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第27話 銃撃事件が発生しました

お読み頂きましてありがとうございます。


念のため申し上げますが主人公の前世の現代世界も今世の現代世界も近未来であり、社会的思想や細かな歴史も現実世界とやや違うものであくまでフィクションでファンタジーです。

「大変です! 鷹山首相が銃撃されました。」


 食事を終えたタイミングで料理店まで案内してくれた管理人の女性が座敷の襖を開けて入ってくる。しかも、とんでもない事件の一報だ。


「どういうことだ渚佑子。」


 この人が俺の上司になる人だ。案内のときはルールには厳しいが優しそうだと思ったが、今は全く表情が違う。異常事態だからか。


「クーデターです。元陸上自衛隊幹部が指揮し、元陸上自衛隊員および元海上自衛隊員約100名が参加している模様です。天皇陛下と共に首相以下数名の閣僚が人質にされています。また、国会議事堂も占拠されております。」


 まるで戦争中に起きた事件だ。しかも天皇陛下が人質にされているとは許せない限りだ。前世の天皇は制度こそ同じ象徴天皇制だったが、事故や事件があるたび政治家と強調してリーダーシップを取り国民を導いてくれる存在だった。


 この世界と同様に東北大震災で原発事故が起こった際にも、誰もが逃げ腰の一番危険な現場で陣頭指揮を執ってくださったし、世界的に疫病が流行した際にも前例が全く無い状態だったにも関わらず、不織布よりは低いが布マスクの有効性を知らしめ、集団感染が発生しやすい学校の閉鎖を早々に決め、未成年に有効な薬の発見まで十万人規模の重症者の発生を未然に防げたと感謝されている存在だ。


 そんな天皇陛下だったからこそ率先してワクチン接種を行った結果、常にワクチン接種率は毎回99%を超え、重症者もほぼゼロ。それで空いた医療リソース、製薬リソースにより後遺症もほぼ駆逐され、経口薬も早期開発されたと言われている。


 その天皇陛下を人質に取ろうなど、暴挙も良いところである。


「三田村の坊ちゃんと小村は大丈夫なのか? それに派閥の議員たちは?」


 だが山田社長からは天皇陛下の安否の言葉は無かった。確かにこの世界の天皇は、極々一部の方々にしか影響が無いと思われ、その極一部の人にも利用される存在のようだ。


「この人が領袖だった派閥の議員は元従業員が多いらしいわよ。心配ね。」


 横で紫子さんが囁いてくる。なるほど、友人や従業員を大事に思う山田社長らしい。しかも異世界の住人だから天皇陛下を敬うという思想が出てこないことも仕方がないのかもしれない。


 だが元自衛隊員が天皇を蔑ろにする。俺の前世ではありえない話だ。自衛隊に入る人間は国を敬う人々ばかりで、防衛大学や自衛隊学校でその資質が無いものは弾かれるのが常なのだが、この世界では違うようだ。


「はい。首相に庇って頂いたようで無事逃げ延びており、先に皇居を占拠したため、密かに国会に居た派閥の議員たちに働きかけ、こちらに向かっているところです。三田村由吏様は対策本部をこの建物のオフィス棟の会議室に設置したいと仰られております。」


 山田社長は政界にも情報網を張り巡らしていたようで、数々の想定の元、行動を決めていたようだ。流石に異世界の王族、考え方が全く違う。


「良い判断だ。しかし、鷹山に借りを作ったな。彼の怪我は酷いのか?」


 首相も友人ということだが扱いが軽いな。彼にとって政界は水に合わないのだろう。水害の例を出さずとも苦手にしていることは解る。


「宮内庁病院に潜入している人間によると予断を許さないようです。救命救出されますか?」


 渚佑子さんがチラリとこちらを見る。その情報網はこの人が握っているらしい。舌を湿らせている様子をみると言葉を選んでいるらしい。その情報網がどういったものかは解らないが数多くの人間が居ることだけは解る。


「そうだな。今の段階で救出は拙い。ギリギリの線で救命に動いてくれ。警備部長は動いているのか?」


 友人だからといって奪還すれば、天皇陛下を含み人質になっている人々に影響が出るのは必然だ。当然の結論だろう。


「いいえ。対策本部の設置の陣頭指揮をとっておられます。」


「そうか。救命後知らせておいてくれ。」


「了解しました。すぐに向かいます。」


 その場から管理人さんが消えた。転移系の魔法だろう。あれも教えてくれないかな。


「何か協力できることはありますか?」


 無かったことにしようと席を立とうとする山田社長をおし留め、すぐに質問する。この世界の天皇陛下は前世と違うことは解っているが、何か貢献したい。


「大葉くん。『渋沢グループ』を矢面に立てられないだろう? それに今は拙いな。君たち『勇者』の存在を知られることも避けたい。有事の際の切り札だからな。最悪、俺自身の手で決着つけるよ。」


 それなのに切り上げようとしてくる。もちろん単独で動くこともできるだろうが、紫子さんに迷惑が掛かるに違いない。的確に俺の弱点を突き、会話を終わらせようとしてくる。まいったな。


「今は有事では無いと?」


 食い下がる。俺にとっては今こそが有事に違いない。前世と違うことは解っているが価値観が邪魔してくる。


「ああ、若干時期が早かったが想定内だ。日本州の設立手順は公開しているから天皇制の廃止に対して、ある種のグループから脅迫めいた警告文は何度も受け取っている。まあ旧日本陸軍に繋がるグループは完全に地下組織化されていたらしく、ここまで数を揃えられているとは思わなかったがな。」


 地球連邦が設立されると貴族や皇族などの各国の指導者的立場の人間はオブザーバー的地位となる。対外的に押し付けはできないがそれぞれの民族にとっては尊敬される立場には変わりはないらしい。良く出来た制度だ。


 そういった制度も狂信的な人間にとっては許せない制度なのだろう。俺でも前世で取り入れられたら反発するかもしれない。しかし、そのことを理解し尊重している天皇陛下を蔑ろにしてまで行うことでは無いはずだ。狂信的という名の利己主義なのだろう。


「そうですか。」


 このままでは何も動きようが無い。


「それよりも渚佑子からスキルの使い方を習ってくれ。君もスキルを使いこなしたいだろう?」


 とにかく今回の件の情報を握っている管理人さんが上司になるのだ。活躍できる機会も巡ってくるに違いない。


「もちろんです。よろしくお願いしますっ。」


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