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第5話 未来に転生しました

お読み頂きましてありがとうございます。

 トラクターを積んだ軽トラックが走ってくる。すれ違う際に一気に加速して走り去れば、誤魔化せるだろうとタイミングを見計らっていたところ、好奇心に駆られた子供が渡ってこようとする。


「アーちゃん! ダメぇー!!!」


 お婆さんが悲鳴を上げて立ち竦む。俺は『金剛力』スキルと『飛躍』スキルを使い、道路に飛び出していくと迷わず、車と子供の間に入り込んだ。


 ああ今日3回目の交通事故だ。トラクターが載った軽トラックは速度を緩めていたのか俺にぶつかると辛うじて停止した。もちろん俺は何とも無いし、子供も無事だ。俺は凹んだ車から身体を引き剝がすと子供を抱え上げ、お婆さんのところへ連れていく。


 お婆さんは子供を奪い取るように抱えるとバックしていき、振り返ったと思ったら老人とは思えない速度で逃げ出した。


「まあ仕方が無いよな。」


 こんな訳の解らない状況に遭遇したら、俺でも逃げ出す。軽トラックの運転手が気絶していたのを幸いに俺も逃げ出すことにする。しかし、身体は無事でも服がボロボロだ。これでは近くの民家に助けを求めても不審者扱いだ。


 とぼとぼと歩いていくと周辺が暗くなってきた。食べ物屋さんやスーパーなども見掛けるようになったがこの格好では入れない。どうしたものかな。浮浪者の真似でもしてみたほうが良いかな。浮浪者でも買い物は出来るはずだ。ここが日本ならば持っているお金は使えるだろう。


「アナタ! そこのアナタ!!」


 通りがかった民家から大きな声が聞こえる。振り向いてみると、先程のお婆さんが手招きしていた。もうこの辺りでいいだろう。警察に捕まったほうが楽かもしれないと思えてきたのだ。
















 だが屋敷の中には警察どころか他人は全く居なかった。代わりにお婆さんが畳に頭を擦りつけている。


「解りましたから、謝罪は受け取りましたから、頭を上げてください。」


 屋敷に招かれた俺は、必死に謝るお婆さんの姿に遭遇したのだ。


「そんな孫の命の恩人になんて酷いことを。謝っても謝りきれませんっ。」


「まあまあ。お孫さんは大丈夫でしたか?」


 俺がそう告げるとやっとお婆さんの頭が上がる。誰も悪くは無いんだ。どちらかと言えば泥だらけの姿に気付いて居なかった俺が悪い。


「ええこの通りピンピンしていますよ。なあアキエちゃん。」


「うん。お兄ちゃん、助けてくれてありがとう。」


 躾が整っている素直な子供らしく、はきはきとしてお礼を言ってくれる。


「良かった良かった。ところでご主人はご在宅ですか?」


「連れ合いは遥か昔に亡くなっております。この子の親も今会社が大変なときですのでおりませんのや。」


 もうすでに外は真っ暗になっており、誰か男の人が居るのなら、泊めてもらおうかと思ったのだけど、仮にも2人の女性が住むお宅では難しいだろう。


「では、そろそろ失礼します。」


「待ってください。せめて、夕食でも召し上がって頂けませんか?」


 立ち上がろうとする俺の腕をお婆さんが掴んで引き止める。気のせいかもしれないが懇願するような視線を向けてくる。どうやら、何か別の事情があるらしい。


「はあ。いいのでしょうか?」


「もちろんですよ。それにその格好では・・・着替えも用意致しますので、このままお待ちください。」


 ボロボロの服が気になったようだ。


「アキエちゃんは小学生かな?」


「うん。6年生だよ。」


 へえ、今時の子供にしては小さいな。それに喋り方も幼い気がする。お婆さんも小柄なほうだったから遺伝かな。


「へえ。今は夏休み?」


「うんそうだよ。」


「塾とか通っているの?」


 今時の子供は昔の金持ちの子供並みに習い事に行かせるらしいから、小学生の子供が居る家庭の先輩とはこういった会話になることが多い。


「うん。」


「これは連れ合いのモノですが、使ってください。なんでもヴァーチャルリアリティ内で勉強を教えてくださるそうで、この子が何処にいても参加できるみたいですのや。」


 しばらく、アキエちゃんとお喋りを楽しんでいると奥からお婆さんが衣装ケース持ってきた。衣装ケースの中には、普段着からスーツ、パジャマまであった。泊まっていって欲しいらしい。


 しかし、ヴァーチャルリアリティ装置が実用化されたなんて聞いたことが無いぞ。昔の3Dグラスよりも迫力がある映像が見れる装置だったらあったけど、装置の中で勉強を教えられるレベルのものじゃなかったはずだ。


「そ、そうなんですか。これは今日の夕刊ですか?」


 俺は周囲を見回し、目についた新聞を取り上げる。


「今日の夕刊は休刊日ですので、こちらが今日の朝刊になりますのや。」


 お婆さんが別の場所に置いてあった新聞を俺の掌の上に載せる。


「あ、ああ。」


 俺は夕刊の日付に釘付けになっていたので、生返事をしてしまう。


 なんと10年後の日付になっていたのだ。ここは未来なのか?

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