢のギャラリーが見ているんだ、存分にアピールしろよ」

 その言葉を聞いて急に緊張してきたブレアだが、コックピットのモニターを起動した時にある事が気になった。

「……あれ、なんか既に整備した跡があるんすけど、誰かもう出てるんですか?」

 それを聞いたハンスが答える。

「ああ、ついさっき来てな、さっきからずっとお待ちかねだ」

 それを聞くと、ブレアは嫌な予感を感じて冷や汗を流す。

「いったい何が何なんだ……」

 そんな事を考えているうちに、ブレアの準備が終わったのか、目の前のハッチが開く。ブレアは自らに課せられた仕事を成すために機体を出撃させた。

 背面のブースターを弱めに吹かすと、ブレード状になっている脚部がコンクリートの床を滑って前進し、演習場へと向かう。

 そうして試験場に到着した時、観客席は既に満席になっていた。そこに座っている観客達の視線を浴びながら、ブレアは演習場の中心に立つ。

 そして、自分の対戦相手を探すため辺りを見回すが、姿が見えない。

「……おい、いったいどうなって……」

 ブレアが戸惑っていると、猛烈なスピードで『何か』がブレアの機体の横をスレスレで横切った。

「!?」

 突然の事に驚きつつもなんとか反応して回避するブレア。その『何か』はブレード状の足を横に向けてブレーキをかけて目の前で停止した。

 それはブレアのものと同じバスターレイダーだった。しかも肩の『鷹』の文字のペイント以外は全て同じ武装のものだ。

 そして、その機体はブレアの方を向くと、スピーカーを通して話しかけてきた。

『3年ぶりだな、ブレア』

「!?」

 ブレアはその声に聞き覚えがあった。その声は、かつて獄中を共に過ごした男、玉置勇の声だった。

「あんたまさか、イサミ・タマキか!?」

 予想外の人物の登場にブレアは動揺する。

「イサミ……まさかアンタもここに居たなんてな…正直ビビって言葉が出ねえよ」

『ふっ、路上飲酒で捕まってたガキが、立派にレイダーを乗りこなしてるらしいじゃないか』

「シャバに出てまでんな話を掘り返さなくていいんだよ!」

 そんなやり取りをしている2人の所に、管制室の渚が現れる。

「2人とも、準備はいいわね?」

 2人はお互いに向き直ると、無言で頷く。それを見て渚も頷くと、開始の合図を出す。

「では……始めっ!!」

 合図と同時に動き出したのは勇の乗るバスターレイダーであった。凄まじい速度で接近するとその勢いのまま、機体の身長程ある大鉈を振りかぶる。

 ブレアはそれを間一髪で避けると、お返しとばかりにこちらも大鉈を振る。しかし、それも避けられてしまう。

 その後も何度も攻撃を繰り出すものの、それらはことごとく躱されてしまう。

(クソッ!まるで当たらない!!)

 そんな焦りを感じながら攻撃を続けるブレアに対して、勇は全く表情を変えず、冷静に相手の動きを見切っていた。

(やはりまだ荒削りだな)

 そう考えながら勇は隙を見て攻撃を仕掛ける。その一撃を受けた瞬間、ブレアは吹っ飛ばされてしまい壁に激突してしまう。

(ぐっ!パワーじゃ勝てない!)

(ならば!)

 ブレアは態勢を立て直すと、今度は自分から攻めに出ることにした。

(それなら!)

 ブレアは大きく飛び上がると、空中で回転しながら勢いよく降下していく。

(これならどうだ!)

(……!)

 それを見た勇は急いで防御の姿勢をとる。

(もらった!!)

