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第22話 プライバシーを守ります

お読み頂きましてありがとうございます。

「本当。女優の『西九条れいな』さんにMotyの『中田雅美』だわ。」


 エレベーターで3階に到着した途端、紫子さんが黄色い声を上げる。


「ちょっと紫子さんっ。今さっき注意されたばかり。」


 アラフィフだってのにミーハーだなあ。


「ここはプライベート空間ですから芸名での呼び掛けは厳禁です。」


 俺と管理人さんに睨まれた紫子さんはしゅんとなった。


「あら渚佑子さん。お客様?」


 フードコートのラーメンチェーン店の前に居た妖艶な女性がこちらに気付きやってくる。この女性が女優『西九条れいな』さんらしい。もう一人の男性が『中田雅美』という芸能人らしい。


「ええ。『渋沢グループ』のオーナーの渋沢紫子さんです。こちらは『スターグループ』のオーナー夫人で医師の井筒志保さんと中田雅美さん。ご存知とは思いますが彼は本名も同じです。」


「『5COINS』が出店するの?」


「無理でしょう。『5COINS』が『10COINS』になりますね。」


「だよね。マンション側のお店は高いもん。」


 そこでフードコートのラーメンチェーン店に目が行く。確かに高い。1杯400円しないはずのラーメンが600円以上と2倍近い値段が看板に記載されていた。


 プライベート空間を守るには人件費や諸経費も余分に掛かるので仕方ないのだろう。


「だからと言ってスッピンで表の商業施設に出入りされるのも困ります。苦情が来ていましたよ。志保さん。」


 大変だな芸能人も。商業施設をうろつくことも出来ないらしい。


「最近、スッピンでも気付かれるのよね。なんでかな。」


 そりゃあ元が良いから美女であって、元が悪ければどれだけ磨いても美女にはならないだろう。ということは紫子さんは元が良かったのであって、生家で見た姿は静香さんが誘拐された所為の心労で老けて見えたんだろう。


「医学生時代の目の下がクマだらけでメイクもせず髪を振り乱した志保さんでもうちの従業員は気付いていましたよ。気付いていない振りをしていただけです。」


 この美女は理系にありがちな集中すると周囲が見えなくなるタイプらしい。


「そちらの男性は?」


「失礼しました。紫子さんのところにお世話になっています。大葉夏音と申します。」


 そこで初めて俺だけ紹介されていないことに気付いた。改めて女性に向き直り、挨拶をする。なんだかヒモみたいだ。まあ大して違いはないか。


「新鮮だわ。」


「は?」


 何を言っているんだ。この志保さんという女性は。


「ごめんなさい。滅多に向けられていない視線だったので。女優としての宿命なんでしょうけど、初めて会う大抵の男性は情欲の混じった視線か侮蔑気味の視線しか向けられないの。」


「これだけ、お綺麗なんですから仕方がないですよ。ねえ紫子さん。」


「えっ・・・ええ。」


 なんだこの反応は。てっきり、私とどっちが綺麗とか返ってくると思っていたんだが何か間違っていたのか。


「本当に新鮮。日本国内ではここまで素直に褒められたことがないの。赤面ものよ。」


 確かにうっすらと頬を染めている。だけど女優だろ。どこ行っても容姿を誉められるんじゃないのか。よくわからん。


「『西九条れいな』さんと言えば、恋多き美人女優で有名なの。数多くの実業家や政治家から大物俳優やイケメン歌手まで数多くの男性との噂が流れて世間ではバッシングされているのよ。」


 紫子さんがそう囁いてくれるがこれもよく解らない。女優といえば演技の中とはいえ恋する女を演じるのだろう。1人の男性を一途に愛し続ける女性では、あっという間にバリエーションが尽きてしまいかねない。


 前世でも女優という人種は結婚していようといまいとも関係無く男性との噂が流れ、それが出演映画の宣伝にもなるのが普通だった。この世界では違うというのだろうか。


「その女優さんがあの山田社長の信用出来る知人なんですね。それにしては2人に関する噂は無かったような。」


 評判が悪い実業家に評判が悪い女優が何の噂にもなっていない只の知人。火のないところにも煙が立つと言われるこの世界にしては不思議な現象だ。


「あらっ。そういえばそうねえ。どうしてかしら。」


「あのですね。この会社の従業員だったんですよ。」


 志保さんが焦ったように告げる。


「従業員?苦労なさったのね。」


「ええまあ。」


「あれっ。でも志保さんは女優でもあり医師でもあり、旧華族西八条家のお嬢様でもあるんじゃ・・・。」


 紫子さんの話では医学生時代に皇族の命を救ったとかでその皇族との結婚話が持ち上がって素性がバレたそうだ。芸能人も大変だ。


「良くご存知ですね。でも亡くなった母共々西八条家は出ておりまして、私はここでアルバイトをさせて頂いていました。山田社長には特に良くして頂いて後見人として面倒をお掛けしておりました。」


「じゃあパトロン?」


 紫子さんが3流週刊誌みたいなツッコミをみせる。そろそろ止めさせないと管理人さんの表情が冷たくなってきた。この人を怒らせたら怖そうだ。


「そんなんじゃ無いんです。」


 志保さんは泣きそうな顔になっている。どうやら双方でスキャンダルになりそうな行動を避けていた結果、噂が立たなかったのだろうと思われる。


「紫子さん。聞いた俺が悪かったけどツッコミ過ぎだよ。志保さん。プライベートな詮索をしてしまい、大変申し訳ありませんでした。」


 キッカケは俺の発言だ。プライベート空間だろうと公的空間だろうと質問していい内容じゃない。腰を折って頭を下げる。


「ふぅ・・・本当に変わった方ね。でも山田社長とは本当に何も無いのよ。」


 変わっていると言われるのは仕方が無い。この世界の常識が抜けているのだがら。しかし困った。同じような現代日本世界だというのに、そこまで常識が違うなんて苦労しそうだぞ。


「志保さん。ソフトクリームを食べて満足したでしょ。上に戻ろうよ。」


 隣の男性が上手いタイミングで話に割って入ってくる。


「『中田』くん先に戻っていなさいよ。私はこの大葉くんとお喋りしたいな。」


 この男は年上そう下僕扱いなのかくん付けだ。


「やっぱり。興味が出てくると突っ走るの悪い癖だよ。相手の迷惑も考えなよ。」


 こちらも興味が無いとは言わないが彼女の下僕になりたくは無いところだ。


「悪いがこちらのほうには何も喋ることは無い。それに紫子さんをエスコートしているんだ。引いてくれないか。」


 それに紫子さんたちとの関係性のほうが大事だ。友だちくらいならば構わないがこの女優との不倫とか疑われ素性を調べられるなんてことになったら最悪だ。


「へえ。そこでキッパリ断るんだ。ますます興味わいちゃったな。でもそうね。この後、山田社長のところへ向かうんでしょうから今日のところは引いてあげるわ。また何処かで逢ったらお喋りしましょう。」


「それならば。」


 まあそんな偶然もそう無いだろう。








このマンションのプライベート空間の設定は当初から考えてあったのですが、何処にも発表できず、お蔵入りとなるところでした。

3階にはレストラン街やフードコートですが、4階には料亭や懐石料理店が入っており、席料だけでお一人様1万円する趣があるゲストルームが完備されています。

また、5階には商業施設側とは別空間にフィットネスクラブやジムやプールといった設備が従業員には無料で分譲部分の住人には有料で貸し出されています。

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