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あなたの守りかた  作者: 葉月さん
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彼女の病気

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「ごめんね。」


彼女が最初に発した言葉は謝罪だった。余命3ヶ月ーー彼女はもう治らない病にかかっていた。なのに、涙をこぼすでもなく、ただ申し訳なさそうに、彼女は笑みを浮かべていた。


「謝るなよ。」

思わず、少し怒ったような口調になる。違う、怒ってなんかないんだ。彼女は笑みを貼り付けたまま、寂しそうに視線を伏せた。病院のベッドで動くこともままならないまま、彼女の命は尽きるのか。


「ねぇ…。」

彼女が口を開いた。


「あの子のことを、お願いしてもいい?」

あの子、と言うのはきっと、親友のゆりだ。

「なずな…。」

名前を呼ぶ。花乃なずな、それが彼女の名前だ。


「あぁ、任せろ。」

ゆっくりと、頷く。ゆりは、昔いじめを受けていた。幼馴染であった俺となずなが止めたことによってそれは無くなったが、ゆりの心の傷は完全に癒えてはいない。


「ありがとう。」

優しく微笑むなずな。あぁ、お前はいつもそうだった。人のことばっかり気にして、自分のことはいつも後回し。

ゆりのいじめのことも、誰よりも気にかけていた。後先考えずいじめっ子に突っかかっていったときは、流石にヒヤヒヤしたものだ。俺がいなかったらどうなっていたか、と、少し慢心してみる。いや…でも、結局、俺は彼女の異変に気づけなかった。俺が気づいていれば、この病も早期発見できて、治せたかもしれないのに。彼女を救うことは、俺にはできなかった。涙ぐみそうになる。だめだ。一番不安なのは彼女のはずなんだから、泣いてはダメだ。


「なずな!!」

突然の来訪者。ゆりだった。その隙に少し背を向けて、涙を堪える。

「なずな、嫌だよ、置いてかないでよ。」

泣き叫ぶゆりに、なずなが手を伸ばす。頬に触れる。


「大丈夫。ゆりは1人じゃないよ。」

「でも…!!私、なずなに何も返せてない…!」

「いいの。ゆりが生きてくれるだけで、私は十分なんだから。」

ゆりが嗚咽を漏らす。泣き崩れるゆりを、俺は眺めることしかできなかった。なずなを延命させることはできない。

「泣かないでよ~」


あくまでも気楽に言うなずな。泣きたいはずだろう。怖いはずだろう。その証拠に、手が震えている。ごめんな、泣かせてあげられなくて。俺がもっと頼れるやつだったら。なずなの苦しみも受け止めてあげられるほど強かったら。3ヶ月。俺は彼女を支えていけるだろうか。やらなきゃいけないんだ。明日が怖くても、立ち向かっていかなきゃ行けないんだ。

…そうして、明日に手を伸ばしていくーー

 

 また、1日が始まった。なずなの時間は、刻一刻と減っていく。


「もう~毎日来なくてもいいのに。」

今日も、ゆりと俺は、なずなの見舞いに来ていた。なずなが呆れたように笑う。

「なるべくずっと一緒にいたいの!」

ゆりも笑みを見せる。もう泣かない、と決めたそうだ。和やかな雰囲気。いつも通りの様子。ただ1つ、ここが病院だということをのぞけば。


「このまま時が止まればいいのにね。」

「そうだね。」

「時が止まったら喋れないだろ。意識もなくなるんじゃないのか?」

「マジレスしないで。」

「ごめんごめん。」

そんな会話をしながら、ふと窓の外に目を向けた。どこまでも青い空が途切れることなく広がっている。なずなと初めて会った日もこんな天気だったっけか。いや、雨だったかもしれない。曖昧な記憶を辿っていく。




ーーなずなと俺は家が隣同士だった。俺たちは、親に引き合わせられて出会った。幼稚園の入学式の日だった。あぁ、やっぱり晴れてたな。なずなは親にピッタリとくっついていた。どうやら俺が怖いらしく、怯えた表情だった。

『よろしく。』

ぶっきらぼうにそう言うと、なずなは少しだけ笑って、

『うん。』

と返してきた。なんだ、笑えるんじゃん。


それから、家族ぐるみの付き合いが始まった。なずなは勉強はできるが、運動が壊滅的だった。俺はその逆。だからよく教えあっていた。彼女は呑み込みは良く、理解は早いのだが、体がついてきていない模様。俺が煽ると、なずなは頬を膨らませて怒ってたな。ゆりと出会い、いじめを止めようとするなずなは、普段と違ってとても感情的だった。友人のために奮闘する彼女に俺は惹かれていた。


『もうゆりに関わらないで。』

いじめっ子に吐き捨てたその言葉のせいでなずなまでいじめられるようになっていたが、それも気にせず、ゆりと一緒にいるなずなはとても幸せそうだった。2人へのいじめはなんとか俺が止められたが、後先考えずに行動するのは本当にやめてほしい。心臓に悪い。先生に言うとか他にも方法があっただろう。その無謀なところは、付き合うようになってから加速したように思う。ちゃんと後のことも考えてくれと頼むと、


『君が守ってくれるんでしょ?』

と、なずなはいたずらっぽく微笑んでいた。彼女は誰かのためならなんでもしてしまう人だ。その後始末をするのは俺なわけだが…でも、そんな彼女を、俺は心から尊敬していたし、愛していた。


なのに…なぁ神様よ、どうして善人から連れていくんだ?まだ若くて生きたいと願う彼女を、どうして…

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