かくれんぼ
初ホラー
「かくれんぼしよ!」
幼稚園児の従妹がマンガを読んでいたボクにそうねだってきた。
夏休みで爺ちゃん家に親戚が泊まりで集まっているのだけど、この従妹と比較的年の近い親戚がボクしかおらず、年の離れた他の従兄姉は各々ゲームするなり外に行くなり好き放題なのもあって、この従妹の遊び相手はほぼボクを仕事になってる。
正直面倒だけど、断って泣かれると一方的にボクの責任となって叱られるのだから、ボクに拒否権は無いようなものだった。
従妹は嬉しそうにして、柱までいってたどたどしく数を数え始めた。
「い~ち、にぃ~、さ~ん────」
従妹が百数える間に、出きるだけ音を立てないように爺ちゃんの家の中から隠れられる場所を探す。
けど、本当に見付からない様な場所に隠れると、従妹が泣き出すからそこそこで見つけられる所。
一階の押し入れや蓋された風呂の中とかは前に隠れたから、二階の今は誰も使ってなくて古びた家具が置かれている部屋に行く。
そこには立派で大きく、引き出しだけしゃなくて服を掛けられるスペースもある箪笥があって、そこのなにも入っていないのを知っている。
その扉を開いて中に入り、台所から持ってきた吸盤フックを扉の内側の着けて、慎重に扉を閉めた。
扉を閉めれば箪笥の中は完全に真っ暗でなにも見えない。
従妹へのヒントとして部屋のドアは開けたままにしてるから、音は思ったよりも聞こえてきはするけど、外の状況を知るには微妙な感じ。
従妹が来るまでの暇潰しとしてスマホのゲームアプリでもしようとポケットから取り出して電源スイッチを押すけど、つかない。
音量ボタンと間違ったのかと手探りで弄くってみるけども、全く反応しない。
電源切れかよとタメ息をつき、スマホをポケットに戻そうとすると、クスクスと笑い声が聞こえた。
思わず、なにも見えない真っ暗闇の中で辺りを見渡すけど、当然見えない。
すると、前の方からまた声が聞こえる。
「スマホのライトで明るく出来なくて、残念?もしかして、暗くて怖くなった?」
女の子の様な声は笑いを含んでそういう。
ボクはそんな事はないと言い返す。
───────そう、一緒に隠れた、友達、の、女子に。
─────爺ちゃん、家の、近くに住む、女の子。
「そう?じゃあ、そういう事にしてあげよっかな」
その言い方になにか言い返したくなったけど、ドタドタと走り回る足音が聞こえ、声を抑えた。
「この部屋じゃない場所に行ったみたいだから大丈夫だよ。それよりも、暇潰しにお話しようよ」
真っ暗闇の中でスマホが使えない以上、話すことぐらいしか出来ないし、特に断る理由もなかった。
「じゃあさ、せっかく雰囲気あるんだし、怪談話でもしよっか?」
……怪談。
まあ、別に怖くないし?
ボクは全然構わないけど?
