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レアメタルはダンジョンに

 「作戦は以上となります。何か質問はないかしら?」

 ローブを着たエルフ(女)は集まったギルドメンバーに確認をする。

 そこはマテリアル王国の東にある炭鉱メタリア。入り口の片隅にある大きな岩の影で彼女らは身を隠すように集まり作戦会議をしていた。

 「もう一度確認したいんだけど、いい?」

 重鎧とハンマーを装備したドワーフ(女)が手を挙げる。

 「みんな本当にデスペナルティ大丈夫?たしかにこのエリアじゃないとレアメタルが採取できないんだけど、PVPエリアだからやられてレベルが下がることだってあるんだよ?」

 「どんとこーい、どんとこーい!ギルドを大きくするためなら頑張るよ~」

 やたら元気のいいキャット族(女)がカラカラと笑う。

 「俺様も問題ないぜ。この緊張感こそ冒険の醍醐味ってもんだぜ。なあ相棒?」

 「・・・ああ。」

 短剣を装備した俺様系のダークエルフ(男)が大盾を持った寡黙な人間(男)の肩を叩く。

 「オーク、テッタイトイウ、モジシラナイ、デアル。」

 「何それ、美味しいのでヤスか?」

 カタコトのオーク(男)と割腹のいいリザードマン(男)がマッスルポーズをする。

 この七人が岩影でこそこそしているのには理由があった。

 炭鉱メタリアは通常フィールドでは手に入らない希少な鉱石が入手できる人気の採掘スポットである。しかし対人可能エリアに設定されているため大手ギルド同士の縄張り争いが激しく、弱小ギルドやソロプレイヤーなどはあっさり殺されてしまう。

 彼らは数多の弱小ギルドの一つ、「マテリアルファミリー」のメンバー。目的はもちろんレアメタルの採掘であった。

「流石にさ~。あの露店の値段でアダマンタイト買うのは馬鹿らしいもんね。一つ100万トーメで10個必要とかマゾすぎだよ。」

 とキャット族のエマリルはぼやく。職はアーチャーでギルドマスター。

 「今回は幸い対人エリア限定の偽装セットが人数分入手できたので、上手く使えば大手ギルドに睨まれなくて済みますわ。」

 そう言うとヒーラーでエルフのフィーエは皆にアイテムを配り始める。

 「ただしマスター以外だけどな。」

 短剣職のダークエルフ、セスラの一言でみんながエマリルの方を見る。

 「・・・」

 寡黙な大盾持ちのタンカー、キルシュも頷く。

 「な、なによ。いくら私でもこんな時ににシャウトなんてしないわよ!」

 シャウトとは全域チャットのことである。発言時にキャラクターの上に吹き出しが出てしまうため、近くにいれば変装していても身バレをしてしまうのだ。

 「チガウ、ソウジャナイ。アシノコト、デアル。」

 「・・・私が大根足だって言うの?失礼な!というか身バレする大根足ってなによ!」

 エマリルは坊主頭のオークモンク、バグゼンに蹴りを入れる。

 「兄弟が言いたいのは移動速度のことでヤス。」

 たぷたぷとお腹が揺れるリザードマンのランサー、レブヤースがバグゼンをかばう。

 「あんた、このサーバーで唯一のDEX極振りだって分かってるの?その気持ち悪い移動速度は変装したってすぐバレるのよ。」

 ドワーフでスミスのマリリは採掘用のピッケルに持ち替えながら話す。

 「気持ち悪いとか、ひどいくない?」

 「大丈夫よエル。これ持ってくれる?」

 フィーエはエマリルにアイテムを渡す。

 「うわ、何これ重たっ!しかも初心者装備とかいうゴミ!」

 「それだけ持てば重量制限で移動速度がちょうど人並みになるわ。あと気をつけることがもう一つ。弓が届くからって攻撃は絶対にしないでね。力が無さ過ぎてダメージが1なのもあなたの特徴なんだから。」

 「しかしまあ、よくそのステ振りで狩りできるよな。状態異常まいて永遠と引き狩りするんだろ?STR重視の俺様にはとても真似できないわ。」

 「いやいや、ちゃんと罠も使ってるし。それにパーティーだと引き役で大活躍してるもん。」

 「・・・鬼マル。」

 「ぐっ」

 それは受け役で何度も死んだタンカーキルシュのため息のような一言だった。

 鬼引きのエマリル。略して鬼マル。

 範囲狩りを行う際は基本的に移動速度の高い者が辺りのモンスターを引いてくる役割を課せられる。これを一般的に引き役というのだが、敵との距離を上手く調節したり、敵の遠距離攻撃に耐えなくてはならなかったりと意外と危険な役である。

