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34時限目 窮地(3)


 部屋に乱入してきたダンテを、パブロフは手を広げて迎え入れた。


「やぁ、あなたか。まさかこんなに早く再会できるとは思わなかった」


「こっちとしては二度と会いたくなかったよ。俺の生徒が世話をかけたな」


 パブロフはにっこりと笑って首を横に振った。ダンテの後を追いかけてきた部下たちに何もしないように指示して、彼は言葉を続けた。


「あなたが彼女にアジトの場所をバラしたんですか?」


「まさか。シオンが勝手に探ったんだよ。お前らの情報がザルなのが悪い」


「ほう。素行の悪い生徒さんですね。おかげで我々の計画の一部を聞かれてしまいました」


 パブロフはシオンが座っていた椅子に腰掛けて足を組んだ。ピリピリとした緊張感を楽しむように、彼はダンテのことをジッと見つめていた。


「我々としては困ってしまいました」


「知らん。帰って良いか」


「ダメです。あと一週間、身柄はこちらで預かります」


「それは困るな。もうすぐ対抗戦があるんだ。成績がかかっている」


「こちらは譲る気は毛頭ありませんが、どうします?」


「うーん……」


 ダンテは自分を取り囲むエスコバルのメンバーたちに目をやった。トニーという男が、すでに攻撃の照準を定めている。狙いはダンテが抱えるシオン。動けば容赦(ようしゃ)なく頭蓋(ずがい)を撃ち抜くつもりだろう。


(無傷では帰れそうにないな) 


 ダンテはちらっとイムドレッドに視線を合わせた。


「おい、助けてくれ」


「……無理だ。どうにもできない。ここは大人しく捕まってくれないか」


「八方塞がりだな、こりゃ」


「身の安全は必ず俺が保証する」


「本当は帰りたかったんだけどなー……イムドレッド、ちょっとこっち来い」


「……なんだ」


 イムドレッドを目の前に立たせると、ダンテは右手を振り下ろして、思い切り平手打ちした。ふいをつかれたイムドレッドの身体は、部屋の壁まで吹き飛んだ。


「痛っ……!」


 手加減のない平手打ちで、イムドレッドは苦痛に顔を歪めて(うめ)いた。突然の暴力に、パブロフは怪訝(けげん)そうに顔をしかめた。


「……何を?」


「なに、ただの教育的指導だ。おい、イムドレッド、ちょっとは思い知ったか」


「いてぇな! 何しやがる!?」


「お前、大人を舐めてただろ。深く考えずに危ないところに脚を突っ込むからこうな

るんだ。肩の力を抜いて良く考えろ。どっちにしろ、もう手遅れだがな」


「……っ」


 切れた唇から出た血をぬぐって、イムドレッドはゆっくりと立ち上がった。その姿を見届けると、ダンテは腰にかけていた剣を床に置いて、あっさりと「降参するよ」と言った。


「意外ですね。ここまで乗り込んできたのに」


「俺だってまだ死にたくない」


「では、その子を預けてくれるんですね」


「もちろん。ただ一つ条件がある。俺も一緒に監禁してくれ」


 その提案にパブロフは「ほう」と興味深げに眉を上げて、ダンテに問いかけた。


「それはどうして?」


「教師なんだから当然だろ。シオン一人でここに残してはいけない。俺一人ノコノコと帰ったら教師失格だ。だからこいつと一緒にここに残るよ。ダメか?」


「我々が信頼できないということですね」


「ギャングの巣に可愛い生徒を一人で置いていけないってことだ」


 何か罠は無いか、パブロフはダンテの表情から読み取ろうとしたが、彼に怪しげな雰囲気はなかった。仕方がないと言った感じで言った。


「構いませんが、あなたには魔導を使えないよう魔導錠(まどうじょう)をかけて監禁させてもらいます。加えて、その剣も破棄します。それでも、ここに残ると?」   


「あー……高い剣だったのにな。良いよ、ほら、ごらんの通り丸腰だ。魔導錠でもなんでもかけると良い」


 そう言うと足元に投げた剣を、ダンテはパブロフの方まで蹴り飛ばした。するすると床を滑ってきた剣を受け取ったパブロフは、満足そうに頷いた。


「交渉成立ですね。二人を地下室に連れて行ってください」


「丁重に頼むよ」


 ダンテの腕に魔導錠がかけられる。仰々しい手錠をつけられたダンテは、パブロフの部下たちに連れられて大人しく部屋を出て行った。去り際、彼はイムドレッドを振り向いて言った。


「あんまり早るなよ、イムドレッド。お前が全部背負う必要なんてどこにも無いんだからな。自分が思っているより、お前はずっと弱いんだ」


 その言葉を最後にして、ダンテとシオンは酒場の地下にある薄暗い地下室に放り込まれた。イムドレッドはジンジンと痛む頬を押さえながら、ダンテの言葉の真意を探ろうとしていた。


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