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吸血鬼ですが、何か? 第1部 復活編  作者: とみなが けい
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吸血鬼を復活させたが、これからどうする?

「うわ、泣きそう。」


真鈴が口を押え涙ぐんだ目で呟いた。

俺も同感だった。

農園を守るために一人サーベルを振り上げて突撃してゆくポール。

それを見送るマイケル・四郎衛門、目がその情景が眼前に浮かび、目がウルウルとしてきた。


「ポール様の為に泣いてくれるか。

 ありがとう。」


「しかし、ポールさんは本当に死んでしまったのかしら?」

「そうですよ、何とか切り抜けてマイケルさんの横の棺に入ったかも…」

「…そうであってくれれば良いが…我も棺に入って目が覚めたのがここだからな…われ自身もどうしてわれが入った棺がアルゼンチンなど遠くの修道院に運ばれたのか皆目判らんのだ。」


マイケル・四郎衛門は遠くを見る目つきで呟いた。


「…さて、彩斗君や真鈴のおかげで目が覚めたようだが…われはこれからどうすれば良いのだろう?」

「あのう…もしもマイケルさんさえ良ければしばらく、いやいや落ち着くところが決まるまで好きなだけいてもらって構いません。

 それに仕事や戸籍、住民票とか社会的に必要な物も俺が何とかします。」

「戸籍…住民票…」


マイケル・四郎衛門が怪訝な顔をしたので俺は今の日本では生まれた場所や家系などを登録する必要がある事や税金を納めたり社会的なサービスを受けるために必要な物であることを説明した。

説明しながら俺は不動産物件を購入する時の調査に利用した探偵事務所の男の顔が浮かんだ。

彼と飲んだ時、住民票や戸籍など、ある程度のお金があれば比較的簡単に手に入れられる事など聞いたことがある。

裏っぽい仕事も色々とやっていたようで中々頼りになりそうな男だった。


「そうか、そうしてくれれば助かる、その費用はわれのあの金貨などで足りるであろうか。」

「ええ、十分すぎるほど足りますよ。」


そう答えて俺は正直言ってマイケル・四郎衛門が持っている金貨銀貨だけで俺の数倍の資産価値があると思った。

俺の現金の預金額は色々と散在して1千万円足らずになっているが、毎月の家賃収入と合わせれば全く問題無く生活できる。

そして本当にお金に困ればマイケル・四郎衛門が手始めにテーブルに置いた10枚の金貨銀貨を現金に換えれば十分過ごすことが出来る。


「それと、これは一番大事な事だと思うのだが…われの素性は彩斗君と真鈴さんの秘密に、絶対の秘密にして欲しいのだ。

 この時代でもわれの存在が知られる事は死刑宣告に等しい事だと思うのだ。」


「ええ!もちろん!絶対秘密を守ります!」

「私も秘密を守ります!

 マイケルさんの事は絶対秘密です!」

「ありがとう。われは君達を信じて命を預ける事にするよ。」


この瞬間、マイケル・四郎衛門と俺と真鈴は固く結ばれた運命共同体となったと思う。


「われは永い眠りから目が覚めてよき友を二人も持つ事が出来て嬉しい!

 …血を吸っても良い?」


マイケル・四郎衛門の言葉に俺と真鈴は身をこわばらせて後ずさった。


「駄目です!」

「いや!それだけは勘弁して!」


口々に叫ぶ俺達を見てマイケル・四郎衛門が笑った。


「冗談だ、洒落だよ〜」

「洒落がきつすぎる!」

「冗談が過ぎるわよ!」


しかし、俺と真鈴はマイケル・四郎衛門の笑顔につられて笑ってしまった。

この雰囲気が心地良くて俺たち3人はしばらく笑いあった。


盛り沢山の濃い時間をすごした俺がふと壁掛け時計を見ると午前3時近くになっていた。


「マイケルさん、もうかなり遅い時間なので俺はそろそろひと眠りしようと思うのですが…朝になって起きたら取り合えずマイケルさんの身の回りの物を揃えるとしますか…真鈴さんはどうする?タクシー代くらいはお詫びのしるしに俺が出すよ。」


真鈴が小首をかしげてしばらく考え込んだ。


「わたし、明日大学休みだし、用事も無いからマイケルさんの買い物に付き合おうかな?

 服とか選ぶなら私のセンスが役に立つと思うの…と言う訳でここで泊まらせてくれる?

 部屋が余ってるでしょ?」

「ああ、まぁ、ゲストルームが一つあるけど…」

「それなら決まり!

 私コンビニに行って替えの下着を買ってくる!

 お風呂も貸してよ。」


真鈴ははしゃいだ声で言った。

断りづらい雰囲気で俺は承諾した。


「コンビニとは?

