表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたの守りかた  作者: 葉月さん
4/6

おわり

今日もまた、なずなの病室を訪れた。今回はゆりも一緒だ。最近ゆりはやることがあるとか言ってきてなかったからな。久しぶりだ。もちろん俺は学校で毎日会っているわけだが。


「久しぶり!」

元気良くゆりが挨拶をする。

「久しぶり。元気にしてた?」

「うん。元気だよ!」

そう返すと、ゆりは徐に手に持っていたエコバッグの中を探った。

「これ、なずなに!」


はい、と手渡したのはおおきなうさぎの編みぐるみだ。

「もしかして、手作り?」

「うん。そうだよ。どうかなぁ。」


そうか、だから最近ゆりは来てなかったのか。やることってこれだったんだな。

「可愛い!ありがとう!」

なずなはそう言うと、うさぎをぎゅっと抱きしめた。暫く彼女はそうしていたが、突然堰を切ったように涙をこぼし始めた。


「なずな?」

ゆりが問いかける。


「嬉しいの…。私、病室でひとりぼっちの時、本当に不安で。この子がいれば頑張れる気がする…。大切にするね。」

なずなは涙を拭って無理矢理に微笑んだ。


「なずな…。」

ゆりはそっと、なずなを抱きしめた。

「我慢しなくてもいいから。泣いていいから。だからもう、溜め込んじゃダメだよ?」

「うん…。」


きっとゆりは知っていた。なずなが1人で苦しんでいたことを。だからこその、うさぎだ。会いにいくことだけがなずなを満たすことじゃない。会いにいくのはとりあえず俺に任せて、どうにかなずなを一人ぼっちにさせないようにしたんだろう。

「ねぇ、ゆり。私、あなたが友達で本当に良かった。」

「私もだよ。なずな。」


俺はただそっと、泣きながらも微笑み合う2人の姿を写真に収めた。


ーずっと。ずっと続くと思っていた。なずなが入院してからも、なんとなく助かるんじゃないかと、そんな希望を抱いていた。毎日毎日なずなと会って。話して。写真を撮って。思い出づくりを続けていた。幸せだった。でも、幸せな時間こそあっという間に過ぎ去ってしまうのだ。


季節はあっという間に巡った。


「なんかもう…ダメみたい…。」

あのうさぎを抱きしめて、なずなは言った。


「諦めるな…!」

「自分のことは自分が1番わかってるよ。」

「……っ」

言いたいことは山ほどあるのに、言葉が詰まって出てこない。


「今までありがとうね。」

あまりにも急すぎる。なずなはずっと平気そうに振る舞っていた。でも、病の進行が止まっていたわけじゃない。


「もう、帰って。お願い…。」

「でも……っ。」

「お願いだから。」

懇願される。なずなの視線が真っ直ぐにこちらを捉えている。

「わかったよ…。」

そっと背を向ける。その刹那。


「だいすきだよ。」

彼女が背中に投げかけた言葉はあまりにも切なくて。

「俺もなずなを…愛してるよ。」

涙に濡れた顔を見せたくなくて、振り返らずにそう返した。


「ああもう、どうしてなずななんだよ。」


彼女と別れ、帰宅した俺は、ベッドに倒れ込んだ。

「どうして……。」


彼女は善人だ。素直で真っ直ぐで、優しい人だ。この世にはきっと、極悪人だっている。どうしてそんな奴らがのうのうと生きていて、なずなが死ななきゃいけないんだ。八つ当たりだとはわかっていた。でも、止められなかった。


「くそ……っ。」

もし…。もし俺に力があったら。なずなを救えるくらいの力があったら。もしもなんて考えても仕方がないが、この状況を俺は受け入れることができなかった。なずなが死んでしまったら、俺はどうなるんだろうな。少し想像してみる。今まで通りに生きるのか。それとも希望を失ってしまうのか。おそらく後者だろうな。なずながいない世界なんて考えられない。依存は良くないことだとはわかっている。なずながそんなことを望んでいないことも。


 その夜はなかなか眠れなかった。でも人間とは不思議なもので、大事な人が危ないと言うのに、眠気というのは襲ってくるもので、いつのまにか寝付いていた。次の日にはーー彼女の面会が謝絶された。

会えない時間が続いて、数日後。


「……。」

母親が泣き腫らした目をしてこちらを見つめた。その瞬間、わかってしまった。

「なずなちゃんが……。」

母がそう言い出すと同時に、俺は駆け出した。


「なずな……!」

叫ぶ。涙が止まらない。いかなくては。今すぐに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