 しかしDEX極振りのエマリルは移動速度だけでなく回避も高いため、普通なら苦戦するような引き役も難なくこなせてしまう。そのため加減して引かないと盾役がもたずパーティーが全滅することがあるのだ。

 「キルシュノ、ユカペロハ、モハヤ、デントウゲイ、デアル。」

 「むしろあの姿、芸術でヤスな。」

 「あんたらもよく死ぬから似たようなもんでしょうが!」

 バグゼンとレブヤースにマリリがハリセンで突っ込む。

 「そうですわね、キルシュさんの装備もちゃんと整えたいけど今は依頼に集中しましょうか。南口で大手ギルド同士がぶつかっているようですからその隙をついて行動しましょう。」

 「おk。それじゃあ、フィーはエンチャを、みんなは自己バフをおねがい。妖精の歌は私のマリアちゃん使うからね。異論は認めない!」

 「えー。ボクのユイの方がよくない?」

 「はっはっは。異論は認めないのだよマリリ君。ギルドマスターとして譲れません!」

 妖精とは個々のプレイヤーにサポートとしてつくNPCの案内人のようなものである。これが色々とよくしゃべる存在なのだが、基本は主であるプレイヤーにしか見えない存在。

 だが最近ガチャで妖精の歌というパーティーバフが導入されてから、歌っている間だけパーティー全体に自分の妖精が見えるようになり歌も聞こえるようになったため、ガチャで着飾って自慢する人が急増中なのである。ちなみに妖精の歌っている様子はワイプで表示される。

 「それじゃあ早速行動するよ~。フィーはその場で帰還の準備をお願い。みんな偽装セットオープン!」

 そして岩影から現れたのは、深々と黒いローブをかぶり顔が見えないどころか性別も分からない6人の姿だった。

 「よし、俺様とキルシュが先行して囮するから、採取の方がんばれよ。」

 「死なない程度に。」

 「・・・ああ。」

 「マリリは我らがこの身を呈して守るでヤス!」

 「コヨイノ、ユカノアジハ、イカホドノモノカ、タノシミデアル。」

 「死ぬ前提かいっ!」

 二手に分かれ距離を取りつつ天井の高い大部屋へと進入する。そこには大小様々な岩がごろごろと転がってはいるが、身を隠せるほどの大きな岩はなかった。

 「岩がキラキラ光ってるのがアダマンタイトが採れる場所らしいけど、マリリ見える?」

 「ふっふっふ、伊達に採掘スキルにポイント振ってないわよ。ちょうど真ん中付近にあるやつがそうみたい。」

 「それじゃあ手筈通り周りを固めましょうか。クリスマスツリーど~ん!」

 隠れる場所のない部屋の中央に、イベントで配布されたツリーをならべ簡易的なカモフラージュをする。

 ちなみに今は5月半ばである。

 「木を隠すには森の中でヤス。」

 「モリリガ、カクレルニハ、サイテキデアル。」

 「下らないこと言ってないで採掘始めるよ!すぐレア鉱石が出るとは限らないんだから警戒たのむわね。」

 

 コーン、コーン、コーン、コーン

 

 洞窟にピッケルの音が響く。

 いくらスキルを上げてても必ずレア鉱石が出るわけではないので、ある程度は時間はかかってしまう。

 「セスラさん、キルシュさん、その辺りにプレイヤーの死体がないかしら?」

 岩影のフィーエがパーティーチャットで話しかける。

 「うーん、ちょっとまってくれ。」

 「・・・ある。」

 「お、キルシュの向こうにあるな。あれがそうか。」

 「それ多分ここを縄張りにしているギルドのカメラですわ。ピッケルの音を聞いて敵がやってくるかもしれません。警戒をおねがいします。」

 「了解!・・・ってまずい、もう来たぞ!」

 通路の向こうからすごいスピードでやってくるキャラクターがいた。

 実力に自信があるのか変装などはしておらず、頭上にはデーモンロード13という赤い名前と悪魔の門というギルド名が記されていた。

 「ええっ!?あれデロサじゃん。マ、マ、マリリ~今いくつ採れた?」

 「今4つ。」

 「セスラさん、キルシュさん、足止めをお願いします。」

 「うへ、相手はあのデロサだからな。勝てるとは思えないが一応やってみる。」

 デーモンロード13を略してデロサ。PVP特化のランカーで、このサーバーではかなりの有名人である。

 「・・・後ろ頼む。」

 突進してくるデーモンロード13に盾のキルシュがヘイトをかける。ついでにスタンも試みるが相手にはかからなかった。

 キルシュが戦闘を開始した後すぐにセスラも敵の後ろに回り込みダガーで急所攻撃を行う。

 「くっ、こいつ課金のフルバフか。めちゃくちゃ硬いぞ。」

 「無理そうなら回避やガードで時間稼ぎに専念してください。レブさんとバグゼンさんはツリーの外側に立ち採掘モーションをとってください。マリリはツリーに体が重なるようにカムフラージュして。エル、トラップの配置は済みましたか?」

