吸血鬼を復活させたけど、真鈴て…
ともかく朝食を食べようと言う事で、俺は四郎からパソコンを取り上げて3人で食事を始めた。
「今日はまず四郎君の洋服を一式買いに行きます。
どこに出ても恥をかかない物と、普段着を数セットと言うところだね。」
「靴とかも何足か必要ね。」
「あと、四郎君にスマホを一つ用意しよう。
スマホがあれば万一外ではぐれても連絡取れるし。」
「色々すまないね彩斗君。
おかげで何とかこの時代でもイケてる奴になれそうだぜ。
サンキュウ、ベイべ。」
真鈴が食事の手を止めて苦笑いを浮かべた。
「あのう…マイケル…四郎さん、さっきから思ってたんだけど…その話し方が少しなんて言うか浮いているというか変なおじさんみたいな感じになってますよ。」
「え…変なのか?」
四郎がぎょっとした顔をした。
「われの話し方、そんなに変?ヤバい?でらくヤバいの?」
「変と言うか、少し怪しいというか、変な薬やっていると疑われて職務質問されるかも知れないですね。
やっぱりヤバい。
それにでらくとか、でらい?それ何十年も前のテレビで危ない感じの人が話す言葉です。
少し話せばやっぱり職務質問されるかも…」
「…職務質問とは…」
「警察官がこいつは怪しいと思うとあれこれ身分や職業を訊いたり持ち物検査をされたりされることです…だよ四郎君。」
「それってかなりヤバいじゃんか!ベイべ!」
「だからちょっとパソコンは調べものする時だけにしてリアルの…現実の人間と会話して年相応の普通の人間の話し方を覚えた方が良いと思うわ。
だけど、年相応…四郎さん何歳なんだろう?何年生まれなの?
見た目は彩斗君より少し若い感じがするわね。
その四郎さんが受かれた変な人みたいな言葉使いだとすごい変なのよねだから話し方はあまり急に変えないで様子を見ながら徐々に変えていった方が良いと思うわ。
それから語尾にベイべ!とつけるの禁止。
なんか苛つきます。」
「…わかった、止めるよ。
われが生まれた年は文政9年だ。」
「…」
「…」
「あ、西暦にすると1827年だな。
ところで幕府はとっくに滅んで鎖国令も廃止されていたとはな…」
「ええ、まぁ大分経ちますからね…すると…え~と今が2022年だから…195歳…か。」
「ちょっと待て。
そのうち160年は棺の中だったぞ、だから…実際は35歳と言う所だな。」
真鈴が俺と四郎をじっと見比べた。
「う~ん、見た目は彩斗君とどっこいどっこい…四郎君の方が少し若く見えるかな?
彩斗君幾つなの?」
「俺は32歳だよ。」
「その計算で行くとわれは35歳になるのだが、30歳の時にポール様に血を吸われて吸血鬼になったからな、それから老けなくなったからまぁ、30歳で通じるか?」
真鈴は四郎の言葉に頷きながらも、怪訝な表情になった。
「四郎さんはまぁ昔風の言葉を話すというのも有るけど、何と言うか落ち着きと言うか風格と言うか…違うのよねぇ~彩斗君は四郎さんと比べて全然子供に見えるのよね~。」
「ちょっと待てよ。
確かに生きてきた年数はあまり変わらないけど四郎君が体験した人生は俺の何倍も濃いんだぜ。
物事の体験だって凄い事ばかりだからそりゃあ違ってくるよ、当たり前じゃんか。」
真鈴は頷いた。
「そうねぇ~誰でも少し話せば四郎さんが見た目よりもずっと落ち着きや経験の深さや広さが判るもんね~問題はね、これから出会う人に彩斗君と四郎さん、ほら私だって四郎さんには自然にさん付けになるもん。
要するに2人の関係をどう納得させるかなのよ。」
「…」
「…」
「昨日、戸籍や住民票って話をしたけど、ある程度四郎さんの態度物腰を育んできた、何と言うか、カバーストーリーが必要よ。」
「なるほど、真鈴は頭が…切れる、これで良いか?
頭が切れるな~!」
四郎が感心して頷き、俺もその件には深く同意した、が、同時にこの真鈴と言う女は何者なんだろうか?と言う漠然とした疑問と、この3人の中では俺はまぁ、そこそこの資産もあるし日々の暮らしに困らない収入もあるのに一番『おこちゃま』だと言う事を感じて少し凹んでしまった。
そんな俺の気持ちなど知らずに真鈴は話を続けた。
「それに戸籍や住民票なんかよりも他人との関わりで一番必要なのは職業よ。
初めて人と会うときまず職業を訊くでしょ?
