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第4話 おまわりさん。不審者がここに居ます!

お読み頂きましてありがとうございます。

「わぁ。僕の新車がぁっ。」


 10点満点の出来で道路の上に降り立つと後ろで叫び声があがった。髪の毛に白いモノが混じったオッサンが頭を抱えて叫び声をあげていた。その車のエンブレムは高級乗用車ばかり出しているドイツのメーカーのもの、新車なら1千万円は下らないだろう。


 もちろん、乗用車を持っておらず、任意保険に入っていない俺に払える金では無い。後で考えてみれば、車と人間がぶつかった場合に損害倍書請求されることは無かったのだろうが、咄嗟に逃げ出したのである。


 相手のオッサンと視線が交わっていないから、顔を覚えられていないと思いたいところだ。兎に角、振り返らず走って逃げることにする。『飛躍』スキルが効いている所為か超人的速度であっという間に車から遠ざかることが出来た。


 遠ざかるに従って、徐々に後悔の念が心に浮かび上がってくる。まあオッサンも新車の高級乗用車に乗っているくらい金持ちなんだから、任意保険にも加入しているだろうし、車両保険にも入っているに違いない。自損事故と処理されて、僅かに任意保険の保険料が上がるだけだ。怪我もしてなかったようだし、大丈夫・・・だよな。


「しかし、田舎だなあ。いったい何処なんだろう。」


 普通、生き戻るのならトラックと接触した地区の警察署の死体安置所だろう。まあ裸で寝かされているだろうし、どうやって言い訳をするか考えると頭が痛いが。


 他には車が通らない道路をひたすら走っていくが、凄くキレイに舗装された道なのに全く車と出会わない。


 道路行政って絶対金の使い道を間違っているよな。これでは俺らが払う税金が上がるはずだ。牽引作業で有名な自動車の団体は税金が高いと批判しているが、車の所有者ばかりにアンケートしているんだから当たり前だ。さっきのオッサンのように高級な乗用車を所有している人からもっと徴収すればいいんだ。


 そこでぽつねんとあった聞いたことが無いメーカーのドリンクが売っている自販機を見つけた。小銭入れから硬貨を取り出すと投入するが、何故か戻ってきてしまう。500円硬貨も無理。100円硬貨も無理、50円硬貨や10円硬貨は反応してくれるが、ドリンクを買える金額に満たない。


 仕方が無いので1000円札を投入するとこれも戻ってきてしまう。札を変え3回ほど投入したときだった。突然、警報装置が鳴り響いたのだ。俺は慌てて走って逃げる。なんだっていうんだ。全くついていない。


 しばらく走っていくとようやく民家がところどころに見られるようになった。最悪、何処かの家に入って助けを求めればよい。


 車のオッサンも日本語を喋っていたし、自動販売機も日本語で書かれていた・・・はず。アレ本当かな。自信が無くなってきた。そういえば『超翻訳』スキルというものがあったような。


「『ステータスオープン』・・・やっぱり、耳から入ってくる言葉も視界に入ってくる文字も日本語に自動翻訳されるらしいな。」


 無駄に高度すぎるスキルだ。文字は注視して触ることで元々の文字が表示されるらしい。異世界に来たのか、元の世界に戻ったのか。はたまた外国に行ったのか全く判らない。使えないスキルだ。


 そうなると自動販売機で鳴った警報が地味に痛い。もしここが元の世界ならば、自動販売機の中には携帯電話のSIMが入っているので、メーカーから人が派遣されてくるか、警察に通報されているだろう。


 言葉は通じるんだから、民家に入って助けを求めることはできるだろうが、最悪を考えたら出来るだけ自動販売機から離れたほうが良い。下手をすれば不審者情報として周辺の住人に情報が知れ渡っている可能性さえあるのだ。嫌な世の中になったものだ。


 そんなこんなで走り続けるとすれ違う車が多くなってきた。車ならまだ大丈夫と思いたいがどうだろうか。後ろを振り向くが、今は不審に思われていないようだが遅いスピードで走っている車だったら、こちらが高速で走っていることがバレる。歩行者なんて以ての外だ。


 遠くに人影が見えた。お婆さんと孫の二人連れだ。ここまでか。走るスピードをマラソンランナー並みに緩める。


 反対車線の歩道に居た人とすれ違うと自然に視線を交わしあう。


 ギョっという顔をされた。何か不審なところでもあったか?


 自動販売機に監視カメラが付いていて既に顔写真が出回っている?


 悪い想像が頭の中で駆け巡ってから、気付いた。林道を転げ下った所為で身体じゅう泥だらけだったのである。水に濡れたズボンが特に酷い。


「われ、1パーセントの魔力を捧げる『ウォッシュ』」


 水魔法の中で唯一、水が出ないと思う魔法が使えそうだったので使ってみる。洪水になったら、また逃げるしかない。それこそ山奥で暮らすしかないかも、と思っていたのだがピカピカになった。そして後ろを振り向くとお婆さんと視線が合う。目を擦っている。見間違えたと思ったのだろう。申し訳ない。


「泥だらけのお兄ちゃんがピカピカだよ! どうやったのかな。」


 だけど、素直な子供が居た。少なくともこの世界には洗浄魔法は無いらしい。多分、魔法も無いんだろう。

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