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その6

 まるで観劇でもするかのように、きちんと座り直し、エーリッシュは万里をまっすぐに見ている。


「一部端折ります。彼女の姉が、人界のある王家の第五王子に見初められ、嫁いでいきました。そうした縁もあり、マリークレールの家、ワルグレット家は陞爵が決まっていたそうです」

「へぇ。あっちにも僕たちみたいな習慣があるんだ」

「そうですね。似ていると言って良いと思います。続きます」

「お願い」

「彼女の姉は、とても美しいと評判だったそうです。ただ、妹であるマリークレールには、とあるコンプレックスがあったようです」

「それはどんな?」

「はい。彼女は父親に似たのでしょう。とても身長が高いのです。それは男性と同じと言われるほどでした。かかとの低い靴を選んで履き、普段は意識して猫背気味になって歩くほどだったようです」

「うん。確かに大きかったかも」

「彼女の姉は、二重で目元がぱっちりとしていたそうです。ですが彼女は一重で、まぶたがやや重そうな三白眼に近いようです。彼女は身長が高く、回りの女性たちは彼女よりも頭一つ以上小さいからでしょうか? まるで上から見下ろすような、悪いイメージが持たれていたのです。彼女は決してそんなつもりはなかったはずですが」

「そうだよ。お姉さんが悪いんじゃないと思う」


 もはや感情移入しているエーリッシュ。ミランダは横を向いて、笑いを堪えているようだ。


「そうですね。そんな彼女は、ささやかな夢を持っていました。姉のような縁を望むのではなく、穏やかな優しい殿方に嫁ぎ、女の子と男の子に恵まれ、その子たちが大人になり、子を成して孫に囲まれて、眠るように人生を終えられたらいいと」

「なんだか、ある意味しっかりした将来設計だね」

「坊ちゃまよりしっかりしてるよ」

「ごめんね、しっかりしてなくて」

「続けます」

「はい、ごめんなさい」

「どうぞどうぞ」


 エーリッシュとミランダは万里に向き直る。


「あ、ここです」


 早送りで再生されていた映像がピタッと止まる。


「ここは彼女の通う学園という施設でございますね」


 猫背気味に歩くマリークレール。そんな彼女の向かいから、何かに慌てているのだろうか? 小走りに近寄る女性の姿が。


「あ、ぶつかる」


 エーリッシュがそう言った瞬間。身体の小さな女性の方が勢いで負けたのか、左脇にある階段から落ちてしまったのだ。


「『――っ!』」


 周りからは女性たちの悲鳴。慌てて駆け寄るマリークレール。だが、ぶつかってきた女性の額には、血が滲んでいる。その怪我は大事にはならなかったが、ただ、ぶつかった相手が悪かったのか?


「『マリークレールが突き落とした』という噂が立っていたのです。相手は、彼女よりも上位の貴族の令嬢でした」

「そんな。今のは相手がぶつかってきたんじゃないの」

「えぇ。万里たちはこうして映像を確認できるので、真実がわかります。ですが、人界ではこのような検証ができません」

「それは言えてる」

「でもさ、お姉さんが悪いわけじゃ……」


 エーリッシュは悔しかった。両手をぎゅっと握り、我慢して万里の話を聞く。


「下位貴族である彼女の立場は難しい状況です。目撃証人が多数いる状況で、『そうではない』という証拠を提示することは困難とも言えるでしょう。映像や状況証拠の薄い状況下で、これはいわゆる『悪魔の証明』と言うものになってしまいました」

「悪魔だって、坊ちゃま――」

「しーっ」

「ご、ごめん……」


 ミランダはちょっと言い過ぎたと反省。


「人界のこの国の序列は厳しいようです。殺意があったかなかったか。そんな話にまで発展したようでした」

「…………」

「たった一度だけのえん罪。それだけで彼女に下された判決は、死罪でした。その結果、ご主人様が最初に見た、あの映像に繋がるというわけだと思います」

「酷いよ。酷すぎる」

「ですが、あの人界ではそれが正しい判断だったようです。彼女が死罪を受け入れなければ、姉が離縁になるかもしれないとのことでした」

「なるほど、わかったよ万里ちゃん」

「はい。現在の状況をご覧になりますか?」

「うん、お願い」

「――映像出ます」


 そこに出たのは、ベッドに眠る。安らぎを感じられる表情のマリークレール。


「よかった。とりあえず一安心だね。でもさ、二度もお姉さんに不幸が訪れるなんて、偶然にしても……」


 確かにおかしい。二度続けて同じ死罪を言い渡されるとは思えない。


「あの人界には、微量の魔力しか感じられなかった。ということはさ、もしかしたら魔法も何もないんでしょう?」

「そうですね。魔法は存在していないようです。魔力とはあの人界でも、森羅万象にある生命力のようなものですからね」

「だね。あの女、放っておいてもまた死ぬよ、きっと」

「いや、僕が阻止してるから。まだ死んでないから」

「ま、そうとも言えるけどね」

「まったくもう……。とにかくさ、今夜は僕、万里ちゃんの映像をずっと見てるよ」

「そうされますか?」

「うん。それでさ、またもし、あの刑場に連れて行かれるような展開になったらね、もっと早くあの場に行く。とにかくあのお姉さんを、助けたいんだ……」

「惚れたな?」

「かもしれませんね?」

「や、そ、そんなことはにゃいごにょごにょ……」


 ということでエーリッシュは、寝ずの番をすることとなった。


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