第1話 ガチャを途中で放棄した理由
お読み頂きましてありがとうございます。
テンプレ展開から始まりますが・・・当然、拙作ですので普通に異世界に転生しません。
どこに行かされるかは、神のみぞ知るといったところ。
拙作の中でも一番酷い世界かもしれません。
「すまんのう。わしのミスで死んでしもうて・・・。」
道でヨボヨボのお爺さんを助けようとしたらトラックにひき殺されてしまった。
そして目覚めると白い霧の中に立っていた。目の前に、頭に輪っかを載せて、背中に羽根を生やした如何にも天使の格好をしたお爺さんが居て謝っていた。
テンプレ来た!
これは異世界転生だよね。
「天使様ですか?」
俺は、ごく普通の家庭に生まれ、ごく普通の両親に育てられた。唯一、周囲の人々と違ったのは、両親がキリスト教徒だったことだ。そのためなのだろう、世界各国の宗教画を収集しており、幼い頃には良く天使の姿の本で寝かしつけられた。それが影響していたのだろう。
凄くリアルタッチの宗教画の天使様の格好をしたお爺さんだったのだ。
「なんだって?」
お爺さんは耳が遠いらしく大きな声で聞き返してきた。
「ア・ナ・タ・は、て・ん・し・さま、です・か?」
「わしか? わしゃ神様じゃよ。」
十数度目にやっと答えらしきものが返ってきた。大丈夫かな。この神様。
「俺は死んだんですね。」
「そうじゃ。わしゃ神様じゃよ。」
何を質問しても同じ答えしか返ってこない。コントかよ。
「この後は、異世界転生出来るんですよね。」
「そうじゃ。転生じゃな。わしゃ神様じゃよ。」
何度か目の応酬の末、やっとそれらしき返答が貰えた。本当に大丈夫かよ。
「何かスキルとか貰えるんですか?」
とても聞き出せる状況じゃないのは解っているが、何度も質問を繰り返す。スキルや魔法が何も無しで異世界転生なんて死にに行くようなものだからな。
「ん・ん・わしゃ神様じゃよ。・・・そうじゃそうじゃ、いつものものを渡しておこうかのう。」
何か紙を手渡される。そこには貰える固定スキルと、その使い方が載っていた。それからガチャをして、ランダムにスキルを1つ貰え、ガチャマシンの隣にある扉に入ると転生できると書いてあった。
紙に書いてあった文字はシッカリとした筆跡で、目の前の手先が震えている神様のものとは思えない字だった。別の神様が書いたものかもしれない。
「ガチャマシンは何処ですか?」
神様に近寄って行くが、キョトンとした目で見返すばかりだった。
「はて。なんじゃったじゃかの。」
良くキレないよな俺。偉い偉い。必死に自分を励まし続ける。
「ガ・チ・ャ・です。」
「おう、アレじゃな。何とか言う機械じゃったか。・・・すまんかった。わしのミスで死んでしもうた。」
ええっ。ここで会話のはじめに戻るの?
「いや、その・・・。」
もう勘弁して欲しいな。ボランティアという名前の必須授業で認知症のお婆さんの話し相手をしたことを思い出す。ひたすらエンドレスで同じ話を繰り返すのだ。この神様はそこまで酷く無いと思いたい。
「引退の記念に観光をしようと下界に降りたんじゃが。うっかり、姿を消すのを忘れておったんじゃよ。すまんことしたのう。お詫びにガチャできる回数を増やしておいたでのう。」
そう思ったら違った。一応、ボケてはいないらしい。でも耳が遠い神様ってどうなんだろう。しかも異世界転生に関わる神様。大丈夫なのだろうか本気で心配になってきた。まあだから、必要事項が書かれた紙を持たされているんだろうけど。
神様が俺の手を引くと一緒に歩き出す。
そこにはハデハデしいネオンやランプや回転灯、液晶パネルが組み合わされ、下には大きなボタンが付いているマシンが置いてあった。
如何にも・・・というマシンでホッとした。これでガチャマシンの使い方を神様に聞き出さなければ使えないモノだったら・・・と思ったのだ。
神様は手慣れた様子で、マシンの裏側に行くと、マシンの電源が入った。見慣れたBIOSメーカーのロゴが見えたところをみると中身はIBM互換機らしい。どうやって発注したのだろう。
暫く待っていると液晶画面に回転ドラムが表示され、右上にあったデジタル数字に798の文字が表示された。ガチャが引ける回数だよな。幾ら何でも多過ぎだろう。
「これで、わしの最後の仕事は終わりじゃ。転生先では世界を壊さなければ好きなように生きればええ。世界を壊そうとすると、向こうの世界の神の自浄作用が働くからのう。」
本当に引退直前だったんだ。でも世界を壊すなんてありえないよな。壊せば自分も死んでしまうだろうに。
「は、はい。」
「ここに座って・・・そうじゃ、ボタンを押すとスタートして、もう一度押すとストップする。スキルの詳しい説明は画面に表示されるから、良く読んでおくこと。では、さらばだ。」
一応、ガチャマシンの使い方の説明もしてくれ、神様は白い霧の中に消えた。引き止める気力も無かった俺はそのまま見送る。しかし、困ったな。798ものスキルを覚えなきゃいけないのか?
