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第9話 並行世界転移をしました

お読み頂きましてありがとうございます。


タグに記載の通り、現代世界のパラレルワールド転移が正解です。

「『ステータスオープン』っと。何かメッセージが届いているな。」


 軽く昼食を摂った後、十分に時間が残っているため、ホテルの一室を取ってもらった。


 今回の任務で使えそうなスキルの最終チェックである。ウインドウ画面の端に『わしゃ神様じゃ』の文字が見える。そこをタッチしてメッセージを開くとそこには重大な問題が書かれていた。


 この世界は元の世界では無い並行世界なのだそうである。スキルガチャの最後に転送世界ガチャと転生ランクガチャがあったそうで、転送世界ガチャでは下位世界である剣と魔法の世界から高度魔法文明まで多種多様な世界が選ばれ、転生ランクガチャによってSSSランクの王太子からFランクの奴隷の子まで様々なランクの子供に生まれ変わったらしい。


 途中でガチャに辟易した俺がガチャを放棄した所為で、元いた現代世界と同列の並行世界に生まれ変わることなく転移したということだった。


 あのまま続ければ、エクストラレベルの『超幸運』スキルを持つ俺は一国の王太子身分で俺TUEEEが出来たと思うと惜しい気もするが、その後の苦労を考えると元の身体も記憶もそのままで身の危険性の少ない現代世界だったのは結果オーライだったのかもしれない。


 だが問題は戸籍の取得が不可能になったことだ。


 また元の世界の神様にはこの世界をコントロールする権限も無いらしく、戸籍を作り出すといった手段も使えないと謝りの文が並んでいた。


「参ったな。より一層、失敗出来なくなった。」


 渋沢静香(しずか)というお嬢さんを助け出だせなければ、一生逃亡生活を続けなければいけなくなったということだ。


 現在所持している金銭は材質や重量が違うのか使えないらしいし、持ち込んだスマートフォンも通信制御の方式が違うのかアンテナが立たず、電卓機能以外は使えない役立たずになってしまった。


 だが多くのスキルを持つ俺ならば、逃亡生活も難しくは無いのかもしれない。


 例えば『無限収納』スキルで制限無く家財道具を持ち運べるし、『超結界』スキルにより5メートル四方の空間は物理的に遮断されるため、何処でも休息を取れる。後は犯罪を躊躇わなくなれば『無限収納』スキルを使って窃盗を行えばなんとかなりそうだ。


 だがその場しのぎでしか無い。盗品をネットで売ろうにも銀行口座が無い。住所も無いのでは少し生活水準が高い浮浪者といったところだ。しかも日本は島国で発展途上中の国のような戸籍が無くとも金があればなんとかなるといったところに移動することもできない。


 人並に生活するには、どうしてもこの任務を成功させなければならないようだ。










 某日某所。


「バカヤロー! なんて勝手なことをしやがる。身代金を請求して受け取りに行っただとぅ・・・。」


 半袖のシャツからチラリと入れ墨が見える男が厳つい男を叱りつけている。この男、ヤクザに身をやつしているが、江戸時代にはある藩お抱えの『隠密』の末裔だったりする。武士の時代の終わりを告げた明治初期に『甲賀忍者』と同様に平民に戻ったが荒業を主体とする稼業のため、ヤクザのシマを持つ大親分となった。


「だけどよ兄貴。こんなヤバい橋を渡るのなら、これくらい旨い汁も無ければやってられないよ。」


 厳つい男は見た目通り昭和時代から居るような頭の足らない奴のようである。


「全く下部組織のお前たちを養うのにどれだけ使っていると思っているんだ。」


 入れ墨持ちの男は心底怒っている様子でドスの効いた声を出す。


「そりゃ兄貴はインテリだから、このランキングサイトや業界団体からの接待でウハウハだったから良いけど、暴対法で居場所を失った俺らは大きな顔をできるところも無いんだぜ。地元では組織に属さないチンピラたちや暴対法を潜り抜けるチャイニーズマフィアが幅を効かせてやがるしよ。」


 山奥に建った廃墟の建物の中では、十分な空調設備と共にここに似つかわしく無いサーバーマシンのファンが唸り続けている。暴力で血脈を繋いでいた『隠密』は舎弟という名の手下を沢山持てる時代を早々と捨てグレーゾーンとはいえ表の稼業に勢を出すようになっていた。