 今はこんな夜中に店をやっているのか?」

「ええ、一日中やってる店があって普段使うものだとか食べ物だとか売ってるんですよ。

 このマンションの隣にあります。」


真鈴の返事にマイケル・四郎衛門が今までで一番驚いた表情を浮かべた。


「何とも凄い時代になったものだ…」

「それじゃちょっと行って来ます。

 彩斗君、ほれ。」


真鈴が俺に手を出して指をくいくいさせた。

お金を出せという意味らしい。

今までの事があるからしょうがないなと思って俺は財布から千円札を二枚出して真鈴の手に乗せた。

真鈴があからさまに不機嫌そうな顔になった。


「下着以外にお風呂で使うボディソープシャンプーリンス朝に使う洗顔歯磨きセット新品のタオルお風呂上りに食べるスィーツ、いろいろ買わなきゃダメでしょうが。」


指をくいくいさせて歯を食いしばり唸るような声で真鈴が言った。

俺は1万円札を出して真鈴の手の上に置いて先に出した千円札2枚を取ろうとした瞬間に真鈴はグシャ!と1万2千円を握りしめた。


「ほほほ、まぁ、とりあえずこれで足りるかな?

 それじゃ行って来ます。」


真鈴がダイニングから出て、玄関のドアが開く音がした。


「しっかりした女性だな。」


マイケル・四郎衛門がいい、コーヒーを飲んだ。


「ええ、処女の乙女と言う事でおしとやかな雰囲気を感じたんですが…」


マイケルがコーヒーに少しむせた。


「え?何ですか?」

「彩斗君は処女の乙女と言ったのか…」

「そうですが…何か?」

「いや、何でもない。

 ところでその便利な薄い板なんだが…」

「ああ、これ、パソコンですが。」

「それの使い方を教えてくれないか?

 教えてくれれば彩斗君は寝て良いぞ。

 この時代の事を色々知らないといけないようなのでな。

 なに、われは全然眠くないので。」


俺はマイケル・四郎衛門に基本的な使い方、主にネット検索の仕方を教えた。

悪鬼は新し物好きとマイケル・四郎衛門が言っていた通りパソコンの使い方の飲み込みが早く、真鈴が買い物から帰り、お風呂に入り髪を乾かしながら俺達の分まで買ってきたスィーツ、バスチー -バスク風チーズケーキ-243kcalを食べる頃には大体の使い方をマスターした。


「ああ、今はこんな旨い物が深夜でも買えるとは…ところでこのパソコンは私の部屋でも使えるのかね?」

「ええ、大丈夫です。

 どうぞ使ってください。」

「ありがとう、それでは部屋に下がらせてもらうよ。」

「おやすみなさい。」

「おやすみなさい。」


マイケル・四郎衛門が寝室に戻り、真鈴がバスチー -バスク風チーズケーキ-243kcalを食べ終わると立ち上がった。


「さて、私も寝るとするか。

 ゲストルーム借りるね。」


真鈴がゲストルームに向かうとしてふと戻ってきてテーブルの上のめきめきにひん曲がった鋼鉄製ろうそく立てを掴んだ。


「念のための用心に借りるね。

 一応乙女だから。」

「あのう、真鈴さん。」

「何?」

「あのう、しょ…いや、何でもありません。」

「変なの。おやすみなさい。」


真鈴もダイニングから去って俺は一人取り残された。

色々ありすぎて今更ながら混乱している実在する吸血鬼、現代日本にも存在するかもしれない悪鬼、ポールさんの最後について、真鈴は処女の乙女なのかどうかエトセトラエトセトラ…

考えてもしょうがないので俺も寝室に戻り寝ることにした。

明日は凄く忙しそうな予感がする。


賃貸用物件経営、まぁ大家の事だが、この仕事を始めて良かった事が一つある。

毎朝決まった時間に起きて会社に行く必要が無くなった事だ。

時たま、ほんの時たま管理会社から家賃滞納や賃貸物件の水漏れだの雨漏りだのトラブルの報告がある事と、毎月入ってくる家賃の管理、経費の計算や税金の件で会計士と会う以外は基本的に行動を束縛されない。

まぁ、新しい物件を選びその地域で入居者の需要があるかとか購入して手続きをするとかどのくらいまで手を入れるかとか家賃をどのくらいにするかとか近所の不動産会社を回って物件入居者募集の宣伝を頼むとか、入居者が決まるまで少し忙しくなるけど今のところはまだ新しい物件を購入する予定は無いので毎日が日曜日のようなものだ。

雇われている訳では無いので理不尽な事で頭を下げる事も無いし、精神的にも安定する事が出来た。


と言う訳で目覚まし時計のアラームなどここ数か月セットしたことが無い俺は午前9時過ぎに目を覚まして朝のコーヒーとタバコタイムの為にダイニングに行った。


マイケル・四郎衛門も真鈴も部屋から出ていないようだ。

テーブルの上の俺のたばこと灰皿が無くなっている。

ははぁと思い俺はマイケル・四郎衛門がいるはずの寝室に行った。

思った通りマイケル・四郎衛門がテーブルに置いたパソコンに向かい何やら色々と検索をして手元のメモに書き込んでいた。

思った通りテーブルには灰皿があり、たばこの吸い殻が10本ほど乗っかっていた。


「マイケルさん、おはようございます。」

「彩斗君おはよーっす。

 いやぁ、色々と覚える事が盛りだくさんだな~」


マイケル・四郎衛門は既にブラインドタッチを習得して滑らかに早くキーボードを叩いていた。


「寝てないんですか?