 ブレアの大鉈が勇の大鉈とぶつかり合い火花が散る。そのまま鍔迫り合いになるかと思われたが、ブレアの機体が弾かれて大きくバランスを崩して膝をついた。

 よく見るとブレアの機体の胴に傷が付いている。大鉈に気を取られていた隙に勇がブレード状の足で蹴り上げていたようだ。

 そして次の瞬間には、勇のバスターレイダーがブレアの喉元に刃を突きつけていた。

「……参、った」

 それを見た渚は、満足げに頷いた。

「はい、2人ともお疲れ様でした。結果は後で知らせるから先に戻ってて」

 渚の言葉を聞いた2人は、何も言わずにその場を後にした。


「……なぁ、何でアンタここに居るんだ?」

 2人が格納庫に戻った後、ブレアは疑問に思っていた事を聞いてみた。すると勇はあっさり答えた。

「さあな。俺はただ上からの命令で来ただけだ」

「はあ?上ってなんだよ?」

「……所詮俺も、ウィルソン財団に買われた犬って事だよ」

「……え?」

 それを聞いてブレアは思わず固まってしまう。

「何なんだよあの野郎…」

 その時だった。基地内に警報が鳴り響き始めたのだ。それと同時に放送が入る。

『緊急事態発生!警戒レベル3発令!繰り返す、緊急事態……』

「なっ!?こんな時にかよ!!」

 それを聞いたブレアは急いで格納庫に向かう。他の隊員達も続々と格納庫に向かっていった。

 格納庫に到着すると、そこには既に2人の隊員と整備員達が集まっていた。

 サムとマックは既に各機のシートに着いており、遅れて到着したブレアを見つけたサムが言った。

「遅いわよ!早くしなさい!」

 そう言われたブレアは慌てて自分の機体のシートに座りヘルメットを被った。

《システムオールグリーン》

 オペレーターのアナウンスが無線から聞こえてくる。

『発進スタンバイ!』

 それを聞いたブレアは操縦桿を握りなおすと、エンジンをかける。すると、コックピット内が少し明るくなると共に振動が伝わってくる。どうやらカタパルトに乗ったらしい。

『進路クリアー、いつでもどうぞ』

オペレーターの声の後、サムが叫ぶ。

「レイダーズ、GO!!」

 それを合図に各機は勢いよく射出された。そして数秒後には空中へと躍り出ていた。ブレアは眼下に広がる街の風景を眺める。

 街に人気は無く、建物も殆ど崩れている。

 これはかつての『来訪者』と人類とのファーストコンタクト…そして戦いの爪痕でもある。

 その風景を目に刻んで、ブレアは覚悟を決めて呟いた。

「……さーて、一丁やりますか!」


東京某所、淀んだ空に3体の機影が飛んでいる。

 両椀に機関銃を構え、機体と同じ位の大きさのレールガンを携えた、左肩に『豹』の文字がペイントされたバスターレイダーがサムの機体。

 背面スラスターと脚部にミサイルポッドを搭載し、二連装マシンガンを両椀に構えた、左肩に『虎』の文字がペイントされたバスターレイダーがマックの機体。

 背中に大型スラスターを換装し、その横に2本の大鉈を装備、両椀甲部に軽装の機関銃を装備した、『狼』の文字がペイントされたバスターレイダーがブレアの機体だ。

 3機が飛行していると、突如3機の間に通信が入った。

『こちらハンスだ。お前ら聞こえるか?』

 ハンスは落ち着いた声で言う。それに対してサムが答える。

「聞こえてるわ」

 続いてハンスが言う。

『よし、今回の作戦を説明するぞ。今回相手にするTEは4機。どうやら『来訪者』は図体がデカいからと言ってナメてかかってるみたいだ。これがお前らの初陣となるが、油断するなよ』

 ハンスの言葉を聞いて、ブレアは少し緊張する。

(ついにこの時が来たな……)

