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第26話 それ嫌がらせですよね

お読み頂きましてありがとうございます。

「男の娘女優『チヒロ』って。あのトランスジェンダーアイドルグループのチヒロですか?」


 拙い。思わず食いついてしまった。拙い拙い拙い。隣の紫子さんの顔が怖くて見れない。


「ああ所属事務所が同じだ。それにうちの会社が全面的バックアップしているんだ。」


 山田社長が何も知らずにいろいろと情報を漏らしてくれる。これはチャンスかも。


「トムはアイドルグループMotyのリーダーでもプロ野球球団フォルクスの球団社長兼選手でもあるのよ。・・・最近見ないけど辞めてないよね。」


 紫子さんがやや冷めた声で対抗するように山田社長のことを褒める。俺に嫉妬して欲しいらしい。


「元リーダーです。Motyでの活動はヴァーチャルリアリティ空間のライブばかりなので露出は少ないですし、政治家時代の登板間隔は中1ヶ月なんてザラでした。テレビ画面には国会中継か記者会見のほうが余程長かったですね。」


 いやどうでもいいです。そのトモヒロくんの情報が欲しいんです。とは言えない。さあ困った。


「プロ野球選手もいいですね。鋼のように強化できるスキルならあるんですけど運動機能を向上するようなスキルは無かったから無理ですね。」


 仕方ない。話を合わせるか。


「『成長』スキルがあれば訓練次第で運動機能が向上するはずだ。それから異世界に行ってレベルアップを果たせば運動機能の向上は容易だよ。」


 気になる言葉が出てくる。異世界に行けば『俺TUEEE』できるじゃないか。


「異世界・・・って、異世界に行く伝手もあるんですか?」


 まあ話題も逸れたことだし、『チヒロ』さん情報は紫子さんが居ないところでコッソリ聞けばいい。


「ああ。俺は『空間魔術師』だ。だから行ったことがある異世界に転移できる。それに俺のふるさとの異世界へは空間を連結しているので歩いて行けるぞ」


「歩いて? それは是非行ってみたい。」


 素晴らしいじゃないか。















「お待たせいたしました。」


 詳しい情報を聞いてみると気軽に旅行できるかのように異世界へ行けるらしい。しかもこちらの世界の技術を異世界に持ち込んでいるらしく。あちらでも山田社長が『俺TUEEE』しているらしい。


 そんな話をしている間に女将さんがいつの間にか居なくなり、料理が無くなり時間を持て余すことなく再び料理を持って戻ってくる。このあたりの阿吽の呼吸は素晴らしい。


 山田社長がお椀の蓋を開けるとすかさず山椒の葉が女将の手で入れられる。その際に葉っぱを両の手の間で叩き、大きな音がしたことでビクッとする。


「女将。驚くじゃないか。」


 嫌がらせかと思うほど山田社長の耳元で音が出た。


「あらごめんなさいね。椀を開けてから山椒をお出しするように申し使っているの。さあどうぞ。」


 そのあと、殆ど音をさせずに山椒の葉っぱを掌で叩いて香りを引き出し、俺たちの椀にも入れられた。どう考えても嫌がらせだ。


 山田社長はそこそこ酔いが回ってきたのか気付いていないようでお椀に口をつけて出汁を飲んでいる。満足そうだ。


「いいお味だ。しかし、おどかしが過ぎるぞ。次は氷の彫刻に刺身が盛られてくるんじゃないだろうな。」


 確かに演出好きのようだ。女将さんが。


「よくわかったわね。これから私が氷を削るの・・・いやぁね。冗談よ。本店だと山椒を栽培して提供しているんだけど、この店のは仕入れるから。香りを引き出した直後のものを載せないと本店と同等にならないんですって。うちの板さんのこだわりよ。」


 氷の彫刻なんて冗談が好き過ぎだ。しかも女将さんが。自己完結型のボケかよ。













「今日は白えびのよいものが入ったのよ。『ゲート』便は鮮度が違うわね。」


 良かった普通の器にお刺身が盛られて出てくる。女将さんは常に接客しているのに椀物無くなったタイミングぴったりで座敷の前までカートに載せられた料理が運ばれてくる。不思議な感じだ。


 白エビの他、マグロ、鰤、鯛の薄造りが載っている。鮪は本マグロじゃなかった。


「能登の海の幸の盛り合わせだわ。」


 紫子さんが感動したように呟く。なるほど本マグロは遠洋漁業か、あっても太平洋沿岸の養殖モノだ。


「毎度、ご利用ありがとうございます。」


 山田社長が囁くように女将さんに礼を言っている。


「もっと安くならない。板さんは魚貝類全てを『ゲート』便で仕入れたいらしいのよ。」


 女将さんは山田社長の顔を覗き込む。接客中に相談するなよ。羽をもいだ航空機の『ゲート』使用料は100億円前後と公表されており、そう安く使えるものじゃないらしい。


「1年後に取扱高を増やして価格改定を行う予定にしている。まあ今の半額程度だ。余程の高級食材じゃないと無理だと思うぞ。」


 『無限収納』スキルは劣化が怖くて使えないが、『収納』スキルならば劣化しない。そんなに儲かるならば参画してみたいな。


「僕も運送業に参入しようかな。凄く儲かりそうですよね。」


 これで転移系の魔法を教えて貰えれば最強だ。


「大葉くんがか? 確かに出来そうだけど、本人が動く必要があるのでは過労死するぞ。それよりも技術を確立して従業員を使ったほうが儲かる。」


 確かに品物を引き渡すだけで時間が掛かる。『ゲート』は魔法では無く、固定して使える魔道具なのかもしれない。それではあっという間に価格競争で負けそうだ。


「そうね。働きたいのなら、人を使う仕事を覚えて頂戴。運送業が良ければ、レストラン宅配のサービスセンターとかあるわよ。」


 そうだよな。起業するなら人を使うことに慣れなきゃいけない。それに『渋沢グループ』側、紫子さんの家族なのだ。家族になると約束したし、ヒモ同然の関係からグループへ利益を生み出す存在へ変化していけたらいいんだけど。


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