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吸血鬼ですが、何か? 第1部 復活編  作者: とみなが けい
8/9

吸血鬼を復活させたが、別にも…いた

車を数分走らせたところに比較的大きな靴屋がある。

本当は銀座か渋谷辺りまで出て良い作りで長持ちする靴を選びたいが、靴がきついと言っていた四郎を早く楽にしてやりたいと思い、近場の靴屋で済ませる事にした。


「え~、ここ~?」


真鈴が少し物足りなさそうな顔をした。


「ここでもそこそこ上等な靴を置いているし運動靴なんかも揃えるならここで全部済むじゃないか。」

「まぁ、その通りね。

 全部上等な物を揃えたら大変な金額になるもんね。」


真鈴が納得してくれて俺はほっとした。


「さっ、行きましょう。」


広大な店内に四郎はまたまた圧倒されていた。

また、眼鏡屋と違い、店内はそこそこの人出で混んでいた。

疲れているのかあまりびっくりしてあれはどうだこうだと言わなくなったので楽なのだが、俺は少しだけ心配になった。


「四郎君、大丈夫?」

「ああ、久し振りに人間の中に出て、しかも沢山の人間がいるからその気配に圧倒されているんだ。

 何と言うかその人間の想い等が頭に入って来てな。」


真鈴がぎょっとした顔になった。


「え?それじゃ四郎さん他人の心の中を判るとか?

 テレパシー?」

「いやいや、テレパシーが何かは判らないが、その人間の考えている事は漠然としか判らん、気配と言うか、そこに誰かがいる、大体の歳や人数くらいは、どのくらいの距離にいるかくらいは判るぞ。」

「なるほど、それは便利だけど…大人数の中にいると疲れるかも知れないな。」

「まぁ、まだ慣れていないだけだと思うぞ。

 ここはちょっとした祭りくらいに人がいるからな。

 それにしても今の世界は…まぁ、良いか、さあ、靴を選ぼう。」

「まかせて!だけど四郎さんの足のサイズを知らないとね。」


そこで俺達は店員を捕まえて適当な靴で大まかな四郎の足のサイズを調べた。

俺の足のサイズは26・5センチ。

四郎の足のサイズは27から27・5センチが合っているという事が判った。

足幅は平均的な日本人と同じなので特に3Eなどでなくとも大丈夫そうだ。

これで靴の選択肢が増えた事に俺はほっとした。

過去に足のサイズが28センチ以上の友人の靴の買い物に付き合ったことがあるが、ほしい靴のサイズが27センチまでの事が多くなかなか難儀したのを覚えている。


「さて、足のサイズは判ったわね。

 ええと、フォーマル用の靴が2足、あとカジュアル用に2足か…」

「真鈴さん、そろそろ足がきつくなってきたから履きやすいものを最初に買ってもらって履き替えたいのだが…」

「ああ、そうね。

 じゃ、履きやすいカジュアルの物から選びましょうか、付いて来て。」


やれやら、後は真鈴に任せれば良いと言う事で俺は前々から欲しかったトレッキングシューズを探しに行く事にしたが、真鈴に呼び止められた。


「彩斗君何やってんのよ。

 彩斗君のカードがいるんだから最初の靴を買うまで一緒にいなさい。」

「はぁい…その代わり早く選んでね。」


真鈴がぎろっと俺を睨んだ。


「あ、いやいや、四郎君の足が大変そうだからさ…」

「あ、そういう事ね。」


真鈴の表情が和らいで俺はほっとしたが、真鈴の次の言葉で俺の顔はこわばった。


「でも、良い物を選ぶのに妥協はしないわよ。時間をかけて選んでおいて良かったと後で絶対に思うのよ。

 靴なんて特にそうなんだから。」


真鈴の後ろで四郎がげんなりした顔をしたのを俺は見た。

やはり、さっきのサングラスの時にかなり消耗したのだろう。

しかし、真鈴が振り向くと四郎は瞬時に笑顔を浮かべた。


「さあ、ここにあるうちで最良の物を選ぶわよ!」


結局、ランニングシューズのアシックスのゲルトラブーコ10GTXかサッカニーのエンドルフィンプロ 3にするかで迷った末に真鈴はサッカニーのエンドルフィンプロ 3に決めた。