 今日は買い物に行くから忙しくなりますよ。」

「われは160年も寝ていたからね~。

 早くこの時代に適応せねばならんのだよ、ベイべ。

 あまり浮いちゃうと目立つだろ?

 う~タバコ吸いすぎたかな~?

 彩斗君、ヒーコー飲もうぜ。」


…なんか話し方が微妙に違ってきている…


「ん?どしたの?ヒーコーってコーヒーのことだろ?

 イケてる奴らはさかさまに言うと載ってたぞ。」

「あの~放送業界では少し昔にそう話す人達が沢山いたのですが、今はあまり流行ってません…それに、語尾にベイべってつける人あまりいないですね…」

「え~!そうなの~?ショックだね~!メンゴメンゴ~!」


かなりの速さで現代に馴染んできているマイケル・四郎衛門だが、どうもパソコンからのネット情報に頼りすぎると逆に危険のような気がしてきた。

なんか方向性が微妙にずれている気がする。

これは実際に街中に出てリアルに他の人間と会話を交わさないといけないだろう。


「マイケルさん、コーヒー飲みましょう。」

「あ、その敬語なんだけど、ちょっと不自然では無いか?

 どうもなぁ、われと彩斗君は大して年は変わらんように思うんだが…それとマイケル・四郎衛門と言うのも今の時代ではちょっと…四郎、四郎君と呼んでも良いぜ。

 われと彩斗君はマブダチだからな。」

「そうですね…そうだね四郎君。」

「そうそう、そんなかんじだね~!」


微妙な違和感を感じながらも俺と…四郎君はダイニングに向かった。


「真鈴はまだ寝ているかな?

 彩斗君、起こしてあげたら?」

「はい…そうだね。」


俺はゲストルームに行ってドアをノックした。

返答が無い。

再度ノックしたがゲストルームは静かなままだった。


「真鈴さん、開けるよ。」


声をかけてドアを開けようとしたが、ドアが10センチほど開いたところで止まった。

室内側のドアノブがひものような物で縛られていて、それが壁のフックに繋がれていた。

ドアの隙間から覗くと真鈴はベッドで寝がえりをして何かむにゃむにゃ言っている。


「真鈴、真鈴さん起きて~」


俺の呼びかけに真鈴はゆっくりと身を起こし、目をこすった。


「あ~彩斗君おはよ~う。

 今起きるよ~。」


そう答えてベッドに座った真鈴の右手首にひもが縛られていてそれは昨夜マイケル・四郎衛門が、めきめきにひん曲げた鋼鉄製ろうそく立てに繋がっていた。


…この女は処女の乙女なんかではなく何か危険な工作員とかではなかろうか、と俺は感じた。

接近戦の時、ナイフや棍棒等の武器を手首に縛り付けた紐で繋いでもし取り落とした場合でもすぐ紐を手繰り寄せてまた使えるようにすると特殊部隊やゲリラを扱ったドキュメンタリーで見た事がある。


真鈴はベッドから立ち上がり手首の紐をほどいてドアの紐も外した。


「一応用心しないとね吸血鬼と誘拐犯がいる部屋に泊まったから。」


真鈴はそう言ってケケケと小さく笑って顔を洗いに行った。

真鈴が顔を洗っている間、俺はとりあえずコーヒーを淹れて、トーストとハムエッグ、サラダの簡単な朝食を作った。

その間四郎はテーブルにコーヒーを飲みながらテーブルに置いたパソコンで調べ物をしていた。


「おはようございます~!

 ひゃぁあ~お腹が空いた!」


顔を洗い化粧を済ませた真鈴がダイニングにやってきた。


「真鈴、おはよ~!」

「四郎さん、おはようございます。

 昨日は寝れました?」


四郎はパソコンから顔を上げて手をひらひらと振った。


「いやいや、完テツだよぉ~!

 いろいろこの世界に馴染まないといけないじゃんか、だからずっとネットサーフィンしてたんだよね~!」

「…」

「あっそうそう、マイケル・四郎衛門て名前この時代じゃイケてないらしいからこれからは四郎って呼んでね、ベイべ」


そう言うと四郎はまたパソコンに目を落とした。

真鈴はじっと四郎を見た後でコーヒーカップを口に運び、そして俺を横目で見た。

俺は朝食の皿をテーブルに並べながら、真鈴にうんうん判ってるよ、と言う意味合いの相槌をうった。










続く


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