告白
夢を見ていた。彼女はそこに立っていた。
「なずな?」
呼びかける。彼女はそれに答えない。駆け寄って手首を掴もうとする。そうしないと逃げていってしまいそうな気がした。 …でも。
「なんで…!」
その手は彼女をすり抜けた。そして、そのまま。
「待って…!」
彼女はだんだんと透けていって、そのまま消えてしまった。消える、その瞬間。彼女が私に言ったような気がしたんだ。
「あなたに託すね。」
その言葉を聞いただけで、私は察した。なずなの思いが、全部。私の中に流れ込んで来る気がした。
「任せて。」
そう小さく囁いた。その時にはもう、私は目を覚ましていた。
「…。」
なずながこの世をさった。その事実を、俺は信じることができなかった。病室に行けば彼女が笑って迎えてくれるような気がしたんだ。でも、なずなはもう眠ったまま目を醒さなかった。
『大好きだよ。』
そう言ってくれた彼女はもう居ないんだ。俺の生きる希望だった彼女は。もう。居ないーー
追いかけようかと、そんな思いが胸をよぎった。そんな時だった。
「なずな…!」
ゆりが涙でぐしゃぐしゃになった顔で現れた。嗚咽を漏らすゆり。俺は呆然としながらただそこに佇んでいた。涙はもう枯れた。生きる気力を失ってしまった俺はもう、全てを投げ出してしまいたかった。
「ふふ、」
突然。本当に突然。ゆりが、笑みを浮かべた。
「うまくいったわ。」
「何がだよ…。」
少し間を開けて、俺は問いかけた。別に興味なんてなかった。でも、なずなが死んだのに笑っていられるゆりが憎らしくて、少しイラついた口調で尋ねた。
「えへへ、呪いが、だよ。」
恍惚の表情を浮かべるゆり。
「はぁ?」
呪い、その言葉に反応する。どう言うことだ。俺は状況を理解することができなかった。
「私はね、なずなが邪魔で邪魔で仕方がなかったのよ。だから、消してやろうって、そう思ったわけ。」
「消してやろうって、そうおもったわけ。」
ゆりの告白に俺は思わず目を見張った。
「どう言うことだよ、、、お前はなずなの親友だったんじゃなかったのかよ。」
「そうだよ。私はなずなが大好きだった。ある時まではね。」
「ある時って、、、?」
それはね、とゆりは少し頬を赤らめて続けた。
「君が好きだったんだ。だから、君と付き合い始めたなずなが羨ましくて妬ましかったんだよ。」
その言葉を一瞬認識できなかった。俺が好きって、どう言うことだ。
「だからね、なずなと付き合った君も悪いんだよ。私と付き合ってくれてたらなずなを消す必要もなかったんだから。ねぇ、今からでも私と付き合ってよ。」
悪びれもしないその姿勢に憤る。
「ふざけんな!」
「えぇ~?でもさ、私が殺したわけじゃないんだよ?もしかして、呪いなんて非現実的なもの本当に信じてるの?君らしくないねぇ?」
煽るようなその言葉。確かに呪いなんて信じちゃいない。でも、なずなを侮辱するようなことを言うゆりがどうしても許せなかった。
「お前と付き合うなんて無理だ。俺が愛してるのはなずなだけだけだ。」
「一途だねぇ。もういない人のことを思い続けるなんてね。」
「五月蝿い。もう出ていけ。お前と話したくない。」
そうしてゆりを追い払う。怒りはおさまらなかった。むしろヒートアップするばかりで止まることを知らなかった。あいつに対する怒りで頭の中がいっぱいになっていた。絶対に許さない。もしなずなが許したとしても、俺は絶対に許さない。復讐を決意した。いつの間にか、なずなを追って自殺しようとしていたことも忘れていた。
「うまくいったよね…。」
私ことゆりは、彼の部屋を追い出されてから1人で呟いた。