「おお!これは履きやすいな!」


四郎は靴を履き替えて歩いたり屈伸したりしてご機嫌になった。

その後カジュアル用にホーキンス防水 防滑仕様の物を、フォーマル用にホーキンスエアライトアイステック8プレーン3を買い、さらに四郎が目をつけてどうしても欲しいと言ったレッドウィング6インチ クラシックモックのブーツを買った。


支払いを済ませて俺と四郎はかなり消耗したが力を入れて買い物をした真鈴はますます精気に満ち溢れた顔になった。


「さあ、靴は決まったからあとはこの靴達に合わせたコーディネートをした服を買いに行くわよ!ほほほ!買い物って楽しいわね~!」


また真鈴ははしゃいだ声を上げ、店員に苦笑いをされ、何人かがこちらを見た。


「真鈴さん、目立っちゃ駄目でしょ。」


俺は小声で真鈴をたしなめた。

真鈴は舌を出して俺と四郎に小声でごめんといい、ぺこりと頭を下げた。


「ほら、まだこっち見てる人がいるよ。」


会計カウンターの外れにいるブルーのポロシャツを着た、俺と同年代くらいの男が怪訝そうにこちらを見ている。

四郎が肘で俺を小突いて小声で言った。


「彩斗君、真鈴さん、あの男を見るな、目を合わせるな。

 急いでここを離れるぞ。」


四郎の真剣な表情に俺と真鈴は四郎のあとをついてそそくさと店を出た。


「四郎さん、ちょっと…あれって…」


真鈴の問いかけに四郎は前を見たまま答えた。


「奴はわれの同族だ。人間の血の香りがしたぞ。

 恐らく今朝方人間を一人、どうやら死ぬまで血を吸ったようだな。

 かなり狂った部類に入る奴だ。」

「え、それって…」

「今は満腹だしそう飢えていないが、楽しんで人を殺すタイプだな。

 同族のわれを見ても大して驚かなかったようだが、われらにかなり興味を持っているな。

 用心の為にすぐに車に乗るのは止そう。

 車を特定されては面倒になる気がする。

 このまま駐車場を出てどこか、軽く食事をできるようなところに行こう。」


俺達はランドクルーザーの横を通り過ぎて靴屋の敷地をいったん出た。

四郎の髪の毛が軽く逆立って見えたのは風が吹いてるからだろうか?


俺達は靴の箱を抱えて少し歩き、靴屋の並びにあるファミリーレストランに入った。

四郎が一番通りを見通せる席を選んでそこに座った。

午前11時近くと言う事もあって早めの昼食をとることにした。


四郎はステーキ、真鈴と俺はハンバーグのランチを注文した。

ウェイトレスが去ると真鈴が小声で四郎に尋ねた。


「やっぱり吸血鬼なの?」

「そうらしいな。」

「でも吸血鬼と言ったら…」


四郎が俺の訊きたい事は判ると言うように頷いた。


「人間にも殺人が好きな奴もいるだろう?

 吸血鬼でもわれやポール様のように理性を持つ者もいれば理性より本能と言う感じのおつむが粗末な奴もいる。

 でも、この世界で生きているという事はずる賢さ注意深さは持っているようだな。」

「奴は今どうしているの?

 私達の事追って来てる?」


真鈴が不安そうに通りを見ながら言った。


「いや、靴屋の敷地から出ていないようだな。

 われは駐車場を出る頃に徐々に気配を消したから追おうとしても今どこにいるか判らないだろうと思う。」

「なんで靴屋にいたんだろう?」


俺が尋ねると四郎は苦笑いを浮かべた。


「奴も靴を買いに来たか…或いは次の獲物を物色しているのかも知れないな。」

「そんな…同じ市内に吸血鬼がいて獲物を物色してると言うの?」

「本来人間の生き血を吸わなくとも人間が食べる普通の食事を摂れば餓死する事など無い。

 レジャーかスポーツ感覚で狩りを楽しんでいるんだろうな。

 アルコールと同じだ。

 人間でもアルコール中毒になって酒を飲むのを止められないのがいるのと同じだ。

 あまり頻繁に人を襲うと騒ぎになるからある程度自制していると思うがな。

 奴の身なりは普通だったろう?