それから果てしない『作業』に取り掛かる。
まず始めにエクストラレベルの『超幸運』が出た。くじ運が強くなるらしい。異世界で富くじを流行らせることから始めることにする。
立て続けに10回ガチャを引いてみる。そのどれもがファンファーレが鳴り響くレベルのスキルだった。機械音声の『おめでとうございます。』がウザい。
スキルには幾つかのレベルがあるらしい。
幾つか引いたエキストラレベルには『無限魔力』スキルなんてものまであった。ここまでくるとスキルを隠蔽できるスキルが必要だよな。
『隠蔽』スキルだろうか、『偽装』スキルだろうか。それとも、『魔法耐性』スキルだろうか。これなら多少の苦労をしてでも神様に質問しとくべきだったかな。
さらに10回ガチャンを引いてみるがやっぱりファンファーレが鳴り響くレベルのスキルしか出ない。『隠蔽』スキルも出ない。どうやら、一番始めに引いた『超幸運』スキルが関わっているらしい。スキルがガチャのレアリティまで引き上げているのだろう。
ふと、そこで画面の隅にあったヘルプマークを見つけた。そこにタッチしてみると思った通り、スキルの一覧が出てきた。
エキストラレベルの下にはスペシャルレベル、ベリーハイレアレベル、ハイレアレベル、レアレベル、アンコモンレベル、コモンレベルと全部で7つのレベルがあり、下にいくほど多くのスキルがあるようだ。
あった。『隠蔽』スキル・・・でも、今まで一度も出たことがないコモンレベルのスキルだった。しかも良く説明を読むとスキルを完全に隠すにはスキルのレベルをあげる必要があるらしい。
つまり、レベル1の『隠蔽』スキルだとコモンスキルのレベル表記しか隠せない。レベル3になってやっとエクストラレベルのスキルのレベルを隠せるがスキル自体を隠せないのだ。
『超幸運』スキルのおかげでコモンレベルのスキルを取れるか怪しいのに、さらにスキルを成長させないとスキルの数の多さという異常性を隠せないなんて無理ゲーじゃねぇ。
兎に角、『隠蔽』スキルが取れないことにはどうしようも無い。異世界には鑑定魔法くらい普通にあるだろうし、異世界転生系のラノベだと普通にスキル確認ができるのが冒険者ギルドというところだ。
そう思っていたのは、ガチャマシンの右上の数字が700台までだった。100近くガチャを引いてもハイレアレベル以上のスキルしか出ないのだ。
さすがに疲れてきたのだが、気を許してガチャマシンを放置するとボタンを押さなくてもドラムの回転が始まってしまうのだ。休憩も出来ない。
そして、150回を超えたあたりで、ガチャマシンの前に座っていることも嫌になってきた。世の中のゲーム好きには夜通しでガチャを引き続ける強者もいるらしいが俺には無理だ。
ファンファーレが鳴り響くタイミングになると必死に耳を塞ぎ、当たったスキルの説明を斜め読みする『作業』となっていった。
契機は、1つのスキルだった。エキストラレベルの『超鑑定』というスキルで、どんな高レベルの相手のスキルでも、隠蔽、偽造されたスキルでも確認できる。
さらにレベル2に上げると詳しい説明も確認できるらしい。
でもそこが問題じゃない。自分のスキルの説明も確認できることが一番の理由だった。
さすがに150を超えるスキルの説明書きを覚えるなんて出来ない。俺の脳みその出来が悪いのかもしれないが1つのスキルに占める記憶容量は僅かしか無く。殆ど名前と大雑把な内容を覚えるのが限界だったのだ。
脳みそパンク状態で何も考えられなかった俺はふらふらと立ち上がる。当然、時間を置けばガチャのドラムは勝手にスタートするが、そのまま放置する。まあ10や20のスキルが無駄になっても休憩が必要だ。
ガチャマシンの周囲をフラフラになりながら、さまよい続けるが、一向に頭の熱量は冷えてくれない。何か甘いものでも食べなければ、と思うが。当然、ここにはそんなものも無い。
そして、魔が差したのだ。
ガチャマシンの隣にあった扉の取っ手を持つ。
あれ回った。
なんだガチャマシンって全部引かなくても良いんだ。そう思った俺はその誘惑に耐えきれず扉を開けた。
ゲーム好きの人間がその場に居れば呆れたかもしれない。
でも振り返りガチャマシンの右上の数字をチラりと見た俺はげんなりとする。
結局、俺は足早に扉の中に入って行ったのである。
いつもRPGゲームの広告を見るたびに思っていました。後発のゲーマーがゲームを開始するときに何十連ガチャって、引くじゃないですか、あれってゲームを始めるときのワクワクドキドキが減ってしまいません?
大抵、レアリティの高いものばかり当たるみたいですし、ガチャしている最中にガチャに飽きてアンインストールしてしまわないのかなあと思ったのが、この話を思いついたキッカケです。では引き続きよろしくお願いします。