永遠
私はあの夢を見てから、考え続けていた。なずなの願いはわかっていた。彼はきっと、なずながいなくなったら生きる希望を失ってしまう。だから、私が生きる意味を作らなければならない。簡単なことではない。でも、大好きななずなの最後の望みなら、なんとしてでも叶えなくてはならない。それに、私も彼に生きてほしいと思っている。幼馴染で大切な友達だから。そこで私は考えついた。人の原動力となるのはプラスの気持ちだけじゃない。私では彼を希望で満たすことはできないと思う。だから、マイナスの気持ちを使って彼を生かす。強烈な恨みを持たせれば私を殺すまでは生きてくれるだろう。怒りというのは1番の原動力だ。だから、早速私は行動に移した。彼に嫌われるのは予想以上に辛かったが、それが彼のためになるのなら、嫌われたっていい。良いはず、なのに。
「あれ、、、?」
目からこぼれ落ちる涙。必死に拭っても、止まらない。泣きたいなんて思ってないのに。
「あーあ。かっこよく決まらないなぁ。」
無理矢理に微笑む。やっぱり、私は辛かった。一度に2人も大事な人を失うなんて。限界だった。でももう私は彼にもう一度好いてもらう事はできないだろう。だから、泣いている暇はない。とりあえず、彼から離れなくちゃ。私に復讐をしたら彼はこんどこそ死んでしまうかもしれない。だから、逃げないと。それが私にできることだ。3人でずっと過ごしていたかった。でもそれは叶わない。バラバラになってしまっても、私は2人のことが大好きだから。私は私の役目を全うしなくちゃ。
「さよなら、、、。」
小さく囁くように呟いて私は涙を拭って立ち上がった。
立ち上がった、その瞬間だった。
「ゆり…!」
私を呼ぶ1つの声。それはーー彼の、声だった。
「わ、私に会いに来てくれたの~?嬉しいなぁ!」
必死に取り繕う。まさか彼がここに来るとは思っていなかった。地雷っぽい笑みを浮かべて見せる。失望して。お願いだから。もう堪えきれない。涙が今にでも溢れてきそうなの。早く、行ってーーそんな私をよそに、彼は口を開いた。
「そんな演技、もう良いから。」
彼の声は意外にも優しいものだった。いつもの声だった。まさか、バレていたなんて。私じゃやっぱりダメだったみたい。ごめんね。なずな。
「なんで、わかったのーー」
「あたりまえだろ、何年の付き合いだと思ってるんだよ。」
彼が微笑んだ。私のせいだ。私のせいで彼に無理をさせている。そう思うと、目が潤んだ。
「な、泣くなよ。」
「ごめ、ごめんなさい。」
必死に謝る。
「私じゃダメだよね。君の生きる理由にはなれないよね。自分の役目もまともにできないんだもん。」
「わかってるよ。ゆりが俺のために演じてくれてたこと。でも、大丈夫だから。もう大丈夫だから。というか、復讐の為に生きるなんて悲しいことないだろ?」
いつものように接してくれている。いつものように笑ってくれている。それが嬉しくて、でもなずながいないことが悲しくて。涙は止まらなかった。そんな私に、彼は。
「これを、読んでくれ。」
差し出してきたのは、一通の手紙だった。
大好きな2人へ
最初に言わせて。こんな形の別れになってごめんなさい。ずっと一緒にいられたらよかった。でも、そんな都合の良いようにはいかないよね。素直にこの運命を受け入れることにします。2人も、私が消えることなんて気にしなくていいからね。、、、違うな。嘘だ。本当はね、私、もっと生きたかった。病室でいつも泣いてた。でも、2人がお見舞いに来てくれることが救いで、とっても嬉しかった。たくさん話したね。思い出が1つ増えるたびに私は幸せになっていった。3人で海に行った時、あの時死ななくてよかったって、本当に思うんだ。それぐらい、2人といる時間が幸せで、大好きだった。ありがとね。さて、私の話はこの辺で終わりにします。2人へ向けての話にします。
まず、大切な私の彼氏くん。出会えてよかった。君はいつだって頼りがいがあった。たくさん助けてくれたね。迷惑ばっかりかけてごめんなさい。君といる時間はいつだって楽しくて、キラキラしていた。1番私らしくいられる場所が君の隣だったの。誰かのために頑張れる君が大好きです。辛いことがあったら、思い出して。君は素敵な人だよ。優しい人だよ。だから私がいなくなっても大丈夫。周りを見てごらん。君のことを大切に思ってくれている人がたくさんいるから。
次に、大好きな親友ちゃん。うさぎのあみぐるみありがとね。毎日一緒に寝ています。この子がいてくれるから寂しい時も頑張れます。ゆりはとっても純粋な優しさを持っていますね。だからこそ疎まれやすくもあると思う。でも、その優しさはゆりの素敵なところだから。だから、立ち向かえなんてこと言わないから、もっと人に頼ったっていいんだよ。ゆりの周りにはゆりに救われている人がたくさんいるから。私はゆりのことが大好きです。私のために泣いてくれてありがとう。自分を責めすぎないようにしてね。ゆりにはいいところがたくさんあるから!だから、楽しんで生きて。自分のために生きて。私からのお願いね。
さて、そろそろこの手紙も締めに入ろうかな。何回も同じこと言ってごめんね、私は2人のことが大大大好きです!たくさんの思い出をありがとう。さよなら。
なずなより
なずなからの手紙を読み終わって、私は嗚咽を漏らしていた。
「なずなぁっ!」
彼女の名をよぶ。もちろん返答はない。でも、それでいい。なずなは亡くなった。その事実は変わらない。ごめんね、私馬鹿で。任せてなんて、そんなこと言って。なずなの夢を、私は都合の良いように解釈してた。逃げたかったんだ。彼と会っていると、なずなのことを思い出して辛かったから。それに、なずなを抜いて2人で幸せになるなんて申し訳なかったから。でも、なずなのおかげで、乗り越えられそうだ。頑張れそうだ。
「ありがとうーー」
隣では、彼も泣いていた。私はなずなが大好きだから、なずなのことを絶対に忘れないよ。
私たちは、前へ進んでいく。辛いことがあったとしても、乗り越えていける。私はなずなが大好きだから。なずなの分まで幸せにならなくちゃね。不幸になることがなずなへの罪滅ぼしじゃないんだ。私、幸せになるから。だからどうか、なずなも天国で、もしくは生まれ変わっても、ずっと幸せでいてください。
ーーあれから、10年の年月が流れた。今日はなずなの10回忌だ。
「なずな、聞こえる?」
彼と2人、空を見上げる。私たちは今でもたまに会っている。思い出話をしたり、近況を話したり。結局付き合ったりすることはなかったが、お互いに幸せな日々を送っていた。
「私たちは元気だよ。」
ーーそっちはどう?
心の中で訪ねた。
「私ね、今度結婚することになったんだ。」
目を閉じると、鳥たちの囀りが聞こえてきた。
「俺も、それなりに幸せにやってるよ。」
隣で彼が微笑んだ。
「ねぇ、なずな。」
ーーどれだけ時間が経ったとしても。
「私たちは、あなたが大好きだよーー」
それに応えるように、爽やかな風が私たちの間を吹き抜けた。