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その5

 エーリッシュは悩む。頭を抱えるように、真剣に悩み始める。

 すると、万里眼鏡からミランダでもなく万里でもない、女性の声が聞こえてくる。


『「天界におわします神様……」』


 その声慌てて振り向いたら、声の主。彼女の顔が万里が映し出す映像に現れる。


「――綺麗なお姉さんだね……」

『心の声がダダ漏れですね、ご主人様』

「心の声がダダ漏れだよ、坊ちゃま」


 揃って突っ込みを入れる万里とミランダ。


『「――私が何をしたというのでしょう?」』


「天界はそんな声に応えちゃくれないよね」


 ミランダはばっさりと切って落とす。


「ちょっと冷たくない?」

「いいえ、確かに天界はそうなのでしょう。ミランダさんの見解は間違っていないと思います」

「万里ちゃんまで……」

「無情にも、女性の首に縄がかけられてしまったようです」

「うん。刑の執行が近いんだろうね」

「二人ともなんでそんなに冷静なの?」


 そう言われて、エーリッシュは万里の映し出す映像を振り返る。


『「誰でもかまいません。それこそ異端と呼ばれても仕方がないです。悪魔に魂を売ってでも――と物語にはありました。そうしてでも私は、えん罪を晴らしたかった――」』


「呼ばれた気がした」

「坊ちゃまじゃないですよ」

「えぇ。違うと思います」

「だって僕は、これでも悪魔だよ? 目の前にいる綺麗なお姉さんが、困ってるんだよ?」

「だったら四の五の言わずに行けばいいじゃない」

「うん。そうするよ」

「ご飯に遅れたら呪うからね?」

「ミランダならやりそうだから、やめてってば――」


 エーリッシュは、自らの目の前に漆黒の霧を顕現させる。それをかき分けるように、奥へと姿を消してしまった。


「あ、本当に行ってしまいましたね?」

「うん、坊ちゃまだし。行くと思ったから煽ったんだけどね」

「万里もそう思いました」


 これが今朝の出来事であった――。


↓↘→●



「おはようございますご主人様。本日はどういたしましょうか?」


 翌朝、エーリッシュは万里にお願いをする。


「おはよう万里ちゃん。あのさ、昨日のお姉さん、探せる?」

「あら? 気になっておられたのですね?」

「……いや、そういうわけじゃないんだけど、うん。ちょっとだけ」

「では、検索いたします。近い座標なので、それほど時間はかか――あ」

「あ?」

「いえ、その……。映像出します」


 万里が出した映像。そこには、昨日と全く同じシチュエーション。それより更に状態は悪化していた。


「ちょっと待って。どういうとだってば――」


 エーリッシュは全部言い切る前に、彼女の元へ飛んだのだった。


 ややあって、戻ってくるエーリッシュ。


「お帰りなさいませ、ご主人様」

「坊ちゃま。ご飯、冷めちゃうんだけど?」

「ごめん、もう出して良いよ」


 エーリッシュがたどり着いたときには昨日よりも状況が悪く、彼は慣れない治癒まで使ったせいか、かなり消耗していた。

 飛ぶ場所がある程度イメージできていたこともあり、『界』を渡る際の魔力はある程度軽減できていた。それでもこちらへ帰ってくるギリギリの状態。

 一つ間違えたら、魔力の回復まであちら側で待たなければならなくなることもあり得る状況。


「あのさ、これもうひとつもらえる?」

「そうだと思った。はい、持ってきてたから」


 そう言ってミランダが渡したのは、二つ目の容器。この中に入っているゼリー状のものは、血液である。

 エーリッシュは悪魔というカテゴライズではあるが、その正体は吸血鬼(ヴァンパイア)である。シェライザー王国の国王以下領民は全て吸血鬼。

 彼らは主食として少量の血液が必要。だからこうして毎食後に、血液を摂取しているわけだ。

 ちなみにこれは、他の魔族から提供してもらっている。領から排出される、貴重な鉱物資源を換金し、それで取引しているというわけだった。


 二つ目の容器に入った血液を飲み干し、一息ついたエーリッシュ。

 彼はまた、マリークレールを救うために、彼女のいたあの人界に干渉し、時間を巻き戻した。これであの人界に干渉したのは、『界』を渡ったことも含めると四回になる。

 彼の使った『時空干渉魔法』。彼自身も熟知している効果と、それがもたらす後遺症のようなもの。

 ダメージを与えているという意味では二回目。半年ほどの間に起きていた事象を『なかったことに』してしまったのだから。


「そういえばさ、万里ちゃん」

「はい。なんでございましょう?」

「あのお姉さん。なんであんな扱いを受けてるかわかるかな?」

「そうですね。では、検索履歴を元に、映像をたどってみましょうか?」

「できるの?」

「はい。万里の万は、万能の万ですから」

「何その根拠は」


 ミランダはそれとなく突っ込む。


「映像出ます」


 そこに映ったのは、マリークレールがベッドで眠る様子。


「これは、前回の結果を遡った記録映像です。現在の彼女ではありませんので、ご注意ください」

「う、うん。……でも、こうしてみるとさ、すっごく綺麗なお姉さんだよね?」

「万里にはわかりかねます」

「そうだよ。それは坊ちゃまの主観だから」

「半年分の映像をこのまま見ていくと半年かかりますので、早送りをします。要所要所でで映像を通常の速度にしますので」

「便利だね」

「万里の万は万能の万ですから」

「しつこいって」

「――こほん。では、万里が知りうる限りで、簡単なエピソードを説明します」

「はい。おねがいします」


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