 一方その頃、東京には既に『来訪者』の放ったTE…『タイタンエネミー』が4機降着していた。

 TEの主力戦力『歩兵TE』は4本の脚部と船体状の胴体を持ち、上部には2機のキャノン砲を持った50mの巨体を持った怪物である。

 TEの元に辿り着いた3人はそれぞれ所定の位置に着き、指示が来るのを待っていた。

 しばらくするとハンスから通信が入る。

『いいかお前ら、敵はたったの4機だ。お前たち『4人』が油断せずに作戦を遂行する事で簡単に倒せる数だ。気を抜かずに落ち着いて対処しろ』

 その言葉に3人は頷く。

 しかし、ハンスの言葉に引っかかったブレアが返した。

「ちょっと待ってくれ、今『4人』って言ったよな?もしかしてこの作戦にアイツも……?」

 それを聞いたハンスはニヤリと笑って言った。

『そうだ、玉置も参加する事になったからな』

 それを聞いてブレアは頭を抱えてしまった。

「マジか……」

 そんなやり取りをしている間にも、敵機はゆっくりと近づいてきていた。その距離およそ200mほどになった時、敵が砲撃を受けてバランスを崩した。

 その砲撃を行ったのは当然玉置勇である。彼は敵の1機をロックオンしてライフルを発砲したのだ。その正確無比な射撃によって放たれた弾丸は見事に敵に命中し体制を崩させたのだ。

 そして、間髪入れずもう1発撃ち込む。それによって完全にバランスを失ったTEはそのまま倒れ込んでしまう。

『待たせたな』

 そう言って勇は1番近くにいた敵に急接近して斬りかかる。しかし、他の敵機のキャノン砲による反撃が降りかかる。そのビームの雨を受けそうになるが、勇は攻撃を難なく回避する。

 それでも敵の砲撃は降りかかるが、勇は猛烈なスピードを保ったまま攻撃を避け、待機していた仲間たちと合流した。

『よう、さっきぶりだなブレア』

 勇はそう言ってブレアのバスターレイダーの肩を叩く。それに対しブレアは言う。

「なんであんたがここにいるんだよ!?」

『当たり前だ。俺は今日お前らの隊長としてここに来てるんだ』

 勇のその言葉を聞き、ブレアは余計に混乱した。

(じゃあ何で俺より後に出てきたんだよ……)

 そんな事を考えていると、ハンスから通信が入る。

『おいお前ら!隊長と合流したんなら遊んでないでさっさと戦闘に集中しろ!!』

 その声に我に返ったブレア達はそれぞれの武器を構えると一斉に攻撃を開始した。

 まず最初に動いたのはマックのバスターレイダーだった。背中のブースターを使って高速で移動しながら、両手に握った二連装マシンガンで敵を蜂の巣にする。

 攻撃を受けたTEはその装甲を大きく凹ませながら地面に倒れた。それを見た残りの2機のTEのうち片方が大きく動揺するが、もう片方はそれを見逃さず即座に反応して攻撃を仕掛ける。

 だが、その攻撃を読んでいたかのように各機が素早く回避する。

(敵は50mのバカデカい巨体。対してこっちは5m程の豆粒みたいな機体。蹴られでもすれば一発アウトだが、小回りで言えばこっちが有利だ)

 そう考えたサムは加速して敵の真下に潜り込み、そのまま脚部目掛けてレールガンを発射する。それは見事命中し、脚部を損傷させる事に成功した。

 脚をやられてバランスを崩した機体は大きく揺れたが、残りの3本の脚で何とか踏ん張り体勢を立て直す。その間にマックとブレアが残った脚部の関節部分を集中的に狙って破壊していく。それにより、とうとう脚部が動かなくなったTEは大きくバランスを崩し転倒してしまった。