そっちが夜中怖くなって──
「それじゃあ、箪笥の中に入ってるんだし、箪笥の怪談でもしよっか」
人の話を途中で遮るんじゃないよ。
まぁ、話して気が済むなら話すがいいさと気炎を吐く。
「ふふ。昔に大きな商売をしてるお家があってね、そこの娘さんがお嫁に行くことになって、娘さんのお父さんがせっかくの嫁入り道具と張り切って職人に注文を出したんだって」
「大層な大金を積まれた職人は、この付近で一番大きく立派な大木を材料として、その大木の様に立派で大きな箪笥を作った」
「この箪笥の出来にはお父さんもとても満足して娘さんに嫁入り道具として持たせ嫁入りさせた。当時は物珍しい西洋のデザインも取り入れていた洒落たものだったのもあってお婿さんのお家もたいそうお気に召したらしく、大事に使われてたそうだよ」
「そして娘さんも母親になって赤ちゃんを産んだんだ。その赤ちゃんも親や親戚に大切にされてすくすく育っていった」
「そんな赤ちゃんも十歳の子供になって、元気に遊び回る年頃になって、とある日にその子供は使用人とかくれんぼで遊んでいたんだ」
「子供が隠れる場所に選んだのは、箪笥。今の私たちみたいに、観音開きの所に隠れて息を潜めた」
「使用人も子供が隠れるような場所は想像がついてたけど、すぐに見つけては主人の子供もつまんないだろうと探す振りを暫くしてた」
「その間、子供は箪笥の中にいたんだけど、その中で子供の声がしたそうなんだ。それは子供と同じぐらいの年の子の声」
「子供も始めは不思議に思ったらしいけど、すぐに違和感はなくなって、昔からの友達の様に話を始めた」
「それは外の様子を気にするのも、時間がどれだけ経ったのかも、暗闇の怖さも、何でここに居たのかも、色んな事が気にならなくなるぐらいに楽しい時間だった」
「色々と話をした子供と声の相手。親友の様に親しく話をしていたんだけど、声の相手は子供に一つ提案を出した。『あの先に、もっと楽しいものがあるよ』」
「それを聞いた子供は行きたいとすぐに言った。声の相手は嬉しそうに笑って、子供の腕を掴んだ」
「それはそれは強い力で、そしてその手の感触は異様に細くて硬く、滑ってた」
「そこで子供もまだ残っていた理性が生存本能で刺激されたのかな?おかしいと気づいて嫌だと大きな声で叫んだ。けど、腕の力は弱まらない」
「『行きたいっていったじゃないか。さぁ逝こうよ』と、声の相手は暗闇の先に子供に引き摺っていくけど、まだ十になったばかりの子供ではまるで抵抗は出来ない」
「それからどれだけ時間が経ったのか。使用人が子供の名前を呼びながら観音開きの扉を開けると、そこには子供の姿は無くて、代わりに枯れた苗木があったそう」
「それ以降、その子供の姿を見た人はおらず、その箪笥も売りに出されたそうな。そして、その箪笥が置かれた家では子供が消えて、代わりに枯れた苗木が遺されるって話」
………………
「おやおや?声が聞こえないけど、どうしたのかな?もしかして、怖かった?」
こ、怖くないし!
そんな子供騙しな怪談で、怖がるはずないだろ!
「そう?ふふふっ。でも、喋り疲れたし、別の所で遊ぼうか?」
そう提案してくる友人。
でも、どこに行く気なのかとボクは首を傾げる。
「あっちに少し行けば楽しい遊び場があるよ。案内してあげる」
真っ暗の中で、どうやって?
「手を握れば大丈夫だよ。私は何度も行ったことあるから、道は憶えてるし、これぐらい暗くても平気だよ」
さぁ、と手を差し伸べてきてるのが気配で分かった。
確かにここに居ても暇なだけだし、楽しい遊び場があるなら、行くのもいいか。
そう思って、友人の手があるだろう所に手を────
ガチャン!
「みーつけたっ!」
急に明るくなって目を守るように腕で目の前を覆う。
この声は、従妹だ。
「おにーちゃん、どうしたの?」
その声で、思い出した。
そう、確か、従妹の遊び相手になってかくれんぼをしてたんだ。
腕をどけて目を細めながら辺りを見回すと、正面の従妹の他に、ちいさな苗木がこっちに枝を伸ばして置かれていた。
「おにーちゃん、これなーに?」
………どう見ても、木
ポケットからスマホを取り出してスイッチを押せば、普通にスリープが解除されて画面が表示される。
「おにーちゃん……?」
これまでの事を思い出そうとするけど、箪笥の中で隠れていた間の事はスマホが付かなかった以外は思い出せない。
だだ、隠れる前は箪笥の中に苗木は無かったとはずだ。
何となく従妹の頭を撫でつつ、苗木を見る。
流石に見落としって事はないだろうし、本当になんなんだコレ?
…………まぁ、いいか
苗木を掴み、従妹に声をかけて下に降りる。
「それ、どーするの?」
木なんだから植える以外ないだろ。
よくわからない不思議な木なんだし、きっとでっかい木になるさ。
「おおきくなるの?たのしみ!」
そうだな。うん、楽しみだ。