 あるいはきちんと働いていて人間社会に溶け込んでいるし、近所に人間の知り合いや友人もいるかも知れないな。

 その方が狩りをしやすい。」


俺は四郎の言葉を聞いてぞっとした。

確かに普通に働いているなら何か事件があっても証拠を隠してしまえばばれにくい。

人間だって連続殺人鬼で何年もばれずに人殺しを続けた事例なんて吐いて捨てるほどあるんだから。

真鈴は、少し顔を紅潮させて黙り込んでいる。


料理が運ばれてきて俺達は黙々と食事をした。

食後のコーヒーを飲んでいる時、真鈴がぼそりと言った。


「奴を殺せないの?」

「…」


四郎は答えずに黙ってコーヒーを飲んでいる。


「奴を放っておけばこの先罪のない人が犠牲になるじゃない。」


四郎がコーヒーを飲み終えて俺と真鈴の顔を見た。

そして静かに話し始めた。


「殺せない事は無い。

 昨晩言ったように心臓に杭を打ち込む。

 要するに傷を受けて再生する時に邪魔になる異物をそのままにしていれば、杭を抜こうとするのを無理やり止めて刺さったままにしておけばやがて力尽きる。

 これは刃が大きな槍や剣でも刺したままにしておけば有効だ。

 また、首を撥ねる。

 これも切った首をまた傷口に着ければそこから再生して首がつながるが、切断した首を手の届かない所に持ってゆけば力尽きるだろうな。

 まぁ、切った首単体でも噛みついてきたりするから注意が必要だが。

 あとは、大口径の銃弾を続けざまに頭か心臓に撃ち込んで原形を保てないほど破壊するか、連続した炎で焼き続けるか、硫酸を入れた水槽に落として全身が溶けるまで出てこれないようにするとか…まぁ、殺す事が不可能と言う訳でも無いぞ。

 ただ、戦闘体制に入った悪鬼は人間以上の反射神経持久力耐久力があるから人間を殺すよりもかなり難しいがな。」

「…」

「…」

「何百年も生きている奴であれば息絶えた時に一気に時間の流れが襲ってくるから灰になる。

 しかし、吸血鬼になってあまり時間が経っていない者はさほど崩れないから死体の処理が必要だろう。」

「…」

「…」

「しかし、よほどの不意打ちで無いと相手も殺されたくないから反撃して来て大立ち回りをする羽目になるな。

 見たところこの辺りもそうだが、われが生きていた時代よりも家が密集しすぎている。

 騒ぎになれば人間達もぞろぞろ集まってくるだろうし官憲も呼ぶだろうから、われらの素性もばれる危険が高い。」

「…」

「…」

「われとポール様も悪鬼退治はしたが、それは要するに近辺で事件が起きてわれ達に疑いが及ばないようにした事だ。

 周りが平和であればわれらも安全と言う事で悪鬼退治をしたことは覚えてほしい。」

「…」

「…」


俺は四郎が意外とドライな心である事に少しショックを受けた。

確かに彼は吸血鬼で、人間の道徳観と同じものを持っているなんて勝手に俺が思い込んでいるだけだったのだ。

四郎を復活させてその人生の話を聞き、この世界で生きてゆけるように力を貸している事で俺が四郎と友人になったと勝手に思い込んでいるだけなのだ。

真鈴にしてもそうだと思う。

四郎と俺達は違う種族なのだ。


食事を済ませて会計をして俺達は靴屋のほうに歩き始めた。

四郎によるとどうやら吸血鬼は靴屋から出て四郎が感知できないほど遠くに行ったらしい。

ランドクルーザーに乗り、服を買いに行こうと走り出した。

真鈴は後部座席で静かに座っていた。


「真鈴さん、どうしたの?疲れちゃった?」


俺が尋ねると真鈴は顔を上げた。


「四郎さん、もしも、私や彩斗君が悪鬼に襲われそうになったら…助けてくれる?戦ってくれる?」

「ああ、もちろんだ。」


四郎は即座に答えた。


「本当に?」

「ああ、彩斗君と真鈴さんはわれがあのまま朽ち果ててしまうかも知れない所を復活させてもらったからな。

 君達を襲う悪鬼が来たらわれが始末するよ。

 われと君達は、マブダチだからな。」


俺は四郎の言葉を聞いて少しほっとした。


「もしそうなったらお願いしますよ四郎さん。」


俺が言うと四郎は大きく頷いた。


「われに任せろ。

 ところで真鈴さん、服の見立てをお願いするよ。」

「ええ、任せて。」


真鈴の表情が少し和らいだ感じがした。







続く



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