 そして身動きが出来なくなった敵機に向かい、勇が乗るバスターレイダーが止めを刺すべく接近する。

 しかしその間も残りの3機からの激しい砲撃の雨が降りかかる。だがそれが勇の狙いでもあった。

 ブースターを激しく吹かして空中へと飛び上がった勇は、動けなくなった敵機を飛び越える。そしてそのまま、勇を狙う砲撃の雨が敵機へと降り注ぎ、次々と着弾していく。

 やがて全ての砲弾が命中した機体は爆発を起こし四散していった。

その光景を見ていたブレアは思わず呟いた。

「やっぱスゲェ……」

 その時、再びハンスから通信が入る。

『よくやった!1機撃破だ!残りも片付けるぞ!』

 その言葉を聞いたブレア達は再び行動を開始するのだった。


 1時間後、無事に最後の1機も倒す事が出来た4人は、残骸と化したTEの残骸の上に立っていた。そして、ハンスが再び指示を出す。

『よし、それじゃあ基地に戻るぞ』

 4人は頷き合うと基地に向かって飛び立とうとした時、突然レーダーが1機分の熱源を上空に感知した。

『何だ!?』

『これは……全機散開!!上から来るぞ!』

 次の瞬間、凄まじいスピードで何かが突っ込んできたかと思うと、先程までサム達が居た場所に大きなクレーターを作っていた。

 その中心には、人間のような体躯を持ち、二つの脚でしっかりと体を支えて、ムチのような複数の触手を後頭部から生やした、全長80mの巨体が立っていた。

「なっ…なんだありゃ!?」

『『ヒト型TE』…これまでのデータにない新型の巨大兵器か…!!』

 その姿を確認したサムが驚きの声を上げる中、ハンスが冷静に分析をしていた。

 機体の体制を整えるサムのその横では、先程の敵の降着により飛んできた破片が機体に直撃し、右腕を失ってしまったマックの機体があった。幸いにも内部へのダメージは無いようだったが、このままではマトモに戦う事も出来ないだろう。

 するとサムが叫んだ。

『アタシが囮になる!お前らは逃げろ!!』

「何言ってんだよ!?アンタを置いて逃げるなんて出来るわけねぇだろ!!」

 ブレアの言葉を聞いたサムは大声で返す。

『いいから行けって言ってんだろ!!!ここで全滅したら元も子もねぇだろうが!!!!』

 その言葉に押し黙るブレアを見て、今度は勇が言う。

『ブレアの言う通りだ、隊長として、隊員を見捨てる事は出来ない』

 その言葉に続けてハンスが言った。

『そうだ、我々は決して誰一人欠ける事は許されない。今基地から自動照準のミサイルを飛ばす、それまで時間を稼いでくれ』

 2人の言葉を受け、渋々了承したブレアは、仲間のバスターレイダーと共に目の前の巨大な敵に向かっていく。

『各機、敵の動きは予測出来ない。出来るだけ止まるんじゃないぞ!』

 勇の指示に従い、3機は敵の周りを旋回するように移動する。すると敵はそれに合わせるように体を回転させ始める。それを確認した3機は更に速度を上げて敵に迫る。

 しかし、敵はその様子をただゆっくりと動きながら目で追うだけで何もしてこない。

(おかしい……何故何もしないんだ?)

 勇は疑問を抱きながらも敵の攻撃を警戒してバスターレイダーを操作する。しかし、敵は依然動かないままだった。

(どういう事だ……?)