 彼らは過去にエロサイトのランキングサイトを運営していた経験を活かし、警察に目に付けられにくい各種業界団体の職員に近づき、業界団体ごとのランキングサイトを立ち上げたのだ。


「それもあのヴァーチャルリアリティ空間に大規模なショッピングサイトが出来上がれば、お前らにやらせてやった匿名性の高いインターネットサイトで詐欺を働くことも出来ないんだぞ。甘い汁も吸えなくなることが解らんのか。」


 厳つい男は暴対法の取り締まり対象の組織の一員で、その中でもインテリと呼ばれていたが臨機応変に頭を使う犯罪には向かないようで、上部組織である『隠密』が作成したテンプレートのまま犯罪を行うタイプだった。


「なんでだよ兄貴。」


 たかが詐欺でも濡れてに泡の商売であり、架空の銀行口座や架空の人間の携帯番号を持つ彼らにとっては理解できない犯罪ではない。だが時間も空間も超越するヴァーチャルリアリティ空間となると彼の理解の範疇を超えるらしい。


「ヴァーチャルリアリティ空間技術は1社が独占状態だ。その中で使われる仮想通貨もその会社が握っていて、身元確かな銀行にしか扱えねえようになっている。中で行われる商取引はフェイストゥフェイスが絶対だ。サイトやメールの文章で誤魔化せるインターネットと違い、厳つい顔のお前や入れ墨持ちの俺では警戒されるのがオチだ。」


「兄貴。こんな荒事専門のヤクザには難しすぎるぜよ。しかし上手いことを考えたよな。業界標準のランキングサイトを作り、業界の商品のプレゼントを餌に読者に口コミを書かせて口コミの質の下げさせて、本物の悪評や評判の良い商品を封じ込め、ランキングの数値や口コミ数だけが商品の売れ行きを左右させ裏でリベートを取るなんざ、誰も考えつかねえよ。」


 途中で話を遮るように別の男が話しだした。この男はホスト上がりなのか優顔でとてもヤクザには見えない。


「お前も勉強したなあ。だがこのカラクリさえあれば、どんな業界でも同じ手法が使えたんだ。良い商品が売れなくても、悪い商品が返品されても、損をするのはショッピングサイトを運営する奴らだ。メーカーは安い材料でソコソコの商品を作っても売れる・・・そんな時代になってきたというのに、今さら対面販売だが在庫を持たなくても良いヴァーチャルリアリティ空間でのショッピングサイトが出来上がれば、純粋な売り上げだけのランキングサイトが設置されるだろうし、口コミもヴァーチャルリアリティ空間で当人同士の本物の口コミが流れてしまう。」


 『隠密』の男は悔し気に吐き出す。長年掛かって作り出した金儲けの方法がパーになる寸前だからだろう。そんな知恵の回る男でもこの誘拐が時間稼ぎにしかならないことは解っていないらしい。


「勉強したさ。業界団体ってのは実質1人の事務員で運営されているから女を落とす能力でなんとかなるが、詳しい話をしようと思えばカラクリを熟知している必要があったからな。」


「だからこそ、この誘拐で渋沢の行動を止めなきゃならねえ。たかが3千万円という金とは比較にならない規模の仕事だったというのに。全くなんてことをしてくれるんだ。」


 『隠密』の男は憎々し気に厳つい顔の男を睨みつける。


「まあまあ。まだサツが動いている形跡は無いんだから挽回は可能ですよ。携帯は中々繋がらない山奥だが30分と近い場所で、上手くいかなければ監禁場所を変えれば済む問題だ。金の受け渡し場所を張って、監視することなんざ兄貴の舎弟ならば簡単でしょ。」


「ああ念のため、事を聞いたときに動くように話を流してある。そのうち情報が入ってくるはずだ。」

久々に主人公以外の視点で物語を書きました。なぜ彼らは割りの合わない誘拐を企てたかを説明させたかっただけなんです。江戸時代の正義である『隠密』が犯罪者に落ち、武家社会に溶け込めなかった『甲賀忍者』が正義に回る展開になっています。


彼らの差は紙一重なんですけどね。

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