 ギルドの頭脳であるフィーエは的確な指示を出していく。

 ちなみにエマリルをエルと呼ぶのはフィーエとマリリだけである。

 「言われたとおり設置しといたよ。もう設置限界数に達した。」

 「ありがとう。それじゃあさっき渡した初心者装備とマリリのアダマンタイトを交換しといて。」

 「・・・なるほど。そういうことね。」

 「え?どういうこと?」

 察しのいいマリリと比べて、エマリルはさっぱり理解していなかった。

 「このダンジョンの鉱石は持ったまま死ぬと持ち帰れないのは知ってるよね?」

 「うん。」

 「おまけにすごく重たい。だから少しでも持ち帰れるように、ボクが採ったものをエルに分散して保険をかけるのよ。」

 「なるほど、頭いい!」

 そうこうしてる内に、敵のダークエルフがセスラとキルシュを退き、中央まで迫ってきていた。

 「悪い、こっちもう限界だわ。帰還ラインまで下がる。」

 「・・・痛い。」

 敵が瀕死の二人にとどめを刺さなかったのは最優先事項がレアメタルを守ることで、持っているだろう相手がツリー付近にいると踏んだからだ。

 「ぎゃ~来た来た来た!マリリ早く!」

 「あと3つ。」

 「兄弟!」

 「オウヨ!」

 機は熟したとばかりに、両脇にいたレブとバグゼンはスキルを使い体が金色に光り出す。

 「見よ!この肉体美を!」

 「キョウダイ、ローブデ、カラダガ、ミエナイ、デアル。」

 金色に光り出した二人はせっせとピッケルを振りかざす。採掘スキルが貧弱のため、採れているのはほとんど最低ランクの石っころなのだが、迫力だけはある。

 「敵さん食らいついたよ!目潰し用のトラップに引っかかったけど、今バグゼン殴ってる!」

 「カユイ、カユイ。カトンボ、デアル。」

 「嘘つけ!ゲージめちゃくちゃ減ってるじゃねーか!」

 「フッ、バレタカ。モウ、シニソウ、デアル。」

 「あほーーーーー」

 バグゼンの金色のオーラは消え、床に倒れ込んだ。

 「ペロリッ。コヨイノ、ユカハ、ヨク、シミテイル、デアル。」

 「兄弟!しっかりするでヤス!」

 レブヤースはバグゼンに近づくと、おもむろに自らの尻尾を切り離した。

 そしてそれを口に突っ込むとバグゼンは体力1で復活した。

 ちなみにこれができるのはリザードマンだけである。

 「相変わらずよくわからん種族だよな。」

 「アダマンタイト10個目きたよ!」

 「よしきた。みんな、帰還ラインまで下がるよ!」

 エマリル、マリリ、レブヤース、バグゼンは来た道を全力で戻る。

 逃すまいと追いかけるデーモンロード13だったが、さらなるトラップに引っかかり足止めを食らう。

 「よし、みんな帰還ラインに入ったよ。フィ!」

 「まかせて。コールの準備はできています。」

 フィーエの魔法により6人はその場から一瞬で消えた、ように敵には見えただろう。

 しかし、ただのパーティー集結の魔法なため、実際には6人は最初にいた岩影に呼ばれただけである。

 「あとは街への帰還魔法だけだね。フィのコマンド入力が頼りだよ。」

 「頼むぞ姉御!」

 このゲームの魔法は基本コマンド入力で、入力が早いほど詠唱の短縮ができる。

 しかし、パーティー全体の帰還魔法ともなれば大魔法の部類で、入力数はかなりの数となる。

 「むむ、デロサがこっちに気づいたっぽい。」

 「よかろう!自分が兄弟の仇をとってやるでヤス!」

 そう言うとレブは岩影からヌッと体を出し、また体を黄金に光らせ始めた。

 「コォオオオオ!震えるぞビート!」

 その威風堂々とした姿。元のリザードマンの体であれば、相手も少しは怯んだかもしれない。

 突進してくる刺客に向かってレブが槍を振り下ろそうとした瞬間、敵の短剣がちくっとわき腹に刺さりレブの体は床に崩れ落ちた。

 「・・・クリった。」

 「あほーーーーーーーー」

 その瞬間フィーエの詠唱は終わり、レブの死体だけ残し6人は炭鉱を去ったのであった。

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