 敵が何をしたいのか分からず困惑していると、不意にハンスの声が通信機に入る。

『ミサイルの準備が出来たぞ!240秒後に着弾する!各機退避しろ!!』

 それを聞いた3機は一気に距離を取るべく動き出す。

 しかしその瞬間、敵の動きが急激に変わった。

 敵はその場から浮遊すると、頭部から伸びるムチを勢いよく伸ばしてきたのだ。

『クソッ……!』

 勇は悪態を吐きながらなんとか避ける。しかし敵のムチは殆ど同じ速度で勇を追い回し執拗に迫ってきた。

「くっそぉぉぉぉ!!!」

 他の機体も同様に必死に避け続けるが、ついにムチの先端がブレアのバスターレイダーの右脚を捕らえる。それによりバランスを崩したブレアはそのまま落下してしまう。

「しまったっ!」

 慌てて態勢を立て直そうとするが、その前に別の2本のムチが胴体を狙う。それをギリギリでかわすものの、遂に胴体部に攻撃を受けてしまい大きく吹き飛ばされてしまう。

「ぐあっ!!」

 地面に叩きつけられたブレアの体は地面を数回バウンドした後、ようやく止まった。しかしその衝撃は凄まじく、彼の意識は朦朧としていた。

 辺りを見回すと、既に4人は敵の放ったムチの作ったカゴの中に捕らえられてしまっていた。

『くそっ……!あと80秒しか無いのに、こんな所で…!!』

 絶望的な状況の中悪態をつくマックだったが、そんな彼の目の前に一本のムチが伸びてきた。

『チクショウがぁ!!』

 マックは怒りに任せて、残り少ないミサイルを放つ。しかし迫り来るムチを撃墜する事は出来ず、その先端であっさりと打ち落とされてしまった。

『ちくしょぉぉぉお!!!』

 絶望の叫びを上げるマックだったが、サムの放ったレールガンが襲い来るムチを撃ち落とす。

『諦めるな!最後まで諦めずに足掻け!!』

 そんなサムの機体は既にボロボロであり、所々から火花が散っていた。先程放ったレールガンも、ムチを回避するために連射した事でオーバーヒートを起こしていた。

「もう無理だ!完全に退路を塞がれちまった!このままじゃ俺たち全員あの世行きだぞ!!」

 そんな時、再びハンスから通信が入る。

『お前ら何してるんだ!このままではミサイルに巻き込まれるぞ!!』

 その言葉にサムが反応する。

『…これは一か八かの賭けだ。勇、アタシの機体の動力部をそのライフルで撃て』

「……はぁ?」

 突然のサムの提案に困惑するブレア。一方勇は真剣な眼差しで言う。

『それでどうなる?』

『この機体には大型のレールガンを撃つために、大量のエネルギーを補うための動力が増設されている。つまりだ』

『…なるほど、そいつを使えば鳥籠に大穴を開けられるという事か』

『そういう事だ』

 勇の言葉に頷くサム。そんな2人のやり取りを見ていたブレアは思わず叫ぶ。

「おい待てって!そんな事したらアンタもタダじゃ済まなくなるんだぞ!?」

 それを聞いてサムは笑う。

『へっ、構うもんかよ。どうせこのまま死ぬなら、隊長さんに最後に1発デカい花火でも打ち上げてもらおうじゃないか』

 そう言ってサムは操縦桿を握る手に力を込めた。それを見て勇は言う。

『ああ、分かった』

『へへ、話が分かる奴で助かるよ』

 そして2人の会話が終わると同時に、サムのバスターレイダーがムチの鳥籠へ向かって突撃する。当然の如くムチによる攻撃が来るが、勇はそれを全て撃ち落としていく。そしてとうとう鳥籠の檻へ接近した時だった。

「サム!!!」

 無数のムチがサムの機体を貫いた。それを見たブレアは悲鳴を上げる。

 しかし、それを待っていたと言わんばかりのサムの声が無線から聞こえた。

『今だぁ!!やれェエ!!!』

 その言葉を聞いた勇は即座に引き金を引く。それと同時に放たれた弾丸は一直線に突き進み、見事動力部に命中した。

 そして次の瞬間、鳥籠の内部に凄まじい閃光が走ったかと思うと、大きな爆発音と共に爆煙が立ち込めた。そして、数秒後そこには爆発によって出来た大きな穴が空いていたのだった。

『今だ!!』

 2人は勇の合図で機体を穴から脱出させる。その間も無数のムチが襲って来たが、それらは勇が全て迎撃し穴を広げ続けた。やがて機体は鳥籠を脱出、それと同時に基地から発射されたミサイルが敵に向かっていった。

 ミサイルは全弾命中し、凄まじい爆発が起こる。その爆風に煽られ、3人の機体は遠くへと飛ばされていったのだった……。

 こうして、彼らの壮絶な初陣は幕を閉じた……。


 どれくらいの時間が過ぎたのだろうか、ブレアは目を覚ますとまず最初に見えたのは基地の医務室の蛍光灯だった。

(……ここは?)