どんな仕事をしていて休みはどれくらいとか、関西なんかじゃ給料どれくらい?とか初対面で訊いてくる人なんかわんさかいるわよ。
そういう質問に淀みなく怪しまれずに答える事が出来ないといけないわよ。
それと服装や腕時計やバッグ、靴とかもその職業、収入に見合った姿をしていないと怪しまれるわね。
私みたいに鋭い人間だったらおかしいと違和感抱きますよ。」
「なるほど鋭いって自覚あるんだ…」
「はぁ?何か?」
俺が呟くと真鈴が横目でじろりと見て怖かった。
「いや…確かに真鈴さん鋭い人だなって…ところで職業の件だけど幸い俺は不動産賃貸の仕事をしていて、会社設立してるんだ。
四郎君は共同経営者と言う事にすれば良いと思うんだけど…」
「それ、ナイスアイディアね。
雇うというと彩斗君と四郎君の会話で色々ボロが出そうだから共同経営者なら友達同士って感じで納得できるもん。
それに、経営者と言う肩書が付けば四郎さんの落ち着いた態度物腰に納得する人も多いと思うし、仕事にもかえって好影響になると思うわ。」
「えへへ、褒められちゃった。」
俺は少し嬉しかった。
何も真鈴に張り合おうと言う気持ちでなく、マイケル・四郎衛門が生きて行ける力になれると自分が嬉しかった。
「よ~し!これなら私達、これから上手くやって行けそうね!」
真鈴が嬉しそうに声を上げ、四郎も嬉しそうに声を上げて真鈴とハイタッチした。
……え?…私達?…今この女、私達って…
…私達…
「さあ、そうと決めたらさっさと食べて出かけましょ!」
真鈴は張り切った声を上げて食事を再開した。
四郎は食事量が足りないらしくトーストを2枚お代りしていた。
食事を終えた四郎が自分が着ているスウェットを見下ろした。
「彩斗君、この格好で出かけても大丈夫なのか?」
それもそうだ。
近所のコンビニに行くのとは訳が違う。
俺は自分の部屋に戻り、カジュアルなシャツとチノパンと薄手のジャケットを持ってきた。
「これに着替えてください。
都心のデパートで服を揃えましょう。」
「わかった。サンキュウ。」
四郎は服を抱えて寝室に戻った。
「四郎さん、時々すごくネイティブな発音の英語話すわよね、まぁ、しょうがないな。
買い物から帰ったら私が上等で隙が無いカバーストーリーを考えるわ。
あ、私は一応アルバイトって形にしてもらって良いからね。
それじゃ私も出かける用意しようっと。」
やっぱり真鈴は今後も俺達に関わって行くつもりなんだ…俺は吸血鬼を、本物の吸血鬼を見たい一心であまり後先考えずにマイケル・四郎衛門を復活させたが四郎君になって生贄の処女の乙女は押しかけのアルバイトになってしまった。
これはどういう事?
しかし、俺は少しだけ、いやいや、凄くワクワクして来ていた。
皿を洗い、身支度をして出かける準備を澄ましてダイニングに戻ると真鈴も既にいてスマホで紳士用のスーツを検索していた。
四郎がお待たせした!と言いながらダイニングに来た時、俺と真鈴は目をひん剥いて固まった。
着替えを済ました四郎はチノパンのベルトに吊り革を付け、その先にサーベルが付いていた。
「ちょちょちょ!四郎君!それ!サーベル持ってゆく!?」
と俺
「なに、街に行くのだろう?当り前じゃないか?」
と四郎
「はぁ~今の日本はそんな武装して歩いたら捕まりますよ!」
と真鈴
「え?駄目なのか?」
と四郎
「駄目!部屋に戻して!」
と俺と真鈴
四郎は渋々と部屋に戻りサーベルを置いてきた。
「さぁ、これで文句無いだろう?
ちょっと心細いがしょうがないな。」
真鈴が四郎のジャケットの中に手を伸ばしてリボルバーを引き抜いた。
「あ、これは…」
口ごもる四郎の前に真鈴はリボルバーを腰に当てて仁王立ちになった。
「いいですか?四郎さんちょっとした事で警察の世話になって四郎さんの素性がばれたりしたら私達だって立場が危なくなるんですよ!しっかり自覚を持ってください!
ベルトの後ろにも何か隠しているでしょ!出して!」
「うう、ごめんなさい。」
四郎はベルトの後ろにさしてある小振りのダガーナイフと小型の単発式ピストルを出してテーブルに置いた。
「今の時代は比べ物にならないくらい治安が良いから武器は一切不要です!
これ全部部屋に返してきて!」
真鈴の剣幕を恐れて四郎は武器を持って寝室に行った。
「まったく…先が思いやられるわぁ。」
しかし、俺は見ていた。
学生時代多少ガンマニアだった俺は、真鈴は四郎から取り上げたリボルバーは重いにも拘らずしっかりと手に握っていたし、引き金に決して指を掛けなかったし、銃口を俺や四郎や自分に向けず暴発しても誰も傷付かない方向に向けていた事に気が付いた。
銃の扱いに慣れている、プロの仕草とか言いようが無い。
いったいこの女の正体は何なんだと思っていると四郎がお待たせ!と言いながら戻って来た。
俺は四郎が手に持っている靴を見て顔が強ばった。
真鈴も靴を見て複雑な表情を浮かべた。
やはり160年も経過した古風な靴はちょっと奇妙だ。
俺は玄関に行き、シューズクロークからまぁまぁ落ち着いた感じの靴を出した。
「四郎君、これ履いてみて。」
四郎は靴を履いてみて何歩か歩いてみた。
「どうかな?」
「…ちょっときついけど歩けない事も無いよ。」
「最初は靴屋さんに行こうね。」
「そうしよう。」
そして俺達は四郎が復活して初めて部屋の外に出て、地下にある駐車場に向かった。
続く