 状況が飲み込めず混乱する頭を抑えながら体を起こすと、すぐ横から聞き慣れた声が聞こえた。

「よう、やっと起きたか」

 声の方向に顔を向けると、そこには椅子に座りながら丸の林檎を齧っている勇の姿があった。

 彼の姿を見た瞬間、ブレアの頭の中で様々な映像が巡る。

ある日突然隊長に任命された男が、自らのその手で、かつて自分と共に訓練を積み重ねてきた仲間を射殺してしまった瞬間。

 その記憶が蘇るや否や、ブレアは勇の胸ぐらを掴み叫んでいた。

「何で撃ったんだよ!?」

 ブレアに胸ぐらを掴まれたまま、勇は何も言わない。その様子を見たブレアは更に声を荒げる。

「なぁ答えろよ!!なんで撃ったんだって聞いてんだよ!!」

 何も言わずただ黙っている勇の代わりに、マックが割って入って止める。

「落ち着けよブレア、そんなに興奮すんなって……」

「これが落ち着いていられるか!!サムが死んだんだぞ!?しかも撃ったのはコイツだ!!なのにアンタは何も思わないのかよ!?」

 今にも殴りかかりそうな勢いで怒鳴るブレアに対して、マックは静かに答える。

「……俺だって、何も思わなかった訳じゃねぇよ」

 それを聞いたブレアは思わず手の力を緩めてしまう。それを確認したマックはゆっくりと話し始めた。

「確かにサムとは付き合い長いけどよ、それでも俺たちはこの地球を守るために使い捨てられる運命なんだ。命令があればどんな事だってやらなきゃいけねぇんだ」

「……そんな事、納得しろってのかよ」

 俯きながら呟くように言うブレアに、勇は立ち上がって話し始める。

「正体不明の敵の猛攻の中、あの危機を脱する術は他には無かった。そんな中で、責任をお前たちに背負わせる事は出来ないと判断したんだ」

「だからって……!!」

 尚も反論しようとするブレアだったが、険しい表情で勇が制する。

「ではお前には撃てたのか?仲間の命を犠牲にしてまで生き残るという選択を取れていたのか?」

 その言葉を聞いてブレアは押し黙ってしまう。そんな彼の様子を見て勇は再び椅子に腰掛けると、今度は優しく語りかけるように話す。

「俺はあの時の選択を後悔していない。もし仮にお前が俺を恨むのなら、それは甘んじて受け入れよう。だがこれだけは覚えておいてくれ、俺はお前たちを生かす為に最善を尽くしたつもりだ。」

 そう言うと勇は椅子から立ち上がり部屋を後にする。残された2人は暫く沈黙していたが、先に口を開いたのはブレアの方だった。

「……なあ、アイツは本当に俺たちの事を思ってやったのかな?」

「さぁな、でもそう信じたいだろ?」

 その問いに無言で頷くブレアを見て、マックは小さく呟いた。

「やっぱお前は優しい奴だな」


同時刻、桂木渚の事務室。

『それで、今後の投資方針についてですが、如何致しましょうか?』

 彼女の目の前のモニターに映る、50代前後の女性が質問を投げかけてくる。

 それに対し彼女はこう答えた。

「そうね、今回の襲撃に関して既に機体1機と人材1人、その他武装の損害…決して小さいとは言えないわ。それに敵は恐らく今後も新型兵器を投入してくるはずよ。だから今回は今まで以上に資金を投じる必要があるわね」

『分かりました。それでは今後とも我がウィルソン財団をよろしくお願い致します』

「あ、それとね」

 彼女が言いかけると女性は不思議そうに首を傾げる。そんな彼女に彼女は言った。

「何度も釘を刺すけれど、レイダーの設計図は決して担保にはしないわよ。あなたたちに渡したら、どうなるかなんて目に見えているもの」

『ええ、勿論ですとも』

 そんな会話をして、通信を切る彼女。その表情は口いっぱいに詰めた苦虫を噛み潰したように険しかった。

「ったく、どいつもこいつも好き勝手やってくれちゃってさ……」

 1人愚痴を零した後、彼女は机に置かれた資料に目を向ける。

 そこには今回の戦いで戦死したバスターレイダーのパイロット、サムの名前が書かれていた。

「サム・チャンバー…か」

 彼女はその資料を見つめながらポツリと呟き、それをファイルへと仕舞うのだった。

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